Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第二十五話 solution

 あのあと、自分でもよく分からない感情を抱えながらトリガーを目指したが、その道中は散々なものだった。

 集中できていないせいでエネミーの発見が遅れるわ、礼装の変更をしてなかったせいで『shock(16)(電撃)』が使えないわ。普段なら絶対にしないだろうと思うようなミスばかり。

 ランサーはランサーで、そんな私を見て嗤っていたし。本当に最悪だ……。

 

 なんとかトリガーを手に入れたが、校舎に戻った時点でもう心はボロボロ。正直マイルームで不貞寝したい気持ちも湧き出ていたが、食堂で白乃が待っている。そう思うと、食堂に行く程度なら、と頑張れた。

 

 そして頑張った結果、いつも通りの白乃との食事でいつも以上に癒された。やっぱり日常の力はすごい。

 他にも、朗らかに笑って今日のことを話す姿は元気そうで、案外それだけで安心できていたのかもしれない。でも、真っ直ぐ私を見る茶色い瞳が、一番私の心を癒してくれた気がする。

 

 不愉快な感情も解消され、マイルームでぐっすり休む。

 そして五日目。ラニとの約束の日になった。

 

「………………やばい」

 

 やらかしたと気づいたときには、もう遅かった。

 なんてことをしたんだという後悔が波の様に襲い掛かる。やらかすにしても、やらかしすぎだ。

 まさか、ランサーが頑張って切り裂いてくれた遺物を回収し忘れるなんて……。

 

 いくらなんでもない。本当にない。謝って済むことじゃない。

 こればっかりは蹴り殺されても文句は言えない、言えるはずがない。いや、むしろこれは蹴り殺されるべきなのでは……?

 

「っぷ、あはっ、あははははははははは!! いつ気づくかと思ったけど、まさか今日になるまで気づかないなんて!」

「え……」

 

 混乱する私を現実に引き戻したのは、ランサーの大きな笑い声だった。今までで一番大きな笑い声をあげ、腹を抱えるほど笑っている。

 でも、残念ながら私は何一つ状況を理解することはできなかった。

 

「え、え……? どういう、こと?」

「はぁ笑った。ほら、両手を出してみなさい」

 

 何も分からない私は、ただ言われたことを行動するしかない。

 恐る恐る両手を差し出してみれば、ランサーが軽く腕を振るう。すると、突然手のひらの上になにかが現れた。

 

「…………は?」

 

 それは、赤い髪だった。長いそれは一つに綺麗にまとめられていて、手から零れ落ちることはない。

 これは、まさか……。

 

「あいつの髪よ。貴女の代わりに回収しておいてあげたの、感謝しなさい」

「う、ん? ありがとう……?」

 

 まだ、いまいち処理が追い付かない。

 数秒経ってようやく脳が動き出して、目の前で起こった出来事を理解し始めた。

 

「よ、よかったぁ……!」

 

 強張っていた体の力が抜け、思わずベッドに腰を下ろす。

 もう一度手の中を確認すれば、そこには間違いなく赤い髪がある。この髪色は、間違いなくセイバーのものだ。

 ああ、本当によかった。

 

「ありがとう、ランサー」

 

 さっきはあまり感情を籠められなかったから、改めて礼を伝える。お陰で約束も守れそうだ。

 そう安心したのも束の間、にやりと笑うランサーの顔に嫌な予感を覚える。

 

「貸し一つね」

「えっ」

「なに、文句あるの?」

 

 いや、ないけど……正直、何を求められるのか不安がないとは言えない。しかし回収を忘れたのは私だ。自業自得なわけだし、私にできることならば何でもしよう。

 そう意気込んでみるが、流石に今すぐ返す必要はないらしい。まあ、今求められても何も返せないので、これは助かる。

 何を言われてもいいよう準備はしておこう。できたらあまり手に入りにくいものはやめてほしいけど……ランサー、サディストだしなぁ。

 うん、今から準備はしておこうかな。主に貯金とか。

 

