Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第十五話 死闘

 戦闘が始まり、ランサーの踵とセイバーの刀が鍔迫り合う。

 刀と薙刀から繰り出される不規則な戦い方に翻弄され、あまり攻めることができていない。それに、斬擊を受け止めても、武器にまとわりつく炎が着実にランサーの体力を奪っている。

 このままでは、こちらが負けてしまうのも時間の問題だろう。

 

 一番はあの炎をなんとかすることだが、生憎そんなコードキャストは持っていない。

 対抗策を練ってはきたが、それが通用するのは恐らく一度きり。そんな策をこんな序盤でするのは得策ではない。

 つまり、今はランサーに頑張ってもらうしかないのだ。

 

 甲高い音が闘技場に響き続ける。優勢でも劣勢でもない。お互いに傷付けることは出来ず、体力だけが減っていく。

 そんな状況に痺れを切らしたのは、向こう側だった。

 セイバーが一度距離をとり、その場で刀を振り上げたのだ。

 

「はぁ!!」

 

 力強く振り下ろされた刀から、斬擊が繰り出される。それは炎となって、ランサーに襲いかかった。

 

 巨大な炎に視界を遮られるが、彼女なら簡単に避けられる速度だ。

 実際、ランサーは簡単にその斬擊を避けてみせた。だけど。

 

「ランサー、もう一撃が来る!」

 

 切り返された刀から、再び炎の斬擊が放たれる。

 一撃目と時間を置いて迫るそれに、彼女は反応できない。

 

「ちっ!」

 

 それでも、なんとか直撃は避けることができた。彼女の体の柔らかさがあったからこそできた動きだ。

 そのまま距離をとり、戦闘は一時的に中断される。

 

「ランサーと同じ……」

「始めてやりましたが、案外できるものですね」

 

 なるほど、とセイバーは頷く。

 その言葉に、頬がひきつった。初めてということは、今の斬擊は改竄を行って取り戻したスキルではないということだろう。

 

 英雄というのは、こんなにも規格外の存在なのか。

 改めてその存在に恐怖を抱き、そして少し、憧れた。

 私に彼女たちのような力があったのなら───一体、なにをしたかったんだろう。

 

「集中!」

「っごめん!」

 

 ランサーの渇に意識が戻る。

 どうにも、少しでも記憶の断片に触れるとそちらに気を取られてしまう。これはすぐに直さないといけない。

 頭の片隅でそんなことを考えながらも、意識を戦いに集中させる。

 

 既に飛び出していたランサーは、踊るような動きでセイバーを翻弄している。

 コードキャストで援護も行うが、それは刀によって防がれてしまった。やはり、隙をつかないことには援護は難しい。

 でも、気を反らすことならまだできる。少しの隙さえできれば、ランサーの攻撃も通るはずだ。

 

shock(16)(電撃)!」

 

 威力より量を優先し、少量の魔力で素早く電撃を撃っていく。

 いつもの半分以下の威力だが、その分撃つ速度はいつもの倍になっている。とは言っても、込めている魔力が少ないせいか、威力だけでなくスタン効果すらもほぼないものとなっているみたいだけど。

 

「ち……っ」

 

 だが、これで相手の集中力を乱すことはできた。

 前回のこともあるんだろう。放たれた電撃は全て刀か薙刀で防いでいる。この程度なら籠手でも防げそうだが、それを教えるわけはない。

 

「隙だらけよ!」

 

 それに例え僅かだろうと、敵にできた隙をランサーが逃すことはない。

 防御しようとするセイバーに普通の電撃を撃ち込む。一瞬動きを止めた体に、ランサーの踵が蹴りこまれた。

 

「っheal(16)(回復)!」

 

 だけど、その傷はすぐに小鳥遊によって治されてしまう。やっぱり、敵に回復があるのは厄介だ。

 向こうに耐久力がないことが幸いだろう。もし小鳥遊が病弱じゃなければ、鼬ごっこになっていたかもしれない。

 

