Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第三章 「awake/Ability in memory」
第三十二話 始まりの刻


 決戦が終わった、次の日。

 朝起きて最初にしたことは、白乃へのメールだった。

 無事に生き残れたこと。それから、朝ごはんを一緒に食べたい旨を書いてメールを送る。エラーは、でない。

 

 エラーなく送れたということは、彼女は生きているという解釈でいいんだろうか。受信する端末がないなら、エラーが出るはずだし。

 でも、やっぱり不安は残る。安心するのは、返事が来てからにしよう。

 

 とりあえず、一度受信箱を見てみる。新たなメールが届いてないことを確認して閉じる。それからしばらく待って、また開いて、閉じて。開いて、閉じて……。

 

「……なにやってるんだろう、私」

 

 それを何度か繰り返して、ハッと我に返った。

 そもそも、こんな早くに返事が来るわけがない。送ったのはほんの数秒前だ。

 

 よしっ、端末は一旦置いておこう。歯磨きとか、色々して時間を潰せばメールも来るはずだ。

 ベッドから立ち上がり、端末は布の上に投げ捨てる。

 それからつい手を伸ばしそうになる気持ちを抑え、そそくさと洗面台へと足を進めた。

 

 歯を磨き、髪型を整えようと櫛を手に取る。

 軽くついた寝癖に櫛を通しているうちに、ふと、左側にはねる前髪が気になった。

 それは、いつもならそのままにしてる髪の癖。思ってみれば、これを直そうとしたことはない。せっかくだし、直せるか試してみよう。

 

「ん、ぬぅ……?」

 

 何度も何度も髪に櫛を通す。が、癖毛は落ちつかない。

 いや、まあ昔からこうだし、無理して落ちつけたいわけじゃないから別にいいんだけど……なんでこんなにも頑固なんだろう。

 そうは思っても、直らないものは仕方ない。寝癖だけ直して、癖毛は諦めよう。

 

 そうと決めてしまえば、あとは簡単だ。

 これでも女の子。髪を整えるのは得意である。

 素早く寝癖を直し、いつも通りになったことを確認する。そして、インナーと制服を身につけてベッドに戻った。

 

 布団に埋もれていた端末には、通知が一つ。急いで確認してみれば、それは白乃からの返信だった。

 戻ってきたメールにほっと胸を撫で下ろし、早速中身を見てみる。

 

 内容は私が送ったものと差ほど変わりはない。

 自身の無事を知らせる文章と、誘いへの承諾。それに加え、待ち合わせの時間も書かれていた。

 それに対する了承のメールを送り返し、早速部屋を出る準備をする。

 白乃が提示してきたのは十分後。でも、はやる気持ちは抑えきれず、私はすぐに食堂へと向かった。

 

 階段を駆け降り、いつもの場所についたのはメールが届いてからわずか数分。

 約束の時間まであと五分以上はある。のんびり待つとしよう。

 

 そう思いながらも、心は浮き足立って落ち着かない。

 自分で早くに来たくせに、何度も何度も時間を確認して。一秒でも早く、無事な姿を見せてほしい。

 

「クレア!」

 

 そして、約束の時間の数分前。

 待ち人はいつもと同じように現れた。

 

「白乃!」

 

 手を振る姿は元気そうで、ほっと胸を撫で下ろす。

 もしまた毒にでもやられていたら。そう考えると気が気ではなかったけれど、そういうこともなさそうだ。

 

「よかった。勝てたんだね」

「なんとか、ね」

 

 苦笑いを浮かべる姿にすら安心する。

 なにより、その茶色の瞳だ。あいつと似ているようで違う瞳。

 真っ直ぐ()を見てくれるそれに、ひどく安心した。

 

「……なにかあった?」

「んーん、なんでも。そういう白乃こそ、なんだか変わったね」

 

 うまくは言えないけど、存在感が増したと言うか。

 顔つきも、なんだか前よりも凛々しく見える気がする。

 

「……うん。私がこれからどうするべきか、少し見えた気がするんだ」

「そっか」

 

 きっと、ダン・ブラックモアとなにかがあったんだろう。

 そしてそれが、彼女にいい影響を与えた。

 戦争をしたからこそだと言えば、皮肉なものだけど。友達がいい方向へと向かったのなら、それは喜ばしいことだ。

 

「とりあえず、朝御飯食べようよ。もうお腹ベコペコでさ」

「ふふっ、そうだね」

 

 時間も八時を回り、食堂も人で混みあってきた。

 人が並ぶ前にさっさと食券を買い、朝ごはんを受けとる。ちなみに白乃は和風定食、私はモーニングセットを頼んだ。

 

