Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

43 / 49
第三十七話 錬金術師

 さて、今日はこれからどうしようか。

 昨日はあまりエネミーを倒せなかったから、魂の改竄はしなくてもそこまで変わらない。

 敵の情報は言わずもがな。

 やることと言えば藤村先生の望遠鏡を渡すぐらいで、それ以外は浮かばない。

 

 かと言って、用事を済ませてすぐにアリーナへ行くわけにもいかなかったりする。

 施設が使えなくなるのはもちろん、今日は二階層が解放されるはずだからだ。

 しかも、今日は猶予期間(モラトリアム)四日目。

 今日から二階層に行かなければ、暗号鍵(トリガー)を手に入れる時間が二日だけになってしまう。

 そう考えると、メールが届くまでは校舎で時間を潰しておくべきだろう。

 

 となれば、やっぱり図書室で知識を蓄えておくのがいいかな。知識は多いに越したことはないし。

 うん。そうと決まれば、さっそく向かおう。

 校舎内で唯一情報を集められる場所だからか、意外と満席になったりするのだ。できることなら、席に座ってゆっくり調べたい。

 

 あと、行く途中で先生がいつもいる場所も見ておこう。

 いれば渡せばいいし、いなかったらそのまま図書室に行けばいい。それだけのことだ。

 

 一階の階段前。そこがいつも藤村先生がいる場所だ。

 

「まあ、いないか」

 

 だけどそこに、先生の姿はなかった。

 これは想定通り。今は午前中で、いつも見かけるのは昼過ぎだ。いないのはある意味当然かもしれない。

 

 やっぱり図書室で時間を潰して、またお昼にでもこようかな。

 

「ん?」

 

 今、誰かに名前を呼ばれたような気が……。

 えと、声がしたのはあっちかな?

 

「あっ! おーい、ヴィオレットさーん!」

「あ、先生」

 

 誰かに呼ばれたのは間違いなかったらしい。それがまさか藤村先生だとは思ってもなかったけど。

 でも、丁度よかった。

 ここで望遠鏡を渡せば、先生から依頼は完了だ。

 

「わっ、ちょっと待って。今は取り出さなくても大丈夫よ!」

「え?」

 

 端末から望遠鏡を取り出そうとした瞬間、先生から制止が入った。

 もしかして、呼び止めたのはこれが目的ではないのだろうか。

 でも、望遠鏡の件以外に呼び止められることはない、よな? え、もしかして知らぬ間にやらかした?

 

「あの、先生。私、なにかやっちゃいましたか」

「え、違う違う! 呼び止めたのは、その望遠鏡のことで話があったからなの」

 

 先生曰く、今日の朝に突然やるべき仕事が大量に降って湧いたんだとか。

 仕事の締め切りも近く、今日一日はそれに集中したいらしい。

 

「だから、悪いんだけど私の代わりに望遠鏡を届けてほしくて」

「今日、ですか?」

「ええ。元々、今日までに見つけてほしいって頼まれていたから」

 

 確かに、私に頼んだときも先生はそんなことを言ってた。

 私も今日は比較的暇な方だし、断る理由もない。

 

「わかりました。どこに届ければいいですか?」

「お昼の13時に3-Aの教室で渡す約束をしてるわ。茶髪の眼鏡をかけた男の子よ」

 

 茶髪で眼鏡をかけた男子生徒って結構いそうだけど……まあ、なんとかなるだろう。

 もう一度頷き返事をすると、先生は少しほっとしたように息をついた。

 

「それじゃあ、悪いけどよろしくね!」

 

 その言葉を最後に、先生は駆け足で去っていった。

 普段廊下を走るなと注意する彼女が、こんなにも急いでいるなんて。相当仕事ができたんだろう……先生も大変だ。

 

 にしても、お昼の13時か。

 まだまだ時間はある。予定通り図書室に行って、知識を蓄えておこう。

 

 *

 

 時間が経つのは早いもので、気がついたときには約束の時間の十分前になっていた。

 慌てて本を元あった棚に戻し、図書室を出る。

 

 昼食を取ってから行こうと思っていたのに、我ながらなんて集中力。

 これからは時計を見るのを癖つけた方がいいかもしれない。

 

 閑話休題(そんなことはさておき)

 廊下を怒られないように駆け抜け、3-Aの教室へと辿り着く。

 扉を開け中を覗く。教室にはいくらか生徒がいて、各々が好きなことをして過ごしていた。

 

 その中から、茶髪で眼鏡をかけた男子生徒を探す。

 目当ての人物は、案外早くに見つかった。他に同じ特徴の生徒がいないから、恐らく彼が天文学部の生徒だろう。

 もし間違っていたら怖いけど、ここで怖気付いていてはなにも始まらない。

 勇気を持って行くんだ、私!

