Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第一章 「awakening/artificial life」
第一話 聖杯戦争


 青い空。緑の広がる大地。どこまでも続く海。

 そんなどこにでもあるような自然の中に、気づけば私は立っていた。

 周りを見渡してみるが人影とかは見つからない。ただ綺麗な自然が広がっている。

 

 

 

 ────クレア。

 

 

 

「え」

 

 誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り返った。

 遠くに黒い影が見える。

 人の形はしていない。どちらかというと獣のように見えるその姿に、なぜだか懐かしさを覚えた。

 

 あの声はあの子のものだ。

 泣きたくなるくらい懐かしくて。

 幼い声色なのに、どこか力強くてとても頼もしい声。

 

 こんなにも分かるのに、あの子のことを思い出せないのが酷く悲しかった。

 

「君は、誰?」

 

 影は答えない。

 表情もここからはうっすらとも見えない。

 それがなんだか嫌で、近づこうと一歩を踏み出した。

 

 瞬間、視界がぐらりと揺れる。

 

 足場が崩れていく。

 

 すがるように手を伸ばすが、あの子には届かない。

 ならば、と口を開き。

 

 

「───っ!!」

 

 

 名前を呼ぼうとして、失敗した。

 

 ……ああ、そっか。私は、まだ。

 

 あの子の名前すら、思い出せていないんだ────。

 

 

 

 

 唯一見える金色の瞳が、静かにこちらを見ていた。

 

 

 *

 

 

 ────夢を見た。

 懐かしくて、愛おしい誰かの夢。

 

 溢れそうになる涙を抑え周囲を見渡す。どこか見覚えのある天井。周りを囲う白いカーテン。そして、今私が寝ているベッド。

 少し違和感を感じるが、ここは学校の保健室。意識を失った後に運ばれたのか。

 そう結論付け、僅かにだるさが残る体を起こした。

 

 ついさっきまで見ていた夢を思い出す。といっても、どんな内容だったかなんて全く覚えていない。

 けど、とても大事な夢を見ていたのは確かだ。

 

 それがなんなのかも、進み続ければわかるのだろうか。

 

 右手の甲を見る。そこには赤い刺青のようななにかが刻まれていた。

 令呪。そう呼ばれていた刻印が、あの物語のような出来事を思い出させた。

 

 人形との戦い、すごい格好の少女、マスター、サーヴァント。

 未だ状況は全く分からないが、きっとこれからもあのような戦いが続くのだろう。

 これからどうするのかを考えなければ。

 

 しかし、あの少女はどこへ行ったんだろう。周囲を見渡しても人影はどこにもない。

 まさか夢だったのかと考え、それはないと一蹴する。なら、彼女はどこへ?

 

「ようやく目が覚めたのね」

 

 突然、あの少女の声が聞こえた。ベッドの傍に突然人影が現れる。

 強烈な印象を残す格好。間違いない、あの場所で出会った少女だ。

 腕を組み、私を見下ろす目に温もりはない。人を人とさえ見ていないような目に、少し嫌悪感を感じた。

 これ以上目を見るのは気分的にもよくない。少し目線をずらし、目だけは極力見ないよう勤める。

 

「まあいいわ。聖杯戦争の本戦には間に合ったのだし」

「聖杯戦争?」

 

 聖杯戦争。

 何度も聞いた覚えがあるが、やはり知らない言葉だ。

 流石になにも知らないままはまずい。素直に彼女に聞くのが一番だろう。

 

「ごめん、聖杯戦争ってなに?」

「……本気で言ってるの?」

「うん」

「……ハズレを引いたかしら」

 

 聞こえてるぞ。

 そうは思うが口にはしなかった。下手に失言すればどうなるか想像がつかなかったからだ。

 まだ彼女のことはよく知らないが、高圧的な性格をしていることはわかる。もしかしたら逆らうような発言は地雷になるかも。反論すべき所はともかく、今みたいな所で関係を悪化させる訳にはいかない。

 

「はぁ。一度しか説明しないから、よく聞きなさい」

 

 そう言って、彼女は聖杯戦争について説明してくれた。

 

 昔、聖杯という願いが叶う願望機を奪い合うため、魔術師(メイガス)たちが始めた殺し合いが合ったらしい。その戦いの名が聖杯戦争。

 今回私が参加することになったのは、その戦いを模したもの。

 選ばれた魔術師(ウィザード)をマスターとし、サーヴァントを従え一対一の戦いを繰り返す。そして最後の一人になったマスターは聖杯を手にすることができる。

 それが、聖杯戦争。

 

「理解できたわね?」

「ああ、大丈夫」

 

 いくつか知らない単語が出てきたが、それについてはまた後でいいだろう。まだ説明は続くようだし。

 それより問題は殺し合いに参加したということだ。

 そんなつもりはなかった、なんて言ったところでもう戻ることはできない。なら、進むしかない。

 