「「いただきます」」

 

 二人で他愛もない会話をしながら食事を始める。

 これがおいしいと言われて一口貰ったり、こっちからも少し分けたり。

 そんなことをしていれば、あっという間に食べきってしまった。

 

 足りない、なんてことはない。お腹いっぱいとは言わないが、朝ごはんとしては十分な量を食べた。

 でも、会話の方はまだしたりないというのが本音だ。もっと色んな会話をしたいし、なにより白乃と一緒にいたい。

 とはいえ、食堂が混み合うこの時間に長時間居座るのはちょっと憚られるのも事実。

 適当な所で話そうと提案すべきか。いや、でも白乃にだってやりたいことはあるだろうし……。

 

「ねえクレア。この後広場に行かない? もっと、色々話したいんだ」

「いいの?」

「もちろん! ほら、飲み物を買って行こう。今回は私が奢るんだから」

 

 悩む私に気づいたのか、それとも彼女もそう思ってくれていたのか。

 どちらにせよすごく嬉しい。もっと、白乃と一緒にいられるんだ。

 

「うん。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 

 ジュースを奢ってもらって、教会前の広場へ移動する。

 そこにあるベンチに座りながら、再び二人で会話を続けた。

 不思議と話題は絶えない。多少物騒なことでも、白乃との会話はとても楽しかった。

 

「……クレア。私に、プログラミングを教えてくれないかな」

 

 丁度話していた話題にも区切りがつき、次は何を話そうかと思っていたとき。突然、白乃がそんなことを言い出した。 

 まさかそんなことを言われるとは思ってなくて、ついびっくりしてしまう。

 

 彼女の言うプログラミングは、戦争で役立つハッキングとかのことだろう。 

 断る理由はない、わけでない。未来のことを考えたら、教えない方がいいのは当然だ。

 けれど、私は白乃に助けられている。特に精神面では、もういなくてはならないと言ってもいいかもしれない。

 ここで断って、それがなくなるのは得策ではない。

 

 と、ランサーには言っておけばいいだろう。あながち嘘ではないし。

 けど、そんな建前がなくったって断るつもりは毛頭ない。

 それに、断ったとしても白乃は一緒にいてくれるだろう。彼女はそういう人間だ。

 

「私でよければ、喜んで。でも、付け焼刃程度にしかならないと思うよ」

「それでも、知らないよりはましでしょ?」

「確かに」

 

 相変わらず真っ直ぐだ。

 そういうところが好きなんだけど。

 

 というわけで、楽しい会話はたのしい授業へと変わっていった。

 まずは基本的なことから。これが分からなければ、ハッキングなんて夢のまた夢だ。

 一つ一つ、できるだけ丁寧に教えていく。ちゃんと伝わっているのかは不安だけど、止められたりはしないから大丈夫かな?

 

 ……それにしても、呑み込みが早い。

 私が誰かに教わった時は、こんなにもさくさく進められたっけ。まあ、その記憶もないんだけどさ。

 誰かに教えられた知識であることはわかっているのに、その誰かが分からないだなんて。やっぱり、なんかいやだなぁ。

 

「あれ。クレア、ここなんだけど……」

「ん? ああ、そこは……」

 

 分からないところが出たらしいけど、そこも一回の説明で納得できたようだ。

 うーん。これはもしかして、余計なことをしちゃったかも?

 教えないという選択肢はなかったけれど、ここまで呑み込みが早いと、ちょっと後悔しちゃいそうだ。

 

「こわいなぁ……」

「え、なにが?」

「白乃が」

「えっ、なんで!?」

 

 あー、こわいこわい。

 

 何かやらかしたかなぁ、なんて首をかしげる白乃を横目に、次教えることの画面を作る。

 それを見せてみれば、すぐに白乃はその画面に釘付けになった。

 よし、なんとか誤魔化せた。まさか、彼女の切り替えの良さがこんなところで役立つとは。

 

 なんて、そんなじゃれあいもそこそこしながら、白乃と授業を始めて数時間。

 ついにお昼時になってしまった。朝からここまで、彼女とずっと一緒だったということだ。

 

「んーっ! なんか、甘いもの食べたくなってきたなぁ」

「頭使ったからじゃない。お昼時だし、ロールケーキ奢ろうか?」

「遠慮します!!」

「流石にそこまで全力で拒否されるのは悲しいんだけど……」

 

 冗談だよ、冗談。

 そう伝えてみるが、白乃の視線はなんか呆れている。

 

 私、そこまで信用ない? あ、そう……。

 

 *

 

 白乃と共に昼食も食べ終え、今度は図書館で授業をしてみようと話していた時だった。

 私の端末に、一通のメールが届いたのは。

 

