Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第二十一話 security

 いつも通りの朝がやって来た。

 窓から差し込んでくる光に眩しさを覚えながらも、重い体を起こし目を擦る。

 昨日夜更かしをしたせいか、いつもより寝足りない気がする。でもまあ、支障が出るほどではない。

 

「ふ、わぁ……」

 

 さて、今日はどうしよう。

 今の情報程度では、図書室で調べてもいい情報は得られないだろう。後世に伝わっている容姿が間違っている可能性は高いのだから。

 前回の敵、巴御前の容姿を考えたら特にそう思う。彼女も見た目だけなら日本人には見えなかった。

 

 アイテムの補充も必要ない。

 改竄も昨日の今日だ。行く意味はないだろう。

 となると、やることはラニへの相談と、藤村先生へ柿がなかったことの報告ぐらいか。

 今日は早めにアリーナへ行くことになりそうだ。

 

「おはよう、クレア。朝に会うのは珍しいね」

「あ、おはよう白乃」

 

 食堂で並んでいると、後ろから白乃がやってきた。

 どうやら、彼女もこれから朝食らしい。こうやって朝に会うのは、聖杯戦争が始まってからは初めてだ。

 

「いつもこの時間に食べてるの?」

「そうだね、大体この時間かな。白乃も?」

「ううん、私は購買で買ってマイルームで食べる方が多いよ。その方が楽だし」

 

 ああ、だから朝は会わなかったのか。

 しかし今日は食堂で食べたい気分らしい。折角だし、一緒に食べることにした。

 特に話題はなかったけど、白乃との会話はとても楽しかった。いつもは一人寂しい朝食も、今日は美味しく食べられた気がする。

 

 白乃のお陰で眠気も覚めたし、やる気も出た。

 今日も一日頑張るとしよう。

 

 早速、今日の目的を果たすためラニに会いに三階へ向かう。

 階段を上って左へ。廊下の奥で、彼女は窓の外を見ている……と思っていた。

 

「あれ、いない」

 

 いつもの場所に、ラニはいなかった。

 軽く周囲を見渡してみても、その姿は見当たらない。

 

「うーん、早すぎたかなぁ……」

 

 思えば、彼女に会いにここに来るのは、いつも昼を過ぎてからだった。

 今はまだ朝の九時過ぎ。いつも会う時間よりも大分早い。

 それに、ラニにも自分の準備があるはずだ。ずっとここにいるわけはない。

 そのことをすっかり忘れていた。また、昼を過ぎてから会いにこよう。

 

 となると、やるべきことは一つ。藤村先生からの依頼の報告だ。

 しかし、藤村先生も見つからないことがあるからなぁ……校舎を巡ってみて、見つからなかったら図書室で時間を潰そう。なにもしないよりは、知識を蓄えておいた方がいい。

 

「あ、いたいた。藤村先生!」

 

 そう思っていたのもつかの間。一階に降りてみれば、すぐに藤村先生の姿を見つけられた。

 特に誰かと話してる様子もない。どうやら今は一人のようだ。

 

「あらヴィオレットさん。どうしたの?」

「実は、この前の頼まれ事なんですけど」

「見つかったの!?」

「っい、いえ……その、見つからなくてですね……」

 

 言葉を遮られ送られた期待の眼差しに、ちょっとした罪悪感が湧き上がる。

 誤魔化したい気持ちになりながらも、正直にアリーナにはなかったことを話した。

 

「そっかー、なかったならしょうがないわね! 探してくれてありがとう、ヴィオレットさん」

 

 先生は少し落ち込んだものの、すぐに笑顔を浮かべ、いつものように振る舞った。

 落ち込んで見えたのも気のせいだったと感じるくらい、いつも通りの元気な笑顔だった。

 きっと、先生はあまり気にしてはいないんだろう。白乃にも頼んでいたし、他の生徒にも頼みに行っていたから。引き受けてくれた誰かが見つけるだろうと信じている。

 それなら、これ以上私が謝っても、きっと困らせてしまうだけだ。

 

「またなにかあれば言ってください。できることなら手伝いますので」

「あら、いいの? 助かるわ!」

 

