Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
二日目。朝の日常を終えた後、ランサーの要望で教会にやってきた。
一回戦で倒したアーチャーと昨日倒したエネミーの分の改竄をするためだ。
本当なら、アーチャーの分だけでも昨日のうちにするべきだったのだが、すっかり忘れていた。次からは気を付けようと心に刻む。
教会の中は、相変わらず荘厳な雰囲気に包まれていた。この雰囲気ばかりは、何度来ても慣れない気がする。
「おっ、君も勝ち上がっていたんだね。中々こないから、てっきり負けたかと思ってたよ」
私に気づいた青子さんが、朗らかに笑いながらそんなことを言った。負けたかと思ったとは、決して笑いながら言うことではないと思うけど……。
言葉と表情のギャップに思わず苦笑いがこぼれる。
ちなみに、橙子さんはチラリとこちらを見ただけですぐに元の作業に戻っていた。
「やっぱり、初日に来る人が多いんですか?」
「そりゃあそうよ。一回戦でサーヴァントを倒しているんだから」
曰く、サーヴァントを倒したときに得られるリソースはアリーナのエネミーとは比べ物にならないらしい。
思いついてはいたが、やっぱり専門家ともいえる彼女から聞くと、その信頼感は大分違った。
「位階も大幅に上がっただろうし、その分の強化はしなくちゃ、勝てる戦いにも勝てないわ。というか、今回初日に来なかったのは君だけよ」
「つ、次からは気を付けます……」
昨日の出来事を思い出す。
もし忘れずに改竄を施していれば、ランサーは一人でもあそこまで苦戦することはなかったかもしれない。
たった一つの些細なことが、戦闘では大きな影響を及ぼす。それもちゃんと頭に入れておかないければ。
「さて、本題に入りましょうか。今日のご要望は?」
「ああ、それなら……」
今日お願いする改竄の要望を伝えると、青子さんはすぐに作業に取り掛かった。
私はすでに定位置となった椅子に腰かけ、端末でランサーのマトリクスを確認する。
ステータスが変わっているくらいで、追加された項目は一つもない。
彼女の加虐性と痛みへの無関心さに関する記述が増えていると思っていたのだけど……やはり、そう簡単にはいかないようだ。
というか、このマトリクスに追加される基準って何なんだろう。実際に目で確認できたあの二つに関しての記述はないくせに、一回も見たことのないスキル、騎乗については最初から記載されていた。
その違いが分かれば、彼女に近づく一歩にもなりそうなんだけど……。
「あ」
ステータスが更新される。
耐久がEからDへ。他の上昇はない。ただ、うまく行けば二回戦の間には敏捷がC+になりそうだと思った。
ランサーが戻ってくる。現在のステータスを見せれば、考えるように顎に手を当てた。
「耐久と魔力がD。敏捷がD+、ね……」
「幸運と筋力はEのまんまだね。結構均等に分けてると思うんだけど」
「ああ、その二つならそろそろ上がると思うわよ。そうね……少なく見積もっても、エネミー十体分くらいじゃないかしら」
「……結構多いですね」
他も上げたいと思うと相当な量だ。
でも、二つで十体なら一つ五体。どちらかを後回しにすれば、片方は近いうちにDに上昇するはず。もちろん、この二つをとりあえずDにするのもありだ。
「どうする?」
「最悪、筋力はEのままでもいいわ。幸運を優先させましょう」
「え?」
てっきり筋力を優先させるものだと思っていたから、変な声が出た。
幸運の効果がよくわからないというのもあるけど、筋力なら単純な攻撃力に繋がる、と思う。それはランサーの戦い方でも変わらない。
でも、そっか。ランサーは幸運を優先させたいのか。
ことごとく真逆のことを考えてるんだな、私たち。
「理由を聞いてもいい?」
「貴女と契約する前から、筋力のステータスはEだったのよ。それなら、幸運を優先した方がいいでしょう?」
「なるほど」
彼女は自分の平均ステータスを知っているのだろう。それでも筋力はEだったと。
そういうことならば、幸運を優先するのも納得できる。
「ちなみに、他のステータスはどんな感じだったの?」
「左からE、C、A+、A、B、だったかしら」
「そ、そっか……」
今と比べるとまさに月とすっぽんだ。
流石に戦い方は変わらないんだろうけど、やっぱり早さは今と段違いなんだろう。今でも十分に速いのに、それ以上と思うと全然想像がつかない。
彼女の本来の力がどれほどなのか、よくわからなくなってしまった。
それは正直恐ろしいけど、同時にとても頼りに思う。
「へえ、あなた、自分のステータスを把握してるのね」
「え?」
ランサーの本来の力に考えを寄せていると、唐突に青子さんが会話に入ってきた。
恐らく今までの会話を聞いていたのだ。とても興味深そうな目線でランサーを観察している。
「え、っと……本当なら知らないものなんですか?」
「さあ、私はそこまで詳しいわけじゃないし……でも、生前に自分のステータスを知っているわけないでしょう? そういう話は聞いたこともなかったから、珍しいのかなと思ってね」
そりゃあそうだ。
生きてるときは、まさか自分の力にゲームのような値を振られるとは思いもしないだろう。
私はサーヴァントなら自分の平均ステータスを把握しているのだと思った。だけど、青子さんはそんなことを聞いたことはないと言う。
一度疑問を抱いてしまえば、さっきのランサーの発言もおかしかったように思えてしまった。
私と契約する前のステータスってなんだ。
彼女はそれを、一体どこで知ったんだろう。
いつもの考えすぎなだけかもしれない。
でも、だけど、もしかしたら。