「ごめん、ちょっと確認するね」

 

 一言断りを入れ、届いたメールを確認する。

 そこには、見慣れた一文が書かれていた。

 

『2階掲示板にて、次の対戦者を発表する』

 

 きた。一応、昨日決戦を終えたばかりだったんだけどな。

 心の中でそんなことを愚痴っても、実際に文句は言う手段はない。白乃には悪いが、今日はここで別れさせてもらおう。

 

「ごめん。私、三回戦が始まったみたい」

 

 メールを見せながら、苦笑いを浮かべてみる。

 心配されないようにと笑顔を浮かべたが、あまり意味はなかったらしい。

 まあ、そりゃあそうか。殺し合いに向かいますと言っているようなものだし。

 

 そう思っていたが、白乃が心配してくれたところは、他にもあったらしい。

 

「クレア、大丈夫なの?」

 

 真剣な瞳で彼女は私を見つめる。 

 その言葉に、白乃は私の様子がおかしかったのに気づいていたのだと、今更ながらに察した。

 

「うん、もう大丈夫。白乃のお陰だよ」

 

 だから、今度こそ安心させるために笑顔を浮かべる。

 さっきみたいにぎこちないものではなく、自然と浮かんできたものを。

 

 白乃は私を私として見て、接してくれた。

 私のわがままにも付き合ってくれた。それだけで、もう十分に心は安らいだ。

 だから、次も目標のために頑張れる。

 

「そ、っか……気を付けてね、クレア」

「もちろん。また後でね、白乃」

 

 手を振り合い、彼女とはそこで別れた。

 そのまま二階に向かい、掲示板を確認する。

 

 

マスター:ハーレン・トエシュガーレ

 

決戦場:三の月想海

 

「ハーレン・トエシュガーレ……」

 

 当たり前だが、やはり聞いたことのない名前だ。いつも通り、アリーナに行く前に情報収集をしておこう。

 遠坂、は見返りが少し怖いな。まだ前回の借りを返せていないし。やはり、ここは善良そうなマスターとラニに……。

 

「────────っ!?」

 

 突然、背筋に悪寒が走る。

 身に覚えのある(・・・・・・・)恐怖に、無意識に身体は反応する。

 飛び退きながら背後を振り返れば、そこには一人の男性が立っていた。

 

「……お前が、相手か」

 

 呟かれた言葉には、なんの感情も乗ってはいなかった。戸惑いも、決意も敵意も。

 思わず、彼の瞳を見てしまう。

 

 目は口程に物を言う。その言葉に間違いはないと思っているからこそ、彼の瞳から何かを読み取ろうと思ったのだ。

 けれど、その目にすらなんの感情も乗っていなかった。

 

 だというのに、背筋に走る悪寒は収まらない。

 感情を持たないまま、彼は私に殺気を向けている。それが、酷く恐ろしいと思った。

 

「……」

 

 ただ、お互いに無言の時間が過ぎていく。

 それから、一体どれぐらいの時間が経ったんだろう。

 

 結局彼は一言も話さないまま、そのまま踵を返しどこかへと行ってしまった。

 

「っは、ぁ……!」

 

 詰まっていた息を吐く。強張っていた体の力が抜ける。

 座り込みたくなるのは我慢して、ゆっくり深呼吸を繰り返した。

 

「今回は、ちょっと厳しそうだな……」

 

 思わずそう呟いてしまう程度には、衝撃的な出会いだった。

 まさか初っ端から殺気を向けられるとは、正直思っていなかった。

 でもきっと、これが普通なんだろう。今までの二人が温厚だったから、あんなにも穏やかな出会いだった。聖杯戦争としてはこれが正常で、今までが異常だったのだ。

 これからは認識を改めないといけない。きっと今回の戦いは、今までよりも過激なものとなるだろう。

 

「……よし!」

 

 気合を入れ替える。

 まずはアリーナに行く前に情報収集と、アイテムの確認だ。

 今日から始まるのは予想外で、アイテムの補充はまだやっていない。木刀の代わりとなるものを探さないといけないし、一度は購買に行くべきだ。

 

 そうと決まれば、早速向かおう。その途中で情報も集めていけば、少しは時間短縮を図れる。

 今回は特に時間を大切にしなければならない。不思議と、そんな確信があった。

 

 




 というわけで、ついに三回戦が始まりました!
 今回はほのぼの話。区切りのいいところで切ったので、いつもよりは少なめですが。
 ぜひ二人の仲の良さを知っていただけたらなぁと思います。

 ちなみに作者はこれのヒロインは白乃だったっけと勘違いしそうになりました()
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