Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第四十二話 勝機を掴みとる

 朝、いつもより少し遅めの起床。

 なんだか少し居心地が悪くて、起き上がらずに隣のベッドから背を向ける。

 

 この居心地の悪さは、今日見た夢の内容が原因だった。

 別に、今回の記憶が悪いものであったというわけじゃない。

 確かに悲しいことも多かったけれど、みんなが私を大切にしてくれていたことが分かる幸せな夢でもあった。

 

 だから、今も悲しくて居心地が悪いわけじゃない。

 ただ、恥ずかしいのだ。

 

 夢の中で、私はボロボロに泣いていた

 私のせいで誰かが死ぬのは嫌だと。弱い自分のままではいたくないと。

 泣き喚いて、ソーサリモンに縋り付いていた。

 

 悲しかったから泣くのは当たり前だ。

 今の私でも、大切な彼らが死んだら耐えられるかは分からない。

 

 問題なのは、それがランサーにも見られたであろうこと。

 どうしようもないことだとは分かっているけど、泣き顔を見られるのは流石に恥ずかしい。

 

「……なに寝たふりしてるのよ、貴女は」

「うっ」

 

 な、なんでバレてるんだ……。

 普通に反応しちゃったし、もう寝たふりを続けららない。

 

 なんでこう、戦闘以外になるとうまくいかないんだろう。

 せめて気持ちが落ち着くまでは反応しないこともできたのに。 

 

 なんて、ぐちぐち考えてる間も向けられる視線は鋭くなっていき。

 渋々ベッドから起き上がる。

 

「お、おはよう、ランサー」

「おはよう。さっさと準備しなさい」

「う、うん!」

 

 こっちの気持ちもなんのその。

 彼女はいつもと同じ様子で、いつもは返してくれない返事をしてくれた。

 

 それが嬉しくて声が少し大きくなってしまったけど、仕方がない。 

 ベッドから立ち上がって、制服へと手を伸ばした。

 

 にしても、揶揄ってきたりとかはしないんだな。

 ランサーは結構サディストな所があるから、泣き顔で揶揄ってきそうな気もしたんだが……。

 まあ、触れられないならいい。もしかしたら見られてないのかも。

 

「じゃあ、とりあえず朝ごはん食べに行こう」

 

 なんだかお腹もすいたし。

 まずは腹ごしらえをして、それからやることをしよう。

 

「あ、そうそう。貴女の泣き顔、中々よかったわよ、クレア」

「……はぁ!?」

 

 慌ててランサーを見ても、なぜか彼女の姿は見えない。

 まさか、わざわざ霊体化したのか。私を揶揄うためだけに……!?

 

「ら、ランサー……っ!!」

 

 様々な感情が混ざりあった私の叫び声は、空しくマイルームに響いた。

 

 

 

 *

 

 

 

 食堂で気持を整え、再びマイルームへと戻る。

 カチャンという音と共にかかるロック音を聞きながら、首元のリボンを外した。

 

「ふぅ」

 

 この制服特有の圧迫感も慣れたものだが、やっぱり首元を緩めると大分楽になる。

 外に出るときはまた着けることになるけど、今くらいは楽にしよう。

 

 と、そこまで考えて、ふと思った。

 別に、この月海原制服を律儀に着続ける必要なんてないんじゃないか、と。

 思い返してみれば、結構私服を着ている人も多い。

 私も、制服じゃない服にしてみようか。個人的に、スカートよりパンツスタイルの方が動きやすいし。

 

 でも、問題は服がどこで売ってるかだよなぁ。

 購買で体操服は売っていたけど、あれは礼装だったし。

 私服を着てる人たちは、どこで服を手に入れたんだろう。記憶の返還と共に、ここに来た時の服にしてもらったのかな?

 

 ……もしそうなら、記憶がない私には無理そうだ。大人しく制服のままでいよう。

 まあ、これで戦うのにも慣れてきたしね。下手に変えるよりはいいはずだ、うん。

 

 さて、そんなことは置いといて、今日やることについて考えよう。

 猶予期間(モラトリアム)ももう最終日。やり残したことはまだ沢山ある。

 

 情報整理、魂の改竄、買い出し、あとは一応桜に火傷を見てもらって……まあ、今浮かぶのはこれくらいか。

 全て明日に回してもいい内容だが、決戦開始時間は明日決まる。もし一番最初に呼ばれたら、こんなことやってる暇はない。

 できる限り、今日中に全部終わらせたいところだ。

 

 だから、まずは情報の整理から始めよう。

 いつもなら敵サーヴァントの真名に心当たりがついている時期だけど……今回はまだ当たりもつけれていない。

 今ある情報で真名に辿り着けるか不安はあるが、とにかく私の持ってる情報からまとめてみよう。

 

 最初に、相手のクラスはアサシン。

 武器はそこら辺にあるようなナイフ。見た限り、特別魔力も籠ってなかった。

 性格は恐らくマゾヒスト、しかもドMとか言われる類いのやつだ。あとは暗殺者(アサシン)とはいうけど、彼は虐殺の方が好きらしい。

 

 ……やばい。本当に情報がない。

 こんな抽象的なもので、本当に真名に辿り着けるのか?

