Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第十三話 真名

 結局、今日の探索では記憶を見つけることはできなかった。

 ただ微かにあの懐かしい気配を感じとれる。だけど今日はもう遅いし、本格的に探すのは明日になりそうだ。

 というわけで、記憶探しはせずに校舎へと帰ってきた次第である。

 

 その後は食堂へ向かい、白乃と一緒に食事をとった。

 今日あったらしいアリーナの扉を封鎖された時の話や、昨日話せなかったこと。

 そんな他愛もない話をして、その日はそのまま就寝した。

 

 

 *

 

 

 そして翌日、つまり今日は猶予期間の最終日。

 どこか落ち着かない心持ちのまま、私はいつもと変わらない朝を過ごす。

 

 いつも通り食堂で朝食をとり、昨日も行った図書室へと足を運んだ。

 今度こそ、セイバーの真名を確定するために。

 

 向かうのは歴史の本が陳列する棚、ではなく、武具に関する本がある棚。

 昨日の解析した、あの薙刀の情報を探すためだ。

 セイバーが有名な武士であることに間違いはない。だから、きっと彼女の持つ薙刀の情報も後世に残っているはず。

 

 といっても、昨日得られた情報は重さに、長さと種類。そして、「吉次」が在銘してあること。

 たったこれだけ。

 更に言えば、これは彼女の真名があの女武将であることを前提に探すつもりだ。

 見つけるには大分時間がかかってしまうだろう。今回は根気との勝負になる。

 気合を入れ、とりあえず多くの情報が載ってそうな本を手に取った。

 

「───み、つけたぁ……!」

 

 そして、調べ始めてどれぐらいの時間がたっただろう。

 今までよりも一番多く時間がかかったのは確かで、読んだ本の数も一段と多かった。

 

 見つけた本に書いてあるのは、あの薙刀は昔とある場所に保管されており、それには「吉次」の銘がついていたという。

 これだけ分かればいい。

 たったこれだけのために時間を使ったのかと思うと、少し損した気にもなるが。確信を持てたのだからまあいいだろう。

 

 改めて、情報を整理しよう。

 

 対戦相手は小鳥遊飛鳥。

 私と同じ無名のマスター。彼女は地上で不治の病に罹っており、それを治すために聖杯戦争に参加した。

 そして、なぜか彼女はその病弱をこのムーンセルまで引き継いでいる。

 アリーナで戦ってきた結果、長期戦はできないと見ていい。その為、むしろこちらから長期戦を仕掛けるのも一つの手だろう。

 

 そして、彼女のサーヴァント。

 日本の鎧、「大鎧」を身に着けた女性武士。

 片手に日本刀を持って戦う彼女を、私たちはセイバーだと暫定した。

 まあ、昨日その暫定は間違いだったと判明したのだが。

 

 それは置いといて。

 アリーナでの盗み聞きで、セイバーは生前に無念を残していることが判明した。

 その無念と、とある武士の逸話が一致したのだ。

 

 この時点ではまだ半信半疑ではあったが、ランサーの挑発に反応したこと。

 そして、彼女が持つ薙刀の銘が「吉次」であることで確信が持てた。

 

 彼女の真名は、間違いなく────

 

「───巴御前。木曽義仲の愛妾、一騎当千と謡われた女武士」

「そいつで間違いなさそうね」

 

 ランサーの言葉に頷き、本を棚に戻す。

 これでセイバーの真名は判明した。

 今日は巴御前の情報を揃えて、それからアリーナに行くとしよう。

 

 そう決めて別の本を取り出す。

 といっても、巴御前に関する逸話は少ない。

 今まで調べた以外の情報だと、容姿端麗で弓術が優れていることぐらい。

 

「もしかしたらアーチャーかもしれないね」

「そうかもね」

 

 適当だなぁ。

 でも、真名が分かったのなら、クラスは分からなくても問題はない。

 弓に関しては最大限の警戒しておこう。

 実際に使うかわからない今はそれぐらいで十分だ。

 

「それじゃあ、アリーナに行こうか」

 

 

 *

 

 

 アリーナに入った瞬間に感じる気配。

 昨日も微かに感じ取っていたそれは、今日はどこにあるのかわかる程度には強くなっていた。

 

「奥の方に記憶がある」

「ふーん」

 

