Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第十二話 クラス

 図書室に入ると、真っ直ぐ歴史に関する本棚へと向かった。

 本棚から武将に関する本を取り出し、早速中を見る。ちなみに、前に見た本とは違うものだ。

 

 あれは多くの名前が載っていたけど、その分詳細はあまり載っていなかった。これはその逆で、載っている人物は少ない代わりに、詳細が多く載っている。

 最有力候補とも言える女武将の二人も載っているし、今回はこの本で調べるのが最適だろう。

 

 昨日手に入れた情報を思い出す。それは、セイバーが誰かの最期を見取れなかった、ということ。

 酷く曖昧な情報ではあるが、ないよりはましだ。

 

 とにかく、まずはこの本を読んでみよう。

 漢字だらけの文章に気が滅入るが仕方がない。一緒に取ってきた辞書で調べながら、なんとか読み進めていく。

 

 先日調べた源義経や平清盛と言った有名な武将の経歴には、誰かを看取れなかった、というような話はない。

 後世に伝わるほど有名ではない、ということだ。

 

 小鳥遊はあの時、本で読んだことがあると言っていた。

 先程の話を聞いた感じ、小鳥遊飛鳥は一般人。少なくとも、一部の人間しか読めないような文献に載っていたわけではない。

 だから多分、この本にも載っていると思うんだけど。

 

「……見つけた」

 

 順番に読み進めること数十分。

 ようやく似たような記述が乗っている人物がいた。

 

 その武将の名は、巴御前。

 

 平安後期・鎌倉時代前期の武将。

 女性ながら征夷大将軍の位を得た名将であり、木曽義仲の愛妾。

 常に義仲に従い、しばしば戦功を立てた彼女は、一騎当千と謳われる程強かったらしい。

 

 そんな彼女の逸話は、セイバーが言っていた過去の無念と一致する。

 

 粟津の戦い。

 治承・寿永の乱の一つであり、木曽義仲が死亡した戦だ。

 

 宇治川の戦い、そして六条河原の戦いにも敗れた義仲は、わずかの兵を連れて根拠地のある北陸への逃走を試みる。

 義仲軍が近江国粟津に着いたとき、因縁の相手が率いる軍と遭遇。既に戦力として成り立っていなかった義仲軍は潰滅させられた。

 兵の数は減り、いつしか7騎、5騎のみが残る。その中にいた一人が、この巴御前だ。

 

 義仲は最後まで残ろうとする巴御前へと告げる。

『お前は女だから、今のうちに早く逃げろ』と。

 

 もちろん、巴御前はこの言葉を跳ねのけた。

 最期まで共にいようとする彼女を義仲は厳しく諭す。

 結局、義仲の説得に折れた巴御前は、最後の奉公として敵将を打ち取り、鎧を脱ぎ捨て東国へ落ち延びた。

 

 そして、なによりも驚くべき文章がこの本には載っていた。

 

「素手で首をねじ切った、ね」

 

 本曰く、巴御前は敵将を馬から引き釣り下ろし、素手で首をねじ切ったという。

 到底信じられる話ではない。だが、そう伝わっている以上注意しておいて損はないだろう。

 セイバーも肉弾戦を行う。なるべく力勝負はしない方針で行こう。

 

 今まで手に入れた情報と、巴御前の逸話は似ている。ここまで似ている武将は他にいない。

 だけど。

 

「相変わらず、確証がないわね」

 

 そう。セイバーは看取れなかったことが無念だ、と言っていたけど、それが木曽義仲のことを指しているのかまではわからない。

 他に似ている人物はいないが、あまりにも情報が曖昧すぎる。

 あと一つ。なにか分かりやすい情報が得られたらいいのだけど。

 

「とりあえず、アイテム補充したらアリーナへ行こうか」

 

 エーテルの欠片は昨日の怪我でほとんど使ってしまった。

 残っているのは、戦闘ではあまり役に立たないものばかり。

 一度購買に行って……ついでに食事も済ましておこうか。

 

 

 *

 

 

 アイテム補充と食事を終え、一階に戻る。

 階段を登りきると、目の前に見慣れた後姿を見つけた。

 茶色の短髪に緑のワンピース。そう、藤村先生だ。

 

 そういえば、先生から頼まれごとをされていたな。

 昨日アリーナで見つけたお弁当の存在を思い出し、端末に入っているか確認する。

 うん、大丈夫。ちゃんとあるな。

 

「あら、ヴィオレットさん」

「先日ぶりです。頼まれていたもの、持ってきました」

 

 端末からお弁当箱を取り出し先生に差し出せば、キラキラと目を輝かせ始めた。

 

