Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第三十六話 もう一つの約束

 猶予期間(モラトリアム)三日目。

 いつも通り身だしなみを整えながら、昨日の収穫を思いだし、それにあわせて今日の行動を考える。

 

 昨日の収穫はいくつかあるが、やはり一番はレオから貰ったハーレン・トエシュガーレの情報だろう。

 彼の過去から家族構成、更には使用する武器まで。本当に色んな情報が書かれていた。

 でも、その中に戦闘で使用していた銃に関しての情報はなかった。他のものは種類まで書いてあったのにも関わらず、だ。

 

 そこから考えられるのは、レオから貰った情報に欠けがあったか、もしくはこの戦いのために新調してきたかの二択。

 まあ、恐らく後者だろうとは思う。でも、貰った情報になかったのもまた事実。

 やっぱり、全てを鵜呑みにはできない。参考程度に留めておこう。

 

 にしても、あの銃は一体なんなのだろう。

 普通の拳銃なら、何発か撃てばリロードが入る。だけど、トエシュガーレがそれをしている様子はなかった。

 弾丸も普通のものではなかったし。どっちかと言うと『shock(16)(電撃)』みたい、な……。

 

「あ、あれ魔力か」

 

 今まで悩んでたのが嘘みたいに、すぐに答えは出てきた。

 魔力を銃弾のように撃ちだしているのだと思えば、最後のも納得できる。

 

 あれも礼装の一種、なのかな? 

 まあ違ったとしても、ああいうのもあると知れたのはよかった。

 次にあの銃をとりだしてきたら、『view_status()(解析)』を掛けてみるのもありかもしれない。

 

 でも解析して理解するには、結構な集中力を使う。今の実力では戦闘中にそんなことはできない。

 そう思うと、『view_status()(解析)』を掛けられるようになるのは、結構夢のまた夢かもしれないな。

 別の方法も考えておこう。

 

 それ以外で手に入れたのは、頼まれていた望遠鏡と、私の記憶の気配。

 望遠鏡は明日届ける約束だが、記憶の方は今日取り戻せるかもしれない。

 

 校舎でやることはないし、今日は早めにアリーナに行こうかな。

 今回の記憶があの不思議な術に関することなら、アリーナで試せるだろうし。

 

 とはいえ、校舎でなにもしないままアリーナへ行くのも、少々もったいない。

 アリーナに行ってしまえば、帰ってきたあとの行動を制限されてしまうからだ。

 午前中くらいは、校舎でなにかやっておいた方がいいだろう。

 そう、だな……確か、桜のところに行けばアイテムがもらえるはずだ。

 うん。他にやることはないし、保健室でアイテムを貰ってこよう。

 

 *

 

 朝食ついでに買ったお土産を手に階段を登る。

 最後の一段を登り切ったとき、突然上の方からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

 

 思わず、二階に続く階段を見上げる。

 そこで見たのは、どこか急いだ様子で階段を駆け下りる女の子だった。

 

「わっ」

「あ、ごめんなさい! ケガはないかしら?」

 

 まさか女の子が駆け下りてくるなんて思わず、つい声を上げてしまった。

 それに気づいた少女は、眉を落とし心配そうに声を掛けてくれる。

 

「だ、大丈夫。ぶつかってもないし、怪我はないよ」

 

 足を曲げ、視線を合わせてほほ笑む。

 少女は安心したように息を吐き出してから、礼儀正しく頭を下げた。

 

「本当にごめんなさい」

「そんなに気にしないで。でも、階段を駆け下りるのは危ないよ」

「はぁい……」

 

 軽く注意をすれば、少女は反省したように返事をした。

 本人も危ないことは分かってそうだし、これ以上はいいだろう。

 それに、この子もきっとマスターだ。万が一のときはサーヴァントが助けるはずだ。

 

「そういえば急いでたみたいだけど、時間は大丈夫?」

「あっ、そうよ! あたし(ありす)、ウサギさんとおにごっこしてたんだわ!」

「兎さん?」

 

 不思議な言葉に首を傾げるが、少女の意識は既にこちらにはなかった。

 可愛らしいドレスを翻し、校舎の外に続く昇降口へと駆けていく。

 

「それじゃあ、また会いましょう。紫のお姉ちゃん!」

 

 最後に笑顔を見せた少女は、そのまま外へ走って行ってしまった。

 小さく手を振ってみたが、きっと気づいてないだろう。

 

 それにしても。

 

「紫のお姉ちゃん、って」

 

 中々に不思議な呼称だ。まあ、自己紹介してなかったから、そう呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。

 彼女は自分のことを『アリス』と呼んでいたから、多分それが名前なんだろうけど。

 次出会ったら、ちゃんと自己紹介をしよう。

 

 さて、じゃあ今度こそ桜のところへ……あれ? 

 今の子、走るときの足音はあまり大きくなかった。でも、バタバタしていた音は間違いなく上からしていたし……あれは一体なんだったんだ? 

