Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第三十三話 存在意義

 情報を集めるため、校内を巡ること数分。

 本命であるラニには出会えなかったが、何人かの生徒に話しかけることができた。

 しかし収穫はない。誰もが”ハーレン・トエシュガーレ”のことは知らないと首を振ったからだ。

 

 この結果からは、彼は小鳥遊と同じただの一般人だと推測できる、けど。

 

「一般人があんな殺気を出すとは思えない」

 

 引っかかるのはその一点だけ。でも、彼が一般人だと思えない理由には十分だ。

 私には彼がある程度殺しに慣れた人間のように見えた。

 だからその方向で考えるとして……名前が知られてないとなると、暗殺者とかかもしれない。秘匿主義なイメージあるし。

 

 とはいえ、結局は第一印象から来る予想、いや、妄想だ。

 だからこそ、ラニにも話を聞かなければ。誰も知らなかったことでも、彼女なら知っているはずだ。

 

 けれどもし、彼女が情報を持っていなかったら。その時は、遠坂やレオを頼ることになるだろう。

 遠坂には既に借りを作っているし、レオに関しては気軽に頼れる仲ですらないけど……トエシュガーレは、そうも言っていられない相手だ。

 

 まあでも、今日できる情報収集はここまで。

 次は探索準備のため、再び購買へと向かう。木刀の代わりとなる礼装を探すためだ。

 

 矢上との戦いで投げつけてしまった木刀は、今は手元にすらない。もしあったなら、何か再利用できたかもしれないのに。

 いくら必死だったとはいえ、あとのことを考えずに行動したのは失敗だった。

 せめて、似たような効果の礼装を手に入れられると一番なんだけど。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 物騒な謳い文句は聞き流し、並ぶ商品に目を通す。

 アイテム類の品揃えに変化はないが、礼装は一つ増えていた。

 

「『空気撃ち/一の太刀』?」

 

 今までは物の名称だったのに、なんでこれは技の名前なんだろう。

 ……まあ、それも効果を聞けばわかるか。さすがに関係ない名前をつけたりはしないだろうし。 

 

「あの、この礼装の効果を教えてほしいのだけど」

「はい! えーと、そちらはスキル付与の礼装になります!」

「スキル付与?」

 

 初めて聞く単語に思わず首をかしげる。すると、購買部員は慣れたようにスキル付与の説明をしてくれた。

 曰く、サーヴァントに新たなスキルを付与できるらしい。まさに読んで字のごとし、ってやつだ。

 

 しかし、流石は購買部員。疑問を抱いた瞬間に答えるとは。

 些か早口ではあったけれど、聞き取りやすくわかりやすかった。

 

 閑話休題(それはともかく)。 

 それだけ聞くと、これはすごい礼装だ。

 サーヴァントへのハッキングを、魔力を流すだけでできるのだから。

 ただ、肝心なところはまだ聞けていない。この礼装が付与するスキルは、どんなスキルなんだろう。

 

「これで付与できるスキルは『release_mgi(c)(魔力放出)』。敵に向かって放てば、スタン効果も発揮する仕様となってます! ただ、使用できるのは一度きり。もう一度スキルを使いたい場合は、再度付与していただく形になります」

 

 ふむ。効果は永続ではない、と。

 まあ、一時的でもスキルを付与できるのはいい。色々検証は必要だが、うまく行けば戦闘の幅は広げられるだろう。

 けど、求めていたものかと言われると少し微妙だ。

 

 効果自体は求めていたものに違いない。むしろ同じものが手に入るとは思っていなかったから、そこに関しては喜ばしい。

 問題は使用者だ。話を聞く感じ、これはあくまでサーヴァント用。マスターが放つことは想定していないだろう。

 私が『shock(16)(電撃)』を放っていたからこそできていた動きが、これではできなくなる可能性が高い。

 

「じゃあこれと、あとは治療薬を」

「ご購入、ありがとうございます!」

 

