Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第十七話 DevOps

 アリーナに向かうために階段を下る。

 そして二階から一階へ下りようとしたとき、視界の端に紫色が写った。

 

「え?」

 

 ランサーが姿を現したのかと思ったが、あの色は違う。どちらかと言えば、私の髪色の方が近い。

 

 思わずそれを目で追えば、褐色肌を持つ女子生徒の後ろ姿が目に入った。

 月海原学園の制服ではなく、白い上着を羽織った少女。どこか不思議な雰囲気を纏っており、なぜか目が離せなかった。

 

「……なにか御用ですか?」

 

 そして、彼女はNPCではなくマスターの一人。

 私の視線に気づいたのだろう。髪色と同じ色の瞳で私を見ながら、静かに問いかけられる。

 だけど、その問いに対する答えを私は持っていない。ただ、目が惹かれただけなのだから。

 

「えーと……その、髪色が私と似ていたから、つい」

「そうですか」

 

 そうなんです、けど……。

 

 返す言葉が思い浮かばず、彼女も何も言わない。

 気まずい沈黙が彼女との間に流れる。

 

 思わず目を逸らしても、向こうはじっと私を見つめていた。

 このまま立ち去るのも気まずく、なんとか言葉を紡ぐ。

 

「わ、私はクレア・ヴィオレット。君は?」

「……私はラニ。あなたと同様、聖杯を手に入れる使命を負った者」

 

 使命って、私の場合そんな大それたものを持っているわけではないのだけれど……。

 

 ともかく、さっきまでの気まずい雰囲気は柔らかくなった。多少のやりにくさは残っているけど、これくらいなら別れを切り出しても問題はない。

 私が彼女を見つめてしまったのが原因だが、さっさと別れてしまおう。

 

 そう思って別れを切り出そうとした瞬間、彼女が先に口を開いた。

 

「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「え、私に?」

「? 他に、どなたかいらっしゃいますか?」

 

 それはいないけど、私と彼女は初対面。

 少なくとも、そんな相手になにか疑問を持たれるようなことはしていない。見られていたら別だけど、彼女を校舎で見かけたことはなかったし。

 だから、余計に疑問が浮かぶ。むしろなにかをやらかしてしまったのかと不安になった。

 

「あなたを照らす星を見ていました。他のマスターたちも同様に詠んだのですが……あなたはその中でも異質な存在」

「っ!?」

「では、改めて質問を─────あなたは、何なのですか?」

 

 何者ではなく、何なの、ときたか。

 今までも他のマスターとは違うと言われてきたが、まさか人外扱いをされるとは思わなかった。

 このくらいのことでと言われてしまえばそれまでだが、正直かなりのショックだ。本当は、気にしない方がいいんだろうに。

 

「悪いけど、私もそれを探してる途中なんだ」

 

 普通を装って質問に答える。

 私が何者なのかは少し思い出した。だけど、それは完全ではない。わからないことや不確定なことの方が、ずっと多いのだ。

 ましてや相手はマスターであり、生き残れば敵になるかもしれない存在。そんな相手に教えるわけにはいかない。

 万が一彼女に教えることになっても、それは自分に自信が持てるようになってからだ。

 

「嘘を言っているわけではないようですね」

「信じてくれたみたいで助かるよ」

 

 ここで疑われたら何も言えない。それを証明する手段は持ってないのだから。

 まあ、信じてくれたのだからいいだろう。それよりも、私も聞きたいことがある。

 

「私からも質問していいかな?」

「ええ、構いません」

「さっき星を見ていたって言っていたけど、それってどういう意味?」

 

 さっき聞いたとき、意味が分からなかったのだ。

 普通に聞けばちょっと危ない言葉だけど、彼女は魔術師。だから魔術に関係していることくらいは分かるが、それ以外は分からなかった。

 

「見ていた、というのは正確ではありません。私は星が語っていたのを伝えただけ」

 

 正直、よく分からない。

 ただ一つの単語が脳裏に浮かんだ。確か、占星術、だったか。

 詳細についてはよく知らないが、その単語だけは知っていた。違っていたとしても、似たようなものではあるだろう。

 

「私はもっと多くの星を観なければならない。ですので、協力を要請します」

「……はい?」

 

 急な提示に、変な声が出た。

 協力? 今の流れで、どうしてそうなった?

 

「あなたの対戦相手の星を観させてほしい。私は多くの星を知ることができ、あなたは有益な情報を得ることができる……どうでしょう。悪い条件ではないと思いますが」

 

 確かに、悪い条件ではない。

 彼女が求めているのは私の情報ではなく、私の対戦相手の情報。必然的に私の情報を渡す機会も多くなるが、そこは気をつけさえすれば問題ない。

 そして、私は彼女から無償で対戦相手の情報を得ることがある。

 そう考えれば、メリットの方が多いだろう。

 

 とはいえ、私の一存で決めるわけにはいかない。

 ランサーにも確認を取らないと。

 

(どう思う、ランサー)

(貴女の好きにしなさい……でも、そうね。彼女は信頼できるんじゃない?)