「治療は?」

「必要ないわ。それより貴女は向こうの妨害に勤しみなさい。癪だけど、マスター相手に攻撃できるのは貴女だけなのだから」

「わかった」

 

 改めて、今の自分の状態を確かめる。

 結構使ったと思ったけど、魔力はまだ十分。疲れもない。ほぼ万全の状態だ。

 ランサーの傷も深いものではない。

 

 ただ、このまま戦況が動かないのも問題かもしれない。

 今すぐできる対抗策は、やはり昨日考えてきたあれしかない、か。

 

「ランサー、昨日考えたあれ、行けそう?」

「……すぐに思いつくのはそれぐらいね。いいわ、従ってあげる」

 

 隣にいたランサーが飛び出し、再びセイバーとの切り合いが始まった。

 あれではない、これではないと、敵の動きを見ながら判断を下す。

 チャンスは一度。悟られてしまえば、きっと二度目は対策が練られてしまう。

 

 時折サポートをしながら、じっとチャンスが来るのを待つ。

 そして、案外それは早くにやってきた。

 

 ランサーの強烈な蹴りが相手の懐に入ったのだ。肉を切り裂く音が聞こえ、セイバーは大きく後退する。

 そこで小鳥遊が片手を上げた。回復するためにコードキャストを唱えようと口を開いた。

 それを阻止するため、急いで電撃を放つ。

 

「きゃあっ!?」

「マスター!」

 

 ギリギリのところだったが、なんとか阻止することができた。

 自らのマスターの悲鳴に気を取られたところをランサーが追い詰める。

 

「邪魔を、するな!」

 

 しかし、その攻撃はどこか力任せに振られた刀の猛炎に阻まれた。

 そのまま小鳥遊の許に戻ったセイバーは、まるで守るように小鳥遊を自分の体で隠す。これでは回復を阻止することはできない。

 

「切り裂け!」

 

 しかも、セイバーはさっきみたいに刀に炎を纏わせ、まるで地面に叩きつけるかのように刀を振り下ろした。

 斬擊が炎に変わり、ランサーに迫る。

 

 ────きた!

 

「ランサー、今!!」

踵の名は魔剣ジゼル(ブリゼ・エトワール)!」

 

 これを利用しない手はない。

 十字の斬擊を放つランサーのスキル。それにセイバーと同じように水を纏わせ放った斬擊は、炎にぶつかり蒸発した。

 

 昨日のアリーナ探索で、ランサーは戦闘に必要な知識や自分に関することを教えてくれた。まあ、真名とかそれに繋がることは一切教えてくれなかったけど。

 そこで知ったのは、ランサーはセイバーと同じようにある程度水を扱えるということ。

 

 その情報を聞いて思いついたのが、今のこの状況。炎に水をぶつければ、多少の目くらましになるのではないかと思ったのだ。

 ここまで深い霧になってしまうのは、正直予想していなかったけど。でも、これならいくらサーヴァントとは言え相手を黙視することはできない。

 

view_status()(解析)

 

 そして、こちらには解析のコードキャストがある。

 その効果によって視界が鮮明になる。霧の中の状況も、これならよく見れた。

 セイバーは既に小鳥遊の傍を離れている。恐らく巻き込まれないように、と思ったのだろう。

 

 軽く離れた位置で立ち止まり、そこから動こうとはしない。

 それはランサーも同じだ。気配を辿れても、それは完璧ではない。不用意に近づいたら音で気が付かれてしまう。

 

 魔力を溜め、パスを通じランサーに言葉を伝える。これも、昨日彼女に教えてくれた技術の一つ。所謂念話というものだ。

 

(10時の方向、約50m。そこにセイバーがいる)

 

 返事はない。だけど、ランサーが動いたのを目視できた。

 足音を立てないよう、まるで滑るように近づいていく。

 それでも、僅かに音は立つものだ。その僅かな音を聞き取ったセイバーは刀で防御しようと動き出す。だけど、もう遅い。

 