 とはいえ、買わないという選択肢はない。礼装の他にも、消費したアイテムを購入することにした。

 軽快な音と共に決済は完了し、残り金額を確認する。

 

 うわっ、流石は礼装。貯めていたお金が一気に減った。まだある程度は残っているけど……今後も礼装での出費は酷そうだ。

 できるかぎりアリーナで稼いでおこう。

 

「ん?」

 

第一暗号鍵(プライマリトリガー)を生成。第一層にて取得されたし』

 

 そしてタイミングよく、暗号鍵(トリガー)作成のメールが届いた。

 これで私たちはアリーナへ行ける。それは、相手も同じだ。

 

 彼よりも先にアリーナへ行って、アイテムとかを取っておこう。もし礼装を取られてしまえば、その分こっちが不利になる。それを防ぐためにも、早速向かうとしよう。

 

 *

 

 今回のアリーナは、今までとはだいぶ様子が違っていた。

 フロアを繋ぐ廊下がなく、一つ一つがまるで宙に浮いているようだ。

 とはいえ、本当に廊下がないわけではない。目に見えない、つまり、隠し通路なだけ。

 

 とはいっても、目に見えないと咄嗟に逃げるのは難しい気がする。

 道は覚えて、そんな状況にもならないように注意しないと。

 それから、敵の行動パターンも新しくなってるし、相手が来ないうちにそれも覚えておきたい。

 

 うーん。やっぱり一日目はやることでいっぱいだ。

 地道に数をこなしていくしかないかぁ。

 

「ねえ、さっき買ったばかりの礼装を試してみてもいい?」

「……そうね、敵が来る前にやっておきましょう」

「ありがとう」

 

 それじゃあ、と丁度目の前にいた箱型のエネミーを指し示す。

 周囲に敵は見当たらない。礼装を試すにはいい状況だ。

 

release_mgi(c)(魔力放出)

 

 ランサーに向かって礼装を発動するも、変わった様子は見られない。

 まあスキル付与だし、目には見えないものなんだろう。となると、確認は端末でかな?

 早速端末を取り出し、ランサーのステータス欄を確認する。そこには、”魔力放出E”の記載が増えていた。

 

「ふぅん……」

 

 彼女は軽く体を動かした後、踊るように足を振るう。

 そこから放たれた魔力の衝撃波は、吸い込まれるようにエネミーに向かっていった。

 

「おお」

「悪くはないわね」

 

 衝撃波が直撃したエネミーの動きは止まっている。

 店員さんが言っていた通り、スタン効果が働いているんだろう。効果時間は、木刀より少し長いかな?

 動作はランサーの遠距離スキルと同じ動きでよさそうだし、フェイントで使えそう。問題はサーヴァント相手へどれくらい効くのか、か。まあ、使い勝手は悪くない礼装だ。

 よし、それじゃあ次は自分に向かって発動してみよう。

 

 やり方は同じで、発動先を変えて魔力を流す。

 瞬間、なにかが弾け飛んだような音が聞こえた、気がした。

 

「────────!?」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 気づけば全身に激痛が走り、魔力の動きを止めていた。

 

「なにをしているの!!」

 

 魔力を流したのは、ほんの一瞬。しかも、発動にすら至らない量だったはずだ。

 なのに身体が悲鳴を上げた。

 もしあのまま魔力を止めず、礼装を使っていたら……。

 

「それはサーヴァント用よ。私たちと貴女たちはセキュリティの高さが違う。それなのに、同じハッキングを受ければ」

「他のところも壊される、と……ぃった」

「自業自得よ」

 

 そりゃあそうだ。よく考えればわかることだった。

 それなのに気づけなかった。いや、考えようとしなかったのかもしれない。

 

「焦ってるのかなぁ……」

 

 今回の相手は強敵だ。

 前回強敵だと感じた矢上以上だと、そう思っている。

 

 だから、なんとしてでも攻撃手段を手に入れたかった。その結果がこれとは、なんと情けない。

 

「……っよし!」

 

 頬を打ち、呼吸を整える。

 地道に進むしかないと、そう思ったばかりじゃないか。 

 

 攻撃手段に関しては、アリーナにある礼装に賭けよう。購買ではもう増えないだろうし。

 とりあえず、今は前に進むしかないのだ。

 

「ごめん、もう大丈夫。先に進もう」

 

 『空気撃ち/一の太刀』の使い方もわかった。今はそれだけで十分だ。

 だから、次はエネミーの行動パターンを……!

