Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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────それは、まだ幼かった頃のお話。




幕間 Memory No.2

 ────ああ、また夢か。

 

 私は夢を見ない。昔からそうだったし、今もそう。

 目を閉じて眠ってしまえば最後、目が覚めるまで意識はない。

 

 本来なら、その眠りと言う行為さえ私には不必要なもの。

 それでもこうして眠っているのは、そうしなければ生きてはいけなくなってしまったから。

 なんて面倒な身体になってしまったんだ。そう思うのも、もう何度目のことだろう。

 

 まあ、こうして見てしまったのなら仕方がない。情報収集だと割りきれば、気分的にもまだましだ。

 

 今私がいるここは、前回の夢で見た村と同じはず。あの恐竜のようなもののせいで、大分悲惨な姿になっているようだけど。

 小屋は焼け焦げ、大地は踏み荒らされ。一部作りかけの小屋もあるが、それでも村の様子は悲惨の一言に尽きる。

 あれからあまり時間は経ってないのだろう。結局、ここの村人たちはこの村を捨てることはなかったようだ。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 これはただの夢。既に終わった過去の出来事を再現しているだけだし、もとより私には関係ない。

 さっさとあいつを見つけて、夢から覚めてしまいましょう。

 

 

 影ばかりのこの村で、唯一はっきりと見える薄紫の髪を探す。前回で見慣れた村を少し歩けば、それはすぐに見つかった。

 そいつはいくつもの影と協力して、大きな木材を持ち上げている。

 私から見れば影でしかなくても、あの少女から見たらちゃんとした生き物に見えているんだろう。だが、影と笑いあう光景は正直不気味だ。

 

 今回の夢は、この村の復興を眺めるだけなんだろうか。それだけなら面白くない。

 前回のように、何か大ごとでも起きないかしら。その方が愉しめるのに。

 

 それからしばらく彼女の行動を眺めていたが、何かが起こる気配はない。やはり、今回の夢には前回ほど愉しめることは起きそうにない。

 ため息をつき、他にやれることはないかと模索する。干渉できないのは知っているが、どこかに座るとかもできないのか。

 周囲に置かれている木材に触れてみようとするが、予想通り手はすり抜ける。歩けるから地面には座れるのだろうけど……そんなことだけはしたくない。

 

 どうにかして時間を潰そうとしていると、私の隣をなにかが通り抜けた。

 真っ黒な二つの影。姿形は違うが、なんとなく分かる。あれは、彼女をこの村に連れてきた二匹だ。

 

「クレア!」

「私たちもこっち手伝うよ!」

 

 前回とは違い、はっきりと聞こえた少女の名前。

 私も知っているその名前に、思わず頭を抱えた。ああ、やっぱりこの夢は……。

 

 分かり切っていたことだが、いざ答えを知ると元々なかった興味が更に失われた。

 しかし、起きるまでこの夢を見なければならないのは決定事項。それなら、トラウマや秘密でも探ってやるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう意気込んだはいいが、残念ながら今回の夢はとことん平和だった。

 村の復興中に多少の言い争いはあるが、それにあいつは関与していない。しかも、内容はただの小競り合い。トラウマになる程のことではない。

 

 ああ、なんてつまらない夢。せめて、あの人の夢であれば、まだ────。

 

「っふざけるな!!」

 

 大きなため息が出そうになったとき、突然怒号が聞こえてきた。

 それを聞いたあいつは、驚いたように目を見開き、声がした方に向かって走り出す。私もその後を追うことにした。

 今の声は、間違いない。

 

 あいつと仲のいい二匹の内の一匹だ。

 今まで大人しかったあの影が、声を荒げるほど激怒している。

 何かが起こったのは明らか。つまらない夢が、少しだけ面白くなりそうだった。

 

 僅かな期待を抱えながら向かった先にいたのは、予想通りあの影たちだ。

 そいつらは互いに向き合い何かを言い争っている。

 

「っなにその言い方、別に今すぐ旅に出たいって言ってるわけじゃない!」

「そうだとしても、今言うべきじゃないよ! みんな復興を頑張ってるのに!」

「夢を口にするのってそんなに悪い!?」

「そんなこと言ってない!」

 

