Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第二十八話 cut over

 明朝、窓の外の光がカーテンの隙間から差し込んだ。瞼越しでも感じられる眩しさに目を隠す。

 目覚めは、あまりいいものではなかった。

 

「────」

 

 彼の名前を呼ぼうとして、未だ曖昧にしか思い出せないことに自嘲する。

 私たちを助けてくれて、群れの長として故郷を守った誇り高い後ろ姿。今の私に思い出せるのは、そのくらいだった。

 

 ああ、でも。たった一人だけど、名前を思い出せた。それは素直に嬉しい。

 彼女の名前はソーサリモン。村を出て向かった塔の中で出会った、優しい白き魔法使い。残念ながら、その塔でなにがあって、なんで一緒についてきてくれることになったのかはまだ思い出せていない。だけど、旅を始めたばかりでなにも知らない私たちに、色々と教えてくれたことは覚えてる。

 私にとって、彼女は先生のような存在だった。

 

 思い出せたことが嬉しくて、悲しい。

 わかっていた。生きているのなら、楽しく嬉しい記憶ばかりではない。悲しくて辛いこともいっぱいある。それでも、取り戻すと決めたのは私だ。

 

 その、はずなのに。

 

「……嫌だなぁ」

 

 これからもこんな思いをするのだと、改めて思い知った。

 だから、ほんの少しだけ。もう記憶を取り戻したくないと、そう思ってしまったんだ。

 

「っだめだめ」

 

 記憶を取り戻す。それが、私の戦う理由だ。

 そのために、あの偽りながらも平和な日常を捨てて。そのために、全く関係のないランサーに無理矢理付き合ってもらって。

 

 そのためだけに、私は小鳥遊飛鳥の願いを、踏みにじったんだ。

 

 だから、そう。今さら取り戻したくないなんて、そんなのは許されない。

 前を向け。戦うと決めたのは私だ。相手を殺すと決めたのは私だ。彼女を忘れないと、その死を背負うと決めたのも。全部、私の選んだ道だ。

 

「……っよし!」

 

 今日は猶予期間(モラトリアム)最終日。決戦日が明日に迫っている以上、落ち込んでいる暇はない。

 矢上たちに勝つためにも、今日中にできることは全てやっておかなければ。

 

 幸い、今日はいつもより早くに起きることができた。おかげでお昼までの時間は大分ある。

 お昼頃には藤村先生にキーホルダーを届けたいから、それまでにはプログラムを完成させる。やりたいことは今回の夢で見ることができた。今の進捗ならいけるはずだ。

 そのあとにアリーナに行って、エネミー狩りとプログラムの試運転、かな。流石にぶっつけ本番は避けたいし、違和感があればできる限り調整もしていきたい。そう考えると、早めにアリーナに行った方がいいんだけど……他にも気になることが、あと一つ。これを確かめるには、矢上たちより後に、さらにできたら彼らがいない状態のアリーナに行く必要がある。

 

「はぁ……」

 

 別に、絶対に確かめなくてはならないものではない。役に立つことに間違いはないけど、なくても支障はないだろう。強いて言えば、私が気になってしまうことくらいか。

 それも、気にしないようにすればいい。本当ならそれが一番、なんだけど。

 

 これはきっと、私が知らなきゃいけないことにも繋がっている。不思議と、そう思ったから。無視するなんてことは、できそうにはなかった。

 

 *

 

 太陽がてっぺんまで上がりそうになったころ、ようやくプログラムが完成した。

 

「つ、っかれたぁ……」

 

 体中から力を抜いて、椅子の背にだらしなく体を預けた。

 流石に休憩なしのぶっ続けはやばかったかなぁ。なんとも言えない疲労感が……。

 まあ、お陰で夢で見たものもできたし、それに関してはよかった、かな?