「わっ、もう取ってきてくれたの? ありがとう、助かったわ!」

 

 弁当箱を受け取った先生は、早速風呂敷を解きにかかる。慌てて止めようとするが、時既に遅し。

 先生は既に風呂敷を広げており、弁当箱の蓋を開けていた。

 

「さーて、腐っちゃう前に食べちゃわないとね……って、ないっ!?」

 

 弁当箱の中におにぎりはない。

 あるのは箱の至るところについている米粒と、少し付着している、恐らく猫の毛。

 何が起こったのかは目に見えて明らかだ。

 

「すみません……見つけたときにはもう」

「わ、私の梅おにぎりぃ……」

 

 先生は肩を落として落ち込む。

 よっぽど楽しみにしていたらしい。もしかしたら、かなりいいお米で作ったおにぎりだったのかも。

 

「うぅ……とにかく、取ってきてくれてありがとう。これ、お礼ね」

 

 軽く泣きながら、先生は私の端末に向かってなにかを送ってくれた。

 これは、インテリア?

 

「マイルームに飾ることができるから、使ってみて」

「ありがとうございます」

 

 マイルームに戻ったら置いてみよう。

 部屋の雰囲気に合うといいな。

 

「あ、そうそう!」

 

 突然、先生がなにかを思い付いたかのような声をあげた。

 人差し指をこちらに向け、少し怒った様子で話し出す。

 

「あるマスターがハッキングを仕掛けて、アリーナへ続く扉を塞いじゃったの! 対戦相手への妨害目的だったし、その子がなんとかしてくれてもう解決したんだけど……」

 

 私たちが色々やっている間に、そんなことが起こっていたらしい。

 通りで、いつもよりアリーナ付近の廊下が騒がしいわけだ。

 

「ムーンセルが見逃したからよかったものの、最悪ペナルティを受けちゃうんだからね? ヴィオレットさんは、そんな危ないことしちゃ駄目よ」

「あ、はは……肝に免じておきます」

 

 もうしました、とは流石に言えなかった。

 

 でも、まさか私以外にアリーナをハッキングするマスターがいるとは、思ってもなかった。

 一体誰なんだろう。

 

「ちなみに先生、そのマスターの名前は……」

「あ、だめよ。先生は一生徒を贔屓したりしないの」

 

 やっぱりだめか。

 先生はNPC。つまり運営側の人間だ。そう簡単に教えてくれるはずもない。

 仕方がない。事情を知ってそうなマスターにでも尋ねよう。

 最後に先生と軽く会話を交わし、その場を後にする。

 

 そして、アリーナの扉へと続く廊下の途中。そこで優しそうな顔をしたマスターを見かけた。

 彼ならきっと、何が起こったのかも教えてくれるだろう。

 なんとなくそれを感じ取り、早速話しかけてみる。

 

「あの、アリーナの扉が封鎖されたって聞いたんだけど……なにかあったのか、詳しく教えてもらってもいいかな」

「ん? ああ、実はな……」

 

 予想通り、彼は丁寧に教えてくれた。

 先生が教えてくれなかったマスターのことも。

 

 どうやら、アリーナの扉を封鎖したのは慎二だったようだ。

 慎二がとの付き合いは短くない、わけでもないが。そんな大胆なことをするなんて、あまり想像できない。

 よほど追い詰められているんだろう。

 

 昨日会えなかった白乃を思い浮かべる。

 彼女は大丈夫だろうか。慎二を追い詰めているということは、そこまで心配しなくても大丈夫そうだけど……。

 いや、それでもやっぱり心配だ。今日は一緒に食事を取れるように、なんとかしよう。

 

 

 *

 

 

 アリーナは既に緊迫した雰囲気に包まれていた。

 恐らく、私たちが調べ物や補充を行っている間に来たんだろう。

 

「ランサー、位置は分かる?」

「大分奥の方まで進んでいるわ。このまま逃げられたら間に合わない」

「なら急ごう。道中の敵は無視。最短で一直線に、小鳥遊たちがいる場所まで突っ切るよ」

 

 今装備している礼装を確認し、端末からマップを投影させる。

 一度行った場所を自動で記録し、マップを作ってくれるこの機能は案外便利だ。

 これなら迷うことなく、小鳥遊がいるであろう場所まで向かうことができる。

 

 マップで道を確認しながら、アリーナを駆ける。

 二つ目の赤い壁を抜けた先にある広々としたフロア。その場所で、彼女たちは待ち構えていた。

 

「先刻ぶりね、ヴィオレットさん」

「ああ、そうだね」

 