 

「あの、すみません。天文学部の方ですか?」

「ん、ああ。君がクレア・ヴィオレットさんか。藤村先生から話は聞いてるよ」

 

 どうやら先に話を通してくれていたらしい。

 それなら話は早い。早速端末から望遠鏡を取り出し、彼に渡した。

 

「うん……うん……」

 

 望遠鏡を受け取った彼は、汚れがないか隅々まで確認を始めた。

 見つけてから一度も取り出してないから、壊れてたりはしていないと思うけど……なんか少し怖いな。

 

「ああ、間違いなくうちの望遠鏡だ。壊れている箇所もない」

 

 だから、その言葉には芯底ほっとした。

 

「正直、壊れてるのは覚悟していたんだが……いや、本当に助かったよ。これ、よかったら貰ってくれ」

 

 そう渡されたのは二つ。

 一つはインテリア。恐らく、これは藤村先生からのお礼だろう。いつも貰うインテリアと系統が似ている。

 もう一つは……石?

 

「あの、これは?」

「天体観測をしているときに見つけてな。ただ、何の石か分からなくて購買でも買い取ってくれなかったんだよ」

「……もしかして、いらないやつ押し付けられてます?」

「あっはっは」

 

 いや笑い事じゃないですけど。

 ……まあ、いっか。この石、どっかで見たことがあるような気もするし。

 

「流石に冗談だよ。こっちがちゃんとしたお礼さ」

「え」

「え?」

 

 微かな沈黙が訪れた。

 なんだか気まずくなって目を逸らした私に、彼は優しく話しかけてくれる。

 

「よかったら、それもあげようか?」

「……ありがたく頂きます」

 

 結局、ちゃんとしたお礼だという『エーテルの塊』も受け取って、その場は後にした。

 なんか最後にやらかした気がしなくもないが、先生からの依頼は達成した。次は食べ損ねた昼食でも食べに行こう。

 

 *

 

 遅くなった昼食をゆっくりと食べていると、ふと聞き慣れた声が聞こえてきた。

 思わずその方へ目を向ける。そこにいたのは、想像通り白乃だった。

 

 なにか購買部員と話しこんでいるようだ。

 正直内容は気になるが、私の前にはまだ美味しいご飯が残っている。

 

 ……ま、聞くなら後でいっか。話せることなら教えてくれるだろうし。

 今は目の前ご飯に集中しよう。

 んーっ、おいしい。

 

 

「────ごちそうさまでした」

 

 最後の一口を堪能し、小さく手を合わせる。

 今日も食堂のご飯はおいしかったな。夜ご飯は何を食べようか、考えるだけで楽しみだ。

 

「あれ、また来てる」

 

 なんとなく購買の方へ目を向けると、先程どこかへ行ったはずの白乃が戻ってきていた。

 そして、今も購買部員と話している。

 本当、なにをしているんだろう。せっかくだし聞いてみよう。

 

 ……あ、そうだ。

 

「よーし」

 

 ちょっと遠回りして、白乃の後ろを取る。

 彼女はまだこちらには気づいてない。

 なにやら買い物はしているようだから、それが終わるのを待つ。

 そして、数分もしないうちに微かに軽快な音が聞こえ、白乃が端末をしまった。

 

 今だ!

 

「しーらのっ!」

「っうわぁ!!?」

「うおっ、そんなに驚く?」

 

 想像以上のリアクションに、私まで驚いてしまった。

 そんなに集中していたんだろうか。

 

「な、なんだ、クレアか。びっくりしたぁ……」

「私はあそこまでびっくりされるとは思ってなかったよ」

 

 軽く驚かすつもりだったから、気配とかも消してなかったし。

 まあ、そんなこと今はいい。

 今私が知りたいのは、どうして彼女がここにいるのかだ。

 

「白乃はここで何してるの? なんか行き来してるみたいだけど」

「ん、ああ。欲しいものがあったんだけど、高かったから……」

「あっ! お客さん、しーっ、しーっ!」

 

 ……ははーん。

 なるほどなるほど。こりゃあ、金銭での売買ではなかったな?

