Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第四十話 魔法使い

 アリーナに入り、まずは周囲の気配を探ってみる。

 感じ取れる気配は、隣にいるランサーのものだけだった。

 

「ランサー、トエシュガーレたちがいるか分かる?」

「……いえ、気配は感じないわ」

 

 そっか、ランサーにも感じ取れないか。

 ならいないのか、それとも完全に遮断されているのか。どちらかは分からない。

 でも、昨日はいつも感じていた空気の変化がなかった。となると、彼らが先にアリーナにいたと考えられる。

 気配が感じられないからいないと決めつけるのは早計だ。

 今日は、トエシュガーレたちがいると仮定して進んだ方がいいだろう。

 

 幸い、昨日行ったフロアまでは横道が少ないし隠し通路もなかった。

 あそこまでなら奇襲の心配はあまりしなくてもよさそうだ。問題はそこからだけど……こればかりはどうしようもない。

 とにかく先に進もう。できれば、今日中に記憶とトリガーを入手しておきたい。

 

「……クレア、今回は記憶を優先していいわよ」

「え?」

 

 歩いている途中、ふいにランサーがそんなことを言い出した。

 想像もしていなかった言葉に、思わず彼女を見る。

 ランサーは、真剣な表情で私を見ていた。

 

「貴女、アサシンの戦い方は見た?」

「ううん。ちゃんと見れたのは一日目だけ。他の戦闘じゃあ、トエシュガーレにばかり目が行ってたから」

「そう。ならわからないかもしれないけど、アサシンは弱いわよ」

「……え?」

 

 唐突に断言されたその言葉が、うまく頭に入ってこない。

 弱い? 誰が、アサシンが? 一日目の戦闘で、何もできなかったのに?

 

「っ確かに攻撃は当たらなかったけど、それは向こうも同じよ! 大体、私のステータスが下がっているのは誰のせいだと……!」

「ごめんなさい! それを言われると何も言えないです!!」

 

 珍しく声を荒らげたランサーに、頭を下げながら謝った。

 もう本当、ステータスの件は言い訳もできない。完全に私の非でしかないからだ。

 謝る以外の選択肢なんてなかった。

 

「……はぁ、話を続けるわよ」

「お願いします……」

「武器としてナイフを扱っているけど、その扱いはお世辞にもうまいとは言えないわ。戦闘経験もなさそうだし、恐らく近代、戦争が終わった後の時代の英霊でしょう」

 

 戦争が終わった後。つまり、平和な時代の人間。

 そんな人間でも、サーヴァントになればあんなに戦えるんだ……少し、羨ましいと思ってしまう。

 

「それでも勝てないのはステータスのせいもあるけど……一番の原因は身体強化かしら。あれ、下手したらサーヴァントでも痛みを感じるくらい強くかけられてるわよ」

「え、戦闘中ずっと?」

「恐らくね」

 

 ランサーの言うことだ。きっと嘘はない。

 でも、そんなコードキャストを使ってる様子なんて今まで一度も……いや、トエシュガーレのことだ。会敵する前にかけてるんだろう。

 

 今聞いた話を、改めて整理する。

 サーヴァント個人の実力は、総合的にランサーが上らしい。それでも勝てないのは、マスターのサポートの差が原因。

 

 この状況は、矢上のときと同じだ。

 けど矢上にはなくて、トエシュガーレには持っているものがある。それが、戦闘経験の差。

 有名のプログラマーではあったがただの一般人だった矢上と、元傭兵で現殺し屋のトエシュガーレ。

 どちらが上回っているかなんて、考えなくてもわかる。

 

「戦闘経験に扱うコードキャストの量。この力の差はすぐに埋められるものではないわ。本来なら、ね」

「でも私には、すぐにそれを埋められるものがある」

「ええ」

 

 二回戦の決戦から使えるようになった身体強化。そして、昨日私の中心に発生したという炎。

 それを使いこなせさえすれば、サボ-ト力の差は埋められる……!

 

 でも

 

「本当にいいの? 今回の記憶が、力に関するものなんて確証はないのに」

「でも、確信はあるんでしょう」

「─────」

 

 え、え? えっ?