 喧嘩している内容はとてもくだらない。しかし、口論は少しずつ激しくなっていく。

 最初はまだ穏やかだった雰囲気も、どんどん険悪なものとなっていった。

 

「このわからずや、恩知らず!」

「なんだって!?」

 

 その言葉が引き金となり、二匹は鋭く尖った爪だろうものをお互いに向けあう。

 それを見て、今まで狼狽えていただけのあいつも慌てて動き出した。近くにいた影に飛び付くが、向こうの方が力強く、止めることはできていない。

 そして、喧嘩している二匹はお互いのことにしか目に入っていない。必死に止めようとしているあいつに目もくれず、飛び掛かろうとしていた。

 

「なにをしている!!」

 

 互いに大地を踏みしめた瞬間、身体が震えあがるような怒号が鳴り響いた。

 夢だというのに感じる威圧感。そして、サーヴァントである私ですら震えあがるような重圧感。真後ろから聞こえてきたその声の持ち主は、この村で村長と呼ばれている老人だった。

 

「村長……!」

 

 あいつは泣きそうな声色でそいつを呼ぶ。あの二匹も、喧嘩していたのがウソのように怯えていた。

 老人は、雰囲気で分かるほど怒っていた。この私が冷や汗を流すほどの怒気。この村長と呼ばれる老人は、一体どんな生き物なのか。

 

 今まで以上に興味がわいた。この影たちの正体に。そして、そんなのがいるこの世界に。

 あいつに問い詰めるのもいいが、それはなんだか癪な気もする。

 それに、ここはあいつの記憶。ということは、あいつと私は情報を共有しているということだ。私が知らないということは、あいつに聞いてもわからないだろう。

 とりあえず、今はこの夢を最後まで見ることにしよう。

 

「……わかった。とりあえず、お前たちは小屋に戻って反省しておれ」

「僕は復興を……っ!」

「ド■■ン」

「っ!」

 

 影の言葉は、老人の言葉に遮られた。冷たい声に体を震わせ、恐らく顔を俯かせている。

 

「クレア、こいつらを頼んだぞ」

「う、うん……」

 

 行こう、とあいつは手を伸ばした。今まで通り、手を繋ごうとでも考えたのだろう。

 だが、その手は影を掴むことはなかった。

 

「先に戻ってるっ!」

「ッリ■■ダモ■!?」

 

 一匹が私の横を走り抜けていった。あれは、旅に出たいと言っていた方か。

 特徴があるからわかりやすいが、やはり全身真っ黒の生き物が動くのは少し不気味ね。

 

「あんな奴ほっとけばいいよ」

「ド■■ン……」

「ふん」

 

 残った影も、あいつを置いて歩きだしてしまった。

 あいつはなにも言わないまま、そいつの背中を見送る。

 

 その顔には、私の好きな表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 小屋に戻った一人と二匹の雰囲気は、見るからに最悪だ。

 少しだが見てきたから、こいつらの仲の良さくらい少しはわかる。だから、彼女たちがこんな雰囲気を作るとは予想もつかなかった。でも、これはこれで面白い。

 

 お互いに背を向け合う影に挟まれ、あいつは挙動不審な行動をしている。

 この雰囲気をどうしようか考えているのだろう。

 なにかを考えるようにしばらく首を傾げ、そして思いついたのか、少し明るい表情を浮かべた。だが、それでも抱いている不安を隠しきれてはいない。

 

「ね、ねえド■■ン」

「……なに」

「リ■■ダモ■も悪気があった訳じゃないんだよ。ただ、舞い上がっちゃっただけで……」

「……悪気がないなら何を言ってもいいの?」

「え?」

 

 微かに見えた金色の瞳はどこか冷たい。

 だけどそれも一瞬。影は顔をそらしたし、なにより見えていた瞳は再び黒い影に隠れてしまった。

 

「……僕、手伝いにいってくる」

「あ……っ」

 

 その言葉を言い残し、それは小屋から出ていってしまう。

 あいつは手を伸ばしたけど、結局影を引き留めることはなく。また、無言のまま背中を見送っていた。

 