「次はサーヴァントについてね」

「よろしくお願いします」

 

 サーヴァントはあの人形のようにマスターの剣となり盾となる者、らしい。

 その正体は過去に偉業を成し名を馳せた者。所謂英霊のことだ。といってもサーヴァントは英霊そのものではなく、聖杯によって再現された姿。

 そしてサーヴァントは生前成した偉業によって、七つのクラスというのに分けられる。

 

 剣の英霊(セイバー)

 弓の英霊(アーチャー)

 槍の英霊(ランサー)

 騎乗の英霊(ライダー)

 暗殺の英霊(アサシン)

 魔術師の英霊(キャスター)

 狂戦士の英霊(バーサーカー)

 

 他にもエクストラクラスというのもあるらしいが、詳しくは説明されなかった。

 基本は七クラスみたいだし、必要なら調べるなりすればいいだろう。

 

 しかし、ここで疑問がひとつ。

 彼女はどのクラスに価するのか。それから、どんな英霊なのか。

 あの空間で戦い方を見ることができたが、使っていたのは武器と言えるのかわからない特徴的な具足。剣のような武器は見られなかった。

 

「君のクラスは何になるの?」

「そうね……貴女はなんだと思う?」

 

 え、まさかの逆質問?

 先程された説明と目の前の少女を照らし合わせる。

 バーサーカーとキャスター、アーチャーは違うと思う。となると後はセイバー、ランサー、ライダー、アサシンの四つ。

 彼女の武器であろう足を見る。その鋭い刃から連想する武器は、槍。

 

「……ランサー?」

「そう思うならそう呼びなさい。私はそれでいいわ」

「え!?」

 

 そ、そんな適当でいいのか!?

 思わぬ返答に狼狽え、混乱する。それでもなんとか持ち直し、今度は彼女の名前を聞いてみた。

 

「教えると思って?」

 

 あ、やっぱり。

 なんとなく予想はついていたが、彼女は自分について教える気はないらしい。それでもと追及しようとするが、被せるように彼女が口を開いた。

 

「そうそう。念のため聞いておくけど、魔術師(ウィザード)という言葉に覚えは?」

「……ないです」

「ちっ、本当にハズレじゃない」

 

 先程は小声だった言葉を、今度は堂々と言い切られる。

 少しムッとするが、反論はできない。私は本当になにも知らない。

 勝ち上がるために召喚に応じただろう彼女が私をハズレと言うのは当たり前だ。

 でも、だからと言って言われっぱなしは癪だ。絶対に見返してやる。

 

 そう心意気を新たにしたところで、今度こそベッドから立ち上がった。

 魔術師(ウィザード)とか名前とか、正直聞きたいことはまだ一杯あるけど、あとは自分で調べることにしよう。

 このまま聞き続けても終わりは見えなさそうだし。

 

「と、自己紹介がまだだったね」

 

 忘れていた。

 私も彼女のことはなにも知らないけど、彼女も私のことはなにも知らないはずだ。せめてこちらの名前ぐらいは知ってもらわないと。

 

「私はクレア・ヴィオレット。よろしくね」

 

 握手を求め手を伸ばす。

 しかし彼女は私の手を握ろうとはしなかった。

 

「……馴れ合う気はないの。さっさと行くわよ」

 

 それだけ言い残し、光となって消えてしまう。だがさっきまでとは違い気配は感じられた。

 もしかして、サーヴァントは姿を消すことができるのか? さっき探したときに見つけられなかったのもこれのせいか。

 それに、姿を見せないことで相手に情報を与えない手段でもあるんだろう。彼女の場合、見た目だけでわかるのは武器ぐらいだと思うけど。

 

 ……ああ、そっか。名前がわかっても問題なのか。

 英霊になるのは生前に偉業を成した者。つまり、現在でもその名は語り紡がれている。その中には死んだ原因や弱点なんかも含まれるだろう。

 それを知ることができれば、有利に戦いを進めることができる。

 一対一の戦いになるようだし、情報をうまく扱わないと。

 

「んっ……と、よし」

 

 固くなった体をほぐし、ペンダントがあることも確認する。制服も可笑しな所はないし、そろそろ動こうか。

 閉まっていたカーテンを開ける。

 カーテンの向こう、白い部屋の中央にある椅子。そこに座っていた少女が、カーテンの音に気づいてこちらを見る。

 その子の容姿があまりにもランサーに似ていたものだから、思わず二度見してしまった。

 

「あの、どうかしましたか?」

「あ、ああ。なんでもない、大丈夫」

「そう、ですか? ならよかったです」

 

 穏やかな笑顔がランサーとの違いを感じさせる。

 よく見ると目元やら纏う雰囲気だとか、結構違っていた。

 

「セラフに入られた時に預からせていただいた記憶(メモリー)は返却させていただきました。ご安心ください」

 

