Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
結局、今日の探索では記憶を見つけることはできなかった。
ただ微かにあの懐かしい気配を感じとれる。だけど今日はもう遅いし、本格的に探すのは明日になりそうだ。
というわけで、記憶探しはせずに校舎へと帰ってきた次第である。
その後は食堂へ向かい、白乃と一緒に食事をとった。
今日あったらしいアリーナの扉を封鎖された時の話や、昨日話せなかったこと。
そんな他愛もない話をして、その日はそのまま就寝した。
*
そして翌日、つまり今日は猶予期間の最終日。
どこか落ち着かない心持ちのまま、私はいつもと変わらない朝を過ごす。
いつも通り食堂で朝食をとり、昨日も行った図書室へと足を運んだ。
今度こそ、セイバーの真名を確定するために。
向かうのは歴史の本が陳列する棚、ではなく、武具に関する本がある棚。
昨日の解析した、あの薙刀の情報を探すためだ。
セイバーが有名な武士であることに間違いはない。だから、きっと彼女の持つ薙刀の情報も後世に残っているはず。
といっても、昨日得られた情報は重さに、長さと種類。そして、「吉次」が在銘してあること。
たったこれだけ。
更に言えば、これは彼女の真名があの女武将であることを前提に探すつもりだ。
見つけるには大分時間がかかってしまうだろう。今回は根気との勝負になる。
気合を入れ、とりあえず多くの情報が載ってそうな本を手に取った。
「───み、つけたぁ……!」
そして、調べ始めてどれぐらいの時間がたっただろう。
今までよりも一番多く時間がかかったのは確かで、読んだ本の数も一段と多かった。
見つけた本に書いてあるのは、あの薙刀は昔とある場所に保管されており、それには「吉次」の銘がついていたという。
これだけ分かればいい。
たったこれだけのために時間を使ったのかと思うと、少し損した気にもなるが。確信を持てたのだからまあいいだろう。
改めて、情報を整理しよう。
対戦相手は小鳥遊飛鳥。
私と同じ無名のマスター。彼女は地上で不治の病に罹っており、それを治すために聖杯戦争に参加した。
そして、なぜか彼女はその病弱をこのムーンセルまで引き継いでいる。
アリーナで戦ってきた結果、長期戦はできないと見ていい。その為、むしろこちらから長期戦を仕掛けるのも一つの手だろう。
そして、彼女のサーヴァント。
日本の鎧、「大鎧」を身に着けた女性武士。
片手に日本刀を持って戦う彼女を、私たちはセイバーだと暫定した。
まあ、昨日その暫定は間違いだったと判明したのだが。
それは置いといて。
アリーナでの盗み聞きで、セイバーは生前に無念を残していることが判明した。
その無念と、とある武士の逸話が一致したのだ。
この時点ではまだ半信半疑ではあったが、ランサーの挑発に反応したこと。
そして、彼女が持つ薙刀の銘が「吉次」であることで確信が持てた。
彼女の真名は、間違いなく────
「───巴御前。木曽義仲の愛妾、一騎当千と謡われた女武士」
「そいつで間違いなさそうね」
ランサーの言葉に頷き、本を棚に戻す。
これでセイバーの真名は判明した。
今日は巴御前の情報を揃えて、それからアリーナに行くとしよう。
そう決めて別の本を取り出す。
といっても、巴御前に関する逸話は少ない。
今まで調べた以外の情報だと、容姿端麗で弓術が優れていることぐらい。
「もしかしたらアーチャーかもしれないね」
「そうかもね」
適当だなぁ。
でも、真名が分かったのなら、クラスは分からなくても問題はない。
弓に関しては最大限の警戒しておこう。
実際に使うかわからない今はそれぐらいで十分だ。
「それじゃあ、アリーナに行こうか」
*
アリーナに入った瞬間に感じる気配。
昨日も微かに感じ取っていたそれは、今日はどこにあるのかわかる程度には強くなっていた。