 

「っランサー」

「ええ、わかってるわ」

 

 空気が変わる。

 でも、それは一瞬で元に戻ってしまった。

 

 一瞬感じた気配は、間違いなくサーヴァントのものだ。なのに、すぐに感じ取れなくなった。

 今までも感じ辛いことはあったが、それでも微かならわかったのに。今は一欠けらも感じ取れない。

 

 と、いうことは。

 

「アサシンでしょうね」

「やっぱり」

 

 前回教えてもらったアサシンのスキル。この状況は、きっとそれが作用しているのだろう。

 なら、警戒すべきは奇襲。そして狙うなら私だ。

 

 防御で必須な礼装、『木盾』を装備しているのを確認する。

 いつでも発動できるように準備をしながら、足を進めた。

 

 そして数分。現在地は恐らくアリーナの半分程度。

 エネミーを避けながら進んだおかげか、ここまで簡単にくることができた。

 本当は攻撃パターンの調査がしたかったけど、今回ばかりはそうも言ってられない。通路がすべて隠れているこの階層では、地形把握が重要だ。

 さらにトエシュガーレたちもアリーナに入ってきており、サーヴァントはアサシンと予想される。そんな状況の今、優先すべきがどちらかは明白だ。

 

 だからこそ、先に進んでいたのだけど。ここまでなにもないのは、少し不気味だ。

 相手からの奇襲を想定してマッピングを優先したが、向こうから仕掛けてくる気はないんだろうか。もしそうならば、こちらから攻めるしかないけど……今日はやめておこう。

 こちらから仕掛けるには、戻って彼らを見つけなければならない。奇襲がないという確信が持てない現状で、それをするのは悪手だ。

 とりあえず、今日はこのまま校舎に────。

 

「クレアッ!」

「っprotect(16)(防壁)!!」

 

 背中に悪寒が走り、礼装を発動しながらその場を飛びのく。

 ほとんど無意識での行動だったが、逆にそれが功を制した。

 

「いっ……!」

 

 迫る刃が『protect(16)(防壁)』に阻まれ動きを止める。けれど、それも一瞬。次の瞬間には、まるで豆腐のように切り裂かれてしまう。

 それでも、その一瞬でなんとか急所を避けることはできた。

 

 それさえできれば、追撃はランサーが対処してくれる。

 弾き合う金属の音を耳にしながら、できるだけ距離を取った。 

 

 首元を伝う液体が気持ち悪い。

 深い傷ではないが、決して浅いわけではない。この程度の傷ですんでよかったと、ついほっと息をついた。

 

「怪我は?」

「そこまで深くはないけど、首だし保健室に行きたいな」

「そう、無駄口を叩く余裕があるなら平気ね」

 

 少しはノってくれてもいいのに、なんてのは心の中に留めておく。さっきの無駄口で、少しは鼓動も落ち着いた。

 本当は、今でも脚が震えそうなくらい怖いけど。

 

「ほーら、だから言ったじゃないですか。奇襲なんてつまらないことやめよう、って」

「黙れアサシン。貴様、手を抜いたな」

「そんなわけありませんよ! そりゃあ、ここで終わるのはつまらないと思いましたけど……私はあなたに逆らえない。そうでしょう、マスター」

 