 それからのあいつの行動は、まあ酷いのなんの。

 なんとかしようとしているのは分かったが、その行動すべてが裏目に出ていた。片方の味方をすれば、もう片方が不貞腐れるのだ。

 子どもらしい、と言えばそれで済む話。だが、仲直りさせようとしているあいつからしたら最悪な状況に違いない。

 事実、あいつは仲直りさせようと奔走しているが、その全てが無駄に終わっている。むしろ、関係はさらに悪化していっている気がする。

 

 だけど、あいつは諦めない。

 心の奥底になにかしらの恐怖を抱えながら、なんとかしようと前を向いている。

 

 そんな彼女に声を掛けたのは、村長と呼ばれる人影だった。

 

「全く、あやつらはまだ不貞腐れてるのか」

「……ごめんなさい」

「ああ、いや、責めたつもりはないのじゃ。むしろ、すぐに仲直りするだろうと放っておいたワシらにも責任はある。すまなかったの」

 

 老人は小さい体を伸ばし、あいつの頭を撫でた。

 傍から見ると大分滑稽な光景だが、あいつは目元に涙を浮かべ、安心したように笑っている。

 

「随分と苦労を掛けてしまっていたんじゃな……」

「ううん、大丈夫だよ。私がしたかったんだし」

「でも辛かったじゃろう。後は任せなさい」

「……うん」

 

 しばらく老人と抱きしめ合った後、あいつは小屋へと戻っていく。

 その表情は今までと違い晴れやかなもので、不安や恐怖は全て吹き飛んでいた。その代わり、不満や悔しさが浮かんでいたけど。

 

 小屋に着いたあいつは、すぐさまベッドに寝転び目を閉じる。大分疲れていたのだろう。数分もしないうちに眠りにつく。そして、私の視界も暗転した。

 私は彼女の記憶を見ているだけ。つまり、あいつが知らないことは私も知ることはできない。

 

 だが、この後の結末は容易に想像できる。

 どうせ、あの老人が影二匹を説得して仲直りでもさせるのだろう。

 記憶を取り戻した時のあいつの表情がそこまで暗くなかったことから、最悪な形で終わらないことは想定済みだ。

 でもまあ、今回の夢は十分に楽しめた方。私好みの表情も見れたし、興味の対象もできた。それを考えれば、これからの夢も少しは楽しめるだろう。

 

 とはいえ、今回の夢はもう楽しみも少ないだろうけど、ね。

 

 未だ終わらない夢は、再び小屋の風景を映し出す。

 そこに集まっているのは、少女と二つの影だけ。あの老人の姿はない。

 

「あの、ごめん」

「ごめんね、クレア」

「……どうして、二人が謝るの」

「だって、変な意地はって、不貞腐れて……」

「迷惑、かけたよね……?」

 

 影たちはどこか不安そうな声色で、少女に向かって謝っている。

 あいつは静かに首を横に振り、強く影に抱き着いた。

 

「私こそ、かき乱してごめんなさい……」

 

 一人と二匹は謝り合う。この喧嘩は、ここで終わり。

 始まりは些細な食い違い。それがここまで大袈裟になったのは、彼女たちがまだ幼いから。

 それくらいは分かる。分かってはいる、けれど……。

 

 やはり、理解することは難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの喧嘩から、しばらく経った。

 彼らは最終的には村の復興を優先したらしく、未だにこの町に滞在している。

 だが、旅を諦めたわけではない。村の復興をしながらも、少しずつ旅の準備も進めていた。

 

 そしてこの日、あいつは影たちと共に、この村を旅立つことに決めた。

 

「忘れ物はない? 体調は? やっぱり先延ばしにした方が……」

「し、心配しすぎだよ」

 

 多くの影があいつらの周りを囲っている。

 聞こえる会話から、影があいつらの心配をしているのは確かだ。これで見た目がよければ、まだ見れた光景になるのに。

 

「こほん」

 

 咳ばらいをが一つ、その場に響く。

 それを合図に、あいつらを囲んでいた影は少しずつ離れていく。離れる前に、一言ずつ声を掛けて。

 