 

「? なに呆けているの。さっさと進むわよ」

「えっ! う、うん!」

 

 今のは、私を信用してくれたってこと、だよね。

 え、どうしよう。すっごく嬉しい。

 にやけているのはバレてない、よね?

 

 ああもう、落ち着け落ち着け。前にも似たようなことがあった気がしなくもないけど、アリーナは危険がいっぱいなんだ。

 浮かれてる場合じゃないぞ、クレア。

 

「……よーし」

 

 一度ゆっくりと呼吸をして、気持ちを切り替える。

 目を閉じて、改めて目の前に広がる光景を視界に入れる。

 

 昨日最後に戦ったフロアは既に通りすぎたが、まだまだアリーナは広い。

 でも、着実に前に進んでいるのはわかる。

 少しずつ、記憶の気配が強くなっているからだ。

 

 今までと同じ感覚なら、あと十分もしないうちに記憶へと続く隠し通路にたどり着くだろう。

 問題は、相変わらずトエシュガーレたちの気配がしないこと。

 いないならそれでいい。だけど、もしいたとして、今この瞬間も暗殺の機会を探っているのだとしたら。

 

 ……厄介だな。隠し通路に入る場所は、できるなら見られたくない。

 彼らが途中にある壁を通り抜けられるとは思わないけど、そこにはいつもランサーが一人で待っていてくれている。

 一対二は、いくら彼女でも辛いだろう。

 

 記憶のある場所まで、あと少し。

 それまでに、なんとか敵の場所を……。

 

「っランサー!」

「何をしている、アサシン!」

 

 突然浴びせられた猛烈な殺気。

 反射的に彼女の名前を呼べば、同時に男性の焦ったような声も聞こえてきた。

 

 瞬間、響くのは刃同士がぶつかる金属音。

 その音がする方に目を向ければ、そこにはトエシュガーレたちがいた。

 

 やはり先にいて姿を隠していたのかと納得を得たのと同時に、小さな疑問がいくつか浮かぶ。

 どうして、こんなタイミングで襲ってきたのか。

 どうして、あんな焦ったような声をだしていたのか。

 

 そんな些細な疑問の答えは、すぐにアサシンの口から叫び出た。

 

「なぜ、って。そんな、酷いですマスター! 私をこんなに痛めつけて、その上我慢しろだなんて……!」

 

 アサシンは上気した顔に笑みを浮かべ、震える己の体を抱きしめている。

 その様子がなんだか異質で、でもどこかで見たことのあるような気も……。

 

「ただのドMじゃない」

「ああっ、その声、表情っ! やはり私と貴女は相性がいいと思うのです! どうでしょう、私たち……!」

「ぜっったい、お断りよ。貴方は趣味じゃないわ」

 

 ああ、確かにランサーはSだもんな……。

 なんて、現実逃避気味にそんなことを考える。

 

 しかし、今の誘いをランサーが受けなくてよかった。

 もし受けてたらと思うと……うん、嫌だ。考えるのも嫌だ。

 

「はぁ……まあいい。おいアサシン、やる気はあるんだな?」

「当然です! こんなにも昂った感情を抑えることなんて、私にはできません!」

「ならいい。予定を狂わせたんだ、確実に仕留めろ」

 

 鋭い眼光がこちらを貫く。

 向こうは明らかにやる気だ。本当は暗殺で仕留めるつもりだったところを、アサシンが暴走したって感じかな。

 それは好都合。だけど、記憶がまだ……。

 

「クレア」

「なに、ランサー」

「行きなさい」

 

 っ!? 本気で言って、るよなぁ。

 こんな時に冗談を言うタイプではないのは分かる。こんな無茶を言った理由も、なんとなくあたりはつく。

 

 相手は本気だ。下手を打てば、記憶すら取り戻せないまま校舎に戻ることになるだろう。

 時間がない今、それだけは避けなければならない。

 

「できるだけ、早く帰ってくるから」

「別に遅くても構わないわよ」

「私が嫌だよ……無茶はしないでね」

 

 不安だらけの感情を抑えつけて、なんとか言葉を絞り出す。

 本当は行きたくなんてない。一緒に戦いたい。だけど、私がいてもそう変わらないのは分かってる。

 

