Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
いつも通り身だしなみを整えながら、昨日の収穫を思いだし、それにあわせて今日の行動を考える。
昨日の収穫はいくつかあるが、やはり一番はレオから貰ったハーレン・トエシュガーレの情報だろう。
彼の過去から家族構成、更には使用する武器まで。本当に色んな情報が書かれていた。
でも、その中に戦闘で使用していた銃に関しての情報はなかった。他のものは種類まで書いてあったのにも関わらず、だ。
そこから考えられるのは、レオから貰った情報に欠けがあったか、もしくはこの戦いのために新調してきたかの二択。
まあ、恐らく後者だろうとは思う。でも、貰った情報になかったのもまた事実。
やっぱり、全てを鵜呑みにはできない。参考程度に留めておこう。
にしても、あの銃は一体なんなのだろう。
普通の拳銃なら、何発か撃てばリロードが入る。だけど、トエシュガーレがそれをしている様子はなかった。
弾丸も普通のものではなかったし。どっちかと言うと『
「あ、あれ魔力か」
今まで悩んでたのが嘘みたいに、すぐに答えは出てきた。
魔力を銃弾のように撃ちだしているのだと思えば、最後のも納得できる。
あれも礼装の一種、なのかな?
まあ違ったとしても、ああいうのもあると知れたのはよかった。
次にあの銃をとりだしてきたら、『
でも解析して理解するには、結構な集中力を使う。今の実力では戦闘中にそんなことはできない。
そう思うと、『
別の方法も考えておこう。
それ以外で手に入れたのは、頼まれていた望遠鏡と、私の記憶の気配。
望遠鏡は明日届ける約束だが、記憶の方は今日取り戻せるかもしれない。
校舎でやることはないし、今日は早めにアリーナに行こうかな。
今回の記憶があの不思議な術に関することなら、アリーナで試せるだろうし。
とはいえ、校舎でなにもしないままアリーナへ行くのも、少々もったいない。
アリーナに行ってしまえば、帰ってきたあとの行動を制限されてしまうからだ。
午前中くらいは、校舎でなにかやっておいた方がいいだろう。
そう、だな……確か、桜のところに行けばアイテムがもらえるはずだ。
うん。他にやることはないし、保健室でアイテムを貰ってこよう。
*
朝食ついでに買ったお土産を手に階段を登る。
最後の一段を登り切ったとき、突然上の方からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
思わず、二階に続く階段を見上げる。
そこで見たのは、どこか急いだ様子で階段を駆け下りる女の子だった。
「わっ」
「あ、ごめんなさい! ケガはないかしら?」
まさか女の子が駆け下りてくるなんて思わず、つい声を上げてしまった。
それに気づいた少女は、眉を落とし心配そうに声を掛けてくれる。
「だ、大丈夫。ぶつかってもないし、怪我はないよ」
足を曲げ、視線を合わせてほほ笑む。
少女は安心したように息を吐き出してから、礼儀正しく頭を下げた。
「本当にごめんなさい」
「そんなに気にしないで。でも、階段を駆け下りるのは危ないよ」
「はぁい……」
軽く注意をすれば、少女は反省したように返事をした。
本人も危ないことは分かってそうだし、これ以上はいいだろう。
それに、この子もきっとマスターだ。万が一のときはサーヴァントが助けるはずだ。
「そういえば急いでたみたいだけど、時間は大丈夫?」
「あっ、そうよ!
「兎さん?」
不思議な言葉に首を傾げるが、少女の意識は既にこちらにはなかった。
可愛らしいドレスを翻し、校舎の外に続く昇降口へと駆けていく。
「それじゃあ、また会いましょう。紫のお姉ちゃん!」
最後に笑顔を見せた少女は、そのまま外へ走って行ってしまった。
小さく手を振ってみたが、きっと気づいてないだろう。
それにしても。
「紫のお姉ちゃん、って」
中々に不思議な呼称だ。まあ、自己紹介してなかったから、そう呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。
彼女は自分のことを『アリス』と呼んでいたから、多分それが名前なんだろうけど。
次出会ったら、ちゃんと自己紹介をしよう。
さて、じゃあ今度こそ桜のところへ……あれ?
今の子、走るときの足音はあまり大きくなかった。でも、バタバタしていた音は間違いなく上からしていたし……あれは一体なんだったんだ?