 

 とりあえず、ランサーに他に情報がないか聞こう。

 今回は、私よりも彼女の方がよく知ってそうだ。

 

「いや、知らないわよ」

「え」

「戦闘中にお喋りなんてするわけないじゃない」

 

 ごもっとも……!

 反論する隙もない正論だった。

 

 しかし、こうなると本格的に真名に辿り着ける気がしなくなってきた。

 一応、図書室でキーワード検索くらいはしておこう。もしかしたら、何か手掛かりが出てくるかもしれない。

 

 よし、そうとなればすぐに向かおう。幸い、マイルームと図書室は同じ階にある。

 情報が少ないのはもうどうしようもないから、さっさと調べてやることを終わらせていこう。

 

「図書室で軽く調べて、それから教会に行こうか」

「ええ」

 

 軽く行き先を伝えながら、リボンを結ぶ。

 身だしなみを鏡で確認して、それからマイルームを出た。

 

 まだ朝早い時間だからか、図書室は結構空いていた。

 これなら、ゆっくり集中して情報の検索もできるだろう。

 

 配置してある椅子に座って、以前教わった検索画面を投影する。

 表れる検索画面に、とりあえず思いついたキーワードを二つ入力してみた。

 

「……まあ、こんなので出たら苦労はしないか」

 

 結果は惨敗。

 出てきたのは昔の漫画作品だとかで、歴史的な検索結果はぱっと見なさそうだった。

 

『キーワードがよくないんじゃない?』

 

 突然、頭の中にランサーの声が響いた。

 それに少し驚きながらも、念話で返事をする。

 キーワードがよくないとは、一体どういうことだろう。ちなみに、今回入力したのは「暗殺者 マゾヒスト」という単語だ。

 

『あいつは暗殺者じゃないわ。言ったでしょう。戦闘もしたことないような近代の人間だって』

 

 確かに、昨日アリーナでそんなことを言っていたけど。

 なら、なんて言葉で検索をしたらいいのだろう。

 

 もう一つの方には言及しなかったから、いけなかったのは恐らく暗殺者という単語だけ。

 あのアサシンが好きなのは暗殺ではなく虐殺。それは本人が言っていたことだ。

 

 あの時、彼はどんな声色でああ言っていたっけ。

 ……確か、残念そうな声だったと思う。じゃあ、一体なにが残念だったのか。

 

 虐殺。意味は惨いやり方で人を殺すこと。

 つまりアサシンは、暗殺者のように一撃ではなく、相手を痛めつけて殺したかった。

 ただ一人殺しただけなら、歴史には残らない。ムーンセルに、歴史に名が刻まれるほどに彼は多くの人を殺したのだろう。

 

 そんな殺人犯に付けられる一般的な名称は……。

 

「これで、出てくるんだ」

 

 たった一つ。『暗殺者』という単語を『殺人鬼』に変えただけで、一番上に出てきた名前があった。

 

 アルバート・ハミルトン・フィッシュ。

 アメリカ史上最悪の殺人鬼と呼ばれた男の名前だ。

 

(本当にこれがアサシンの真名?)

『確証なんてないわ。でも、当てがないよりはましでしょう?』

(それは、そうかもしれないけど)

 

 まあ、真名解明への不安が少し取り除かれたのは確かだ。

 

 とはいえ、確証がない以上、このアルバートという人物とアサシンが同一人物だと決めつけるのはいけない。

 先入観を持ったら、違った時にどうなるかわからないから。

 だから、今はこの人を中心に近代の殺人鬼の情報にも目を通しておくくらいがいいだろう。

 

「ぅん~……!」

 

 ────様々な資料を読むこと数時間。

 流石に、殺人鬼の来歴ばかりを読むのは気が滅入る。

 アルバート・フィッシュに関しては一通り目を通せたし、この辺りにしておこう。

 

「もうお昼過ぎか」

 

 時計を見れば、針は既に頂点を回っていた。

 今の時間帯に食堂に行っても、混んでいて座れなさそうだ。

 

 幸い、朝に買っておいた食べ物が少しあるし、教会前の広場で食べるのもありかもしれない。

 魂の改竄を行って、それから広場で昼食。もし足りないようなら、改めて食堂で食べればいい、かな。

 

 教会にはここ数日行っていないし、昨日は魔法の実験も兼ねてかなりの数のエネミーを倒した。ステータスアップは期待してもいいだろう。

 

「こんにちは。お久しぶりです、青子さん」

「あら、いらっしゃい……って、あれ?」

 

