Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
端末をかざしドアを開けば、そこはもう私たちの世界。
入り口のすぐ横にある電源を入れたら、真っ暗だった部屋に電気が灯った。
「ふぅ」
首元を緩めて、ベッドで一息つく。
今日はなんだか長い一日だった。いつもとはちょっと違う方法で記憶を取り戻したから、余計そう感じるのかもしれない。
正直お風呂とか諸々は明日にして、もう寝てしまいたいけど……。
「で、説明はしてくれるんでしょうね」
「……もちろん」
だよねぇ。
まあ、部屋に戻ったら教えると言ったのは私だもんね。
とはいえ、いざ説明するとなるとどこから話したものか。
いや、まずそもそもの話、彼女は魔法の何を知りたいのだろう。
効果とか戦術への応用の仕方とか、そういったのを知りたいんだろうなと想像つく。
けど、それ以外は? 意外と、成り立ちとかに興味があったりするんだろうか。
分からない。から、本人に聞いてみよう。
「ランサーは魔法の何が知りたいの?」
「……そうね。そもそも、私の知ってる魔法と貴女のいう魔法は、指しているものが違うわ」
曰く、魔法というのは実現不可能な出来事を可能にする魔術のことを指すらしい。
例をあげるなら
故に、タイムリープを可能とする魔術があるのなら、それは魔法と呼ばれるのだとか。
確かに、私の呼ぶ魔法とは全く別のものだ。
私が、私たちが魔法と呼ぶものは、そんな大層なものではない。
きちんと学べば基本的に誰でもできる、ここと比べれば簡単なものだ。
「私たちがいう魔法は、そうだね。ハッキングの一種だと思ってもらって大丈夫」
「魔法が、ハッキング?」
「うん。魔力、ええと、私たちはデータを変質させることができるエネルギーのことをそう呼んでるんだけど。そのエネルギーを使ってデータをハッキング、改竄して炎や風とかに変換する技術のことを魔法と呼んでいるんだ」
こんな風に、と手のひらに軽く魔力を集める。すると、どこからともなく小さな水球が手のひらの上に現れた。
実験も兼ねた実演だったが、無事成功したみたいだ。
これもアリーナでの実践があったおかげだな。どうせバレているからと、隠すことなく色々な魔法を試しておいてよかった。
完璧とは言わないが、大分感を取り戻すことができたんじゃないだろうか。
「今のには呪文がないのね」
「呪文、詠唱のこと? まあ、これくらいはね。それに、水属性の魔法は得意な方だから」
作り出した水をキッチンに向けて投げるように放つ。
弧を描いて飛んで行ったそれは、途中で崩れることなく流し台に消えた。
うん、手元を離れても維持は完璧と。
よし、簡単な実験も成功したことだし説明に戻ろう。
あと説明するなら、詠唱と属性に関することだろうか。
先にどっちが聞きたいかは、ランサーに決めてもらうことにしよう。
「あと私が教えられることは、魔法の種類に属性、それから発動に必要な詠唱ぐらいかな。ランサーはどれからが聞きたい?」
「……種類からから教えて」
「ん、わかった。なら属性も一緒に教えちゃうね。ちょっと待ってて」
一言断って、目の前に無地の画面を投影する。
そこに指で文字を描けるようにして、過去に散々見た図を描き起こしていく。
魔法の種類は攻撃と補助の二つだけだが、攻撃魔法は九種類の属性に分けることができる。さらには有利不利の相性もあったりと、少しややこしい。
それは口頭で説明するより、図に表した方が分かりやすい。少なくとも私はそうだった。
まあ、ランサーが相性まで知りたいかは分からないけど、一応。
覚える気がないなら、覚えなきゃいいだけだ。
「種類は攻撃と補助の二つ。補助は回復とか身体強化とか、そういう類のものを補助魔法と総称してる。こっちに属性はないけど」
「攻撃魔法には九種類の属性が振り分けられてる、と」
「うん。相性表も書いたけど、それは魔法同士が打ち合った時に作用されるものだから、ここでは意味ないかも」
だから覚えなくてもいいと言うけど、ランサーの耳に届いているかはわからない。
ただ、じっと私の作ったデータを無言で見つめていた。
「で、貴女が使えるのはどれ?」
「私は補助魔法がメイン。攻撃の方も一応全部扱えるよ。得意不得意はあるけど」
「……こういうのって、一部は使えないんじゃないの」
「本当はそうらしいね。魔力にも変質させやすい属性があるとか」
だから、自分で言うのもあれだけど私は大分特殊な方だ。
これで全属性極められたらいいのだけど、現実はそこまで甘くはなく。
「私が得意な属性は風、水、電気、無、地面、草木、闇、光、火の順。ああでも、一番苦手な火属性の魔法は基本失敗するものだと思って。改竄まではできるんだけど、扱いが難しくて」
「ふぅん。ねえ、じゃあ昨日のあの炎は」
「うっ……!」
さ、察しがいい……!