「待て待てー!!!!」
そんな微かな違和感に気づいた、まさにその瞬間。
また上から音が聞こえてきた。
再び階段を見上げる。
駆け下りてくるのは、先ほどの子とは真逆の色合いをした少女。その足音も、さっきとは違うとても大きなものだった。
「あ」
「あ」
真っ赤な瞳と目が合ったのは一瞬。
少女の体は前に倒れて───。
「うわああああッ!!???」
落ちてくると気づいたと同時に、絶叫が口から衝いて出た。
慌てて腕を伸ばし、落下地点に走り出す。
強い衝撃と痛みが同時に腕に走る。
でも、そんなの気にしちゃいられない。
そのまま腕を抱え込み、倒れる前に足を組み替える。
「ぐっ……!」
勢いよく臀部が床に打ち付けられ、そこからくる痛みに耐えきれず声が漏れた。
だけど、それもまだいい。
痛みに閉じた瞼を開く。
腕の中には、階段から落ちた少女が驚いた表情で収まったいた。
「よ、かったぁ」
強張っていた体から力が抜ける。
汚いけれど、思わず階段に背中を預けた。
「あ、ありがとう……?」
「……どういたしまして」
まだ状況がうまく理解できてないのか、どこか呆けた表情の少女がお礼を言う。
本当は怒らなきゃいけないんだろうけど、怒る気力もなく。とりあえず、無難な返事をしておいた。
軽く息をついて、少女を腕から降ろす。
少し痛む腕を軽く振り回し、調子を確認する。
痛みはあるけど、違和感はない。
いくら鍛えているとはいえ、子供一人受け止めたんだ。どこか違和感があってもおかしくはないんだけど……もしかしたら、また咄嗟に身体強化でもしていたのかも。
でもまあ、このあと保健室に行くことだし、ついでに診てもらおうか。
……いやほんと、桜の世話になりすぎだな、私。
「あ、あの!」
「ん?」
「えと、助けてくれてありがとう。怪我はないようだけど、痛くない? 大丈夫?」
落ちてきた少女は、真っ直ぐこちらを見ながら問いかける。
その瞳になぜだか違和感を覚えながらも、笑って返事をしてみせた。
「大丈夫、痛いところはないよ。君は?」
「ボクも大丈夫!」
「そう、ならよかった。これからは階段を走らないようにね」
「う、うん。気を付けるよ」
ドレスの少女にした注意をこの子にも投げかける。
あの子のようにしっかりと頷いたわけではないけど、今を状況を思うとそれも仕方ない。気を付けると言ってくれただけいいものだ。
「……ね、ねえ」
「どうかした?」
「えと、その……頭……」
頭?
……あ!
「ご、ごめん。つい」
気が付けば、私は少女の頭に手を乗せていた。
ふわふわとした髪の毛は触っていて心地いいが、初対面の少女にしていいことではない。
慌てて手を引こうとした瞬間、それは小さな手に阻まれた。
「ううん。もっとしていいよ」
アリスって子は兎さんって言っていたけど、目を細めて手にすり寄る姿は、まるで猫みたいだ。
あの子はどこを見てウサギって言ったんだろう。やっぱり、あの真っ赤な瞳かな。
って、赤?
そういえばこの子のこと、私どこかで見た覚えがある。どこでだっけ……。
「あっ! 君、予選のときの!」
「え、気づいてなかったの!?」
驚いて指摘すれば逆に驚かれてしまった。
この子はこの子で、私は気づいていると思っていたらしい。
いや、あんな状況で気づけと言う方が無理だと思う。
「まあいいや。ボクはホムラ。ホムラ・エカラットっていうんだ」
「私はクレア・ヴィオレット。よろしくね、ホムラ」
「うん!」
本当に嬉しそうに笑うホムラに、思わず笑みがこぼれた。
改めて、予選のときのお礼を伝える。
あの時ホムラがいなければ、私はここにいなかったかもしれない。私が今ここに生きているのは、間違いなくホムラのお陰だ。
「だからありがとう、ホムラ」
「う、えへへ……どういたしまして、お姉ちゃん!」
さっきとは逆だな、なんてことを思いながらまたその頭に手を伸ばした。
んー、この感触、癖になっちゃいそうだ。
でも、ほどほどのところで止めておこう。
すっかり忘れていたけど、ホムラはアリスって子を追いかけていたはずだ。
「それで、ホムラ。あの子、アリスを追いかけなくていいの? 鬼ごっこしてるって言ってたけど」
「っ忘れてた!!」
あんなことがあって忘れていたんだろう。
慌てて周囲を見渡すホムラに、あの子が逃げていった方向を教える。
「あの子なら校舎から出ていったよ」
「あ、ありがとう。でも……」
ホムラはすぐに駆け出そうとはせず、どうしようかと視線を泳がせた。
私と外を交互に見ていることから、私を心配してくれていることは伺える。
それは嬉しいけれど、遊んでいた友達を待たせるのはいいことではないはずだ。
だから、安心させるよう軽快に笑ってみせる。
「私はもう大丈夫だよ、ね?」
「それは、わかるけど……」
あれ?