「がっ……!」

「まだよ!」

 

 滑る勢いを乗せた華麗な回し蹴りは、見事セイバーの懐に入り込んだ。

 防御できなかったセイバーは吹き飛ばされ、後ろの城に激突。そこに追撃として放った斬撃がぶつかり、砂煙が舞う。

 

「っァ……!!」

 

 小鳥遊の悲鳴が聞こえる。だけど、どこか無理矢理言葉を止めたようにも聞こえた。

 なぜかそれに引っかかりを覚えながらも、解析で砂煙の先を見つめる。

 

 セイバーは動かない。

 

「勝、った……?」

「油断しないで。まだ終わってないわ」

 

 思わず漏れた言葉は、ランサーに窘められる。

 言われた通り、まだムーンセルから終わりの合図のようなものは来ていない。つまり、戦いはまだ続いているのだ。

 緩めていた気を締め直し、再び砂煙の中の様子を確かめようとして。

 

 耳に、何か風を切る音が届いた。

 

「な……!?」

「ッランサー!!」

 

 それは燃え盛りながら飛来し、ランサーの体に突き刺さった。

 さらに風を切る音がしたと思うと、砂煙の向こうからまた何かが飛んでくる。

 

shock(16)(電撃)!!」

 

 飛んできたそれに電撃をぶつけるも、威力が足りないのか相殺すらできなかった。

 結局、それはランサーの足によって切り裂かれ地面に落ちていく。

 

「あれは、矢?」

 

 砂煙から飛んできた飛来物。その正体は、燃え盛る矢だった。

 誰のものなのか、なんて考えなくてもわかる。

 と、いうことは。

 

「向こうのクラスはアーチャーか」

「そんなの、今更どうでもいいわよ」

「ごもっとも」

 

 砂煙が晴れていく。

 薄っすらと映り始めた影は、先ほどまでのセイバーのシルエットとはどこか違っていた。

 あれは……。

 

「角?」

 

 セイバーの額には、鬼のような二つの角が生えていた。恐らく、今までは隠していたのだろう。

 雰囲気が全然違う。なんというか、存在感が桁違いに増している。

 

「へえ、人間にしては力が強いと思っていたけど、そういうこと。さしずめ、鬼の末裔といったところかしら」

「貴女には関係のないことです」

「それもそうね。興味もないわ」

 

 ただ、とランサーは口許を歪める。

 好戦的な光を宿した青色は、まるで輝いているようだった。

 

「こっちの方が嬲り甲斐がありそう」

 

 楽しそうだな、と感想を抱く前に、ランサーは飛び出してしまった。

 そのサポートをするため、コードキャストを使おうとしている小鳥遊に向かって電撃を放つ。

 だけど、それはいつの間にか小鳥遊の前に立ち塞がったセイバーに防がれてしまった。

 

「っさっきよりもスピード速くない!?」

「身体能力が上がってるんでしょう!」

 

 再び電撃を放つも、それも意味を成さない。

 これじゃあ、最初のように少ない魔力で数を増やしても意味はないだろう。

 

 一点集中すれば当てられるかもしれないが、そうなると小鳥遊への注意ができなくなる。

 今のダメージの差を埋められるのは面倒だ。ここは無理に当てようとはせず、私は小鳥遊の回復に注意しておいた方がいい。

 

 でも、どうにかサポートをしないといけないのも事実だ。

 鬼化、とでも言えばいいのだろうか。彼女の能力が底上げされてから、ランサーが押され始めている。

 

 さらに、セイバーの戦い方が一変したことにうまく対応できていない。

 先程までは刀と薙刀を中心に使っていたが、今は弓を中心に使っている。巴御前は弓と薙刀を主武器としていたと聞くし、元々あっちの方が得意なんだろう。

 弓を主軸にされたことで、中々近づくことができない。こちらの遠距離攻撃はスキルしかないし、圧倒的不利な状況だ。

 