「あ、あれは、その……魔力暴走を起こして、一番苦手な属性に変質した挙句操作できずに燃え広がっちゃって……」
あれは一種の黒歴史だ。
魔法を使う者として、一番やってはいけないことをしてしまったのだから。
私に魔法を教えてくれたソーサリモンに知られでもしたら、説教だけでは済まない。このことは、ランサーにもぜひ墓まで持って行って欲しい。
「その、あの事は内緒にしていただけると……」
「内緒も何も、誰に話せばいいのよ」
「そ、それもそっか」
ソーサリモンたちはここにいないし、白乃たちに話すわけにはいかないもんね。
安心したような、いないことが寂しいような。不思議な感覚だ。
「それより、さっさと続きを」
「あ、ああ。次は詠唱についてだね」
ごほん、と咳払いで気持ちを整える。
「基本的に、魔法を使うには詠唱が必要なんだ。魔力はデータを変質させる力を持っているけど、それだけ。どんな風に変質させるかは、私たちが決めなきゃいけない」
「そのために使われるのが詠唱なのね」
「そう。詠唱以外にも方法はあるんだけど、言葉が一番方向性を決めやすいんだって」
とはいっても、魔法の行使に詠唱が必ず必要なわけではない。
感覚さえ掴めれば、無詠唱で自分の望む形にデータを変換することができる。
さっき私が実演した水の生成も無詠唱の一種だ。
「私も補助と風、水属性は基本無詠唱で使うことができる。だから主に使うのはこの辺り。他は火属性以外なら一応詠唱ありなら使えるよ。威力は期待しないでほしいけど」
苦手というのはつまり、私の魔力とはあまり相性がよくないということ。
データを改竄して変換するところまではできるけど、そこからの制御が途端に難しくなるのだ。
火属性なんてその最もたるもの。
ろうそくに火をつけたりとか、焚き火の火種にするとか。それくらいのものなら制御ができる。だけど、攻撃に使うほどのデータになるとまず無理だ。
成功したことがないわけではないが、記憶を思い返す限りそう多くない。
だから、周りからは火属性の攻撃魔法は絶対に使うなと何度も厳しく言われてきた。
「おおまかな所はコードキャストとあまり変わりなさそうね」
「んー、まあ、確かにそうかも」
コードキャストも、
違う箇所を上げるとすれば、コードキャストには触媒が必要で、魔法にはいらないところ。あと、魔法には魔力相性があるけど、コードキャストにはない点とか。
ふむ。そう考えると、両方をうまく使えれば互いのデメリットをなくせるかもしれない。
今まで通り、コードキャストの回収も怠らないようにしよう。あって困るものではないし。
魔法に関してはこんなところだろうか。
他にも魔法陣とか、それを用いた魔法具の作成とかの説明もできなくはないが、あそこらへんは実際に作りながら説明した方がわからやすいだろう。
一応そういう類いのものがあるとだけ伝え、説明は必要になったときにさせてほしい。
そう言えば、ランサーはどこか不満そうにしながらも頷いてくれた。
単純に興味があったのかもしれない。作る気はなかったけど、材料を揃えてなにか作ってみるのはありかも。
まあ、それも時間を見つけてからだね。
「じゃあ、魔法に関してはこんな感じで。もし他にもなにか聞きたいことがあるなら話すよ。今回の記憶のお陰で、知識だけは大分取り戻せたから」
せっかくの機会だし、とそんなことを口にしてみる。
私の記憶を見ているのなら、その中で疑問に思ったことや興味を惹かれるようなことがあっても不思議ではない。
というか、興味があったから記憶を取り戻すことに協力してくれていたのかも。記憶の共有を知った今だからそう思う。
「なら、貴女がいた世界について聞かせて」
でも、どうやら私の予想は当たっていたようだ。
彼女が興味のないことを私に聞くはずがない。少なからず、私のいた世界に興味を持ってくれているらしい。
少し、嬉しいかも。
「私のいた世界の名前はデジタルワールド。何となく察しはついていると思うけど」
「ここと同じ電脳世界、でしょ?」
言葉を遮るように、ランサーが続きを答える。
正直遮られるとは思ってなかったから、思わず彼女を見つめてしまった。
彼女はそんな私を嗤うように目を細める。
そんなに私、変な顔をしてた? 全く自覚がない。
「うん。デジタル生命体であるデジタルモンスター、略してデジモンだけが住む世界。私は人間だったけど」
