Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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────それは、白き魔法使いとの出会い。







幕間 Memory No.3

 木々の隙間を、三つの小さな影が駆け抜ける。

 そしてそれを追いかける大きな影も一つ。

 

 始まり早々、物騒な光景ね。

 

「ど、ド■モン、大丈夫? 重くない?」

「クレアは軽いからへーき! そんなことより、僕たちなんで追いかけられてるの!?」

「わかんないっ。私たち、なにもしてないはずだよ!」

 

 狼のようなデジモンから逃げる一人と二匹の姿は、今までのように影で覆われてはいなかった。

 初めてはっきりと形になった彼らを、じっと観察してみる。

 

 クレアを背に乗せ逃げているのは、紫の体毛をした獣のようなデジモン。

 背には小さな羽があり、額には宝石のような何かがついている。

 こちらが、恐らくあの鉄球を放つドラゴン。

 

 その横を並走しているのは、身体中に鎧を纏ったデジモンだ。

 兜も被っていて、まるで武士のような出で立ちをしている。そして、このデジモンの額にも宝石のようななにかがはめられていた。

 あちらがドラゴンなら、こっちがあの竜ね。

 

 この二匹が、クレアが初めて会ったデジモン。

 クレアの、パートナー。

 

「な、なんか撃ってくるっ! 避けてぇ!!」

「っしっかり捕まってて!」

 

 背後の様子を見ていたクレアが声を荒げる。

 釣られて後ろに目を向ければ、狼の口の隙間から青い炎が溢れ出ていた。

 そのことを認識するとほぼ同時に、口内に蓄えられた炎は一直線にクレアたちに向かって放たれる。

 

 距離はそれなりにあるはずなのに、放たれた炎が消えることはない。

 ほんと、なんでもありね。

 

「くっ……!」

「ッリ■ウダモ■!」

「大丈夫、へーきだよ!」

 

 避けきれなかった攻撃が、竜の足を掠めた。

 それでも彼らは足を止めることはしない。

 時折放たれる攻撃を避けつつ、ひたすらに逃げ続けた。

 

 だけど、どれだけ走っても相手との距離が広がることはない。むしろ、歩幅の関係かどんどん縮まってきている。

 このままでは、追い付かれるのも時間の問題だろう。

 

「っここは私が足止めするから、二人は先に……!」

「「ダメだ!!」」

「足痛いくせに無茶言うなバカ!」

「君一人置いてくくらいなら、みんなで戦った方がいいよ!」

 

 提案は即座に切り捨てられた。

 馬鹿なんじゃないかと、率直にそう思う。

 

 彼女たちが逃げているということは、この二匹ではあの狼に敵わないということ。対抗できるなら戦っているだろうし。

 戦っても勝てる見込みはなく、逃げきれてもいない現状なら、一匹を囮にするのも悪い作戦ではない。

 

 クレアもそれをわかって、はなさそうね。

 服装が最近見ていたものと違う。リュックも背負っているし、ソーサリモンとかいうデジモンもいない。

 恐らく、この記憶は旅を始めたばかりの頃のものだ。

 だから幼い。だから、勝てない相手に挑む無茶をしようとする。

 

 ドラゴンと竜が反撃しようと足を止め、そのまま背後を振り返り───。

 

「─────クリスタルクラウド!」

 

 目前を、大量の冷気が吹き抜けた。

 吹雪にも思えるそれは、追いかけてきていたデジモンを軽々と吹き飛ばす。

 

 彼女たちは呆然とその光景に目を奪われた。

 自分達を追い詰めていた敵があっという間に吹き飛ばされたのだから、そうなるのも無理はない。

 

「こっちだ!」

「っ行こう!」

 

 けれど、決断は早かった。

 

 呼び寄せる声が聞こえたときには、クレアたちはその声のもとへ走り出していた。

 視界に白いなにかが映る。

 私には見覚えのある後ろ姿を見失わないよう、クレアたちは必死にそのデジモンを追いかける。

 

 そうしてしばらく、走り抜けた先にあったのは、少し古ぼけた塔だった。

 