「奥の方に記憶がある」
「ふーん」
興味なさげの返事に、思わずむっとしてしまう。
私にとっては大事なものだと言うのに、その反応はないじゃないか。
そりゃあ、付き合ってくれるだけましかもしれないけど。
モヤモヤとした気持ちを胸に、ランサーとアリーナを進んでいく。
第二層に来るのも既に三回目。エネミーの行動も把握しきっているし、特に苦労はない。
強いて言うとすれば。
「ここか……」
あの長い坂道を下るのがめんどくさいぐらいだ。
だけど気配はこの先にある。行くしかない。
途中に出会う蜂型エネミーを倒しつつ、坂道を下っていく。
そして一番下にたどり着くと、早速隠し通路になったであろう場所を手探りで探す。
元々狭い道なだけあって、それをすぐに見つけることができた。
「うん、行けそうだね」
前回と同じように不安定ではあるが、進めないことはない。
隠し通路に進めることを確認し、ランサーを呼ぶ。
本来ある薄い壁を通りぬけ、彼女もこちら側にやってきた。
ランサーと共に隠し通路を進んでいくと、程なくして壁まで辿り着いた。
念のため手を伸ばし壁に触れる。
特に何も起こらない。
でも。
「さっさと行ってきなさい」
恐らく、ランサーはこの先に行くことはできない。
前回がそうだったから、今回もそうだと考えたようだ。
「わかった。できる限り早く戻ってくるよ」
壁に寄りかかりながら目を閉じるランサーに一声かけ、壁を抜ける。
今回はどんな記憶を取り戻せるんだろう。
前のように暖かい記憶か。それとも、今の私を否定してしまうような記憶か。
期待と不安を胸に秘め、先を急ぐ。
細い道が徐々に広くなっていく。
けれど、前回のように風景は変わっていかない。
もしかして、全部が全部変わるわけではないのだろうか。
「っ!?」
些細な疑問を持ちながら歩いていると、突然風が吹き上がった。
思わず目を瞑り、腕で顔を庇う。
だけど少しすれば突風も止み、普通の風が吹き始めた。
ゆっくりと目を開けば、そこは既に森の中。
高い木々が連なり、目の前にはあの大樹が聳え立っている。
だけど、前に見た青く輝く記憶の欠片は見当たらない。気配もこことは違うところから感じるし、この付近にはないようだ。
記憶の気配がする方向には、確か村があったはず。行ってみようか。
記憶を便りに村に向かう。意外とはっきり覚えているようで、森の中でも迷うことはない。
足元を這う木の根にだけ注意を払いながら、一歩ずつ足を進めていく。
「っわ!」
だけど、どうしても気が付かない根っこもあるわけで。
思わず足を引っかけた根を睨むように見れば、なんだか見覚えのある根っこだった。
……ここ、昔私が転んで怪我した場所じゃん。
まさか同じ場所に足を引っかけるなんて。
ランサーがいなくて助かった。今のが誰かに見られていたかと思うと、恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。
「って、あれ?」
とにかく村に向かおうと振り向けば、いつの間にか森を抜けていたらしい。目の前に広がるのは、私が過ごしたあの村だ。
でも、この村ってこんなにも近かったっけ。
確かもっと歩いた記憶があるんだけど……まあ、時間短縮ができたと思えばいいか。
村に近づいていけば、見辛かった部分も見えてきた。
一部の小屋は焼けており、焼けてない小屋は作りかけ、というような印象が見て取れた。
「そっか。襲われた後の村なんだ」
この村は一度、大きな黒い恐竜によって襲われている。
村にあった小屋は全て焼かれ、育てていた畑は踏みにじられた。
今目の前にある村の状況は、恐竜を追い返した後。村の皆と協力して、復興している最中だ。
「懐かしい……」
焼けた村を見るのは辛かったけど、復興には楽しいこともあった。