じゃあ、一体何を心配してくれているんだろう。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに」
「また、話せる?」
……ああ、なるほど。心配していたのはそれか。
ここで別れたら、それっきりになってしまうと思ったんだろう。
「もちろん。いつでも話しかけに来ていいし、私からも話しかけるよ。そうだな、今度はお茶でもしながらゆっくり話そう?」
「っうん! 約束だよ」
「勿論、約束だ」
小さな小指と己の小指を絡ませる。
歌を歌ってから話せば、ホムラは本当に嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、またね!」
「またね」
手を振って、昇降口の向こうに消えていくホムラを見送る。
「よし」
また一つ、約束事が増えた。
それはつまり、負けられない理由も増えたということ。
「頑張らないとな……」
決意を新たに、とりあえず保健室に向かうことにした。
*
桜との談話を楽しんだあと、そのままアリーナへとやってきた。
昨日は微かに感じ取れていた記憶の気配も、今日は色濃く感じられる。
地図を広げ、気配の位置から記憶の場所にアタリを付ける。
その場所をランサーと共有し、早速先に進むことにした。
道中に現れるエネミーは、もうランサーの敵ではない。
後からトエシュガーレたちが来ることも考えて、今日は記憶を優先し一直線に目的地へ向かう。
そして、歩き始めて早十何分。
記憶があるだろう場所にいたエネミーに止めを差せば、目的地へ到着だ。
フロアの壁に手をつきながら歩く。
その一部に手が沈んだのを確認し、腕を下ろした。
「この先?」
「多分ね。昨日まで、ここに隠し通路はなかったはずだし」
見逃してなければ、になるけど。
でも、ここが一番気配を感じる場所であることに間違いはない。
もしここではなかったとしても、近くにはあるだろう。
「とにかく、まずはここに行ってみよう」
先を確かめてみないことには始まらない。
軽く眉を潜めるランサーを尻目に、記憶の隠し通路に足を踏み入れる。
瞬間、今まで感じたことのない悪寒が背筋を駆けあがった。
「っひ……」
思わず声が出る。
自分で出した声とは思わなくて、つい口元を隠した。
それでも悪寒は収まらない。
「クレア?」
「っ、大丈夫」
嘘だ。なんでかはわからないけど、本当はすぐにでも逃げてしまいたい。
でも、だけど。全て背負えるくらい強くなると、そう決めた。
それはなにも、小鳥遊や矢上だけのことじゃない。
記憶を失くすという形で投げ出してしまった、嫌な過去のことも。ちゃんと受け止めないと、意味がない。
だから。
「っ……!!」
前に進む。
気持ち悪くなるくらいの恐怖で足が竦んでも、ゆっくりでいいから足を踏み出した。
気が付いたら、後ろにいたはずのランサーはいなくなっていた。
いつも別れる赤い壁を、いつのまにか超えていたんだろう。
目の前に広がる光景は、あまりいいものではない。
崩れた瓦礫がそこら中にあって、多くの影も周辺に倒れている。彼らが動くことは、もうない。
でも、そう。こんな廃墟当然のところにも、生き残った子たちもいたんだ。
それで、私たちは怪我人の治療に駆けつけて、それで…………。
「っひっく……う、うぅ……!」
……そうだ。誰かの泣き声が、聞こえたんだ。
だから、助けなきゃ────声を掛けちゃだめだ。
だって泣いてる、怪我してる────そうだとしても、報告が先だ。
彼らは他の怪我人で手一杯だ。手の空いてる私が、せめて安心させなきゃ────。
「────その身勝手が、彼女を■■■のに?」
「─────────ックレア!!!」
「っ……ラン、サー?」
目に映るのは、見慣れた藤色。
青い瞳が、いつもと違う色で私を見ている。
「……顔色、悪いわよ」
「ご、ごめん……」
頭が少しくらくらする。
うまく思考が回ってないのが、自分でもわかった。
「ごめん。今日は、もう帰ってもいいかな……」
「……その方がよさそうね」
深いため息がつかれるが、今は全く気にならない。
そんなことより、身体を侵す気持ち悪さをどうにかしたかった。
─────私は今、どんな記憶を取り戻したんだろう。
いつもならわかるはずのそれすら、今はわからなかった。