「デジタル生命体だけの世界、ね。なんで貴女はそんなところに?」
「残念ながら、まだ。でも、私はデジタルワールドで生まれた訳じゃないよ。それだけは確か」
私があの世界にいた理由は、まだ思い出せていない。
ただわかるのは、私は人間の世界からデジタルワールドに行ったという事実のみ。
不可抗力だったのか、それとも自分の意思で行ったのか。それすらもわかってない。
「わからないことを聞いても仕方ないわね……いいわ。じゃあ次はデジモンについて教えなさい」
「デジモンについてね。えーと……まず、デジモンは卵生」
「卵生……?」
コテリ、とランサーの顔が横に倒れた。
おそらく無意識に出たんだろう可愛らしい仕草に、なんだか微笑ましい気持ちになる。
が、それが彼女にはバレないよう表情を引き締める。バレないようにしたのは何となくだ。
何となく、バレたらもうしてくれないような気がしたから。
「デジタルワールドには、いくつか『始まりのまち』と呼ばれる場所があるんだ。そこでデジモンが生まれる卵、デジタマが世界から構築される」
「……デジモンは死んだらデータになって世界の糧になり、そしてデジタマとしてまた産まれる」
「うん。私は、そうやって教わった」
初めてデジモンの死を見たとき教わったそれを、最初は理解していなかったけれど。
理解してもなお、受け入れられない死を見たこともあったけど。
この教えは、確かに私の支えになっていた。
「説明を続けるね。生まれたデジモンはプログラムやデータを食べて成長して、”進化”と呼ばれる生体変化を行うんだ。進化は、私の記憶で何回か見ていると思うけど……」
「身体の形を変えたり、翼が生えたりしたあれ?」
「うん。デジモンの進化には階級があってね、赤ちゃんの幼年期Ⅰ。少し成長した幼年期Ⅱ。ここで自我が生まれる子が多いかな。それから、自立心が生まれ始める成長期。力が強くなり始める成熟期。その後に完全体、究極体とあるけど、そこまで進化する子は稀で、大体が成熟期で進化が止まるんだ」
とりあえず進化に関する概要を語り、そこで一旦区切ってランサーの様子を見る。
何かを考えるように見えたのは数秒で、すぐに視線は私へと戻ってきた。結構一気にしゃべったつもりだったけど、もう整理がついたらしい。
そして彼女は、また別の疑問を口にする。
「いつだかの記憶で言ってた、本能寄りの個体って何?」
「また細かいところを覚えてるね」
ランサーがその言葉を聞いたのは、多分クワガーモンに追いかけられた時の記憶かな?
そういえば、あの子たちが二度目の進化をしたのもあの時だったっけ。
彼女もそのことを思い出して、そこから繋がった質問なのかもしれない。
「デジモンって根本的に闘争心が高いらしいんだ。今では理性を持って街で暮らしている子も多いけど、みんながみんなそうじゃない。本能に従って、手当たり次第に誰かを襲うデジモンもいる。そういう理性のないデジモンのことを、本能寄りって言ったりしてるよ」
私がいた頃はその数も少なくなったらしいけど、全体の半数は本能寄りの個体だったんじゃないかと思う。
旅をしているとき何度襲われたことか。会話もできないから戦闘を避けることもできないし、本当大変だった覚えがある。
「なるほどね」
「デジモンに関する概要はこんなとこだけど、他に聞きたいことは?」
「……いえ、今のところはこれくらいでいいかしら」
まあ、あとは個体差とかそういう話で長くなりそうだし、この辺りで一旦終わらせるのがいいかもしれない。
私も、流石にそろそろ眠いし……ふわぁ……。
「もしまた疑問が生まれたら聞いて。答えられることは答えるから」
「はいはい……眠いんでしょう。明日に響く前に寝なさい」
「……うん。ありがとう、ランサー」
最近、こうして声をかけてくれることが多くなってる気がする。
声を掛けていいと、そう思われるくらいには仲良くなれているんだろう。
その事実が、ただただ嬉しい。
だから今日は、小さな確信をもって言葉を投げかけた。
「ランサー、おやすみ」
「……ええ、おやすみ」
遅くなりましたすみません!
今回は説明回ということで、クロスオーバー先であるデジタルワールドとデジモン、そしてオリジナル設定である魔法などについてを。
今月はまた月末にもう一話投稿したいと思ってます。思ってます!