 ふむ、少し強請ってみるか。

 

「で、何と何を交換してもらったの?」

「え、よくわかったね! 宝石と桜の手作り弁当を」

「ああっ! お客さーん!!」

 

 わあお。これもまた想定外。

 宝石と弁当って、なかなか釣り合いがとれるものじゃないぞ。

 軽く強請ったつもりが、大きな強請りになってしまった。やめる気はないけど。

 

「あ、あのぉお二方。この件についてはどうかご内密に……」

「んー、どうしようかなぁ」

「つ、次いらしたときいくらか割り引きますので……!」

 

 よし、言質獲得っと。

 

「その言葉、忘れないでね」

「うぅ、はい……」

「うっわぁ」

 

 白乃の引いた声なんて聞こえなーい。

 落ち込む購買部員に手を振ってその場を後にする。

 今は買うものがないけど、次来る時までにはちゃんと考えておこう。

 

「……クレアってさ、結構狡賢いとこあるよね」

「正道だけじゃ生きていけないってだけだよ」

「それはまあ、そうなんだろうけどさぁ」

 

 白乃はどこか気まずそうにしていた。

 私がああやった原因が自分にあることを気にしているんだろう。

 確かに、私もあの言葉がなければ強請ったりはしなかったし……。

 

「あー、その、大丈夫だよ。私もそこまで大量に買うつもりはないし」

「……フォローが下手」

 

 うぐっ。

 

「あっ! そういえば交換した宝石って何? 高いものって言ってたけどっ」

「この流れでその話題に行く?」

 

 うぐぅ!

 

「っぷ、あはははは! ほんっと、クレアって会話が下手だねぇ」

「し、仕方ないじゃん。友達なんて、白乃が初めてだもん……」

「え、あ、そうだったんだ。へぇ……」

 

 え、それだけ?

 もっとこう、会話が続く言葉を。

 

「……白乃。なんか、顔赤くない?」

「っそういうところ!」

「なにが!?」

「いや、あなたたちがなにやってるのよ」

「「あ」」

 

 気が付けば大分歩いていたようで、目の前では遠坂が呆れた目でこちらを見ていた。

 

 *

 

 結局、白乃は一から全部教えてくれた。

 対戦相手の使い魔? を倒すため、錬金術が使えるラニに武器の作成を依頼したらしい。

 そのための素材を持っているのが遠坂で、遠坂からの交換条件として出されたのが購買の大粒のルビー。ついでにそのルビーと交換で要求されたのが桜の弁当……。

 

「なんというか、結構大変だったんだね」

「あはは……」

 

 必要な武器を手に入れるためとはいえ、随分と遠回りをしたものだ。

 でも、本来なら手に入れられることはなかった武器だろう。

 ラニも遠坂も、きっと白乃だから協力してくれたんだと思う。彼女はお人好しで、真っ直ぐだから。

 

「にしても錬金術か。ちょっと気になるな」

「ラニに言ったら見せてくれるんじゃない?」

「いや、流石にそれはないでしょ」

 

 ああでも、聞くだけ聞いてみようかな。

 断られるのは目に見えてるけど、聞くのはタダだし。 

 

「───ああ、別に構いませんよ」

「「いいんだ!?」」

 

 思わず出た言葉に、ラニは不思議そうに首を傾げた。

 いやいや。錬金術とか、そういうのは門外不出の技術だったりするでしょう。知らないけど。

 

「これから私が行う錬金術は、アトラス院の者でなくても使えるような基本のものです。私なりの工夫はありますが、見られて困ることはありません」

「そ、そうなんだ……」

 

 それならまあ、折角だし見せて貰おうかな。

 いい勉強になるかもしれないし。

 

「それでは、始めます」

 

 校舎では少し目立つからと、場所は変えて。

 あまり人目のつかないところで、ラニの錬金術は行使される。

 

「……すごい」

 

 それは、本当に一瞬だった。

 マカライトが爆ぜたかと思えば、その手に一本の剣が握られていたのだ。

 

 だけど、なんとなく。

 あの一瞬で何をしたかは、理解できたと思う。

 

「マカライトを解析して、データコードを書き換えた……?」

「おや、よくわかりましたね。とはいえ、細かく言えばそれだけではないのですが……まあ、その考え方でも間違いではありません」

 

 それをあの一瞬で?