 セイバーは既に刀を構え、こちらに殺意を向けてくる。

 以前までは隠していた炎も、もう隠すつもりはないのだろう。

 アリーナの気温は上がり、セイバーの周囲には陽炎ができていた。

 

「あら、怖い怖い。そんなにも熱くなるなんて、よほど自分のマスターが心配なのね」

 

 ランサーがまるで挑発するかのように言い放つ。

 その言葉につられ、セイバーの後ろに立つ小鳥遊に目を向ける。

 

 小鳥遊の顔色は、お世辞にもいいとは言えない状態だった。

 額には汗をかき、軽く呼吸を乱している。

 地上の彼女は病弱とは聞いたが、まさかこの電脳空間でもそれが引き継がれているのか?

 

 だが、それはこちらは好都合な情報だ。

 小鳥遊に長期戦はできない。途中で体力が尽きてしまうだろう。

 

「ああ、心配するのは当たり前ね」

 

 挑発はまだ続く。

 楽し気な表情と声色でクスクスと笑っている。

 

「貴女、生前は愛しい人を見捨てたもの。義仲、だったかしら。さしずめ、彼女はそのかわ……!」

 

 その言葉は、言い切る前に止められた。

 金属をぶつけ合う音が鳴り響き、ランサーの足とセイバーの刀が交わる。

 あまりに急な出来事に、小鳥遊は目を白黒させていた。

 

「……それ以上の戯言は許しません」

「あら、図星?」

「っ黙れ!」

 

 セイバーの猛攻が始まる。

 だが、それは今までよりもキレがなく粗が目立つ。

 私でもわかる隙をランサーが逃がす訳もなく、セイバーの体に切り傷が増えていく。

 

「っ、落ちついて、一度下がって!」

 

 刹那、小鳥遊が声を荒げた。

 その声に気づいたセイバーは、ランサーから距離をとろうと後ろに飛ぶ。

 

 だけど、その行動すら隙だらけだ。

 

「ランサー!」

踵の名は魔剣ジゼル(ブリゼ・エトワール)!!」

 

 十字に振られた踵から衝撃波が放たれる。

 教会で取り戻したと言っていたスキルの一つだ。

 

 それは真っ直ぐセイバーに向かい、その体を傷つける。

 しかし、致命傷までには至らない。

 

「っheal()──」

shock(16)(電撃)!」

 

 コードキャストを使わせはしない。

 小鳥遊に向かっていく電撃はセイバーに止められてしまったが、それでも回復を止めることはできた。

 その間にもランサーは距離を縮め、再び戦闘に移る。

 

「っ仕方が、ありませんね!」

 

 刀の軌道を追うように、炎が燃え盛る。

 ランサーの視界が遮られるが、彼女にとってそれは意味がない。

 恐れることなく、ランサーは炎の中を突っ切ろうと足を踏み出した。

 

 セイバーもそのことを予想して、刀を構え────。

 

「──違う! ランサー、避けて!」

 

 『protect(16)(防壁)』を使い、セイバーとランサーの間に壁を作った。

 ランサーの膝と、セイバーの薙刀(・・)が壁にぶつかり、一瞬の間ができる。

 

 その一瞬で状況を把握したランサーは、そのまま壁を蹴り距離をとった。

 

「どうして薙刀が……!」

「セイバーじゃなかったみたいね」

 

 つまり、最初からクラスを間違えていたと。

 でも日本刀使ってたらセイバーだと思うでしょう普通!

 

「……いや、それが目的か」

 

 思い返せば、小鳥遊は一度もセイバーと呼んだことはない。

 というか、彼女はどのクラス名も呼んだことすらないのだ。

 これじゃあ、薙刀を使うからランサーだという考えも間違っている気がしてくる。

 

「クラスを考えるのは後。今は目の前のことに集中なさい」

「……それもそうだ」

 

 ここまで来たら、セイバーだろうがランサーだろうが関係ない。

 ただ、他の武器を警戒する必要ができただけ。

 

「薙刀と刀じゃ間合いが違う。気をつけて」

 

 今一番注意すべきは、セイバーの間合いだ。

 先程、彼女が薙刀を出したときに生じたタイムラグは少ない。

 それは恐らく、刀の時も同じだ。

 手に持っている武器だけに注意していては、僅かな隙にもう片方の武器での攻撃を受けてしまうだろう。

 それだけは避けなければならない。

 

 それに、もし二つの武器を封じたとしても、セイバーは肉弾戦も行える。

 逸話通りだとしたら、彼女の腕力は脅威になるし、炎も厄介ときた。

 まさにオールラウンダー。戦いにくい相手だ。

 

「……っち、面倒、ねっ!!」

 

 薙刀で距離をとられ、ランサーの踵は届かない。

 スキルを使い遠距離攻撃をするも、冷静になったセイバーに対処されてしまう。

 

 さらにセイバーは薙刀に炎を纏わせると、力強く地面を蹴り駆けだす。

 足元から盛る炎は推進力となり、今まで以上の速さでランサーに迫った。

 

protect(16)(防壁)!」

 

 防壁でセイバーの進路を妨害するが、薙刀に切り裂かれ意味をなさない。

 それなら!