寝る場所もないからみんなで野宿したり、とりあえず作った大きなプレハブ小屋で雑魚寝したり。
辛いことも楽しいことも、この村で沢山体験した。
「……うん、思い出してきた」
そして風が吹き、村の様子が変わる。
焼けた小屋は撤去され、まだ数は少ないけど、完成している小屋が増えている。
これは、復興が進んでしばらく経った後の光景だ。
この頃には畑も耕し初めて、少しずつ元の生活を取り戻していた。
「……この頃、だったっけ」
私たちが、初めて喧嘩をしたのも。
理由はただの意見の食い違い。
村を優先したいと言う彼と、それも大切だけど、自分がしたいこともやりたいと言う彼女。
私はそんな二人の味方をして、二人と喧嘩をした。
彼女はずっと、好きな物語の主人公のように旅に出たかった。
でもあの子たちは中々成長することができず、そのせいで旅に出ることを止められていた。
あの襲撃をきっかけに成長した彼女は、一日でも早く旅に出たかったのだろう。
村の復興も進んできたタイミングでそれを打ち明け、否定された。
彼の言い分はもっともだった。
村の復興が進んでいたとはいえ、まだ完璧ではない。
今はまだ復興を手伝うべきだと、彼は彼女を窘めた。
私は彼女の気持ちも何となくわかったけど、彼の言っていることも正しいと思った。
だからなんとか妥協案を提案しようとして、空回ってしまったんだ。
彼は復興を手伝い、彼女は一人で村を出ようとした。
私は二人と仲直りすることもできず、ただ無意味な時間を過ごしていて。
バラバラになりかけた私たちを繋ぎ止めたのが、村長だった。
「っわ!?」
物思いに耽っていると、突然なにかに背を押された。
なんとかバランスをとり、転ばないようたたらを踏む。
ここには私以外の人間はいない。
じゃあ、一体だれが……っ!
「え、村長?」
そこにいたのは、二つの小さな人影。
見覚えのある杖をもち、片方はそれをこちらに向けていた。きっと、その杖で背を押したんだ。
「あー……さっさと行けって?」
言いそうなことを口に出してみれば、案の定二人は大きく頷いた。
物思いに耽っている場合ではないぞ、と目を鋭くする。
ああ、思い出した。この人たち、若いうちはとにかく前を向け、とか言うタイプだった。
まあでも、正にその通り。
いつの間にか手に持っていた青い欠片を大事に包み込む。
過去を振り返るのは、もういつでもできる。
「行ってきます」
最後に二人に挨拶をして。
もう絶対に忘れるものかと、心に誓った。
さあ、戻ろう。ランサーが待っている。
*
村から一歩でると、そこは既にアリーナの通路になっていた。
隣を見上げれば、ランサーが少し驚いたような表情で立っている。
やっぱり、急に戻されるのは慣れないよね。
溢れそうになる苦笑いを抑えながら、再びアリーナを進んでいく。
記憶も取り戻せたし、もうアリーナでやるべきことはない。
後は改竄のためにエネミーを倒し続けるだけだ。
黙々と、まるで作業をするかのようにエネミーを倒していく。
軽口でも叩き合えたらいいのだが、生憎ランサーとの仲はそこまで深くなっていない。
何度か話しかけてみるが、ええ、とかそうねとか、そんな返事ばかり。
これ以上は無駄口を叩くなと言われてしまいそうだったから、口を閉じることにした。
「────そいつで最後!」
「っはぁ!!」
アリーナに入って、数十分。
帰還用のポータルの前にいる敵が、ランサーの一撃で消滅していく。
アリーナ全域を回ってエネミーを倒し尽くし、さらにリスボーンしたエネミーも倒し尽くした。
これならステータスの大幅向上も望めそうだ。
「小鳥遊たちは見かけなかったね」
「……」
「ランサー?」
なにか会話をしようと小鳥遊たちのことを話題にするも、ランサーは反応を示さない。
むしろ、手を顎に当て難しそうな顔をしている。
一体何を考えているのだろう。
「ラン、」
「戻るわよ」