 トエシュガーレの隣にいる彼が、アサシンのサーヴァント。

 見た目は、普通のスーツをきた中老の男性だ。言葉遣いも丁寧で、温厚な紳士に見える。

 でもさっき振るわれた刃は、死とはまた違う恐怖を感じさせられるものだった。そんなものを向けてきた彼が、普通なわけがない。

 

「まあいい、行け」

「はい」

「え」

 

 殺意も、予備動作すらなかった。

 気づけばランサーが飛び出していて、鋭い足を蹴り上げる。

 軽い身のこなしでそれを避けたアサシンが、ナイフを突き刺そうと動くのを見て、咄嗟に手を伸ばした。

 

protect(16)(防壁)!」

 

 狙うは切っ先。範囲は狭く、その代わりに強度を上げて。

 さっきはいとも簡単に切り裂かれてしまったが、これなら……!

 

「嘘でしょ……!?」

 

 ナイフが止まったのは、ほんの数秒だけ。

 先程よりは長い時間止めることができたのは確かだ。けれど、それだけ。完全に受け止めることはできなかった。

 

 数秒さえあれば、ランサーは避けられる。だから別に悪いわけではない。

 でも、止められる自信があった分、突き崩されたのがショックだった。

 攻撃手段はなく、防御も不完全。そんな私が、戦闘に参加する意味なんて……。

 

「そんなことない……!」

 

 自分の考えを振り払うよう、悪態をつく。

 悔しくて、情けなくて俯きそうになる顔を上げる。

 意味はあるはずだと。私は、ランサーの役に立っているんだと。そう信じたくて、コードキャストを紡いでいく。

 礼装を変え、手段を変え。何度も何度も、ただひたすらに。

 

 ────でも、ランサーの刃は、相手に届くことはなかった。

 

「……この程度か」

 

 戦闘が終わる。

 息を切らす私と対照的に、トエシュガーレはなに一つの乱れもなくその場に立っていた。

 そして、いくつか切り傷を作ってしまったランサーとほぼ無傷なアサシン。

 力量の差は、はっきりとしていた。

 

「戻るぞ」

「おや、いいのですか?」

「あの程度ならいつでも殺せる」

「そうですか。私はもっと楽しみたかったのですが……残念」

 

 なのに、あいつらは無防備に背中をさらす。

 私なんか見向きもせず、そのまま来た道を戻っていった。

 

 私は、それを見つめることしかできない。

 

「っくそ!」

 

 私だけのせいではない。

 ランサーだけの力でも、あのアサシンには届かなかった。それは間違いない。

 

 間違いない、けど。そうさせてしまったのは、私だ。

 もしマスターがラニや遠坂なら、彼女は本来の力をもって現界した。

 その力さえあれば、きっとこんな結果は残さない。

 私が弱いから、ランサーも弱くなった。その事実が、死にたくなるくらい嫌だった。

 

「クレア」

「っ!」

「いつまで俯いているの。行くわよ」

 

 ランサーが話す声色は、変わらない。

 悔しくないのだろうか。私が、憎くないのだろうか。

 弱くなったのは私のせいだと、そう罵ってくれたら楽になるのに……。

 

「ぁ……」

 

 ふいに、冷たいきれいな青の瞳と目があった。

 私の心を見透かすような、まっすぐな瞳。

 

 でも、その目に私は、映ってない。

 

「っ!」

 

 ───────強くなりたい。

 

 今までは弱い力を工夫することで何とかやってこれた。

 だれどそれでは、今回の敵には通じない。

 

 だから、力が欲しい。

 この綺麗な人が、なんの障害もなく、自由に美しく舞えるように。

 守られるだけじゃなくて、私がランサーを守れるように。

 

 そんな力を手にいれたら、彼女は私を、映してくれるんだろうか。

 

 




 今回は、クレアさん惨敗回。
 そして彼女が力が欲しいと明確に思ったのは、なんだかんだ初めてな気がしますね。気のせいかもしれないけど()

 とにかく、三回戦が本格始動! これからの展開をお楽しみにしていただければな、と思います。
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