 とはいえ、今はまだ礼装とアイテムが必要な時期だ。

 特に回復系は礼装もない。幸い、アリーナを闊歩するエネミー相手に怪我を負うことはまずないし、仮に負ったとしても一日で治るような怪我ばかり。消費量が少ないから、補充する必要はあまりない。

 だけど、それがいつまでも続くとは限らない。早めに礼装を手に入れないと、定期的な出費は避けられなくなる。

 まあ、礼装を手に入れても、装備上限があるからアイテムを手放すことは不可能なんだけど。

 

 ……いや、そういえば矢上は三つ目のコードキャストを使っていた。直後に『shock(16)(電撃)』を使っていたし、礼装の変更をしたわけではないだろう。でも、それならどうやって?

 確かに礼装には、基本二つのコードキャストが付与されているが、その片方は魔力強化で埋まっている。購買に売っているものも、今まで手に入れたものも全てそうだ。例外として強化体操服があるけど、あれは魔力強化一つだし。

 他に考えられる可能性としては、消耗型(ワンオフ)のコードキャストを持っていた、ということくらい。そう考えるならつじつまはあう。でも、なんだか違う気もするんだよな……。念のため、ラニにそういう礼装がないかだけでも聞いておこう。私が知らないだけの可能性もある。

 

 うん。今日やることも大体決まった。

 早速ラニのところに、ってまだ朝か。いつもの場所にラニがいるのはお昼頃だけど……一応、見に行ってみるだけ行ってみよう。

 

「あ」

 

 思わず声が出る。

 廊下の奥、いつもの場所。そこにはいないと思っていたラニが、窓の外を見上げながら立っていた。

 彼女はこちらに気づき、小さく頭を下げる。私も、それに応えるように手を振りながら近寄った。

 

「おはよう。今日は早いね」

「おはようございます。本日は約束の日ですので」

 

 なるほど、だからこんな朝早くから。

 ならば、遠慮なく今からいろいろと聞かせてもらうとしよう。まずは礼装について聞いて、遺物はその後だ。

 

「その、早速聞きたいことがあるんだけど」

 

 矢上が二つの礼装で三つのコードキャストを使っていたことをラニへ説明する。ついでに私の考えも伝えて、答え合わせをしてもらうことにした。

 彼女は少し驚いた様子を見せたあと、顎に手を当て考え込む。それを邪魔することはせず、答えが返ってくるのを静かに待つこと数分。返ってきた答えは、私が考えたのと同じものだった。

 

「やはり、消耗型(ワンオフ)のコードキャストを使っているのだと思います。あなたが考えている通り、一つの礼装に一つのコードキャストが基本となりますので。別のコードキャストを同じ礼装に付与することは、まず不可能だと思ってもらって構いません」

「一つの礼装に、一つのコードキャスト? でも、魔力強化は同じ礼装に付与されてる」

「まず不可能、と言った筈です。魔力強化は他のコードキャストとは違い、魔力を流さずともその効果を発揮する。その分、プログラムは簡潔になっています」

「ああ、なるほど。だからもう一つの効果として埋め込める、と」

「はい」

 

 彼女が言うには、礼装の元となる触媒にも良し悪しがあるらしい。いい触媒には高度なコードキャストを付与できる。単純に、埋め込めるプログラム量が多くなるからだ。

 そして、空いた容量に魔力強化のプログラムを埋め込む。ラニの説明を聞く感じ、魔力を流さないで発動するコードキャストなら何でもいいのかもしれない。定番なのが魔力強化なだけだ。

 もしそこに、魔力を流さないと発動しないプログラムを埋め込んだ場合。メインのコードキャストと一緒に反応して、下手をすると暴走してしまうそうだ。少なくとも、ラニは一つの礼装に二つのコードキャストを付与できた例は知らないと言っていた。

 

 となると、やはり矢上が使ったのは消耗型(ワンオフ)なんだろうか。

 でも、あの本は礼装だったと思うし……うーんわからないな!