 彼女、間桐桜は今までにあったことを説明してくれた。

 聖杯を求めてやってきた魔術師は一旦記憶を消され、あの仮初の日常を送る。その日常から自我を取り戻した者のみが本戦に参加できる。

 あの世界そのものが予選の会場だったということだ。確かに、ここはあそこのような気味悪さは感じない。

 

 そして、彼女は言った。記憶は返却した、と。

 しかし私が覚えているのは自身の名前と仮初の日常だけ。ここに来る前の記憶は全く取り戻せていない。

 そのことについて間桐に聞いてみるが、彼女は少し困った顔で首を振る。

 自分は運営用に作られたAIだと伝えられた。つまり、対処はできないということだ。

 思わず頭を抱える。すぐに記憶が取り戻せると少し期待したが、そうはいかないらしい。

 

「あ、そうだ。これを渡しておきますね」

 

 話題を変えるように、彼女から携帯端末を渡された。

 軽く弄ってみる。どうやらタッチ式のようだ。あ、画面の投影もできる、すごい。

 えーと、使えるのはステータス(Status)マトリクス(Matrix)装備(Equip)アイテム(Item)、あとはメール(Mail)か。

 

「本戦参加者は表示されるメッセージに注意するように、とのことです」

「ん、わかった。ありがとう、間桐」

「桜で構いません。その名は参加者の方の中から勝手に引用させてもらったものですから」

「そう?」

 

 なら、今後は桜と呼ばせてもらおうかな。

 端末を弄るのをやめ、後ろポケットにしまっておく。詳しくは後で調べることにしよう。

 その後軽く会話をしてから保健室を後にする。

 ランサーと同じ容姿をしていたけど、話しやすい子だった。もし何かあったら訪ねてみるのもありかもしれない。

 

 とりあえず、まずは校舎に何があるのか把握しておこう。予選の校舎と違いがあったら大変だ。

 上の階から見て回ろうと歩いていると、突然カソックを着込んだ神父に話しかけられた。

 

「本戦への出場おめでとう。これより君は、正式に聖杯戦争の参加者となる」

 

 胡散臭い。第一印象はまさにその一言に限る。

 声は予選で聞いた声と同じだ。それに見た目という要素が加わっただけでこんなにも胡散臭さが増すとは。

 

「私は言峰。この聖杯戦争の監督役を勤めるNPCだ」

 

 そこから、聖杯戦争のルールについて説明を受ける。といってもそう複雑なものではなかった。

 戦いはトーナメント形式で一対一で行われる。128人のマスターは一回戦から七回戦を戦い抜き、最後の一人を決める。ただそれだけだ。

 

「戦いは七日間で行われる。一日目から六日目までは相手と戦う準備をする猶予期間(モラトリアム)だ」

「猶予期間?」

「敵も同様に君を殺す準備をしているということだ」

 

 猶予期間は六日間。その間で敵の情報を集め、作戦を練る。

 そして、最終日である七日目は。

 

「相手マスターとの最終決戦が行われる。勝者は生き残り、敗者はご退場いただく、ということだ」

 

 ご退場、ね。

 先程保健室で聞いた内容と照り会わせれば、それは恐らく……。

 そこまで考えて、頭をふる。今結論に至るのはやめよう。

 

「何か聞きたいことはあるか? 最低限のルールを聞く権利は等しく与えられるものだからな」

 

 そうは言われても特に思い付くことはない。また思い付いたら聞けばいい。

 首を横に振り否定の意を示す。言峰はそうか、と軽く頷き言葉を続けた。

 

「では、最後にもう一つ。マスターにはそれぞれ個室が与えられている。この認証コードを端末に入力(インストール)してかざせば入ることができる。入り口は2-Bだ」

 

 端末が振動し無機質な音が鳴る。

 取り出し確かめてみると、画面には数字の羅列が並んでいた。これが認証コードみたいだ。

 早速インストールして、と。

 

「さて、これ以上長話をしても仕方がない。アリーナの扉は開けておいた。今日のところはアリーナの空気に慣れておきたまえ」

 

 最後に入り口の場所を口にして、言峰は去っていった。

 神父のくせしてがたいのいい後ろ姿を見送っていると、手に持っていた端末が再び振動する。今度はなんだ?

 

『2階掲示板にて、次の対戦者を発表する』

 

 一文だけ書かれたメールが表示される。

 次の対戦者。私が戦う一回戦目の相手。二回の掲示板を見ればそれがわかる。

 

「……はぁ」

 

 少し、気分が下がる。

 わかっていたことだし、何度も説明は聞いた。

 でもやっぱり、心の整理はつかない。こればっかりは仕方がない。すぐに切り替えることはできなさそうだ。

 今日を含めた六日間の猶予期間。その間に区切りをつけよう。

 

 階段に足を向ける。

 さてと、今度こそ校舎の探索を始めようかな。

 

 




12/2追記 
桜との会話部分、最後辺り少し増やしました。
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