 それに、近づけたとしても刀や薙刀で応戦されてしまう。ステータスが上がったせいで、スピード以外であまり有利が取れなくなったのも痛手だ。

 

 だけど、近づかないことには何も始まらない。

 なんとかしてランサーとセイバーの距離を縮めないと……。

 

「……よし」

 

 戦闘に注意を向けながら、端末の操作を行う。

 礼装が入れ替わったのを確認し、一度ランサーを呼び戻した。

 

「……なに?」

「矢は私が何とかする。だから、信じて突っ込んでほしい」

「そんなこと、貴女にできるの?」

「やってみせるよ」

 

 正直、できるかは分からない。当たり前だ、試したことなんてないんだから。

 でも、今はやるしかない。

 

 ただまあ、一応言ってはおこう。

 

「撃ち落とせなかったらごめん!」

「そうなったら後で切り裂いてあげる」

 

 こりゃあ失敗はできないなあ!

 

 ランサーが飛び出し、私は魔力を礼装に流す。

 魔力の流し方でコードキャストの効果や出方が変わるのは既に知っている。だから、あとは魔力の流し方を考えるだけ。

 

 使うコードキャストは『protect(16)(防壁)』。だけど、今までと同じように使えばあの矢でも、簡単に破られてしまうだろう。

 だから一点集中する。魔力を一点にだけ集め、防御力を高めるのだ。その分、効果範囲は縮んでしまうけど。

 

protect(16)(防壁)!」

 

 燃え盛る矢の到達地点を予測し、矢尻が刺さる程度の防壁を張る。

 それは破られることなく、矢を押し留めた。

 

「っ次!」

 

 休んでいる暇はない。

 一体どうやっているのか、次々と矢はランサー目掛けて放たれていく。本来なら番える手間とかがあるはずなんだけどな!

 

 そんな愚痴を吐き捨てながら、ランサーを矢から守っていく。

 元々、そこまで広くはない決戦場。着実に距離は詰められている。

 あと一歩。あれさえ防げれば……!

 

prote()……」

「っあああ!!」

「えっ!?」

 

 近くで、小鳥遊飛鳥の声が聞こえて。胴に来る強い衝撃と共に、視界が回った。

 

「っごめん、援護できない!」

 

 咄嗟にそれだけ叫んで状況を伝える。

 それから急いで衝撃が来た胴体を見れば、そこには色素の薄い長髪が見えた。

 小鳥遊だ。あまりに大胆の行動に、言葉を失う。

 

 いくら遠距離からの妨害ができないからって、飛び込んでくるか普通!?

 

「アーチャーの邪魔は、させない!」

「この……!」

 

 元々病弱なせいか、彼女が私を拘束する力は弱かった。すぐさま振り解き距離を取る。

 ランサーの方も、なんとか距離を詰めることができたようだ。甲高い、金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。

 

 小鳥遊と向かい合う。先程の勢いはどうしたのか、彼女から仕掛けてくることはない。

 身体能力の差を自覚しているんだろうか。さっき気づかなかったのは、私がランサーのサポートに集中しすぎたから。

 失態だ。小鳥遊から仕掛けてくることなどないと高を括っていた。自分よりも格下だと、どこかで見下していた。

 もし、小鳥遊がナイフなどの武器を持っていたら……。

 

「っくそ……」

 

 恐怖と後悔。色々な感情を悪態と共に吐き出す。

 自分でもわかるくらいに焦っている。落ち着け、少なくともこうして対面していれば、大丈夫だ。

 

「私は、負けたくないわ」

「……ええ、そうでしょうね」

「だから────」

 

 小鳥遊の視線が私から外れる。

 向かう先では、ランサーとセイバーが戦っている。

 

 私も、小鳥遊の視線を追うようにそちらを見る。見て、しまったのだ。

 

「───令呪をもって命じるわ。勝って、アーチャー!!」

 

 赤い閃光が小鳥遊の手の甲から発せられた。それは令呪の輝き。

 それを阻止することはもうできない。一度小鳥遊から視線を外した時点で、私は彼女に令呪を使う隙を与えてしまった。

 

「ご下命のままに!」

 

 セイバーの魔力が劇的に上昇する。

 それは圧力となり、私たちの体に重く圧し掛かった。息するのすら苦しいほどの威圧感に、冷や汗が流れ出す。

 

 これが、宝具……!

