Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
情報を集めるため、校内を巡ること数分。
本命であるラニには出会えなかったが、何人かの生徒に話しかけることができた。
しかし収穫はない。誰もが”ハーレン・トエシュガーレ”のことは知らないと首を振ったからだ。
この結果からは、彼は小鳥遊と同じただの一般人だと推測できる、けど。
「一般人があんな殺気を出すとは思えない」
引っかかるのはその一点だけ。でも、彼が一般人だと思えない理由には十分だ。
私には彼がある程度殺しに慣れた人間のように見えた。
だからその方向で考えるとして……名前が知られてないとなると、暗殺者とかかもしれない。秘匿主義なイメージあるし。
とはいえ、結局は第一印象から来る予想、いや、妄想だ。
だからこそ、ラニにも話を聞かなければ。誰も知らなかったことでも、彼女なら知っているはずだ。
けれどもし、彼女が情報を持っていなかったら。その時は、遠坂やレオを頼ることになるだろう。
遠坂には既に借りを作っているし、レオに関しては気軽に頼れる仲ですらないけど……トエシュガーレは、そうも言っていられない相手だ。
まあでも、今日できる情報収集はここまで。
次は探索準備のため、再び購買へと向かう。木刀の代わりとなる礼装を探すためだ。
矢上との戦いで投げつけてしまった木刀は、今は手元にすらない。もしあったなら、何か再利用できたかもしれないのに。
いくら必死だったとはいえ、あとのことを考えずに行動したのは失敗だった。
せめて、似たような効果の礼装を手に入れられると一番なんだけど。
「いらっしゃいませー!」
物騒な謳い文句は聞き流し、並ぶ商品に目を通す。
アイテム類の品揃えに変化はないが、礼装は一つ増えていた。
「『空気撃ち/一の太刀』?」
今までは物の名称だったのに、なんでこれは技の名前なんだろう。
……まあ、それも効果を聞けばわかるか。さすがに関係ない名前をつけたりはしないだろうし。
「あの、この礼装の効果を教えてほしいのだけど」
「はい! えーと、そちらはスキル付与の礼装になります!」
「スキル付与?」
初めて聞く単語に思わず首をかしげる。すると、購買部員は慣れたようにスキル付与の説明をしてくれた。
曰く、サーヴァントに新たなスキルを付与できるらしい。まさに読んで字のごとし、ってやつだ。
しかし、流石は購買部員。疑問を抱いた瞬間に答えるとは。
些か早口ではあったけれど、聞き取りやすくわかりやすかった。
それだけ聞くと、これはすごい礼装だ。
サーヴァントへのハッキングを、魔力を流すだけでできるのだから。
ただ、肝心なところはまだ聞けていない。この礼装が付与するスキルは、どんなスキルなんだろう。
「これで付与できるスキルは『
ふむ。効果は永続ではない、と。
まあ、一時的でもスキルを付与できるのはいい。色々検証は必要だが、うまく行けば戦闘の幅は広げられるだろう。
けど、求めていたものかと言われると少し微妙だ。
効果自体は求めていたものに違いない。むしろ同じものが手に入るとは思っていなかったから、そこに関しては喜ばしい。
問題は使用者だ。話を聞く感じ、これはあくまでサーヴァント用。マスターが放つことは想定していないだろう。
私が『
「じゃあこれと、あとは治療薬を」
「ご購入、ありがとうございます!」
とはいえ、買わないという選択肢はない。礼装の他にも、消費したアイテムを購入することにした。
軽快な音と共に決済は完了し、残り金額を確認する。
うわっ、流石は礼装。貯めていたお金が一気に減った。まだある程度は残っているけど……今後も礼装での出費は酷そうだ。
できるかぎりアリーナで稼いでおこう。
「ん?」
『
そしてタイミングよく、
これで私たちはアリーナへ行ける。それは、相手も同じだ。
彼よりも先にアリーナへ行って、アイテムとかを取っておこう。もし礼装を取られてしまえば、その分こっちが不利になる。それを防ぐためにも、早速向かうとしよう。
*
今回のアリーナは、今までとはだいぶ様子が違っていた。
フロアを繋ぐ廊下がなく、一つ一つがまるで宙に浮いているようだ。
とはいえ、本当に廊下がないわけではない。目に見えない、つまり、隠し通路なだけ。
とはいっても、目に見えないと咄嗟に逃げるのは難しい気がする。
道は覚えて、そんな状況にもならないように注意しないと。
それから、敵の行動パターンも新しくなってるし、相手が来ないうちにそれも覚えておきたい。
うーん。やっぱり一日目はやることでいっぱいだ。
地道に数をこなしていくしかないかぁ。
「ねえ、さっき買ったばかりの礼装を試してみてもいい?」
「……そうね、敵が来る前にやっておきましょう」
「ありがとう」
それじゃあ、と丁度目の前にいた箱型のエネミーを指し示す。
周囲に敵は見当たらない。礼装を試すにはいい状況だ。
「
ランサーに向かって礼装を発動するも、変わった様子は見られない。
まあスキル付与だし、目には見えないものなんだろう。となると、確認は端末でかな?