 またなにかがあれば手伝うと約束を交わし、先生と別れた。

 

 これで一つ目の用事は済んだ。あとは、ラニに相談をしたいんだけど……。

 端末を取り出し、時間を確認する。そこそこ話し込んだと思ったが、そうでもなかったらしい。時計はまだ昼前を示していた。

 

 なんの対策もせずにアリーナに行くわけにはいかない。もう一度、ラニがいないか確認しよう。いなければ、今度こそ図書室に行けばいい。

 再び階段を上がり、三階へ。そして廊下の先は、変わらず無人。

 

「うん、図書室に行こうか」

 

 そういうわけで、そのまま図書室へやってきた。

 改めて、今回の敵について分かっていることを思い返す。

 

 クラスはセイバーで、武器は剣と盾。容姿は腰まである長い赤毛に碧い瞳。服は白を基調とした軽装だったから、そこから時代や国を推測するのは難しそうだった。

 この程度の情報で調べるとなると、容姿か戦闘スタイルに注目した調べ方しかないだろう。とはいえ、伝わっていることが間違ってないとは言い切れない。

 今回は候補を上げる程度に留めておこう。

 まずは容姿、目立つのはあの真っ赤な髪だろうか。それで有名な人物を調べよう。

 

 ……でも、この莫大な本の中から赤毛の人物だけの情報を探すのは流石に手間がかかる。片っ端から見るのは時間の無駄だし、パソコンみたいに特定のワードだけで抜粋できないものか。

 

「え、できますよ」

「できるんだ」

 

 ずっと図書室で見かけるNPC、名前は『間目智識』というらしい。すごい名前だ。その子に聞いてみたところ、帰ってきた答えはあっけないものだった。

 彼女は慣れた様子で画面を投影し、使い方を教えてくれる。

 操作は簡単だった。というかキーワードを入力して検索するだけだし、面倒なことは何一つない。今後は積極的に使っていくとしよう。

 

 間目さんにお礼を言い、画面の操作権をそのまま譲ってもらう。

 まずは簡潔に、『赤毛』とだけ打って検索をかけてみる。

 

「赤毛で有名な人はあまりいないみたいだね」

 

 ランサーがのぞき込んでくるのを気配で感じ、少し頭をずらす。

 恐らく、後ろから覗き込んでいるのだろう。すぐ近くで相槌を打つような声が聞こえてきた。

 

 一番に出てきたのは、エイリークという人物だ。この人は『赤毛のエイリーク』という通称があるくらいに有名らしい。

 とはいえ、この人物は男として伝わっている。まあ性別は間違って伝わっていることもあるようだし、覚えておいても損はないだろう。

 

 それから、私でも知っているキリストを裏切ったことで有名なユダとか、人類最初の殺人者と言われているカイン。それから、イギリスの女王ブーディカ。

 パッと目に付くのはこれくらいだ。想像以上に人数が少ない。

 この程度の人数なら、軽く調べることもできそうだ。

 

 お昼まで大体あと一時間。どれくらい進められるかな。

 

 *

 

 図書室に籠り、少し空腹感を覚えてきた頃。

 一度食堂で昼食を取り、再び三階へと戻ってきた。

 

「いたいた」

 

 廊下の奥のいつもの位置。そこにラニが立っていた。

 やっぱり、お昼を過ぎてからあそこにいるようにしているんだ。これからはこの時間帯に来るようにしよう。

 

「こんにちは、ラニ。今日も相談していいかな」

「ごきげんよう、ヴィオレットさん。ええ、もちろん構いません」

 

 まずは、この前相談したことについてのお礼を改めて伝えた。

 それから、軽い報告も。前回、ラニは購買のアイテムがマスターに効果があるのかは分からないと言っていた。だから、多少とはいえ効果があることを伝えておこうと思っていたのだ。

 

 その報告も終わり、本題へと入る。

 アリーナで手にいれた、矢上のコードキャストのプログラムについてだ。

 周囲に人影も気配もないことを確認し、端末の画面にコピーしたデータを映す。

 

「これ、この前話したコードキャストのプログラムなんだけど……なにかに活用できないかなと思って。いい案はないかな」

「そうですね……」

 