 

 とりあえず、早速試してみよう。

 

「リロード」

 

 端末をポケットに入れたまま、夢と同じ言葉を口にする。刹那、利き手の上に『エーテルの欠片』が現れた。

 きちんとそれが本物であることを確認し、ほっと息をつく。

 

 よかった、成功だ。

 見た目の変化もないし、データの破損もない。これならなんの問題なく回復に使えるだろう。

 

 ただ、完成したと言っても、夢のものと全く一緒の仕組みではない。あっちは言葉一つで色々な道具を出していたけど、これはまだ事前に設定した一アイテムだけしか取り出せないのだ。

 そして、それは礼装の方も同じ。

 基本となる仕組みは変わらない。違いは手の上に出てくるか、自動的に礼装が変更されるかという点だけ。

 

 だから、まだ使い勝手はよくない。戦闘前に設定しとかないといけないし、設定したもの以外を取り出すには、結局端末の操作が必要になってくる。故に、もし設定するアイテムを見誤りでもすれば、戦闘中はほとんど役に立たなくなってしまう。

 そういうことを起こさないためにも、できたら言葉一つで取り出せるようになるのが理想だ。けれど、そこまで端末を改造して、ペナルティを受けてしまわないか不安もある。

 改造は進めていくつもりだけど、ペナルティを受けないよう様子見をしながらになるから、大分時間がかかるだろう。 

 

 そして、残念ながら今は時間がない。

 試運転したあとに改造しても、それ以をもう試す場所がない。下手に改造してぶっつけ本番になるよりも、試運転したままの状態で決勝戦にいった方がいい。

 なんて。どちらにせよ、ちゃんと作動するか確認しなきゃ始まらない。

 

 とりあえず、藤村先生にキーホルダーを届けにいこう。それから、白乃にも今日は食堂にいけないこと話しておかなきゃ。どこかで会えるといいんだけど。

 ……そういえばこの端末、マスター同士のメールのやり取りはできないんだろうか? できるようになったら楽になるし。うん、白乃と試そう。

 

「出掛けるのね」

「うん。ごめんね、暇だったでしょ」

「そんなのどうでもいいわ。進捗は?」

「完成はしたけど、完璧とは言えないよ。だから、これからも調整していく予定」

 

 思えば、今日は朝の挨拶をしたくらいでランサーとは何の会話もしていない。

 私は朝っぱらからプログラムに掛かりっきりだったし、ランサーはただ静かにベッドの上に座っていた。一応机の上に菓子パン類は置いておいたけど、それも食べてないみたいだし。

 サーヴァントは食事が必要はないとは聞いてるけど、一緒に食べてくれたら私は嬉しいんだけどなぁ……。まあ、私個人の思いだし、強要なんてできないんだけど。

 

 今後、同じようなことが起きないとは限らないし、なにか暇を潰せるものでも考えよう。本、いや、ランサーなら人形の方がいいかもしれない。こだわりは強いだろうから、適当なもの渡したら怒られそうだけど。

 もし購買とかでいいものが見つかったら買っておこう。

 

 と、そうこう考えているうちに見慣れた後ろ姿が。

 

「藤村先生、こんにちは」

「あらヴィオレットさん、こんにちは。どうした……あ! もしかして、頼んでいたものを取ってきてくれたの?」

「はい。これであってますか?」

 

 端末からキーホルダーを差し出す。それは間違いなく先生が頼まれた生徒のものだったらしい。

 安心したような表情をした後、ありがとうと朗らかな笑顔を見せてくれた。

 

「あの子たちも喜ぶと思うわ。これ、今回のお礼ね!」

 

 そう言って手渡されたのは、前回とはまた違うインテリアだった。ちなみに前回はライトで、今回はお花らしい。これは、机の上にでも飾っておこうかな。

 それを受け取ると、先生は挨拶もそこそこに歩いて行ってしまった。

 

 その背を見送っていると、不意にぐぅ、という低めの音が聞こえてきた。

 思わずお腹を抑え、周囲を見渡す。見てる人はいない、と。

 ほっと息をつく。ほんと、聞いてる人がいなくてよかっ……はっ!

 

 バッと後ろを振り返る。

 そこには誰もいない、見えない。けれど、そう。確かに、そこには彼女がいる。

 何も言わない。すぐそこにいるのに聞いていないなんてことはないだろう。いや、まあわざわざ追及するようなことではない。ないのだけど、なぜだろう。言われないのがなぜだかとても恥ずかしい。

 

「……食堂、行こ」

 

 小さく呟いた言葉を拾う人間は、やっぱりいなかった。

 

 *

 

 いつもより多めの食事をとっていると、偶然にも白乃と出会うことができた。

 ちょっと驚いたような目で料理を見られたけど、仕方ない。私はお腹がすいたんだ。

 