 とにかく、矢上が複数のコードキャストを同時に使えるということはほぼ確定している。それが消耗型(ワンオフ)か礼装かが問題だけど、どちらにせよ対処方法は考えないといけない。なら、最終的にわからなくても問題はないだろう。

 

「まあ、コードキャストの方はこっちでなんとかしてみる。色々と教えてくれてありがとう」

「いえ、大変興味深い話でした。もし真実が分かれば、ぜひ教えてください」

「もちろん。わかったらちゃんと伝えるよ。」

 

 ここまで相談しといて、結果は教えないなんてことはしない。

 それを知ることができるかは別だが、できる限り真実に近づけるように努力しよう。

 

 コードキャストの話はこの辺りで切り上げ、本題に入る。

 もともとの約束であり目的は、遺物を用いた占星術。それを彼女に行ってもらう。

 

「持ってこれたのはこれくらいなんだけど、大丈夫かな」

「髪、ですか。これだけの量を、よく……」

「うちのサーヴァントが頑張ってくれたんだよ」

 

 私も、今朝受け取った時は驚いたものだ。

 手の中にある髪の束は結構な量になる。思い出してみれば、セイバーの腰まであった髪は肩くらいまで短くなっていた気がする。

 ランサーのことだ。髪も狙っていたんだろうけど、あわよくばと首を切り落とそうしていてもおかしくない。

 

「問題ありません。むしろ、髪は古代より魔力を溜めこむ触媒とされてきました。占星術にも適したものと言えましょう」

「そっか。ならよかった」

 

 不安もあったが、ちゃんと占星術に使えるらしい。しかも、それなりにいい触媒になるという。

 うん、それなら昨日無茶した甲斐があったというものだ。なんだか報われた気がする。

 

 小さく礼を言いながら、ラニへ遺物を渡す。彼女はなんで礼を言われたのか分からないような表情をしていたが、正直私にも分からない。なんだか言いたかったから言っただけなんだ。

 だから笑ってごまかす。彼女は微かに首を傾げていたが、すぐに意識を遺物へと切り替えた。

 髪を包むように手で触り、目を閉じる。そのまま空を仰ぐ姿は、どこか浮世離れしているように見えた。

 

「これは、荒れ地、でしょうか……」

 

 ラニは、空を見上げながらも静かに語る。

 それはあのセイバーの人生。

 

「燃え盛るような赤色。しかし、それは暗く染まっている……」

 

 その言葉で思い出したのは、セイバーの髪色だ。燃え盛るような、それでいて優しさを感じる赤。

 だけど、昨日の彼女からはその優しさを感じることはなかった。彼女を侵していた激情。それは、きっと────。

 

「夫の死、国の裏切り、娘への…………」

 

 珍しく、ラニは口ごもる。それほど言いにくいことなのだろうか。

 彼女が何を詠んだのかは分からないが、言いにくいことならばそれでいい。無理に語る必要はない。

 

「……私が見たものは、けっしていいものとは言えませんでした」

 

 ラニの視線が戻ってくる。彼女の表情は相変わらず読めないが、それでもどこか居心地が悪そうだということはわかった。

 彼女が何を口ごもったのか、残念ながら私には想像ができない

 だけど、それでも一つだけ。あの短い言葉で、何となく確信は持てた。

 

「彼女は、復讐をしたんだね」

「はい。しかし、それを成し遂げることはできなかった」

 

 道半ばで倒れ、さらにはここでその相手がいることを知った。故に隠してきた、もしくは抑えてきた復讐心が爆発したのだろう。

 だから、昨日はあんなに荒れていたんだ。

 

「これも、人のあり方の一つなのでしょうか……」

 

 ポツリ、ラニの口からそんな言葉がこぼれた。

 もしかした、ラニは無意識に呟いてしまったのかもしれない。そう思えるくらいには小さな声だった。

 