 ラニは顎に手を当て、考え込むように目線を少し下げた。

 沈黙が訪れて数分。流石にそう簡単に案が浮かぶわけがなく、彼女はまだ何か考えているようだった。

 私も活用方法を頭の片隅で考えながら、ラニの反応が返ってくるのを待つ。

 

「……このデータを基に、設置されている場所が分かるプログラムなら作れるかもしれません」

「っ本当!?」

 

 ラニが提案してくれた案は、今後とても役に立つものだった。

 それがあれば広範囲を解析できるコードキャストは必要ないし、無駄に警戒する必要もなくなる。

 そう簡単に作れるものではないだろうけど、テンプレのようなものができれば他にも応用が利きそうだ。

 

「すごいよラニ! 流石だよ!」

「そうでしょうか」

「うん!」

「そう、ですか……あの、近いです……」

「うん?」

 

 想像もしてなかった発想にテンションが上がり、私はラニの手を取って顔を近づけていた。

 確かに近いけど、そんなにも狼狽えることだろうか。

 

 いや、そういえばこの前も白乃にパーソナルスペースが近いって言われたな。

 そんなことはないと思っているけど、なんだか迷惑そうだし、離れよう。

 

「ごほんっ。それで、そのプログラムの作成なんですが、お手伝いいたしましょうか?」

「え、いいの?」

 

 願ってもない提案に、思わず聞き返してしまった。

 だって、ラニはマスターだ。聖杯を手に入れるために、この聖杯戦争に参加している。

 何度か相談に乗ってもらっておいてあれだが、そこまでする必要はない。

 

「はい。あなたには……いえ、あなた方には他のマスターとはちがう星を見ましたから」

 

 その言葉の意図は、残念ながら分からない。

 ただ、ラニにはラニの理由があって手助けをしてくれるようだ。なら、その言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 

「いつもありがとう、ラニ。君もなにかあったら言ってね。私にできることならなんでも手伝うからさ」

「相手の遺物を持ってきてくだされば、私はそれで構いません」

「もちろん、それは持ってくるよ」

 

 それ以外であったら、の話だ。

 散々相談に乗ってもらって、さらには一緒にプログラムを組んでくれるというのだ。なにかお返ししたいと思うのは当然だ。

 とりあえず、プログラムの作成が終わったら、なにかデザートでも奢らせてもらおう。

 

 *

 

 ラニとのプログラム作成は、想像以上に順調に進んだ。

 あのコードキャストの設置位置が端末の地図に表示されるよう、プログラムを改竄するようだ。

 端末情報の改竄なんてしてもいいのかと思ったが、彼女曰く、ムーンセルが不正と判断しない範囲だったら大丈夫らしい。その範囲がいまいち分からないが、まあ一回戦でアリーナの入り口が封鎖されてもペナルティはなかったみたいだし、意外と緩いのかもしれない。

 

 閑話休題。

 ラニの指導の下、無事にプログラムは完成した。

 あとは実際に使ってみないと分からない。今日か明日か、ちゃんと使えるのか確かめておこう。

 ちなみにデザートは断られた。お礼として渡すには安直すぎたらしい、反省だ。

 

 ラニとは別れ、アリーナへと足を踏み入れる。

 作成は順調に進んだとはいえ、やはりそれなりの時間はかかった。今日はここに早めにこれると思っていたが、むしろいつもよりも遅い時間になってしまった。

 矢上の気配もないし、きっともう探索をし終えたんだろう。

 

 先ほど作った地図も確認してみるけれど、反応はない。

 プログラム自体間違っているのか、それとも矢上がいないからコードキャスト自体消えてしまったのか。後者だと助かるのだけど、今は判断することはできない。

 とりあえず、これはまた明日確認しよう。

 

 今日の目的はリソース集めと記憶探しの二つだ。

 記憶は奥の方にあるようだし、その道中のエネミーを倒していれば、今回の目的は果たせるだろう。

 もう歩き慣れた道を、奥へ奥へと進んでいく。

 