 

 は、と一瞬思考が停止する。

 すぐにどういうことか聞き返しても、もう彼女からの返答はない。答える気はないようだ。

 

 確かに、ラニは簡単に人を裏切るような人間ではないだろう。出会ったばかりだが、それは彼女の態度から感じられる。

 少なくとも、対戦相手になるまではいい協力関係を築くことができるはずだ。

 

 でも、未だ私に信頼を寄せてくれないランサーが、初対面のはずのラニを信頼している。

 そう受け取れる彼女の言葉が、想像以上に深く私の心を傷つけた。

 もちろん、ランサーにそんなつもりはないとは思う。思いたい。

 

「……うん、わかった。君に協力するよ、ラニ」

 

 自分でもわからない感情が渦巻く。

 なんとかそれを抑え、ラニへ答えを返した。

 

「それでは、なにか相手の遺物を見つけたら持ってきてください。私は二階の廊下の奥で待っています」

 

 そうすれば、星を観てくれるようだ。

 また、星を観るのにはちゃんとタイミングというものがあるらしい。ラニが言うには、今から五日後が適しているとか。

 それまでには遺物を見つけ、彼女に渡さなければならない。大変そうだが、その分見返りもある。なんとかして遺物を見つけなければ。

 

「それから、もう一人協力関係を築きたい方がいます」

「それ、誰か聞いても大丈夫?」

 

 もちろんだと、ラニは頷く。

 それから無機質な声色で紡がれた名前に、驚きを隠せなかった。

 

「滝波白乃という女子生徒です」

「……茶髪の?」

「ええ、茶髪の」

 

 思わず変な確認をしてしまったが、聞き間違いではなかったようだ。

 ……ああ、だから私に協力を仰ぎたい人間がいることを事前に伝えたのか。

 もしかしたら、彼女と協力関係を築くために私の名前を出そうとしているのかもしれない。

 

 どちらにせよ、白乃なら断らないだろう。ラニは悪い人間には見えないし、白乃はお人よしだし。向こうも情報を得たいだろうからね。

 私としても、白乃が協力者になるのは大歓迎だ。

 

「なにか手伝えることがあるなら言って。なんだったら、私からも言っておくけど」

「……では、反応が乏しければお願いします」

「わかった」

 

 最後にラニは微笑んで、ごきげんようと去って行ってしまった。

 私もその背に別れの言葉を告げる。

 

 最後の最後まで、不思議な少女だった。

 表情や声からは感情が感じ取り辛く、最後の微笑みにもあまり感情が乗っていなかったように思える。

 彼女は一体、どんな人間なんだろう。今度、色々と聞いてみようかな。

 

「っと、なんだ?」

 

 ラニについて考えている最中、唐突に端末から音が鳴り出した。

 さっきしまったばかりの端末を再び取り出し、画面を確認する。どうやら、新しいメールが届いたようだ。

 

第一暗号鍵(プライマリトリガー)を生成。第一層にて取得されたし』

 

 丁度いいタイミングでトリガー生成の通知が来た。これでアリーナに入ることができる。

 すぐに向かえば矢上と鉢合わせすることになるだろうが、それも好都合。むしろ、先に行ってアリーナの構造を把握しておくのもいいかもしれない。

 

 

*

 

 

 アリーナの様子は、一回戦の第一層とそう違いはなかった。違うところは壁の色と構造ぐらいなものだろう。

 雰囲気も、深海のような暗さも全く一緒だ。

 周囲を見渡し、そして頭を抱える。ここには前回の第二層のように、身を隠す障害物になりそうなものがない。敵を観察しようにも、これではすぐに見つかってしまうだろう。

 

 うーん、何もなくても身が隠せるよう、姿を消すようなコードキャストを見つけた方がいいのだろうか。もしくは、視覚と聴覚強化とかでもいいかもしれない。

 そんなコードキャストが実在するかどうかはともかく、何かしらの対策は取っておいた方がいいだろう。

 

 とりあえずそれは後に考えるとして、今はアリーナを進んでいこう。

 幸い、まだ矢上たちはきていないようだ。

 

 そして出入り口のある部屋から出て数分。早速分かれ道に出会ってしまった。

 どっちの道に行こうかと考え、壁の先を確認する。見た感じ、曲がった方が正解だろう。

 

 でも、

 

「一応、あっちも確認しておこうか」

 

 なにかあれば御の字、というやつだ。

 どこか不満げなランサーを説得し、真っ直ぐ続く道に行く。

 

 不機嫌なランサーの顔を見上げながら、効率の悪い行動が嫌いなんだろうと推測する。

 今までも無駄な行動にはあまりいい顔はしていなかった。中には愉しんでいるような反応もあったけど、それは私が不利益を被ったときだけ。人の不幸で飯がうまい、とかいうやつだ、多分。

 

「…………なに?」

「いや、なんでもないよ」

 