 興味なさげの返事に、思わずむっとしてしまう。

 私にとっては大事なものだと言うのに、その反応はないじゃないか。

 そりゃあ、付き合ってくれるだけましかもしれないけど。

 

 モヤモヤとした気持ちを胸に、ランサーとアリーナを進んでいく。

 第二層に来るのも既に三回目。エネミーの行動も把握しきっているし、特に苦労はない。

 強いて言うとすれば。

 

「ここか……」

 

 あの長い坂道を下るのがめんどくさいぐらいだ。

 だけど気配はこの先にある。行くしかない。

 

 途中に出会う蜂型エネミーを倒しつつ、坂道を下っていく。

 そして一番下にたどり着くと、早速隠し通路になったであろう場所を手探りで探す。

 元々狭い道なだけあって、それをすぐに見つけることができた。

 

「うん、行けそうだね」

 

 前回と同じように不安定ではあるが、進めないことはない。

 隠し通路に進めることを確認し、ランサーを呼ぶ。

 本来ある薄い壁を通りぬけ、彼女もこちら側にやってきた。

 

 ランサーと共に隠し通路を進んでいくと、程なくして壁まで辿り着いた。

 

 念のため手を伸ばし壁に触れる。

 特に何も起こらない。

 

 でも。

 

「さっさと行ってきなさい」

 

 恐らく、ランサーはこの先に行くことはできない。

 前回がそうだったから、今回もそうだと考えたようだ。

 

「わかった。できる限り早く戻ってくるよ」

 

 壁に寄りかかりながら目を閉じるランサーに一声かけ、壁を抜ける。

 

 今回はどんな記憶を取り戻せるんだろう。

 前のように暖かい記憶か。それとも、今の私を否定してしまうような記憶か。

 期待と不安を胸に秘め、先を急ぐ。

 

 細い道が徐々に広くなっていく。

 けれど、前回のように風景は変わっていかない。

 もしかして、全部が全部変わるわけではないのだろうか。

 

「っ!?」

 

 些細な疑問を持ちながら歩いていると、突然風が吹き上がった。

 思わず目を瞑り、腕で顔を庇う。

 だけど少しすれば突風も止み、普通の風が吹き始めた。

 

 ゆっくりと目を開けば、そこは既に森の中。

 高い木々が連なり、目の前にはあの大樹が聳え立っている。

 だけど、前に見た青く輝く記憶の欠片は見当たらない。気配もこことは違うところから感じるし、この付近にはないようだ。

 

 記憶の気配がする方向には、確か村があったはず。行ってみようか。

 記憶を便りに村に向かう。意外とはっきり覚えているようで、森の中でも迷うことはない。

 足元を這う木の根にだけ注意を払いながら、一歩ずつ足を進めていく。

 

「っわ!」

 

 だけど、どうしても気が付かない根っこもあるわけで。

 思わず足を引っかけた根を睨むように見れば、なんだか見覚えのある根っこだった。

 

 ……ここ、昔私が転んで怪我した場所じゃん。

 まさか同じ場所に足を引っかけるなんて。

 ランサーがいなくて助かった。今のが誰かに見られていたかと思うと、恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。

 

「って、あれ?」

 

 とにかく村に向かおうと振り向けば、いつの間にか森を抜けていたらしい。目の前に広がるのは、私が過ごしたあの村だ。

 でも、この村ってこんなにも近かったっけ。

 確かもっと歩いた記憶があるんだけど……まあ、時間短縮ができたと思えばいいか。

 

 村に近づいていけば、見辛かった部分も見えてきた。

 一部の小屋は焼けており、焼けてない小屋は作りかけ、というような印象が見て取れた。

 

「そっか。襲われた後の村なんだ」

 

 この村は一度、大きな黒い恐竜によって襲われている。

 村にあった小屋は全て焼かれ、育てていた畑は踏みにじられた。

 今目の前にある村の状況は、恐竜を追い返した後。村の皆と協力して、復興している最中だ。

 

「懐かしい……」

 

 焼けた村を見るのは辛かったけど、復興には楽しいこともあった。

 寝る場所もないからみんなで野宿したり、とりあえず作った大きなプレハブ小屋で雑魚寝したり。

 辛いことも楽しいことも、この村で沢山体験した。

 