「昨日はどうしたの?」

「ごめん、アリーナから帰ってくるのが遅くなっちゃって。今日もそうなりそうだから、時間にこなかったら待たなくても大丈夫」

「ん、わかった。気を付けてね」

「白乃もね」

 

 それから、色々な話をして。メールのことも相談すれば、簡単に端末を差し出してくれた。でも、流石にそれは怒った。めちゃくちゃ怒った。

 いくらなんでも、まだマスターである私に簡単に渡していいものじゃない。信頼されてると思えば、すごく嬉しいけど。それはそれ、これはこれ。

 

「とりあえず、送れるのは文章だけに設定しておくから。でも、ちゃんと自分で確認するんだよ」

「設定してくれたクレアがそれ言っちゃうの?」

「そういう作戦ってこともあるでしょ。信じてくれるのは嬉しいけど、だからこそ疑わなきゃ」

 

 端末を返して、しっかりと言い聞かせる。

 別に白乃の警戒心が皆無だとは思ってない。でも、なぜか私とか遠坂辺りには随分と甘いような気がする。それはいけないことではないけど、まずいことではある。

 だから、私たちに対しても警戒心というものを持ってほしい。少しでいいから。

 

「……クレアのこと、警戒してないわけじゃないよ」

「え?」

「ここで私のこと一番知ってるのはクレアだし、やるときはどんなことでもやるってことも知ってる。でも、対戦相手じゃない私を、守ってくれてるのも知ってる」

 

 守ってる? 守って、いるんだろうか。

 確かにこの前保健室へ行くのは助けたけど、守ったと言えることはそれくらいで。それ以外は、ただ一緒に食事をするだけ。

 それを、守ったと言えるんだろうか。

 

「守ってくれてるよ。クレアがいるから、私はこの戦いの中でも平穏な日常を過ごせてる」

「それは、私も一緒だよ」

 

 白乃がいてくれて、他愛のない会話をしてくれる。内容は、少し物騒なのも混じるけど。それでも、友達と話すということは、それだけで荒れた心を癒してくれる。

 

「生き抜いていけば、いつか戦う日は来ちゃう。でも、だからこそ。そのときまでは、友達として君を信じていたいの」

 

 そんな言葉を、真っ直ぐ言われたら。私は、何も言えなくなってしまった。

 

「……ずるいよ、白乃」

「え、なにが?」

 

 無自覚とか、少し怖いよ……。

 

 *

 

 なんとか白乃を誤魔化し、逃げるようにアリーナへとやってきた。

 矢上たちとはすれ違いだったらしい。入ってきた瞬間はサーヴァントの気配があったが、それもすぐになくなった。

 だから、安心して確認したいことが確かめられる。

 

 マップを呼び出し、目的のものが残っているのか確認する。

 赤い点がいくつかマップ上に表示された。近くのものは、ここか。

 

「ランサー、お願いがあるんだけど……」

 

 アリーナに進む前に、やりたいことを説明する。

 すると、ランサーは思いっきり顔を顰めた。確かに、彼女にとってはすごくつまらないことだろう。それでもやりたいのだと、言葉を紡いで説得する。

 少し時間はかかったが、説得は成功した。でも、本当に嫌そうだから一発で成功させないと。

 

 とりあえず、一番近い点を目指して進む。

 道中の敵はすでに相手ではない。作ったプログラムの試運転も行いながら、確実に葬り去っていく。

 うん、プログラムの方は特に問題はない、かな。

 

 なら、確かめることはあと一つ。

 ちょうど目的の場所まで着いたし、早速準備をしなくちゃ。

 

view_status()(解析)

 

 コードキャストが仕掛けられてる正確な位置を確認する。敵もいないし、大丈夫かな。

 膝をつき、罠に手を置く。すでにこのコードキャストの解析は隅々まで終わっている。なら、ハッキングだって可能なはずだ。

 

 手を振り、コンソールを呼び出す。

 コードキャストのプログラムに侵入し、自分のものへと作り替えていく。根本的な所を変えては意味がない。ただ、所有権と操作権だけ奪うだけでいい。

 だから、ここの文字を変えていけば……。

 

「……よし!」

 

 なにかと繋がる感覚がする。どうやら無事に成功したみたいだ。

 この繋がりを伝うように魔力を流せば罠が作動するはず。あとは、その獲物をこの上に誘導してくるだけ。

 

「ランサー、お願いしてもいいかな」

「……わかってるわよ」

 

 うわぁ、不機嫌そう。これで失敗しました、なんてことは許されないぞ。

 気を引き締めろ、私!