 だから、魔力を足に回す。

 それにトエシュガーレが反応して身構えた隙に、私は彼らとは反対方向に地を蹴った。

 

「っ行かせるな!」

「あら、よそ見するなんて余裕ねっ!」

 

 声が遠ざかる。

 自分でも驚くほどのスピードで、アリーナを駆け抜けた。

 

 最深へと続いているだろう道を逸れ、気配のするわき道に入る。

 奥は行き止まり。アイテムボックスと、それを守るようにエネミーが配置されていた。

 

 私の目的はそれじゃない。

 細い道を闊歩するエネミーを飛び越え、アイテムボックスを無視して。その先の行き止まり(隠し通路)へと、足を踏み入れた。

 

「っうっそでしょう……!?」

 

 背後から感じる気配に、思わず口から感情が漏れる。

 軽く後ろを振り返ってみれば、アイテムボックスの前に配置されていたはずのエネミーが、私を追いかけてきていた。

 そりゃあそうなるという冷静な感想と、冗談じゃないという本音が入り混じる。

 

「ああ、もう……!」

 

 ただでさえランサーを一人にして不安だというのに、本当勘弁してほしい。

 でも大丈夫。幸い、あのエネミーの動く速度はそこまで速くない。このスピードを維持していれば、追いつかれることはないだろう。

 

 だから、いつもの壁まで走れば、きっと……大丈夫、だよね?

 一人でエネミーに追いかけられているから、だろうか。恐怖と不安が、なぜかいつもより大きく感じる。

 

 大丈夫だと自分に言い聞かせて、本当に大丈夫なのかと自分で問うている。

 意味のないことだと分かっているのに、そのループを止めることはできない。

 

 ……でも不思議だ。感情はぐちゃぐちゃなのに、なぜだか懐かしい気もする。

 あの時もこうやって、必死にみんなで逃げて。それで、それで────。

 

「クリスタルクラウド!」

 

 冷たい吹雪が私の真後ろを吹き抜ける。

 それに直撃したエネミー(デジ■ン)は、一瞬で凍り付いた。

 

 ─────ああ、そうだ。そうだった。

 

「こうやって、君に助けてもらったんだよね……ソーサリモン」

 

 懐かしい顔が、そこにはいた。

 白の三角帽子に、口元も覆う白いマント。手に持つは氷の結晶の杖。

 喋ってはくれない。ここにいる彼女は、あくまで私の記憶が作った彼女だから。

 でも、酷く懐かしくて、会えたのがすごく嬉しかった。

 

 けれど、喜びに浸っている余裕はない。

 今この瞬間も、ランサーは一人で戦っている。

 

「力を取り戻したい。君に教わった、誰かを助けて守るための力を」

 

 まっすぐ、ソーサリモンの蒼い瞳を見つめる。

 そんな私を彼女はどこか呆れたように笑って、大きな手を差し出した。

 その掌にあるのは、私の記憶の欠片。

 

「もう忘れないから……行ってきます」

 

 無くさないよう欠片を握りしめ、目を閉じる。

 目を開ければ、そこが今の私が戦う場所だ。

 

「っ急がなきゃ」

 

 頭が痛い。きっと、色んな知識を取り戻したせいだろう。でも、我慢できない痛みじゃない。

 それよりも、記憶を取り戻したおかげでさっきよりも魔力の巡りがよくなった気がする。

 

「ランサー……!」

 

 大地を蹴る。先程よりもスピードは出たけど、驚きはない。

 記憶もあれば、体も覚えてる。なにより、速く走れるようになったのは魔力操作が前みたいに(・・・・・)できるようになった証拠だ。

 これなら大丈夫。行ける!

 

「────集うは、大地をも裂く風の牙」

 

 言葉に魔力を籠める。

 そうすることで散々やってきた、世界への干渉(ハッキング)

 

 その手ごたえは、世界が違うムーンセルでも感じられた。

 ならやり方は変わらない。私はただ、ソーサリモンに教わった通りやればいい!