 

「っランサー!」

 

 声を荒げる。だけど、そんなことに意味はない。

 ただ、咄嗟に口に衝いて出ただけ。

 

「聖観世音菩薩……私に、力を!」

 

 セイバーがランサーに迫る。令呪の効果なのだろうか。先程までとは全く違う素早い動きに、ランサーは反応することができない。

 体を掴まれ、そのまま空中に投げ飛ばされてしまった。

 

 ランサーは何とか空中でバランスを取り、セイバーへ向き直る。

 そこには、今までと比にならないほど大きな炎を纏った矢を番うセイバーがいた。

 

「旭の輝きを!」

 

 弓から放たれた灼熱の矢は真っ直ぐランサーに向かっていく。

 それを空中で避けることは、できない。

 

真言・聖観世音菩薩(オン・アロリキヤ・ソワカ)!!」

 

 どうすればいいのか、全く考えが浮かばない。

 どうしたら彼女を助けられるのか、その術が浮かばない。

 

 私はただ、彼女を信じ祈ることしかできない。

 

「っ生きて!!」

 

 必死に魔力だけを回し、そう懇願した。

 

 ランサーが猛炎に飲まれる。膨大な魔力はまるで太陽のように輝き、視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆然と、目の前の光景をただ見つめる。

 何が起こったのか、視界が光に呑まれていた私には、全くわからない。

 

 ただ、唯一分かるのは。

 

「……負けて、しまったわね」

 

 勝敗が付いたという、結果だけ。

 

 宝具を放ったセイバーの背後から、ランサーの鋭い膝の棘が貫通している。

 目の前の光景を説明するとしたら、それだけのこと。

 だけど、その傷は致命傷だ。棘は身体の急所を的確に貫いている。

 元々ボロボロだった体にあの一撃。もう、セイバーに力は残っていない。

 

 ランサーが棘を引き抜くと、セイバーの体は力なく倒れこんだ。

 慌てた様子で小鳥遊が近づき、入れ替わるようにランサーがこちらに戻ってくる。

 

 よく見ると、ランサーの体もボロボロだ。

 体中の火傷は酷いし、頭のリボンや服はほとんど焼けてしまっている。

 

 少しでも傷を癒すため、エーテルの欠片を使う。

 ランサーからは睨まれてしまったが、これぐらいは許してほしい。結局、この戦いでは一度も治療を施さなかったわけだし。

 

「っ……ランサー、あれは」

「敗者の末路よ。わかっているでしょう」

 

 なんとなく、小鳥遊たちの方に目を向けた。

 それに後悔するのは、すぐのことだ。

 

 小鳥遊とセイバーの体が、なにか黒いノイズに侵されていたのだ。

 見るだけで分かる。あれは、いけないものだ。

 

 思わず駆け寄ろうとした私を阻むように、赤い壁のようなものがが私たちの間に現れた。

 壁に手をつくが、もちろん通り抜けるわけはない。

 壊すこともできない、生と死を隔てる赤い壁。

 

「何を狼狽えているの。聖杯戦争で敗れた者は死ぬ。ただそれだけよ」

「そ、んなこと……っ!」

 

 分かっている。分かって、いるけど。

 私が殺したのに、助けたいと思ってしまっているのだ。

 

「本当、貴方は優しいのね」

「……甘いだけですよ」

「そうかもしれないわ。でも、私は好きよ」

 