 

「待て待てー!!!!」

 

 そんな微かな違和感に気づいた、まさにその瞬間。

 また上から音が聞こえてきた。

 

 再び階段を見上げる。

 駆け下りてくるのは、先ほどの子とは真逆の色合いをした少女。その足音も、さっきとは違うとても大きなものだった。

 

「あ」

「あ」

 

 真っ赤な瞳と目が合ったのは一瞬。

 少女の体は前に倒れて───。

 

「うわああああッ!!???」

 

 落ちてくると気づいたと同時に、絶叫が口から衝いて出た。

 慌てて腕を伸ばし、落下地点に走り出す。

 

 強い衝撃と痛みが同時に腕に走る。

 でも、そんなの気にしちゃいられない。

 そのまま腕を抱え込み、倒れる前に足を組み替える。

 

「ぐっ……!」

 

 勢いよく臀部が床に打ち付けられ、そこからくる痛みに耐えきれず声が漏れた。

 だけど、それもまだいい。

 

 痛みに閉じた瞼を開く。

 腕の中には、階段から落ちた少女が驚いた表情で収まったいた。

 

「よ、かったぁ」

 

 強張っていた体から力が抜ける。

 汚いけれど、思わず階段に背中を預けた。

 

「あ、ありがとう……?」

「……どういたしまして」

 

 まだ状況がうまく理解できてないのか、どこか呆けた表情の少女がお礼を言う。

 本当は怒らなきゃいけないんだろうけど、怒る気力もなく。とりあえず、無難な返事をしておいた。

 

 軽く息をついて、少女を腕から降ろす。

 少し痛む腕を軽く振り回し、調子を確認する。

 

 痛みはあるけど、違和感はない。

 いくら鍛えているとはいえ、子供一人受け止めたんだ。どこか違和感があってもおかしくはないんだけど……もしかしたら、また咄嗟に身体強化でもしていたのかも。

 でもまあ、このあと保健室に行くことだし、ついでに診てもらおうか。

 

 ……いやほんと、桜の世話になりすぎだな、私。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「えと、助けてくれてありがとう。怪我はないようだけど、痛くない? 大丈夫?」

 

 落ちてきた少女は、真っ直ぐこちらを見ながら問いかける。

 その瞳になぜだか違和感を覚えながらも、笑って返事をしてみせた。

 

「大丈夫、痛いところはないよ。君は?」

「ボクも大丈夫!」

「そう、ならよかった。これからは階段を走らないようにね」

「う、うん。気を付けるよ」

 

 ドレスの少女にした注意をこの子にも投げかける。

 あの子のようにしっかりと頷いたわけではないけど、今を状況を思うとそれも仕方ない。気を付けると言ってくれただけいいものだ。

 

「……ね、ねえ」

「どうかした?」

「えと、その……頭……」

 

 頭? 

 ……あ! 

 

「ご、ごめん。つい」

 

 気が付けば、私は少女の頭に手を乗せていた。

 ふわふわとした髪の毛は触っていて心地いいが、初対面の少女にしていいことではない。

 慌てて手を引こうとした瞬間、それは小さな手に阻まれた。

 

「ううん。もっとしていいよ」

 

 アリスって子は兎さんって言っていたけど、目を細めて手にすり寄る姿は、まるで猫みたいだ。

 あの子はどこを見てウサギって言ったんだろう。やっぱり、あの真っ赤な瞳かな。

 

 って、赤? 

 そういえばこの子のこと、私どこかで見た覚えがある。どこでだっけ……。

 

「あっ! 君、予選のときの!」

「え、気づいてなかったの!?」

 

 驚いて指摘すれば逆に驚かれてしまった。

 この子はこの子で、私は気づいていると思っていたらしい。

 いや、あんな状況で気づけと言う方が無理だと思う。

 

「まあいいや。ボクはホムラ。ホムラ・エカラットっていうんだ」

「私はクレア・ヴィオレット。よろしくね、ホムラ」

「うん!」

 

 本当に嬉しそうに笑うホムラに、思わず笑みがこぼれた。

 改めて、予選のときのお礼を伝える。

 あの時ホムラがいなければ、私はここにいなかったかもしれない。私が今ここに生きているのは、間違いなくホムラのお陰だ。

 

「だからありがとう、ホムラ」

「う、えへへ……どういたしまして、お姉ちゃん!」

 

 さっきとは逆だな、なんてことを思いながらまたその頭に手を伸ばした。

 んー、この感触、癖になっちゃいそうだ。

 

 でも、ほどほどのところで止めておこう。

 すっかり忘れていたけど、ホムラはアリスって子を追いかけていたはずだ。

 

「それで、ホムラ。あの子、アリスを追いかけなくていいの? 鬼ごっこしてるって言ってたけど」

「っ忘れてた!!」

 

 あんなことがあって忘れていたんだろう。

 慌てて周囲を見渡すホムラに、あの子が逃げていった方向を教える。

 

「あの子なら校舎から出ていったよ」

「あ、ありがとう。でも……」

 

 ホムラはすぐに駆け出そうとはせず、どうしようかと視線を泳がせた。

 私と外を交互に見ていることから、私を心配してくれていることは伺える。

 それは嬉しいけれど、遊んでいた友達を待たせるのはいいことではないはずだ。

 だから、安心させるよう軽快に笑ってみせる。

 

「私はもう大丈夫だよ、ね?」

「それは、わかるけど……」

 

 あれ?