 

shock()……っ!!?」

 

 使おうとしたコードキャストを、最後まで紡ぐことは叶わなかった。

 突然、炎が目の前で立ち上がり視界が眩む。

 

「しまった……!」

 

 慌てて炎から離れ戦闘に目を戻すが、セイバーとランサーは接触寸前。

 しかも私の立ち位置が悪い。

 これじゃあコードキャストで援護することができない!

 

「燃えろ!」

 

 セイバーが器用に薙刀を回し、勢いをつけ上段から振り下ろす。

 その攻撃自体を避けることはできたが、アリーナに叩きつけられた刃から炎が吹き上がる。

 予想できなかった猛炎を避けることはできず、ランサーの姿は炎の中に消えた。

 

「ランサー!!」

 

 反応はない。

 まさか、と最悪の状況を想像し、冷や汗が流れる。

 

 しかし、炎の中に影が揺らめくのが見えた。

 それは徐々に大きくなり、こちらに向かって飛びあがる。

 所々服は破れ肌が見えているが、怪我はそこまで酷くない。

 むしろ不機嫌そうな顔が逆に元気に見えて、少し安心した。

 

「ッ、マスター!」

 

 ランサーが地面に着地すると同時に、警告音が鳴り響く。

 ムーンセルによる強制終了。ノイズがないのは、戦闘を行っていなかったからだろう。

 

 そしてセイバーは戦闘が終わったことを悟ると、慌てた様子で小鳥遊に駆け寄った。

 彼女の顔色は先程よりも酷い。立っているだけでも辛そうに見える。

 

「大丈夫よ。行けるわ」

「ですが……っ!」

「お願い、信じて」

 

 いつもはおっとりしている小鳥遊の瞳が、強くセイバーを見つめた。

 強い瞳に見つめられたセイバー一瞬だけ戸惑い、小さく頷く。

 片手に薙刀を持ったまま、小鳥遊の体を支える。武器を持ったままなのは、私たちを警戒してのことだろう。

 

 小鳥遊が最後に私たちに目を向ける。だが何かを言うわけでもなく、そのままアリーナの奥へと歩き始めてしまった。

 その背は無防備で、攻撃をすれば簡単に殺せてしまいそうだ。

 

「どうするの」

「……決勝戦の雰囲気に慣れる必要もある。深追いしなくても問題はない」

 

 だが、このまま見逃すのはもったいない。

 素早く礼装を変え、向こうにバレないよう解析のコードキャストを唱える。

 

 瞬間、目に見える世界が変わった。

 多くの情報を捨て、必要なものを選択する。

 解析するのは、セイバーが手にしている薙刀だ。

 

 僅かな時間で、あの薙刀についていくつか分かった。

 重さに長さ。そして、あの薙刀は巴形と呼ばれる種類だということ。

 

 だけどそれだけでは足りない。

 魔力量を増やし、更に深く解析する。

 入ってくる情報量に顔をしかめたが、なんとか真名に繋がりそうな情報を得ることができた。

 

 急いで魔力を断って目を閉じる。

 次に目を開けたときには、既に彼女たちの姿はなく、世界も元の状態へと戻っていた。

 

 目頭を押さえ疲れをほぐす。

 今回得られた情報は二つ。

 ランサーの挑発のお陰でほとんど確信は得られたが、念のため明日も図書室に行って情報を整理しよう。

 

「さて、私たちもエネミーを倒して帰ろうか」

 

 ランサーの傷の手当てを終わらせ、アリーナの探索を進める。

 昨日は行けなかった脇道にも入ってみよう。

 もしかしたら、どこかに私の記憶があるかもしれないしね。

 

 




というわけで、Matrix3まで。
本当は真名看破までいきたかったんですが、長くなったんでここで切ります。

そして、一昨々日の8/21にクロスオーバーの件で、活動報告を投稿しました。
そちらの方をお読みいただければわかると思いますが、クロス先を公開しています。
気になる方は、そちらを一読ください。
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