早速端末を取り出し、ランサーのステータス欄を確認する。そこには、”魔力放出E”の記載が増えていた。
「ふぅん……」
彼女は軽く体を動かした後、踊るように足を振るう。
そこから放たれた魔力の衝撃波は、吸い込まれるようにエネミーに向かっていった。
「おお」
「悪くはないわね」
衝撃波が直撃したエネミーの動きは止まっている。
店員さんが言っていた通り、スタン効果が働いているんだろう。効果時間は、木刀より少し長いかな?
動作はランサーの遠距離スキルと同じ動きでよさそうだし、フェイントで使えそう。問題はサーヴァント相手へどれくらい効くのか、か。まあ、使い勝手は悪くない礼装だ。
よし、それじゃあ次は自分に向かって発動してみよう。
やり方は同じで、発動先を変えて魔力を流す。
瞬間、なにかが弾け飛んだような音が聞こえた、気がした。
「────────!?」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
気づけば全身に激痛が走り、魔力の動きを止めていた。
「なにをしているの!!」
魔力を流したのは、ほんの一瞬。しかも、発動にすら至らない量だったはずだ。
なのに身体が悲鳴を上げた。
もしあのまま魔力を止めず、礼装を使っていたら……。
「それはサーヴァント用よ。私たちと貴女たちはセキュリティの高さが違う。それなのに、同じハッキングを受ければ」
「他のところも壊される、と……ぃった」
「自業自得よ」
そりゃあそうだ。よく考えればわかることだった。
それなのに気づけなかった。いや、考えようとしなかったのかもしれない。
「焦ってるのかなぁ……」
今回の相手は強敵だ。
前回強敵だと感じた矢上以上だと、そう思っている。
だから、なんとしてでも攻撃手段を手に入れたかった。その結果がこれとは、なんと情けない。
「……っよし!」
頬を打ち、呼吸を整える。
地道に進むしかないと、そう思ったばかりじゃないか。
攻撃手段に関しては、アリーナにある礼装に賭けよう。購買ではもう増えないだろうし。
とりあえず、今は前に進むしかないのだ。
「ごめん、もう大丈夫。先に進もう」
『空気撃ち/一の太刀』の使い方もわかった。今はそれだけで十分だ。
だから、次はエネミーの行動パターンを……!
「っランサー」
「ええ、わかってるわ」
空気が変わる。
でも、それは一瞬で元に戻ってしまった。
一瞬感じた気配は、間違いなくサーヴァントのものだ。なのに、すぐに感じ取れなくなった。
今までも感じ辛いことはあったが、それでも微かならわかったのに。今は一欠けらも感じ取れない。
と、いうことは。
「アサシンでしょうね」
「やっぱり」
前回教えてもらったアサシンのスキル。この状況は、きっとそれが作用しているのだろう。
なら、警戒すべきは奇襲。そして狙うなら私だ。
防御で必須な礼装、『木盾』を装備しているのを確認する。
いつでも発動できるように準備をしながら、足を進めた。
そして数分。現在地は恐らくアリーナの半分程度。
エネミーを避けながら進んだおかげか、ここまで簡単にくることができた。
本当は攻撃パターンの調査がしたかったけど、今回ばかりはそうも言ってられない。通路がすべて隠れているこの階層では、地形把握が重要だ。
さらにトエシュガーレたちもアリーナに入ってきており、サーヴァントはアサシンと予想される。そんな状況の今、優先すべきがどちらかは明白だ。
だからこそ、先に進んでいたのだけど。ここまでなにもないのは、少し不気味だ。
相手からの奇襲を想定してマッピングを優先したが、向こうから仕掛けてくる気はないんだろうか。もしそうならば、こちらから攻めるしかないけど……今日はやめておこう。
こちらから仕掛けるには、戻って彼らを見つけなければならない。奇襲がないという確信が持てない現状で、それをするのは悪手だ。
とりあえず、今日はこのまま校舎に────。
「クレアッ!」
「っ
背中に悪寒が走り、礼装を発動しながらその場を飛びのく。
ほとんど無意識での行動だったが、逆にそれが功を制した。
「いっ……!」
迫る刃が『
それでも、その一瞬でなんとか急所を避けることはできた。
それさえできれば、追撃はランサーが対処してくれる。
弾き合う金属の音を耳にしながら、できるだけ距離を取った。
首元を伝う液体が気持ち悪い。
