Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
目が覚める。ふかふかベッドの誘惑に負けそうになりながらも、なんとか起き上がった。
疲れは残ってない。どうやらぐっすりと眠れたみたいだ。
軽く伸びをして体を解していると、既に起きていたランサーが一言。
「早く準備しなさい。さっさと行くわよ」
彼女は既に準備を整えていたらしく、早くするよう目線でも訴えてくる。
だけど第一声がそれは悲しい。せめて挨拶くらい……あ、なんでもないです。
脅すように軽く動かされた足に敢え無く屈する。流石に攻撃してくるようなことはないだろうが、ちゃちゃっと準備しよう……脅しだよね?
まあでも、準備と言ってもすることはあまりない。制服に着替え、髪を整えればそれで十分だ。
うん、変なところなし。
マイルームから出て、朝食をとるためにまずは食堂に向かう。
ついでに昨日決めておいた回復アイテムを購入すれば、ここでの目的も達成だ。
「それじゃあ、情報収集を始めようか」
次にするべきことは情報収集だ。アリーナに行く前に、校舎にいる生徒に対戦相手のことを聞いてみよう。
マイルームから出て、とりあえず視界に入った生徒はNPC、マスター関係なく全員に話しかけてみる。
一部のマスターとNPC、特に運営に関わる生徒は公平を期すためかそういった情報は教えてくれなかった。
だが、それを差し引いても今回の情報収集は意味のないものだったと言っていい。なにせ誰もが小鳥遊飛鳥のことを知らないと口を揃えるのだ。
有名な魔術師ならば性格や来歴などを知ることができたかもしれないが、誰も知らないということは私と同じ無名の魔術師なんだろう。
遠坂からはそれならあなたでも勝てるかもね、なんて皮肉じみたことを言われてしまった。
だがまあ、一回戦から彼女やレオのような相手ではなくて安心したのは本当だ。これなら勝てるかもしれないと、少し浮かれていた。
「無名と言えど、相手はこの月に侵入してきたA級ハッカー。そのままだと無様に死ぬわよ、貴女」
それはまるで、頭に冷水をかけられたような感覚だった。浮かれていた気持ちが一気に冷める。
全くもってランサーの言う通りだ。
いくら相手が無名とは言え、ここは電脳空間。A級ハッカーである相手の土俵だということを忘れてはならない。
頬を叩き、気合いを入れ直す。
「ごめん、ありがとうランサー」
お礼を言いながらもアリーナに向け歩を進める。
校舎でできることはもうない。今できるのは、アリーナで戦闘経験を積むことだけだ。
少しでも多くの経験を積むために早足でアリーナへと向かう……はずだった。
「ちょーとまったぁ!!」
「うおっ!?」
突如目の前に現れた人影。
早足だった私の足は止まることができず激突する。ゴツン、と鈍い音と共に視界がぶれた。
「ちょっと!?」
珍しく驚いたランサーの声が、変に頭に残って……。
気づいたら保健室のベッドの上だった。
「……えぇ」
痛む頭を抑え起き上がる。
たんこぶができてる。どんだけ石頭なんだ、あの人は。
「あ、よかった。起きられたんですね」
「ご、ごめんねヴィオレットさん!」
「桜……藤村先生」
縞模様のTシャツと、緑のワンピースという教師っぽくない服装。茶髪のショートヘアが彼女の活発ぶりをより際立てている。
藤村大河。予選の時は私のクラスの担任を勤めていた人だ。
保健委員である桜はともかく、なぜ藤村先生がここに?
ていうか、彼女は予選だけのNPCじゃなかったのか。
「貴女がぶつかったのはそいつよ」
憐れむような目を私に向けていたランサーが、藤村先生に視線を移した。
その意味を察せないわけはない。
「先生……」
「ああっ、そんな目で見ないで! ほんと、このとーり!!」
平謝りする姿に思わずため息が漏れる。
見た感じ、怪我をしたのは私だけのようだ。それはよかったと言うべきか。
でもほんとに石頭だな、この人。
「で? なんのご用ですか」
未だヒリヒリする頭を擦りながら聞いてみる。
先生は気まずそうに視線を反らしながらも言葉を繋いだ。
「えーと……実は部活用の剣道着がアリーナにあるみたいでね……?」
「……それで」
「取ってきて! 私じゃアリーナに入れないの!」
なんで部活用の剣道着がアリーナにあるんだ。違う意味で頭が痛くなってきた。
いや、でもないと困るから頼んでるんだろうし……。
返答に迷う。メリットもなければ、そんな暇もない。だけど、困っている人を放っていくわけにはいかない。結局、答えは最初から決まっていた。
「分かりました」
「ほんとに? ありがと!」
先生は満面の笑みを浮かべお礼を言ってくれた。
その笑顔が見れただけでも頼みを聞いてよかったと思う。この顔を曇らせないためにも頑張らなければ。
「私は一階の階段付近にいるから。一回戦の間に届けてくれる? あ、でも私も毎日いる訳じゃないから、気を付けてね」
最後に怪我について謝ってから、先生は保健室から出ていった。
相変わらず元気な人だったな。
さて、今度こそアリーナへ行かなければ。
軽く体を動かして調子を確認する。まだ少し頭が痛むが、これもしばらくすれば収まるだろう。
「私も行くよ。ベッド貸してくれてありがとう」
「いえ、マスターの体調管理が私の仕事ですので。それからこれを」
そう言って渡されたのは、治療アイテム?
