Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
セイバーの真名が判明した後も、引き続き白乃のサーヴァントについて調べることにした。
セイバーは言っていた。白乃のサーヴァントが、自分から全てを奪ったんだと。彼女の真名がブーティカで、その言葉が真実であるならば。こちらも年代と出身を絞ることはできる。
年代は一世紀。出身はローマ。そして、イギリスの女王であったセイバーが顔を覚えていたということは、決して一般兵ではないだろう。この前見た服装も大分豪華だったし。
となると、考えられるのは当時のローマ皇帝かそれに近しい人物。もしくはかなり上の立場の軍人。
今ある情報から想定できるのはこれくらいだろう。けれど、大分絞れた方だと思う。特に年代と出身を知れたのは大きい。
今のところは、一世紀のローマで有名だった人物を調べるだけに留めておこう。その詳細は、いつか白乃と戦う時が来たら調べればいい。
……そんな未来、本当は来てほしくないんだけど。
「はぁ」
本を棚に戻して一息つく。
端末で時間を確認してみれば、すでに針は頂点を回ってしまっていた。お腹も丁度いい具合に空いてきた。そろそろ食事も済ませておこう。
それも終えたら……ああ、そうだ。教会にも行かないと。前に改竄を施したのは二日目。あれから三日分のリソースを溜めているわけだし、もしかしたら新しいスキルも取り戻せるかもしれない。
うん、そうと決まればまずは食堂だ。
*
何事もなく食事を終え、そのまま教会へと足を進めた。
大きな扉を開けて中に入れば、いつもの二人もこちらに気づき視線を向けられる。
「やあ、三日ぶりだね」
「こんにちは、青子さん、橙子さん」
掛けられる言葉に、軽く頭を下げながら返す。
大きな音を立て扉が閉まったのを確認すれば、ランサーも霊体化を解き姿を現した。周囲に人がいないこと判断したからだろう。
そういえば、ここに来るといつも他のマスターはいない。
聖杯戦争に参加するマスターは128名。今はもうその半分になってしまったが、それでも64人。サーヴァントの強化場所であるここは、かなり需要があるはずだ。
それなのにこうも会わないのは、ムーンセルが特殊な処理をしているからだろうか?
「え、ただの偶然よ」
「あ、そうですか」
なんとなしに聞いてみたが、流石に考えすぎだったらしい。少しの気恥ずかしさを感じ、顔が熱くなる。
誤魔化すように笑みを浮かべる私をフォローするためか、まあ、と青子さんは言葉を続けた。
「色んな細工は施されてるわよ」
「色んな細工、ですか?」
「ええ。ここはサーヴァントの改竄を行える唯一の場所だからね。校舎よりも頑丈な作りになっているし、複数の校舎からもこれるようになってるわ」
複数の校舎という不思議な言葉に、思わず首をかしげる。そんな私に彼女は丁寧に説明してくれた。
曰く、ここ以外にも同じような校舎があり、多くのマスターがそこで同じように猶予期間を過ごしているだとか。つまりは、決戦日のときと同じ仕様ということだろう。
戦いに区切りがつけばマスターの入れ換えも行われるらしい。ある程度進めば一つに統合される予定だと言うが、それまでは白乃やラニと別々になる可能性もあるわけだ。
このことは白乃にも教えておこう。もし別になったら、約束の時間に食堂で待っていても意味はないんだし。ラニは……知ってそうだし、大丈夫かな。
「話は終わった? なら、さっさと用事を済ませましょう」
「あ、うん。青子さん、今日もよろしくお願いします」
後ろの長椅子に座っていたランサーが立ち上がる。話をしている間、どうやら待たせてしまったらしい。
申し訳ないと思いつつも、いつも通り青子さんに改竄の要望を伝える。今回は、幸運と筋力を改竄してもらうことにした。
この二日間で、前回教えてもらった二十体分のエネミーは倒してきた。そのアドバイス通りなら、均等に分ければ両方ともランクが上がるはずだ。
「OK! それじゃあ、いつも通り待ってて」
そういうと、早速青子さんは改竄の準備に取り掛かった。ランサーが赤い壁のようなものに包まれていくのを見ながら、近くの長椅子に座って待つ。
改竄が終わるまで、改めてランサーのステータスとかでも見ておこうかな。
端末を取り出し、マテリアルの項目を開く。
新たにセイバーの欄も増えていたが、これはまた後で見ておくことにしよう。とりあえず、今はランサーだ。
CLASS:ランサー?