 こちらを見て首を傾げた青子さんに、私も思わず首を傾げた。

 はて、なにかやってしまったんだろうか。やらかした覚えはないのだけど。

 

「三日会わざればなんとやらとは言うけど……アナタ、何かあった?」

「へ?」

「なんか存在感が違うっていうか……なにかしら、これ」

 

 どうやら、青子さんには私がなにか変わったように見えているらしい。

 しかし、私自身に自覚はない。毎日会っているランサーや白乃にも、そのようなことは言われてない。

 

「なんだ青子、お前まだ気づかないのか」

「なにその言い方。まさか、アンタはこの違和感がなんなのか知ってるわけ?」

「当然さ。私を誰だと思っている」

「ぐぬぬ……!」

 

 あ、これはまずい。

 二人のこういう会話を聞くのは初めてだが、まずいのは流石にわかる!

 

「あ、あの! 改竄をしてほしいんですけど」

「……ええ、そうね。そのために来たのだものね」

 

 大きな声で間に入れば、青子さんはすぐに意識をこちらに向けてくれた。

 橙子さんの方は、まるで最初からなにもなかったかのように自らの作業に戻っている。

 

「それじゃあ改めて。今日のご注文は?」

 

 いつもと同じ問いかけに、今回考えた振り分けを話した。

 図書室で情報を集めながら、ランサーと決めた振り分けだ。これで、ステータスが上がるといいんだけど。

 

「オーケー。それじゃあ、早速取りかかりましょうか」

 

 さて、こうなると私は暇だ。

 ちなみに、以前考えてた改竄中の青子さんの手元を覗くのは断られた。

 なんでも企業秘密なんだとか。

 

 改竄してもらっている身である私は、それを言われてしまえば引き下がるしかなく。

 結局、いつも通り後ろの長椅子に座りながら改竄の様子を眺めていた。

 

 ぼぉっとしながら、なんとなくさっきの橙子さんと青子さんの会話を思い返す。

 やっぱり、橙子さんは私自身も知らない私のなにかを知っている。そして、青子さんもそれに気づきつつある。

 でも、肝心の私にはそれがわからない。

 

 気にならないと言えば嘘になるが、橙子さんに聞いても答えてはくれないだろう。

 初めて会った時みたいに、自分で探せと言われそうだ。

 

 私も知らない私の秘密、かぁ。

 それは一体なんなのだろう。嫌なことではなければいいんだけど……。

 

 なんて、そんなどうしようもないことを考えていれば、いつの間にか改竄は終わっていた。

 考え事をしていると、時間が過ぎるのはあっという間だ。気をつけないとな、と思うのももう何度目か。

 

「すごいわね。ステータスが二つも一緒に上がるなんて、中々ないわよ」

「っ本当ですか?」

 

 青子さんの言葉に、慌てて端末でランサーのマトリクスを確認する。

 

  

 ステータス:筋力D 耐久D 敏捷C++ 魔力C 幸運D

 

 

 端末に映るステータスに、思わず口許が緩む。

 偏らないよう振り分けたから大幅上昇したものはないが、今までと比べると雲泥の差がある。

 

「本当だ。敏捷と魔力が上がってる」

「他のもあと少しで上がりそうよ。勝ち残れば、四回戦中には上がるでしょう」

 

 これなら、アサシンたち相手にある程度余裕のある戦いができるかもしれない。

 加えて、今の私には魔法もある。間違いなく、状況はいい方向に向かっている。

 

 さらに付け加えられた青子さんの言葉に、思わずランサーと顔を見合わせることになった。

 

「それから、なんでかは分からないけど、アナタの位階もだいぶ上がっているみたい。リソースさえ用意できれば、すぐにでも改竄できるわ」

 

 その言葉に驚きはあっても、不思議と疑問はない。

 多分、昨日取り戻した記憶のおかげだ。あの記憶を取り戻したとき、知識を得たと同時に魔力の巡りがよくなった。そのお陰か、昨日よりも格段に扱える魔力の量は多くなってる。

 自分ではなにか変わった感覚がなかったから、全然気づかなかったけど……さっき青子さんに言われた存在感が違うという言葉も、もしかしたらそのせいなのかもしれない。

 

 でもまさか、位階まで上がるなんて思ってもなかった。

 思わぬ恩恵だ。リソースだけならエネミーを倒す以外にも手に入れる方法があるはずだし、今日中に何とかできないかを考えよう。

 

 絶望的だった戦況に、少しずつ勝機が見えてきた。

 このまま油断せず戦えば、勝利を掴みとることができる筈だ。

 

「……勝たなくちゃ」

 

 ここまで来たんだ。負けられない。負けたくない。

 白乃とホムラとの約束がある。取り戻してない記憶も、まだ沢山ある。

 絶対に、こんなところで終わってなるもんか。

 

 

 




9/15 教会でのシーン、最後の方に少し付け足しました。
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