「は?」
変な声が出た。
いや、でもそれぐらいに衝撃的だった。
そんな私の様子を気にすることなく、ランサーは再びアリーナに戻っていく。
慌ててそれを追いかけ、彼女の前に立ち塞がった。
「ちゃんと説明して!」
いつでもリターンクリスタルを取り出せるよう準備をする。
いざとなったら、無理矢理連れ帰るつもりだ。
できればそんなことはしたくないけど……。
「明日に響かない程度にエネミーを狩りつくすわよ」
「なんでそんなことを? 今日だって十分な数のエネミーは倒したはずだよ」
「足りないわ」
足りない、って。今日だけで二十は倒しているというのに、何を言っているんだ。
むしろ十分と言ってもいいくらいだ。
「…………貴女は相手マスターよりも戦闘指揮はしっかりしてる。まだまし、というくらいだけど」
「え、あ、ありがとう」
「褒めてないわ」
長い沈黙の後、なぜかランサーは急に私のことを褒めだした。
今までの経験からして絶対言われない言葉に驚くと同時に、素直に感謝の言葉が出る。
その後すぐに否定されてしまったけど。
「そして、そのことに関しては向こうも自覚しているはず。なら、どうやってその差を埋めると思う?」
「……無茶をしてでも魂の改竄を行う?」
咄嗟に思いついたことを口にしたが、それは確実ではない。
小鳥遊に体力はないからだ。もし彼女が無茶を通そうとしても、その前にセイバーが止めるだろう。
そうなると、体力ギリギリまでアリーナを巡るとは考えにくい。
なら、どうやって……。
「……まさか、令呪?」
視界に映り込んだ赤い刻印。
サーヴァントに対する絶対命令権。それを使えば、サーヴァントの力を限界まで引き上げることもできる。
だけど、まだ一回戦だぞ?
こんな序盤で令呪を使ってしまえば、後が苦しくなってしまうのは目に見えている。
「それでも使うでしょう。彼女の願いが生きることなら」
「……少しでも、長く生きるために」
ああ、そうだ。きっと、彼女はそういう人間だ。
生きたいと、彼女はそう言っていた。
そのためなら誰かを殺してしまっても構わない。そんな思いを持って、この戦いに身を投じた。
そんな彼女なら、令呪だって躊躇なく使うだろう。
「それに、サーヴァントには宝具がある。それを警戒するに越したことはないわ」
「……そうだね。それでステータスを?」
「ええ。でも本命は────」
続いた言葉に、なるほどと納得する。
それなら、このまま帰るわけにはいかない。
「わかった、戻ろう」
明日に響くほど疲れなければいいんだ。
体力にはそれなりの自信はある。
とりあえず、あと一周巡るくらいは頑張ろうか。
*
アリーナから戻った足で、そのままマイルームに向かう。
校舎の外は真っ暗で、生徒の影一つ見当たらない。
こりゃあ、アリーナに残っていたのは私たちが最後で間違いないな。
「疲れた、もう動きたくない……」
そんな弱音が出るくらいに疲れ切った私は、適当に制服を脱ぎ捨てベッドに飛び込んだ。
ふかふかな感触に眠気を誘われながらも、向かいに座ったランサーを見る。
彼女に疲れた様子はなく、足を組んで優雅にベッドに座っていた。
流石英霊、というところか。
「私、もう寝るね……」
「ええ」
脱ぎ捨てた制服は一応拾い、ベッドの傍に作った机に置く。
本当ならお風呂にも入りたいけど、そんな気力はない。
明日の朝でいいや……。
「ふわぁ」
大きな欠伸を一つ。
毛布に潜るとすぐに眠気は襲ってきた
「おやすみ、ランサー」
その言葉を最後に、私は睡魔に身を委ねた。
と、いうわけで!
今回は色々と展開が進みました。
真名看破にクレアの記憶。文字数のこともあり、一つに纏めてみました
次回は7日目、決戦となります。
できれば一週間更新を保ちたいのですが、次回は戦闘描写が多くなるので遅れてしまうかもしれません。
よろしくお願いします。