「君は、他の誰かと契約を結んだことがあるの……?」
なぜか、不安そうな声色をしていた。
自分でもどうしてそんな声が出たのかわからない。
ランサーは、いつもと変わらない口調で答える。
「その問いに答える義理はあって?」
「それは……」
そんなものはない。
彼女が以前に誰かと契約を結んでいたとして、今は関係ないことだ。
だけど、どうしてだろう。なんで、こんな……。
「……ううん、大丈夫。変なこと聞いてごめん」
この感情はよくわからない、知らない。なぜだかもやもやする。
なんか、やだな。
「あー、変なこと言っちゃったかな。ごめんね」
「いえ、気にしないでください」
気まずそうにする青子さんに笑みを浮かべる。
彼女に悪気があったわけではない。ただ、疑問に思ったことを口にしただけだ。
こんな気持ちになる私が悪いだけで、青子さんは何も悪くない。
ただ、これ以上ここにいるのはこちらも気まずい。今日はこの辺りで失礼させてもらおう。
思えば、今日は随分ここに居座ってしまった。
ラニに用事もあるし、早く行かなければ。
「今日もありがとうございました。またよろしくお願いします」
最後に頭を下げて、青子さんに背を向ける。
胸に残るもやもやは、今は気にしないことにした。
*
ラニは、昨日彼女自身が言っていたように三階の廊下の奥にいた。
窓から外の空を見上げる姿は、少々近寄りがたい雰囲気を纏っているように見える。
とはいえ、話しかけないという選択肢はない。彼女には用があってきたわけだし。
でも、なんて話しかけるのが一番なんだろう。
友達に話しかけるみたいに気軽な感じでいいかな。白乃以外に友達と言える友達がいないから、少し困ってしまう。
変に緊張する気持ちを抑えつつ、とりあえず名前を読んでみることにした。
「ラニ、今大丈夫かな?」
「おや、ヴィオレットさん。私に何か用でしょうか」
淡々とした様子で、すぐに要件に入る。
世間話をする気はないようだ。
少し残念なような、むしろ緊張せずに済むというか……人と話すのは難しい。
「実は、コードキャストについて聞きたいことがあって」
変に話を変えるのも気が引けて、昨日あったことを説明した。
今回聞きたいのは、実際にトラップ型のコードキャストがあるのか。あったとして、その対策はなんなのか、だ。
「アリーナと同化するトラップ型のコードキャストですか……はい、確かにそのようなコードキャストは存在します」
魔術師の間ではそうマイナーなコードキャストではないらしい。むしろ、種類も多くよくある類なのだとか。
ならば、何かしらの対策があるはずだ。それを教えてもらおう。
「それは目視では確認できなかったのですね?」
「うん。違和感も感じなかったかな」
「でしたら、解析系のコードキャストはいかがでしょう。ものによっては、アリーナ全体の情報を見ることができるはずです」
「そんなものもあるの?」
今私が持っている解析のコードキャストは、視界に納めなければ効果が現れないものだ。それだけでも大分役に立っているというのに、まさかアリーナ全体を解析できるものがあるなんて、想像もしてなかった。
でも、ラニの言うものがあるならぜひ手に入れたい。
アリーナに入った瞬間になにがあるのか全てを把握できるし、もし構造までわかるなら探索も大分楽になるはずだ。
しかし、朝に一度購買へ行ってみたときには、そんな効果の礼装は売ってなかった。
つまり、今すぐに手に入れる手段はないということだ。
どうにかして手に入れるにしても、それまでの間の対策は考えないと。
「あ、購買で状態異常用の回復アイテムが売っていたけど、あれをマスターに使うことはできないの?」
「それは、考えたことはありませんでした」
ふと思い浮かんだのは、購買で新たに販売された『治療薬』という回復アイテム。
中々高価な値段がついていたが、効果は『猛毒、麻痺、呪いの解除』という幅広さ。
サーヴァントに使うものだと思っていたが、マスターにも使えるのなら、コードキャストを手に入れるまでの対策にはもってこいだ。
「申し訳ありません。私も試したことがないので、確かなことは……ただ、可能だとは思います」
「ううん、相談に乗ってくれただけでも助かったよ」
アイテムについては専門家、この場合は購買部のNPCか桜だろうか。その二人に聞いてみればいい。
少なくとも、対策の案が出てきただけで十分の収穫だ。
「そういえば、白乃とはもう会った?」
「はい。無事、協力関係を築くことができました」
「そっか、ならよかった」
素直にそう思った。
自分が協力している人物が友達と敵対するというのは、あまりいい気分ではない。
限りある関係だとしても、せめてもっと先のことであってほしいと、そう願う。
「よし、私はこれから購買に行くよ。さっきのことを聞いてみる」
「そうですか。では、今日はこれで」
「うん。またね、ラニ」
ラニと別れ、早速購買に向かう。
時刻はお昼過ぎ。人はまばらで、そこまで多くない。
これなら、購買前で時間を使っても迷惑にはならなそうだ。
「いらっしゃいませー。地獄の沙汰も金次第。月海原学園購買部です!!」
いつもと変わらない、元気で物騒な口文句。
毎度のことながら、少し怖いから何とかならないものか。
しかし、突っ込むのも野暮というもの。返事が返ってくるとも限らないし、いつも通り用事を済ませてしまおう。
「このアイテムなんだけど、マスター自身に使うことってできないかな」
「治療薬をですか?」
「うん」
「少々お待ちください。すぐに調べますね」
そう言って、部員さんは治療薬を手に取る。
傍から見ると何もしていないように見えるが、彼女の中では何かが起こっているんだろうか?