 ランサーと共に過ごし初めて、はや一週間とちょっと。少しずつだが彼女のことを知ることができている気がする。表面的なことだけかもしれないが、いいことだ。

 でも、できたらもっと深いことも知りたい……ラニに対する評価のこととか。

 

 ……まあ、それができたら苦労しない。

 親しくもない相手に自分のことを探られて、いい気分になる人間はまずいない。私だって嫌だ。

 しかも相手はランサー。しつこくそんなことをしたら、すぐにあの踵が襲い掛かってくるだろう。

 ならどうするべきか。自力で調べる、地道に交流を深める。今できるのはこれくらいだろうけど、なんとか別の、できればすぐにでも仲良くなれるような方法は……やっぱりないか。

 

「……敵だ」

 

 少し離れた先に、第一回戦でもいたキューブ型のエネミーが見えた。色合いは違うが、見た目も動きも一緒だ。

 先程まで考えていたことは頭から追い出す。今は目の前のことを集中しよう。

 

「よし、じゃあいつも通り」

「様子見でしょう? わかっているわ」

 

 流石に一週間も共に戦っていると、一戦目は私がどうしたいのか理解してくれている。

 とはいえ、ランサーにとっては非常にめんどくさいやり方だ。勝てるだろう相手に、わざわざ防衛に徹してくれている。ストレスも溜まるだろう。

 さっさとパターンを把握して、自由に戦えるようにしよう。彼女を無闇に縛るようなことはしたくない。

 

「ありがとう、ランサー」

 

 楽しそうに踊る彼女は、とても綺麗だから。

 

 幸いにも、キューブ型の敵の行動は一回戦のときと大きな違いはなかった。大振りの攻撃を中心とする攻撃パターン。いくつか初めて見る行動もあったが、傾向は変わらない。

 しかし、前回よりも戦うのが難しくなったのは確かだ。攻撃パターンは増えて読み辛いし、体力や威力も増加している。

 

 攻撃パターンについては、相手が動いてからでもなんとかなる。ランサーの素早さが敵より上回っているからだ。サーヴァント相手には中々通用しないだろう手だが、エネミー相手には十分通用する。

 むしろ、今心配なのは体力と攻撃力の増加の方だ。ステータスのせいもあって、ランサーは攻撃力も防御力もあまりない。

 攻撃力がないと無駄に戦闘が長引いてしまうし、防御力は言わずもがな。

 とはいえ、こればかりは仕方がないとも思っている。ランサーの戦い方はスピードを活かしたものだというのは、前回の戦いで十分に理解した。だからこそ、彼女は筋力と耐久には固執していない。もしかしたら、元々低いステータスだったのかも。

 でも、だからと言ってそのままではいけないだろうし……悩ましいところである。

 

「大分奥まで来たね」

 

 そんなことを考えていても、アリーナ攻略は着々と進んでいた。

 ここまで来るのに出会った敵の攻撃パターンの傾向が、一階層のときと左程変わっていなかったお陰だろう。パターン把握にそこまで時間をかけずに済んだ。

 

 だけど、それもここまで。

 目の前に広がる大きなフロア。そこを徘徊している、見たこともないエネミー。

 しかもそれが数体。下手をすれば、多数の敵を同時に相手することになる。

 怪我無く進むことを考えると、慎重に一体ずつ倒していくのが妥当なところか。

 

「でも、そんな暇はなさそうよ」

 

 ランサーは、後ろを振り返りながらそう言った。

 背後を見つめる鋭い目は、警戒と共に楽しそうな色を灯している。

 私もランサーに倣って後ろを見てみるけど、そこには何もない。

 

 一体何を感じ取ったのか聞こうと口を開き、けれどその問いは口から出る前に意味を失くした。

 アリーナの雰囲気が一変したからだ。この空気感も、一回戦で散々体験している。

 

「来たみたいだけど、どうするの?」

 

 襲撃、奇襲、監視。パッと思いつく限りの候補を脳裏に浮かべる。

 そこから今できることを考えると、選択肢は大分少ない。

 

「情報を得るのが最優先だ。接触は避けられないだろうね」

 

 改めて周囲を見渡しても、身を隠せそうな場所はない。今までの道のりにもそんな場所はなかった。

 罠とかを仕掛けられたらいいのだろうけど、残念ながら私にそんな技術はない。

 リスクはあるけど、戦闘を仕掛けるのが一番楽で手っ取り早い方法だ。

 相手がアサシンで無い限り、透明な壁で囲まれたアリーナでの奇襲は難しいだろうし。

 

「……よし、戻ろう」

 

 まずは一回戦って、戦力差や戦い方を少しでも把握しておこう。

 今やれることは、きっとそれくらいだから。




区切るところがわからなかったのでとりあえずここまで!

2018年最後の投稿となります。
最初の一週間更新からどんどん遠ざかっていますが……なんとか更新できていて少し安心です。
来年はもう少し早い投稿を目指して……

ともかく、今年一年ありがとうございました。
来年もぜひ拙作を読んでいただけると嬉しいです!
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