マスター:クレア・ヴィオレット
真名:
宝具:
キーワード:
ステータス:筋力D 耐久D 敏捷D+ 魔力D 幸運D
スキル:騎乗B
今のところ、ステータスは敏捷が一番高い。セイバー相手に翻弄できるほどの早さは出せてなかったが、かといって遅いわけでもない。こっちが勝っていたのは確かだ。
とはいえ、このままじゃいけないのも確か。サーヴァントの力は拮抗していても、マスターの力量では負けている。なら、せめて一部分だけでも勝てなければ、不利を強いられるだろう。
そういう意味では、敏捷はもうワンランク上げておきたい。
スキルもそうだ。現在使えるスキルは二つ。
一つは攻撃スキルの"
そして、もう一つが回避スキルの……あれ、名称が載ってない。もしかして端末のバグ? それとも、何か理由があってこの表記に?
……うーん、わからない。これは、改竄が終わってから確認をしておいた方がいいな。
とりあえず、今後はまたアリーナに籠ってひたすらエネミー倒しかなぁ。セイバーの真名も判明した今、必要なのは戦力だ。そのためには、エネミーを倒し続けるしかない。
目標としてはまず全ステータスをDにすること。これは今回達成できると仮定して、できたら敏捷をワンランクアップにスキルを一つ取り戻したい。
今回の改竄で、幸運と筋力が上がればいい。ついでにスキルも取り戻せたら万々歳、ってところかな。
顔を上げ、改竄途中のランサーの様子を見る。
赤い壁に囲われながらも、その表情はどこか涼しげだ。最初はあまりいいイメージのない改竄だったが、こうして見てみるとあまり不快感は感じてないように見える。
ランサーはこういう、自分の体を弄られるのはあまり好きではないと思うのだが……それだけ、青子さんのハッキングがうまいということだろうか。
もし私がその技術を覚えられたら、自分でも改竄をしたりできるのかな。
いや、でもさっきここが改竄できる唯一の場所だと言っていた。ここ以外では技術があってもできないのかもしれない。
だけど、そういう知識は持っておいでも損はない、か。次から、すぐ近くで手元を見れないか聞いてみよう。ちゃんと理解できるかはわからないけど。
もうそろそろ終わるかな、と思ったらちょうど赤い壁が消え、ランサーが下りてきた。それを見て、私も椅子から立ち上がり近づく。
「お疲れ様。どう、調子は」
「そうね……ステータスは上がったはずよ」
端末を見てみる。確かに、幸運と筋力のステータスが一つずつ上がっていた。
うん。これで最低限の目標は達成された。なら、残りは二つ。
「スキルの方は……まだみたいだね」
「ええ。でも、感覚としてはあと少しじゃないかしら」
本人がそう言うならそうなんだろう。
なら、二回戦の間でスキルも取り戻せそうだな。
「意気込むのもいいけど、ちゃんと休憩もしなさいよ? 貴方たち、かなりハイスペースなんだから」
「え? そうなんですか?」
「ええ。まあ、貴方たちのように全ステータスがEから始まるマスターなんてそういないけど……それでも、今まで私がやってきた中では一番上がってるんじゃない?」
そう、なのか。
いや、でもレオとか遠坂とかはほぼ完璧な状態のサーヴァントを呼んでそうだし。もしかしたら、この改竄もあまり使ってないかも。……あの二人と比べるのは、比較にすらならないか。
でも、この進捗でハイスピードと言われてもな。あまり自覚はない。
私はランサーの先を歩くだけで、戦うのは全てランサーだ。今まで出会ったエネミーの行動パターンはほとんど把握できていて、指示がなくともランサーが負けることはない。私がすることと言えば、極稀に二体を相手する時に援護射撃をするくらい。一対一では、私が出る程のことはまず起きない。
それでも警戒はしてるから疲れることは疲れるけど、次の日には取れる程度だ。
とはいえ、改竄ペースだけ見るとそう取られるのか。
「ありがとうございます。その、善処します」
絶対に休むと言えないのが少し申し訳ない。
しかも青子さんは私を心配して忠告してくれたんだ。それを無碍にするようなことがないよう、意識しておこう。
ステータスの確認もそこそこに、二人に別れを告げ一度マイルームへと戻った。
名称の乗ってないスキルのことを聞くのなら、マイルームの方がいいと感じたからだ。
「ランサー、ここのスキルなんだけどさ。スキル名が載ってないんだよね。確かに使えるようになったはずなんだけど、心当たりはある?」
「ああ、それ。そのスキル、まだ完璧に取り戻せたわけじゃないの。だからじゃない?」
「? どういうこと?」
「そのままの意味よ。これは、本来ならまだ取り戻せないスキル。無理矢理習得したせいで不完全なの。完全に使えるようになるには、レベルが足りないわ」
なるほど。だからスキル名が載ってなかったんだ。別に端末のバグではない、と。
でも、あれで不完全なのか。このスキルがあったから、一回戦でアーチャーの宝具に耐えることができたというのに。
もしあの日、ランサーの言うことを聞かずに校舎に戻っていたら……想像するだけゾッとする。
「このスキル、完璧に使えるようになったらどれくらいの攻撃に耐えられる?」
「どんな攻撃にだって避けられるわ。もちろん、その分魔力消費量は多くなってくるから、貴女次第ではあるけれど」
どんな攻撃にもって、そんなにすごいスキルだったのか!?