「す、ごい……こんな高い塔、外から見えたっけ……」

「ここら一帯は結界が貼ってある。だから、もし外から見えたら問題さ」

 

 塔の前には、クレアたちをここまで誘導したデジモンが立っていた。

 白いロープに三角帽子。そして、身の丈ほどある杖。

 今までの記憶でも見たことがある、クレアたちからソーサリモンと呼ばれていたデジモンだ。

 

「私はソーサリモン。この塔で生活している、ただのデジモンさ」

「ソーサリモン、って確か……」

「ジジモンが言ってた、物知りの……」

 

 名前を聞いた途端、クレアたちは何かを確認するよう互いに顔を見合わせた。

 溢れた言葉から、もう一週間以上も前に見た彼女の記憶を思い出す。

 

 そういえばこの子たち、北の塔にいるデジモンに会いにあの村を出たんだったわ。

 いろんな記憶を見たせいで忘れていた。

 

「あ、あの! 私たち、あなたに聞きたいことがあってここに来たの!」

「おや、そうなのかい? なら家にくるといい。そこの君の治療もしなくちゃいけないしね」

 

 そう言いながら塔の中へと入っていった彼……彼女? にならい、クレアたちも戸惑いながら塔へと入っていく。

 塔の内装は、私の想像していたものとは全く違っていた。

 

 壁一面には本棚が並び、その中身は様々なジャンルの本がぎっしりと詰まっている。

 中央付近にポツンと机と椅子だけが置かれ、その横にある螺旋階段が上の階まで繋がっているようだ。

 まるで、本を読むためだけに作られた部屋のよう。

 

「本がいっぱいだ、すごい」

「村にあったやつもあるよ。あれとか、ジジモンがよく読んでた気がする」

「ユキダルモンが読んでたやつもある! ほら、あれっ」

 

 螺旋階段をのぼりながらも、クレアたちは自分たちが知っている本を見つけては盛り上がっている。

 こんなことで騒ぐなんて、やっぱりまだ幼い。

 でも、クレアにもこんな時期があったのだと思うとすこし面白いかも。

 

「ここが客室だ。怪我した君はこっちに座って」

 

 案内された部屋には、流石に本棚は置いてなかった。簡素なベッドと机や椅子が置かれたシンプルな客室だ。

 そこに置かれた椅子に座った竜の脚に、ソーサリモンは手をかざす。

 

「うん、これくらいならすぐ治せるね。そのまま動かないように」

 

 軽い注意と共に呟かれた呪文は、アリーナでクレアが私に使った治癒魔法と同じものだった。

 淡い光が患部を包み込み、つけられた傷は瞬く間に消えてなくなっていく。

 

「っこれ、魔法!? 魔法も使えるの!?」

「ああ。種族柄、こういったものには少し腕に覚えがあるんだ」

「すっごい!」

 

 二匹は二匹でなんだか盛り上がってる。

 が、残った一人と一匹は蚊帳の外だった。

 

「ねえド■モン」

「なぁにクレア」

「魔法ってなに?」

「僕もそんなに詳しくないんだけど……データをハッキングしてなんとかかんとか」

「ふぅん……それで、ハッキングってなに?」

「「「「えっ?」」」」

 

 思わず声が出た。

 だって、まさかハッキングを知らないなんて思ってもなかったから。

 

 でも、冷静に考えたら当たり前なのかもしれない。

 この記憶のクレアが何歳かは知らないが、大体小学生くらいだろうと予測は付く。

 魔術師(ウィザード)なら彼女ぐらいの年齢でも知っているだろうが、一般人ならハッキングなんて専門用語は知らなくても無理はない。

 けれど、今ではそれなりの技術を持っているのに……この頃はハッキングの意味すら知らなかったなんて、想像もつかないわ。

 

「そうか、君はまだ幼い人間だったね。それなら知らないのも無理はない」

 

 何かを考えるよう、ソーサリモンは視線を動かす。

 クレアを見て、その隣に座るドラゴンを映し、最後には近くにいる竜へと視線を向けた。

 