 いや、もしかしたら白乃がマカライトを持ってくる間に、どうやって造るのかを考えていた可能性は高いけれど。

 だからと言って、一瞬で行使できるようなもののようには見えなかった。

 

 ラニの実力を、きっと見誤っていたのだろう。

 彼女は、レオや遠坂にも引けを取らない実力者だ。それを忘れないようにしよう。

 

「これが、『ヴォーパルの剣』……」

「はい。私の力では、これを使えるのは恐らく一度きり。よく考えてお使いください」

 

 剣が白乃に手渡された。

 大きく重量がありそうなその剣は、正直白乃にはあまり似合っていない気がする。

 でも、彼女はしっかりと柄を握りしめていた。

 

「ありがとう、ラニ。これでまだ戦える」

「いえ、どうかご武運を」

「うん! それじゃあ私は行くね。クレアもまた後で!」

 

 きっと、アリーナへ向かうのだろう。

 手を振りながら去っていく白乃を、同じく手を振りながら見送った。

 彼女の後姿が見えなくなるまで手を振る私を、ラニはどこか不思議そうに見ている。

 

「あなた方は、仲がとても良いのですね」

「そう見える?」

「はい」

「まあ、友達だからね。うん」

 

 にやつく口元を抑え、なんとか返事をする。

 外から見たら、私たちはそれほどまで仲良く見えるのか。それは単純に嬉しい。

 

「なぜ、そこまで仲良くできるのですか」

「え?」

「あなた方が食堂で一緒に食事しているのをよく見ます。いつかは敵になる者同士。なぜ、一線を置かないのですか」

 

 それを君が言うのかとも思ったけれど、ラニとは協力関係であるだけで、白乃ほど仲がいいわけではない。

 きちんと一線を置いているラニにとって、私たちの関係はおかしく見えたのだろうか。気持はわからなくもないけど。

 

「心配してくれてるの?」

「いえ、ただ疑問だっただけです」

 

 誤魔化すように茶化しても、ラニは冷静なまま。

 よほど不思議なんだろう。目も逸らしてくれない。

 言いたくないわけではないけど、なんだか気恥ずかしい。的外れな回答するのも嫌だし。

 でも、答えないと帰してはくれなさそうだよなぁ。

 

「えーと、後悔しないのかって話だよね」

「はい」

「それなら、後悔はすると思うよ」

 

 そう言うことならと、正直に思っていることを口にする。

 ラニは、私がそう思っているとは考えてなかったのだろう。少し驚いたように目を見開いていた。

 

「白乃が死ねば絶対に後悔する。どうして仲良くなったんだろうって、きっと思っちゃう」

 

 いつか戦うことになった時も、もしかしたらそう思っちゃうかもしれない。

 でも。

 

「今仲良くしなかったら、もっと仲良くすればよかったって後悔するよ」

「そういうものでしょうか」

「そういうものだと思うよ。だから、せめて楽しい思い出を増やしたいなって」

 

 本当ならどこかへ遊びに行ったりするんだろうけど、ここではそんなことはできないし。

 一緒に食事をして、楽しい話をして。そういう些細なことでも、友達となら、白乃となら、きっと楽しい思い出として残ってくれる。

 

「まあ結局、一番は白乃といるのが楽しいからだよ。仲良くする理由なんて、それだけでいいと思う」

「そう、ですか」

「うん。答えにはなったかな」

「……はい。参考にさせていただきます」

 

 他にも理由は色々あるけど、結局はその一つに収まる。

 好きだから、楽しいから一緒にいるだけだ。

 

 この答えがラニの疑問を解消する何かになればいいと思う。

 まだ、少し不思議そうにしているし。

 

「時間を取らせました。あなたも、そろそろアリーナへ行くべきでしょう」

「え、あっ。もうこんな時間か」

 

 指摘され、あれから結構時間が経っていたことに気づく。

 そろそろアリーナへ行かなければ、帰ってくるのが遅くなってしまうだろう。

 

「私ももう行くよ。ラニはどうするの?」

「私は……もう少し、ここにいます」

「そっか」

 

 彼女は軽く空を見上げる。

 倣うように私も空を見上げたが、私には0と1が羅列したいつもの空にしか見えなかった。

 

 だけど、きっとラニにはまた違うように見えているのだろう。

 もしかしたら、空ではなく星を観ているのかもしれない。

 

「それじゃあ、またね、ラニ」

「……ええ。また、会いましょう。クレアさん」

 

 あ。こうして挨拶を返してくれたのって、なんだかんだ初めてじゃないか?

 いつもはお辞儀するだけだったし。

 

 嬉しくて、笑みが零れる。

 今度はそれを、隠すことはしなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。