 たったこれだけで、彼女が死を受け入れていることは分かった。

 あんなにも生きたいと言っていたのに。きっと、それだけの覚悟があったのだ。死を受け入れるだけの覚悟が。

 だからこうして泣き喚きもせず、今までのように穏やかに笑っている。

 

「アーチャー。私ね、一週間だけだったけどとても楽しかったわ」

 

 小鳥遊が倒れているセイバー、アーチャーに向かって話しかける。

 その声はどこか楽しそうだ。でも、なぜだか悲しくなってしまうような、そんな声色をしていた。

 

「生まれてこの方、ベッドに寝るだけの生活だったの。このまま何もせずに死ぬんだって、ずっと思っていた」

 

 彼女は嬉しそうに声を弾ませて語る。

 まるで子供のように、無邪気に話し続ける。

 

 その間にも、ノイズの浸食は止まることはない。

 

「でもね、違ったの。戦いは怖かったわ。でも、あなたと一緒だと思えば楽しかった。不謹慎でしょ?」

「マスター……」

「ありがとう、アーチャー。私に夢を見させてくれて。たったの七日間だったけど、貴女と過ごした一週間は、私には大冒険だったわ」

 

 白銀のアーチャーは、崩れていない手で彼女と手を繋いだ。

 強く、離れないように。

 

「私も、貴女と出会えてよかった。貴女が語る話は、とても楽しかった」

「あら、あんなの又聞きよ」

「それでもです。ありがとう、飛鳥」

「……ええ、こちらこそありがとう、巴」

 

 友達のように語り合った彼女たちは、もう既に体の半分以上が失われている。

 恐いはずなのに、彼女の顔から微笑みが消えることはなかった。

 

「クレアさん」

「……はい」

「私たちの分まで勝ち残ってくださいね。じゃないと私、呪い出ちゃいますから」

「それは、怖いなぁ」

 

 恨んでいるはずだ。憎んでいるはずだ。彼女を殺したのは、他ならぬ私なのだから。

 それでも、やはり彼女は微笑み続ける。

 

 とても、とても優しいひと。

 もっと別の場所で出会えたら、きっと。そんな、意味のない妄想をしてしまう。

 

 顔にもノイズは侵食し始め、体のほとんどは崩れ去っている。

 彼女たちの最期が、もう近い。

 

 小鳥遊が空を見上げる。

 深海にいるような深い青。漂う家の破片。───空とも言えないそこに、鳥が一匹。

 

「……ああ、生きたかったなぁ」

 

 さいごにポツリ、本音を溢して。小鳥遊飛鳥はこの場から、いいや、この世から消えてしまった。

 魂も、存在も、全て。跡形もなく。

 

「───────」

 

 言葉を失う。

 あまりにあっけない最後。なにも残らない終わり方。

 

 ───────だけど私は、その終わり方を知っている。

 

 これが、聖杯戦争。

 

「帰るわよ、クレア」

「……そうだね」

 

 ランサーに促されその場に背を向ける。

 

 ……あれ、もしかして今、名前で呼ばれた?

 思わずランサーを見るが、彼女の顔にはなんの感情も浮かんではいない。

 これは、認められたと思ってもいいのだろうか。嬉しいけど、今のこの状況だと、うまく喜べないな。

 

 なんとも言えない感情を、息と共に外へ吐き出す。

 

 決戦場から出る前に、一度だけ空を見上げた。

 

 

 ──────飛んでいた鳥は、もういない。

 

 




お待たせしました!!
一日遅れてしまいましたが、なんとか完成。区切るところがわからず、長くなってしまいました。

これにて一回戦は多分終わり。次回は二回戦の初日になる予定です。

さて、二回戦ですが、まだ敵サーヴァントのMatrixとかが考えられてません。そのため、二回戦の更新はMatrixだけでも考えてから投稿しようと思っています。
なので二週間以上更新が空いてしまうと思いますが、できるだけ早く戻ってこれるようにします。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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