よくわからないが、待つこと数分。輝かしい笑顔と共に、質問の答えが返ってきた。
「はい! マスターに使っても問題はありません。ただ、サーヴァント用に調整されたものではありますので、効果が薄くなる可能性があります」
つまり、マスターに使う場合は全快は補償しないということか。
まあ、少しでも効果があるなら問題ない。
いつ毒を使う敵と出会うかもわからないし、多めに買っておこう。
ついでに他のアイテムも補充すれば、中々大きな出費になってしまった。
出し惜しみをするつもりはないが、ある程度は節約しないといけないかな、これは。
「校舎でできるのはこれくらいかな?」
『そうね。さっさとアリーナに行きましょう』
やり残したことはないことを確認し、食堂を出る。
アリーナへ向かうため一階に上がれば、見慣れた二人の姿が目に入った。
藤村先生と白乃だ。一体、何を話しているんだろう。
「あっ、ヴィオレットさん! あなたもいいところに来たわね!」
あ、なんか嫌な予感。
「実は、ちょっと大変なことが起きたの。先生のお願い、聞いてくれない?」
これ、一回戦のときと同じパターンだ。
目線だけを白乃に向けてみれば、彼女は少し困ったように笑みを浮かべていた。
多分、先生から何かを頼まれていた最中だったんだ。
そこにタイミングよく私が現れて捕まった、と。
いや、別に迷惑なわけではないからいいんだけど、どうしてこうも先生の周りでは何かしらのハプニングが起きてるんだろう。不思議だ。
「あのね、知り合いからもらった柿が手違いで誰かのアリーナに転送されちゃったのよ。誰のアリーナに送られたかわからないから、みんなに声を掛けているんだけど」
「私たちにも探してほしい、と?」
「そう! 話が早いわね!」
内容は、前回とはそう変わらないものだった。おにぎりが柿になったくらい。
ああ、でもあるかないかはわからないようだし、アリーナ全体を探さないといけないかも。
……いや、結局それもいつものことか。
「たぶん、二日もしたらエラーとして消去されちゃうだろうから、その前に回収お願いね」
「はい、わかりました」
白乃の返事を聞いた先生は、そのまま他の生徒に向かって歩いて行った。
きっと柿を探すようお願いしに行ったんだと思う。
「今度は柿かぁ……」
「今度はって、白乃も他に頼まれてたの?」
「え、そう言うクレアも?」
お互い目を合わせ、沈黙。
それから、もう一度他の生徒と話す藤村先生に目を向ける。
あの嘘だったはずの日常のときと変わらず、笑顔で生徒に接している。それがマスター相手であっても、NPC相手であっても変わらない。
「なんか、先生らしいね」
「ほんとにね」
あの人はどこにいても変わらないんだなと、なぜかそんな確信が持てた。
NPCだからなのかもしれない。それでも、彼女の存在は平和な日常を感じられて、なぜか少し安心する。
「お互い、頑張ろうか」
「だね」
あの人とは元気な姿で会いたいと思うのは、きっと間違いじゃない。
だからそのためにも、まずはトリガーを手に入れよう。
まだ、戦いは始まったばかりだ。
気が付いたらもう一カ月……時間が経つのは早いですね。
復刻CCCコラボも始まりましたね。EXTRA、CCCを知るきっかけとなったストーリーなので、じっくりやりかえしたいなと思いながら全然やってません。流石にそろそろ始めないとなぁ。
ちなみにプロテアは爆死した