「……うん、思い出してきた」

 

 そして風が吹き、村の様子が変わる。

 焼けた小屋は撤去され、まだ数は少ないけど、完成している小屋が増えている。

 

 これは、復興が進んでしばらく経った後の光景だ。

 この頃には畑も耕し初めて、少しずつ元の生活を取り戻していた。

 

「……この頃、だったっけ」

 

 私たちが、初めて喧嘩をしたのも。

 

 理由はただの意見の食い違い。

 村を優先したいと言う彼と、それも大切だけど、自分がしたいこともやりたいと言う彼女。

 私はそんな二人の味方をして、二人と喧嘩をした。

 

 彼女はずっと、好きな物語の主人公のように旅に出たかった。

 でもあの子たちは中々成長することができず、そのせいで旅に出ることを止められていた。

 あの襲撃をきっかけに成長した彼女は、一日でも早く旅に出たかったのだろう。

 村の復興も進んできたタイミングでそれを打ち明け、否定された。

 

 彼の言い分はもっともだった。

 村の復興が進んでいたとはいえ、まだ完璧ではない。

 今はまだ復興を手伝うべきだと、彼は彼女を窘めた。

 

 私は彼女の気持ちも何となくわかったけど、彼の言っていることも正しいと思った。

 だからなんとか妥協案を提案しようとして、空回ってしまったんだ。

 

 彼は復興を手伝い、彼女は一人で村を出ようとした。

 私は二人と仲直りすることもできず、ただ無意味な時間を過ごしていて。

 バラバラになりかけた私たちを繋ぎ止めたのが、村長だった。

 

「っわ!?」

 

 物思いに耽っていると、突然なにかに背を押された。

 なんとかバランスをとり、転ばないようたたらを踏む。

 

 ここには私以外の人間はいない。

 じゃあ、一体だれが……っ!

 

「え、村長?」

 

 そこにいたのは、二つの小さな人影。

 見覚えのある杖をもち、片方はそれをこちらに向けていた。きっと、その杖で背を押したんだ。

 

「あー……さっさと行けって?」

 

 言いそうなことを口に出してみれば、案の定二人は大きく頷いた。

 物思いに耽っている場合ではないぞ、と目を鋭くする。

 

 ああ、思い出した。この人たち、若いうちはとにかく前を向け、とか言うタイプだった。

 まあでも、正にその通り。

 

 いつの間にか手に持っていた青い欠片を大事に包み込む。

 過去を振り返るのは、もういつでもできる。

 

「行ってきます」

 

 最後に二人に挨拶をして。

 もう絶対に忘れるものかと、心に誓った。

 

 さあ、戻ろう。ランサーが待っている。

 

 

 *

 

 

 村から一歩でると、そこは既にアリーナの通路になっていた。

 隣を見上げれば、ランサーが少し驚いたような表情で立っている。

 やっぱり、急に戻されるのは慣れないよね。

 

 溢れそうになる苦笑いを抑えながら、再びアリーナを進んでいく。

 記憶も取り戻せたし、もうアリーナでやるべきことはない。

 後は改竄のためにエネミーを倒し続けるだけだ。

 

 黙々と、まるで作業をするかのようにエネミーを倒していく。

 軽口でも叩き合えたらいいのだが、生憎ランサーとの仲はそこまで深くなっていない。

 何度か話しかけてみるが、ええ、とかそうねとか、そんな返事ばかり。

 これ以上は無駄口を叩くなと言われてしまいそうだったから、口を閉じることにした。

 

「────そいつで最後!」

「っはぁ!!」

 

 アリーナに入って、数十分。

 帰還用のポータルの前にいる敵が、ランサーの一撃で消滅していく。

 アリーナ全域を回ってエネミーを倒し尽くし、さらにリスボーンしたエネミーも倒し尽くした。

 これならステータスの大幅向上も望めそうだ。

 

「小鳥遊たちは見かけなかったね」

「……」

「ランサー?」

 

 なにか会話をしようと小鳥遊たちのことを話題にするも、ランサーは反応を示さない。

 むしろ、手を顎に当て難しそうな顔をしている。

 一体何を考えているのだろう。

 

「ラン、」

「戻るわよ」

「は?」

 

 変な声が出た。

 いや、でもそれぐらいに衝撃的だった。

 