 じゃあ、一体何を心配してくれているんだろう。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

「なあに」

「また、話せる?」

 

 ……ああ、なるほど。心配していたのはそれか。

 ここで別れたら、それっきりになってしまうと思ったんだろう。

 

「もちろん。いつでも話しかけに来ていいし、私からも話しかけるよ。そうだな、今度はお茶でもしながらゆっくり話そう?」

「っうん! 約束だよ」

「勿論、約束だ」

 

 小さな小指と己の小指を絡ませる。

 歌を歌ってから話せば、ホムラは本当に嬉しそうに笑った。

 

「それじゃあ、またね!」

「またね」

 

 手を振って、昇降口の向こうに消えていくホムラを見送る。

 

「よし」

 

 また一つ、約束事が増えた。

 それはつまり、負けられない理由も増えたということ。

 

「頑張らないとな……」

 

 決意を新たに、とりあえず保健室に向かうことにした。

 

 *

 

 桜との談話を楽しんだあと、そのままアリーナへとやってきた。

 昨日は微かに感じ取れていた記憶の気配も、今日は色濃く感じられる。 

 

 地図を広げ、気配の位置から記憶の場所にアタリを付ける。

 その場所をランサーと共有し、早速先に進むことにした。

 

 道中に現れるエネミーは、もうランサーの敵ではない。

 後からトエシュガーレたちが来ることも考えて、今日は記憶を優先し一直線に目的地へ向かう。

 

 そして、歩き始めて早十何分。

 記憶があるだろう場所にいたエネミーに止めを差せば、目的地へ到着だ。

 

 フロアの壁に手をつきながら歩く。

 その一部に手が沈んだのを確認し、腕を下ろした。

 

「この先?」

「多分ね。昨日まで、ここに隠し通路はなかったはずだし」

 

 見逃してなければ、になるけど。

 でも、ここが一番気配を感じる場所であることに間違いはない。

 もしここではなかったとしても、近くにはあるだろう。

 

「とにかく、まずはここに行ってみよう」

 

 先を確かめてみないことには始まらない。

 

 軽く眉を潜めるランサーを尻目に、記憶の隠し通路に足を踏み入れる。

 瞬間、今まで感じたことのない悪寒が背筋を駆けあがった。

 

「っひ……」

 

 思わず声が出る。

 自分で出した声とは思わなくて、つい口元を隠した。

 それでも悪寒は収まらない。

 

「クレア?」

「っ、大丈夫」

 

 嘘だ。なんでかはわからないけど、本当はすぐにでも逃げてしまいたい。

 でも、だけど。全て背負えるくらい強くなると、そう決めた。

 

 それはなにも、小鳥遊や矢上だけのことじゃない。 

 記憶を失くすという形で投げ出してしまった、嫌な過去のことも。ちゃんと受け止めないと、意味がない。

 だから。

 

「っ……!!」

 

 前に進む。

 気持ち悪くなるくらいの恐怖で足が竦んでも、ゆっくりでいいから足を踏み出した。

 

 気が付いたら、後ろにいたはずのランサーはいなくなっていた。

 いつも別れる赤い壁を、いつのまにか超えていたんだろう。

 

 目の前に広がる光景は、あまりいいものではない。

 崩れた瓦礫がそこら中にあって、多くの影も周辺に倒れている。彼らが動くことは、もうない。

 

 でも、そう。こんな廃墟当然のところにも、生き残った子たちもいたんだ。

 それで、私たちは怪我人の治療に駆けつけて、それで…………。

 

「っひっく……う、うぅ……!」

 

 ……そうだ。誰かの泣き声が、聞こえたんだ。

 

 だから、助けなきゃ────声を掛けちゃだめだ。

 だって泣いてる、怪我してる────そうだとしても、報告が先だ。

 彼らは他の怪我人で手一杯だ。手の空いてる私が、せめて安心させなきゃ────。

 

 

 

 

「────その身勝手が、彼女を■■■のに?」

 

 

 

 

「─────────ックレア!!!」

「っ……ラン、サー?」

 

 目に映るのは、見慣れた藤色。

 青い瞳が、いつもと違う色で私を見ている。 

 

「……顔色、悪いわよ」

「ご、ごめん……」

 

 頭が少しくらくらする。

 うまく思考が回ってないのが、自分でもわかった。

 

「ごめん。今日は、もう帰ってもいいかな……」

「……その方がよさそうね」

 

 深いため息がつかれるが、今は全く気にならない。

 そんなことより、身体を侵す気持ち悪さをどうにかしたかった。

 

 ─────私は今、どんな記憶を取り戻したんだろう。

 いつもならわかるはずのそれすら、今はわからなかった。

 

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