 ……人の在り方、か。

 この世界には色々な人がいる。怖い人も、優しい人も、悲しい人も。そんな当たり前のようなことを理解したのは、いくつになってからだったか。

 それすら覚えていない。けど……あの子たちが、教えてくれた気がする。

 

「ありがとうございます。あなたのお陰で、新たな星を観ることができました」

「どういたしまして、でいいのかな。私はあまり役に立たなかった気もするけど」

 

 頑張ったのはランサーだし、最終的に援護を許してしまった。なにより、回収忘れという大失態も犯した。

 とはいえ、ラニにとっては持ってきたのは私たち二人、という認識なのかもしれない。言ってくれたお礼を無下にするのも違うだろう。素直に受け取ろう。

 

 ……ああ、そうだ。最後に一つだけ聞いてみよう。

 

「ラニ、セイバーの星は君が観たいものだった?」

「……いいえ。これは、私が探しているものではないのかもしれません」

「そっか」

 

 それなら、もしもまた遺物のようなものを手に入れたら持ってきたほうがいいだろうか。

 彼女がどんな星を観たいのかは知らないが、多くを観た方が見つけやすいだろうし。適度に意識しておこう。

 

「確かあなたの相手はセイバー、でしたか。彼女の星は第二層から感じられます。もしまだ情報収集が足りなければ、行ってみては?」

「……いや、やめとくよ。真名の心当たりはもうついた」

 

 それにもし再確認にと会いに行けば、こっちが痛い目にあいそうだ。なにより裏付けは既に昨日とれている。

 残りの確認は図書室でも十分行えるはず。

 

「今日は朝からありがとう。私はもう行くけど……今度、また話そう」

「……はい。こちらこそありがとうございました。また、今度」

 

 ごきげんよう、とラニは改めて頭を下げた。私もそれに倣って頭を下げる。

 今日は、そこでラニと別れた。

 

 階段を降りて、図書室に入る。

 向かう棚は、イギリス関係の本が閉まってあるところ。

 ずらりと並ぶ背表紙に目を走らせる。彼女に関しては、この前来たときに軽く来歴を調べてある。確か、年代は一世紀頃だから、この辺りの本に書いてあると思うんだけど……。

 

「これ、かな」

 

 彼女と同じ年代であろう人たちがまとめてある本を見つけた。まだ確定はしてないが、私の考えに間違いがなければあっているはずだ。

 まずは、心当たりのある名前の人をしっかりと調べよう。

 

 目次に目を通し、目的の人の項目までページを飛ばす。

 一面の紙に並ぶ文章を丁寧に、時に辞書を引きながら、読み込む。

 

 彼女はイギリス、当時ブリタニアの王を夫に持ち、娘も二人いた一国の女王。自身の国と民を愛し、幸せな生活を送っていた。

 それが一転したのは、夫が死んでしまったあと。ブリタニアを侵略した国、ローマが重税を課し、土地は奪い民は奴隷として連れ去ったのま。さらには女に王を継ぐ権利はないとされ、娘と一緒に凌辱と暴力をされてきたらしい。……ラニが口ごもったのも、きっとこの部分だ。

 国も家族も奪われた彼女は、復讐を決意する。ローマを、滅ぼすために。

 彼女が行った復讐は過激なものだった。なんの関係もない、ローマに住んでいただけの民を殺した。老人も、女も、子供も、全て。

 結局、彼女は志半ばでその人生を終える。故に、彼女の心にはまだ復讐心が残っているのだろう。一目見ただけで、その心が荒れ狂うほどに。

 

 赤い髪。そして昨日の発言に、ラニが語った人生。それにぴったりと当てはまるのは、やっぱりこの人しかいない。

 

 

 

「──────勝利の女王、ブーディカ」

 

 

 

 それが、セイバーの真名だ。




というわけで、真名が判明しました!
何とか間に合ったぜ……。

真名判断に関するご指摘、もしくはここまでの感想等あればぜひに!
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