 そんな私の様子を気にすることなく、ランサーは再びアリーナに戻っていく。

 慌ててそれを追いかけ、彼女の前に立ち塞がった。

 

「ちゃんと説明して!」

 

 いつでもリターンクリスタルを取り出せるよう準備をする。

 いざとなったら、無理矢理連れ帰るつもりだ。

 できればそんなことはしたくないけど……。

 

「明日に響かない程度にエネミーを狩りつくすわよ」

「なんでそんなことを? 今日だって十分な数のエネミーは倒したはずだよ」

「足りないわ」

 

 足りない、って。今日だけで二十は倒しているというのに、何を言っているんだ。

 むしろ十分と言ってもいいくらいだ。

 

「…………貴女は相手マスターよりも戦闘指揮はしっかりしてる。まだまし、というくらいだけど」

「え、あ、ありがとう」

「褒めてないわ」

 

 長い沈黙の後、なぜかランサーは急に私のことを褒めだした。

 今までの経験からして絶対言われない言葉に驚くと同時に、素直に感謝の言葉が出る。

 その後すぐに否定されてしまったけど。

 

「そして、そのことに関しては向こうも自覚しているはず。なら、どうやってその差を埋めると思う?」

「……無茶をしてでも魂の改竄を行う?」

 

 咄嗟に思いついたことを口にしたが、それは確実ではない。

 小鳥遊に体力はないからだ。もし彼女が無茶を通そうとしても、その前にセイバーが止めるだろう。

 そうなると、体力ギリギリまでアリーナを巡るとは考えにくい。

 

 なら、どうやって……。

 

「……まさか、令呪?」

 

 視界に映り込んだ赤い刻印。

 サーヴァントに対する絶対命令権。それを使えば、サーヴァントの力を限界まで引き上げることもできる。

 

 だけど、まだ一回戦だぞ?

 こんな序盤で令呪を使ってしまえば、後が苦しくなってしまうのは目に見えている。

 

「それでも使うでしょう。彼女の願いが生きることなら」

「……少しでも、長く生きるために」

 

 ああ、そうだ。きっと、彼女はそういう人間だ。

 生きたいと、彼女はそう言っていた。

 そのためなら誰かを殺してしまっても構わない。そんな思いを持って、この戦いに身を投じた。

 そんな彼女なら、令呪だって躊躇なく使うだろう。

 

「それに、サーヴァントには宝具がある。それを警戒するに越したことはないわ」

「……そうだね。それでステータスを?」

「ええ。でも本命は────」

 

 続いた言葉に、なるほどと納得する。

 それなら、このまま帰るわけにはいかない。

 

「わかった、戻ろう」

 

 明日に響くほど疲れなければいいんだ。

 体力にはそれなりの自信はある。

 とりあえず、あと一周巡るくらいは頑張ろうか。

 

 

 *

 

 

 アリーナから戻った足で、そのままマイルームに向かう。

 校舎の外は真っ暗で、生徒の影一つ見当たらない。

 こりゃあ、アリーナに残っていたのは私たちが最後で間違いないな。

 

「疲れた、もう動きたくない……」

 

 そんな弱音が出るくらいに疲れ切った私は、適当に制服を脱ぎ捨てベッドに飛び込んだ。

 ふかふかな感触に眠気を誘われながらも、向かいに座ったランサーを見る。

 彼女に疲れた様子はなく、足を組んで優雅にベッドに座っていた。

 流石英霊、というところか。

 

「私、もう寝るね……」

「ええ」

 

 脱ぎ捨てた制服は一応拾い、ベッドの傍に作った机に置く。

 本当ならお風呂にも入りたいけど、そんな気力はない。

 明日の朝でいいや……。

 

「ふわぁ」

 

 大きな欠伸を一つ。

 毛布に潜るとすぐに眠気は襲ってきた

 

「おやすみ、ランサー」

 

 その言葉を最後に、私は睡魔に身を委ねた。




と、いうわけで!
今回は色々と展開が進みました。
真名看破にクレアの記憶。文字数のこともあり、一つに纏めてみました

次回は7日目、決戦となります。
できれば一週間更新を保ちたいのですが、次回は戦闘描写が多くなるので遅れてしまうかもしれません。
よろしくお願いします。
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