「全く……過保護なのも考え物じゃな」

「村長も昨日散々心配してたくせにー」

「ええい、うるさいぞ!」

 

 周囲からヤジが飛ぶ。なんともしまらない光景だが、これはいつものものらしい。

 あいつは近くにいる影たちと笑いあっている。

 今までいた村を旅立つにしては、とても希望に満ち溢れているように見えた。

 

「こほん……昨日言ったことは覚えておるな?」

「もちろん! 森にある大樹のところでお祈りして」

「北にある塔にいるデ■■ンに会いに行く、だよね?」

「うむ。大樹様への祈りはこの村を旅立つときの儀式のようなものじゃ。そう畏まったものではないが、決して忘れてはいかんぞ」

 

 最後に念を押すように、老人は力強く彼女たちに伝える。

 森の大樹というのは、彼女がこいつらと会った場所にあった木のことだろうか。確かに不思議な力を感じたけど……なるほど、もしかしたらこの村にとって、あれは守り神のようなものなのかもしれない。

 

 老人の言葉に頷いた彼女たちは、背負っていた荷物を抱え直す。

 掛け合う言葉は、あと一つ。

 

「それじゃあ」

「ああ、気を付けて行ってきなさい」

「「「行ってきます!」」」

 

 そうして、一人と二匹は村を旅立った。

 時折振り返り手を振りながらも、歩みを止めたりはしない。そして森に足を踏み入れれば、もう振り返ることもなかった。

 

 初めて村に来た時のように、木の根に足を引っかけたりはない。むしろ、どこか慣れた様子で森のデコボコした道を歩いている。

 しばらく森を進めば、開けた場所にでた。そこは、あいつらが初めて出会った場所。

 その中央に聳え立つ大樹の前に、彼女たちは跪き両手を揃える。

 

「これからの旅が、楽しいものでありますように……」

 

 ────瞬間、大樹の周りに光の玉が現れた。

 決して悪いものではない、温かな光。

 

「え、え!?」

 

 あいつらはこの現象についてはなにも聞いてない。それは私も知っている。

 だが、いきなり現れた光に混乱していても警戒はしていない。それが悪いものではないと、本能的に感じているのだ。

 

 光は何かの形を取りながら、少女の目の前に落ちてくる。

 おずおずと伸ばした掌に乗った光は、徐々に弱くなりそのまま消えていってしまった。掌に残ったのは、白色の四角い端末。

 

「……なに、これ」

「なんだろう。リ■■ダモ■は知ってる?」

「ううん、知らない」

 

 どうやら、誰もその端末の正体は分からないようだ。

 私も、それが特別であること以外は分からない。見た目はただの端末だし。

 

 結局、彼女たちはその端末については後回しにした。

 適当なところにしまい込み、再び荷物を背負う。そして、老人に言われた通り北に向かって歩き出した。

 

「あれ……ねえ、どうして北の塔にいるデ■■ンに会いに行くんだっけ?」

「うそ、昨日のジ■モンの話、聞いてなかったの?」

「き、聞いたよ! ただ、ちょっとド忘れしちゃっただけで……っ」

 

 ふいに声を上げたのは、影の片割れ。それに答えるのも、もう片方。

 そして、あいつはその話題が出た瞬間、表情を暗くしていた。

 

「もう……そのデ■■ン、この辺りじゃ魔法使いとして有名なんだって。だから、クレアが元の世界に帰る方法を知ってるかもしれないでしょ? それを聞きに行くんだよ」

「あ、思い出した。帰る方法はちゃんと知っておいた方がいいって、ジ■モンが言ってたね」

「そうだよ! ド■■ンはそういう忘れっぽい所、直した方がいいよ」

「はーい」

 

 影たちはあいつの様子に気づかない。

 明らかに顔を俯かせて、歩みを遅らせているというのに。

 

「……ねえ」

「ん?」

「どうしたの、クレア」

「……んーん、なんでもない! これからが楽しみだね、ド■■ン、リ■■ダモ■」

「「うん!」」

 

 彼女は胸に秘めた思いを口にしないまま、影たちの横に並ぶ。

 あいつは一体、何を言いたかったんだろう。

 

 

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