深い傷ではないが、決して浅いわけではない。この程度の傷ですんでよかったと、ついほっと息をついた。
「怪我は?」
「そこまで深くはないけど、首だし保健室に行きたいな」
「そう、無駄口を叩く余裕があるなら平気ね」
少しはノってくれてもいいのに、なんてのは心の中に留めておく。さっきの無駄口で、少しは鼓動も落ち着いた。
本当は、今でも脚が震えそうなくらい怖いけど。
「ほーら、だから言ったじゃないですか。奇襲なんてつまらないことやめよう、って」
「黙れアサシン。貴様、手を抜いたな」
「そんなわけありませんよ! そりゃあ、ここで終わるのはつまらないと思いましたけど……私はあなたに逆らえない。そうでしょう、マスター」
トエシュガーレの隣にいる彼が、アサシンのサーヴァント。
見た目は、普通のスーツをきた中老の男性だ。言葉遣いも丁寧で、温厚な紳士に見える。
でもさっき振るわれた刃は、死とはまた違う恐怖を感じさせられるものだった。そんなものを向けてきた彼が、普通なわけがない。
「まあいい、行け」
「はい」
「え」
殺意も、予備動作すらなかった。
気づけばランサーが飛び出していて、鋭い足を蹴り上げる。
軽い身のこなしでそれを避けたアサシンが、ナイフを突き刺そうと動くのを見て、咄嗟に手を伸ばした。
「
狙うは切っ先。範囲は狭く、その代わりに強度を上げて。
さっきはいとも簡単に切り裂かれてしまったが、これなら……!
「嘘でしょ……!?」
ナイフが止まったのは、ほんの数秒だけ。
先程よりは長い時間止めることができたのは確かだ。けれど、それだけ。完全に受け止めることはできなかった。
数秒さえあれば、ランサーは避けられる。だから別に悪いわけではない。
でも、止められる自信があった分、突き崩されたのがショックだった。
攻撃手段はなく、防御も不完全。そんな私が、戦闘に参加する意味なんて……。
「そんなことない……!」
自分の考えを振り払うよう、悪態をつく。
悔しくて、情けなくて俯きそうになる顔を上げる。
意味はあるはずだと。私は、ランサーの役に立っているんだと。そう信じたくて、コードキャストを紡いでいく。
礼装を変え、手段を変え。何度も何度も、ただひたすらに。
────でも、ランサーの刃は、相手に届くことはなかった。
「……この程度か」
戦闘が終わる。
息を切らす私と対照的に、トエシュガーレはなに一つの乱れもなくその場に立っていた。
そして、いくつか切り傷を作ってしまったランサーとほぼ無傷なアサシン。
力量の差は、はっきりとしていた。
「戻るぞ」
「おや、いいのですか?」
「あの程度ならいつでも殺せる」
「そうですか。私はもっと楽しみたかったのですが……残念」
なのに、あいつらは無防備に背中をさらす。
私なんか見向きもせず、そのまま来た道を戻っていった。
私は、それを見つめることしかできない。
「っくそ!」
私だけのせいではない。
ランサーだけの力でも、あのアサシンには届かなかった。それは間違いない。
間違いない、けど。そうさせてしまったのは、私だ。
もしマスターがラニや遠坂なら、彼女は本来の力をもって現界した。
その力さえあれば、きっとこんな結果は残さない。
私が弱いから、ランサーも弱くなった。その事実が、死にたくなるくらい嫌だった。
「クレア」
「っ!」
「いつまで俯いているの。行くわよ」
ランサーが話す声色は、変わらない。
悔しくないのだろうか。私が、憎くないのだろうか。
弱くなったのは私のせいだと、そう罵ってくれたら楽になるのに……。
「ぁ……」
ふいに、冷たいきれいな青の瞳と目があった。
私の心を見透かすような、まっすぐな瞳。
でも、その目に私は、映ってない。
「っ!」
───────強くなりたい。
今までは弱い力を工夫することで何とかやってこれた。
だれどそれでは、今回の敵には通じない。
だから、力が欲しい。
この綺麗な人が、なんの障害もなく、自由に美しく舞えるように。
守られるだけじゃなくて、私がランサーを守れるように。
そんな力を手にいれたら、彼女は私を、映してくれるんだろうか。
今回は、クレアさん惨敗回。
そして彼女が力が欲しいと明確に思ったのは、なんだかんだ初めてな気がしますね。気のせいかもしれないけど()
とにかく、三回戦が本格始動! これからの展開をお楽しみにしていただければな、と思います。