 

 前を向く。視界にいつもの黒い背中が映る。

 彼女は、ボロボロだった。

 背後からでは詳しい状況は分からない。だけど、いつもピンとした背中は確かに傷ついていて。

 

「ッランサー、引いて!!」

 

 なんとか、彼女にその場を引くよう指示を出す。

 ランサーは突然の言葉だったというのに、すぐに反応して空へと飛びあがった。

 

 苛立つくらい笑ってるアサシンの姿が、正面からよく見えた。 

 

「切り刻め、ウインドクロウ!」

 

 苛立つ顔を標的に、最後の一節を口にする。

 その瞬間、風がないはずののアリーナに、風が吹き荒れた。

 

「っなんだ!?」

「できた!」

 

 吹き荒れる風は、まるで牙のように鋭く、引き裂くようにアサシンに襲い掛かった。

 その様子に思わず声が出る。我ながら、未だ半信半疑だったらしい。

 だけど、これで確証も得た。この世界でも、私は魔法(・・)が使えるんだ!

 

「これはまた、面白い力を取り戻したのね」

「あ、ランサー、怪我は……!」

「平気よ、このくらい」

 

 確かにどれだけ見ても大きな怪我は見当たらない。けど、細かい切り傷は幾つもできていた。

 別に、私がいたとしても怪我をさせないことなんて無理だ。小さな傷なんて、気にしていたらきりもない。

 そんなことは分かっているのに、なんでだろう。今はなぜか、その小さな傷があるのが嫌だった。

 

「じっとしてて……ヒール」

 

 怪我に手をかざし、魔力を籠める。軽い光に包まれた傷は、小さなものから順に消えていった。

 よかった、これも成功だ。ほっと胸を撫でおろしながら、どんどん治療を進めていく。

 

 だけど、こっちばかりに集中してはいられない。

 魔法の行使を続けながらも、改めて敵に目を向ける。

 トエシュガーレは、どこか驚いたようにこちらを見つめていた。

 

「コードキャスト……? いや、違う……」

 

 ぶつぶつと何かを呟いてるのが耳に届く。

 やっぱり、見ただけであれがコードキャストじゃないと分かるんだ。今回は仕方ないけど、次からは決戦まで取っておいた方がいいかもしれない。

 

「……いや、いい。アサシン、行くぞ」

「ええ!? 私、まだやり足りないのですが!」

「黙れ。どうせすぐムーンセルの干渉が来る。やり合っても時間の無駄だ」

 

 アサシンはまだ何かを言っているようだが、トエシュガーレはそれに応えることはなく歩いていく。

 彼は流石にマスターの援護なしで勝てるとは思わなかったのか、どこか落ち込んだ様子でその後ろについていった。

 

 彼らの後ろ姿は見えなくなり、先ほどまであった気配も既に感じられななくなる。

 アリーナから出たわけではなさそうだし、もしかしたら気配を消すコードキャストでもあるのかもしれない。そうでなければ、ここまで完璧に気配を消すことはまず不可能だろう。

 

「それで、さっきのあれ、説明してくれるんでしょうね?」

「勿論。でも、ここじゃあ彼らに聞かれるかもしれないし……マイルームに戻ったらちゃんと説明するよ」

「そう。ならいいわ」

 

 そう話しているうちに、彼女にできた傷は全て完治できた。念のため『view_status()(解析)』も使ってランサーの状態も確認しておく。

 ……うん、問題はない。これでランサーはいつも通りの動きができるはずだ。

 私はまだ少し頭が痛いけど、さっきよりは随分ましになった。魔力もまだ十分に残ってる。

 これからの探索に支障はでないだろう。

 

「よし。改めて、トリガーを目指そう!」

 

 ついでに、今の私がどれくらい魔法を使えるのか試したい。

 取り戻したばかりの力だし、なにより環境も違う。

 昔と今の違いを確認するのは大切だ。今のうちに、やれることは全てやっておこう。

 

 それはきっと、次のための力になるから。

 

 





 なんとか投稿できました!遅れて申し訳ございません。

 今回は難産でした。
 魔法の技名はゲームの継承技から。詠唱はオリジナルです。もしかしたら変えるかもしれません。変えないかもしれない。
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