 中間地点の大きなフロアに来てしまえば、あとは簡単だ。

 出口までは一方道。横へ続く道も複雑ではないから、記憶があるだろう位置もわかりやすい。

 

 複数ある分かれ道の一つに、迷うことなく入っていく。

 数分もしないうちに行き止まりへと行き着き、私たちはそこで立ち止まった。

  

「ここ?」

「うん。ほら、昨日はなかった隠し通路ができてる」

 

 壁に手を伸ばせば、ぶつかることなく通り抜けた。昨日確認したときは、ここには隠し通路なんてなかったはずなのに。

 まあ、いつものことだ。今までなかったところにある隠し通路。そして、この奥から感じる懐かしい気配。

 この奥に私の記憶があることに間違いはない。

 

 ランサーと共に、新たにできた通路を進んでいく。

 そして、これまたいつもの壁へとたどり着いた。

 

 後ろを振り返る。

 ランサーは既に壁へ寄りかかっており、今回は視線を向けてもくれなかった。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 それは少し寂しかったけど、一言をかけてから壁の先を目指す。

 

 いつも通り奥へと進んでいると、少しずつ不安な気持ちが湧き上がってきた。 

 記憶を取り戻すことが怖いからではない。もちろん、その不安がないわけではないけど。

 今こうして沸き上がる不安は、恐怖ではなく心細さからくるものだ。

 一人でいるのが、なぜだか無性に寂しく感じる。

 

「ド■■ンっ、リ■■ダモ■っ!」

 

 気がつけば、私は深い森の中を歩いていた。

 だけど、そんなことはあまり気にならない。今はただ、胸を締め付ける寂しさをなくしたかった。

 

「■ーサ■■ン!」

 

 周囲を見渡しながら、信頼する彼らの名前を呼ぶ。

 でも、答えてくれるものがここにはいない。その影すら、見つけることはできない。

 

「─────────っランサー……!」

 

 ここまで守ってくれた彼女も、答えてはくれなかった。

 

 当たり前だ。ランサーは壁に阻まれてここにはこれない。

 そんなことは分かっている、はずなのに。

 どうして私は、彼女のことを呼んだりなんかしたんだろう。

 

「っ!?」

 

 ふいに、すぐ後ろから何かが草を踏む音がした。

 慌てて振り返りながら距離を取る。けれど、そこにはなにもない。

 

 ……いや、違う。

 

「き、みは……」

 

 視線を下げれば、そこにはまだ幼いデジ■ンがいた。

 そして、その子は私が探しているものを持っていて……。

 

「……もしかして、くれるの?」

 

 まるで差し出すように、欠片を私に近づけた。

 怖がらせないように疑問を問いかければ、その子は笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「ありがとう、えと……ユキ■■タ■■」

 

 小さな頭を優しく撫でる。

 確か、この子はまだ生まれたばかりで、こうされるのが好きだった。もう大分昔のことなのに、案外覚えているものだな。

 

「……さあ、私はそろそろ行かないと」

 

 頃合いを見て、撫でていた頭から手を離す。

 ユキ■■タ■■はまだ撫でられ足りないのか、不満気な表情を浮かべている。しかし、どこからか聞こえた声に反応し、森の中に消えて行ってしまった。

 

 あの声は確か、あの子の保護者のものだったはず。

 ああ、なんだかとても懐かしい。

 

 いや、でも彼らと出会ってから随分と時間が経った。

 この記憶は、私がまだ幼い頃のもの。懐かしいと思うのも、当たり前だ。

 

「そういえば」

 

 あの子とその保護者は、確か一緒に暮らしていたはず。あれから会った覚えはまだないが、今でも仲良く一緒に暮らしているんだろうか。

 そうであれば嬉しい。彼らは、まるで本当の親子のように仲がよかったから。

 そのまま、二人で幸せに暮らしていてほしい。

 

 

 ─────────決して、私のようにはならないで。

 

 

 





平成最後というわけで、無事投稿できました。

次の投稿になる5月には既に年号も変わっていますね。ちゃんと慣れるかなぁ。

まあそれはともかく、拙作「Fate/Digital traveller」はまだまだ続きます。令和でも、どうかよろしくお願いします!
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