「支給品になります。こちらは一回戦毎に渡せますので、ぜひ保健室に寄って行ってください」
「へえ。それは助かる」
再びお礼を言って受け取る。
エーテルの欠片。ランサー曰く一番効果の薄い治療アイテムだそうだが、ないよりは断然いい。
お金の節約にもなるし、これからも忘れず受け取りに来た方がいいだろう。それも、勝ち続けないと意味がないのだが。
「そういえば、気を失っている間に端末が鳴っていましたよ。確認を怠らないようお願いします」
わざわざ言ってくれる辺り優しいと言うかなんと言うか。
何から何までお世話になってしまっている。今度お礼で何か贈るべきだろうか。
とりあえずその場は別れを告げて保健室を出た。お礼はまた考えておこう。
廊下の端で端末を取り出し、メールを確認しようとすると、突然後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「……貴女、よく面倒事を請け負ったものね」
「アリーナ探索のついでだよ。それに、困ってるのを見捨てるわけにはいかないし」
元々アリーナは隅々まで見て回る予定だったんだ。アリーナのどこかにあると言っていたし、探索していれば見つかるはず。
あの子虎のように縋る瞳にやられた、というのはちょっとした秘密だ。
でも、ランサーに相談せずに決めたのは確かに良くなかった。アリーナで私を守るのは彼女なのだから、もし次があるならきちんと相談してから決めよう。
次がないのが一番いいんだけどね。
っと、桜が言っていたメールはこれか。
目的のメールを見つけ確認する。しかし、その内容は全く理解できなかった。
『
この第一暗号鍵というのは一体なんなんだろう?
最初のルール説明のときには聞かなかったけど……あ。
「言峰に聞けばいいんだ」
すっかり忘れていたが、元々言峰にルールを再確認しようと思っていたんだった。
昨日は一階で話しかけられたが、今日も一階にいるのだろうか。
周囲を見渡すと、あのカソック姿は意外とすぐに見つかった。やっぱり目立つな、あれ。
「言峰。ルールについて聞きたいことがあるんだけど」
「おや、君は……ふむ、どうやら第一暗号鍵が生成されたようだな」
知っていたのか。じゃあなんで最初のときに説明しなかったんだ。
思わず責めるような目線を向けてしまうが、目の前の神父は何処吹く風。悪びれた様子も見せず、トリガーについて説明を始めた。
「
なるほど、トリガーすら取れないマスターに戦う資格はないということか。
それに二つと彼は言った。つまり、もう一つのトリガーは第二階層にあるのか?