だから宝具対策としてこれを……ほんっと、あの日ランサーの言うことを信じてよかった。
「なら、次に取り戻せるスキルはこれ?」
「いいえ、また別のものになるはず。これは、まあ当分先ね」
なるほど。そう簡単に取り戻せるスキルではない、と。
そうなると、次のスキルを取り戻すのにも想像以上に時間がかかるかもしれない。本来の順番を無理矢理変えたわけだし、その反動がないとは言えないのだから。
教会であと少しと言っていたから、そう遠くもないだろうけど……少なくとも、二回戦の間は無理かもしれないと思っておこう。
「それで? 他に聞きたいこともあるんでしょう」
「え、ああ、うん。よくわかったね」
せっかくマイルームに戻ってきたんだ。ついでと言ったらあれだが、彼女からも矢上が使うコードキャストへの対策がないか聞いてみたい。
そう思ってはいたけど、どうしてわかったんだろう。不思議だけど、スムーズに話が進むしいいかな。
「こっちも複数のコードキャストを同時に使うってのがベターなんでしょうけど……貴女にそんなことはできないし」
「やっぱり、それしかないのかな……」
ランサーの言う通り、私は
礼装があるから大丈夫だと思っていたが、こうして複数のコードキャストを使う相手がいるとなると、礼装だけでは正直心もとない。
近々、ちゃんと作り方とかを調べておこう。
「今の貴女でもできることと言えば、礼装の変更する際のタイムラグを減らすことくらいじゃないかしら」
「タイムラグを減らす、か」
それは、案外難しいことだ。
礼装の変更は端末を通して行われる。あらかじめ礼装の画面を開いていたとしても、装備している礼装を選択し、新たに開かれた項目から交換する礼装を選ぶという手順を踏まなければならない。
今は礼装の種類も少ないからそこまで時間はかからないが、これが増えてしまえば、そこから探すという手順が増えてしまう。とはいえ、礼装を増やさなければ私は援護すらできなくなる。
しかも間違いなく選ぶためには、端末に目を向ける必要もある。一瞬だけでも戦況から目を離すのは、正直あまりやりたくない行為だ。
戦場から目を離さず、さらに選択する手間も省く。
それを、するには……─────。
「……クレア?」
端末を取り出し、その中身へとアクセスをかける。
ラニと一緒に端末を改造したのを思い出す。
それを応用しながら、聖杯戦争のルールに抵触しないようにだけ気を付けてプログラムを組んでいく。
不思議と、構築するプログラムに迷いはなかった。まるで知っているかのように、どんどんプログラムを組んでいく。
ある程度組んでいくと、無意識のうちに動いていた手が止まった。
ここから先のプログラムは、知っているけど組むことができない。この端末に適用するよう、ある程度は変えていかないと。
けど、変えるのにも時間はかかるし……とりあえず、先にアリーナへ行こうか。
「ありがとう。即席だからちゃんと使えるか分からないけど……どうにかなりそう」
「……そう。決勝までには形にしてみせなさい」
「もちろん」
決戦日まであと二日。時間はないが、なんとかしてみせよう。
「私はこれくらいでいいかな。ランサーは他に用事とかある?」
「いいえ」
「そっか」
じゃあアリーナへ行こうと、座っていた椅子から立ち上がる。
矢上たちが朝の時点でアリーナにいることは、ラニが教えてくれたから間違いないだろう。となると、もう探索から帰ってきているはず。鉢合わせする心配はまずない。
ゆっくり、無茶をしない程度にアリーナを回ろう。できたら、今日中にはすべての用事を終わらせてしまいたいものだ。
少し遅くなりましたが、今月も無事更新できましたー!
今回は、一回戦決戦で起こったことも少しだけ明かされました。
名前が明かされないスキル、いつ明かされるか楽しみですね!!
まだまだ二回戦は続いていきます。
これからもデジトラをよろしくお願いします。
10/3追記
最後の一文を修正しました。