 

 気合を入れ直し、エネミーを引き寄せるために少しフロアを移動する。

 一番最初に見つけたのは、四つ足の馬のようなエネミー。罠からそう離れてないし、あれをおびき寄せるのがいいかもしれない。

 ランサーに目線を向けると、彼女は小さく頷いてそのまま飛び出した。

 

 彼女にしては大分弱い蹴りが放たれる。それを身に受けた敵はこちらを認識し、そのまま追いかけてきた。

 適度な距離を保ちながら、罠の方まで下がっていく。プログラムのせいか、持ち場に戻ろうとするたびに弱い攻撃で気を引き、それを繰り返していく。

 

 ああ、後ろ姿だけで分かる。というか気配だけで分かる。

 ランサー、めっちゃ不機嫌だ。怖い、恐ろしい。これは、今日のエネミー狩りが長くなるなぁ……。

 

 とりあえず、なんとかエネミーを罠のあるフロアまで誘導できた。あとは簡単だ。私は罠から離れた位置に走り、ランサーも敵を罠の上に来るよう動く。

 そして、エネミーの体が完全のコードキャストの上にきた瞬間、魔力を流した。

 

trap_shock(32)(電気ショック)

 

 流す魔力の量は、少なすぎず多すぎず。プログラムに記された、丁度いい魔力量だけ。

 それでも、バチッ、と大きな音が鳴った。エネミーの体に電気が絡みつき、痺れさせて動きを止める、だけのはずだった。

 コードキャストはエネミーの動きを止めるだけでは収まらず、消滅まで持って行ってしまったのだ。

 

 誘導するために攻撃を与えていたとはいえ、その威力は弱めにしてもらっていた。体力を減らしていたとしても、半分もいってないはず。

 だけど、敵はコードキャスト一つで消滅してしまった。それは、それだけこの罠の威力が高かったという証明に他ならない。

 

 そう、つまり。一日目のあのとき、私は死ぬはず(・・・・)だった。

 

 このコードキャスト『trap_shock(32)(電気ショック)』に必要な魔力量は多い。何度も発動することはできないだろうが、一度や二度くらいなら矢上でも余裕なはず。

 あのとき、私は無防備に罠に引っかかってしまっていた。そして示された通りの魔力量を流せば、エネミーすらも消滅させてしまう威力を発揮するコードキャスト。ただの人間が、無防備な状態で高威力の攻撃に耐えられるわけがない。

 それでも今こうして生きているならば、理由はただ一つ。矢上が、意図的に威力を抑えたんだ。

 

 手加減をされた? なぜ、どうして?

 

 そのお陰で生きているのだから、感謝をすべきだ。喜ぶべきだ。

 なのに、どうしてこんなにも腹が立つんだろう。

 

 彼は、願いをかなえるためにこの戦争に参加したのではないんだろうか。

 だから誰かを殺したんじゃないのか。戦いが嫌いなくせに、それでも諦めきれない願いあるから参加したんじゃないのか。だったら、だったら……!

 

「クレア」

「っ?!」

「先、進むわよ」

「う、うん……ありがとう、ランサー」

 

 ……落ち着け。こんな気持ちでアリーナを進むなんて危険すぎる。落ち着いて、ちゃんと生き残れるように行動しなきゃ。

 矢上のあの目を見てから、なんだか色々とおかしい。心が乱されてるというか、なんというか。うまく表せない感情が、ずっと残ってる。

 いつか、この感情の原因も思い出す日が来るんだろうか……。

 

「……────」

「なにか言った?」

「え?」

「……なにもないならいいわ」

 

 自分は今なにか言ってたのか。全然気づかなかった。

 しかも、ランサーに聞こえなかったくらいの小声で。うーん、気になるけど、まあいっか。

 とりあえず、今はアリーナ探索を優先しよう。




今年最後の投稿、ギリギリ間に合いました~!

次回はようやく二回戦七日目。流石に来年になりますが、つまりは来年も投稿するということ!ポジティブにいこう()

ということで、来年もよろしくお願いしますー!
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