「……よし、私でよければ色々な知識を教えよう。魔法についても知りたいようだしね」

「いいの?」

「もちろん。その代わり、君たちのことも教えてくれ」

 

 唯一見えるソーサリモンの目が輝く。

 その瞳から伺える感情は、隠し切れない知的好奇心。

 

「デジモンと人間のパートナー関係について、昔から興味があったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わらず、同じ塔の一階。

 気づけばそこにいた彼女たちは、一つの水晶を囲っていた。

 

「……すごい、すごいよクレア! まさか全属性に適応する魔力を持ってるなんて!!」

 

 興奮を隠し切れない様子のソーサリモンに、クレアたちはどこか引き気味だ。

 当人であるクレアも何を言ってるか理解できないらしく、手を握られたまま居心地悪そうにしている。

 

「え、と……そんなにすごいの?」

「すごいとも! デジモンが適応する属性は二つや三つが基本だ! 特に、闇と光なんて特定の種族にしか適応しない属性だぞ!!」

「そ、そーなんだ」

 

 力説するも、彼女にはあまりその凄さが伝わってないらしい。

 おそらく、このときは魔法自体にあまり興味がなかったのだろう。

 まだ旅も始まったばかりの時期だろうし、強くなりたいと思ってもいないのかもしれない。

 

「これで君が人間じゃなければ魔法を極めることを薦めたのだが……残念だ」

「あはは……」

「クレアは魔法なんて覚えなくても大丈夫だよ! なんたって、僕らがいるからね」

「そうそう。闘いは私たちに任せて!」

 

 ……くだらないわね。

 

 自信ありげに胸を張る二匹も。言われた言葉をただ受け入れるクレアも。

 なぜか分からないけど、いやに不快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法を教えてほしいなんて、突然だね」

 

 夜、焚火で温まりながらクレアはソーサリモンと話していた。

 周囲で眠る大勢のデジモンたちに見覚えがある。

 ここは、クレアたちが蛇のデジモンを助けた記憶で見た場所だ。

 

「クワガーモンに襲われた日から、ずっと考えてはいたんだ。でも、私にはまだ必要ないものだって思ってた」

 

 記憶と記憶が繋がっていく。

 思い出すのはクレアが初めて死を目の当たりにした日。

 きっとあの日を境に、彼女は少しずつ変わっていった。

 

「それが間違いだった。私が魔法を覚えていれば、怪我してたメガシードラモンの治療ができてたら、彼は……!!」

 

 泣きそうな顔で、絞り出すような声で。

 クレアは懺悔する。

 

 助けたかったと、私にはそう聞こえた。

 

「……教えるのは補助魔法だけだ。攻撃魔法は、君にはいらない」

「っでも……!」

「クレアは私たちが守る。君が戦う必要はないんだ」

 

 ここまで訴えても、ソーサリモンはクレアに魔法を教える気はあまりないらしい。

 塔で出会った時は魔法を教えたそうにしていたが……旅をして、何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

 まあ、何かしら彼女なりの考えがあるのは確か。

 記憶でしか知らないが、クレアの想いをいたずらに無碍にするような性格をしているようには思えない。

 それがクレアのためになるとは、思えないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教えてよ、ソーサリモン……」

 

 泣いている。

 

「クレア……」

「彼女はあんな敵に殺されるようなデジモンじゃない! それなのに死んだのは私のせいだ! 戦えない私を守りながら戦ったから、だから、あんな……!!」

 

 命の奪い合いをすることになっても、どんな記憶を取り戻しても泣かなかったクレアが、ボロボロと涙をこぼしている。

 

「もう、嫌だよ……私のせいで誰かが死ぬのは、もうやだ……っ」

 

 ああ、でも、それでも。

 

「だから、教えて。私に、だれかを守る力を、魔法をっ、教えて、ください……!」

 

 クレアがこうして前に進もうとするのは、なんでだろう。

 人間って、こんなにも諦め悪い生物だったかしら。

 

 

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