「その通りだ。我々はその二つのトリガーを便宜上
礼装やアイテムの回収に対戦相手の情報収集。それに加えてトリガーの入手もしなければならないと思うと、かなり大変かもしれない。体力配分には気を付けて行動していこう。
「トリガーの準備ができ次第、聖杯から君の端末に情報を送る。注意して待つがいい」
他に聞きたいことはあるか? と言峰は続ける。
んー……。
「まだ説明されていないルールがあれば教えてほしい」
「ふむ。では決戦場でのルールを教えておこう」
一つ、サーヴァントはサーヴァントにしか攻撃できない。
二つ、マスターは相手マスター、及び相手サーヴァントの両方に攻撃できる。
三つ、決着を判断するのは”サーヴァントの死”であり、そこにマスターの生死は含まれない。つまり、マスターが死んでもサーヴァントが生きている限り戦いは続く。
「といっても、サーヴァントはマスターからの魔力供給がなければ存在できない。例えマスターを殺されたサーヴァントが勝ち残っても、次に進むことは不可能だろう」
結局のところ、マスターとサーヴァント、両者が生き残らないと意味がないということだ。
それから、サーヴァントはサーヴァント相手にしか攻撃できないというのは朗報だ。これでサーヴァントからの攻撃を受ける心配はなくなった……わけではない。これはあくまでも決戦場でのルール。アリーナには適用されない。
アリーナでは、サーヴァントによる直接攻撃などを受ける可能性がまだあるということだ。少なくとも、猶予期間の間は注意しなくてはならない。
「最後に、七日目に闘技場へ入る前の私闘は禁止されている。万が一アリーナで私闘に及んだ場合、僅なうちにシステム側から強制終了させられるだろう」
最後に伝えられた内容に思わず顔を顰めた。
決勝までに相手の手の内を知っておきたかったがそれは難しそうだ。まあそれは向こうにも言えることだが。
その僅かな間でできるだけ多くの情報を集める必要がある。
「学園での私闘にはマスターのステータス低下というペナルティが与えられる。気をつけたまえ」
それは辛い。只でさえ弱いというのに、ペナルティまで食らったら更に弱くなってしまう。
なるべく、というか絶対に学園での私闘は避けて通らなければ。
「さて、これで最低限のルールは全て説明した。アリーナに向かいたまえ、時間は有限だぞ」
この男、今"ルールは"って強調したぞ。つまり他にも私が知らない何かがあるということだ。
聞いてみてもいいが、適切な言葉が見つからない。うまいこと言わなければ誤魔化されてしまいそうな気がするのは何故だろう。
……まあいい。本当に必要なことであればランサーが教えてくれるはずだ。
といってもそれがいつになるかわからない。図書館で調べたら出てくるといいんだけど。
悶々としたまま言峰と別れ、今度こそアリーナに向かった。
*
扉を潜った先にあるアリーナは、昨日とは違い違和感を覚えた。
張り詰めた空気がアリーナを包んでいる。
「ランサー、これって……」
「ええ、サーヴァントがいる」
ランサー以外のサーヴァント。つまり、対戦相手も今このアリーナを探索しているということだ。
こちらが気づいたということは向こうも気づいているだろう。
避けるのも一つの手だが、そうすると情報を集めることはできない。多少のリスクを冒してでも仕掛けるべきだ。
「逃げられる前に追い詰めよう。敵の位置はわかる?」
「アリーナの奥地で待ち構えてるわ。考えてることは一緒ね」
どうやら、向こうも迎え撃つ気らしい。
道中のエネミーを倒した後でのサーヴァントとの戦い。さらに相手が先にいたということは、罠だって仕掛けられているかもしれない。昨日よりも慎重に進んで行こう。
前回と同じ道、同じエネミーを倒しつつアリーナの奥へと進んでいく。道を塞いでいた蜂型のエネミーはおらず、容易に進むことができた。
そして、開けた場所へ続く一本道。
その途中で私以外の人間と出会った。
色素に薄い髪に、空を連想する水色の瞳。
なぜか違和感を覚える健康的な肌。
どこか儚く見える女性は、傍らに鎧を着込んだ武士を侍らせていた。
「クレア・ヴィオレットさんですね」
「小鳥遊、飛鳥……」
思わず名前を呟けば、彼女はクスリと微笑みを浮かべる。
マスターである彼女からは敵意があまり感じられない。
でもそれは予選の日常が抜けてないからじゃない。どちらかと言えば、敵意を向け慣れていないと言うべきか。
「マスター、いかがなさいますか」
けれどそれはマスターに限った話であり、傍にいるサーヴァントは違う。
鈴のように凛とした声色。
籠手に包まれた右手には抜き身の刀が握られている。
自然体にも関わらず、隙は少しも見当たらない。刀と同じ色に輝く緋色の瞳は、明確な殺意を持ってこちらを睨んでいた。
「貴女の力、見せつけてあげなさい」
「御意」
空気は一転。緋色の刃がこちらに向けられる。
「ランサー」
「わかってるわ」
ランサーの後ろに下がり、いつでもアイテムでサポートできるよう準備する。
一瞬の静寂の後、先に仕掛けたのはランサーだ。
持ち前のスピードを活かして放った蹴りは、易々と刀に受け止められてしまった。だけどランサーは止まらない。
何度も手法を変え放たれる猛攻を、相手は的確に捌いている。
だが、その状況も長くは続かなかった。
無理矢理刀を押し退けたランサーの一撃が、敵の鎧の隙間を縫って入る。擦った程度ではあったが、鋭い踵は肉を裂き血が流れ出した。
微かに顔を歪めた敵を見て、ランサーは笑みを浮かべる。
「くっ……」
「大丈夫!?」
小鳥遊が手を前に突き出す。その手の周りを、何かの羅列が渦巻いて。
「
「あれが、コードキャスト……」
淡い光がサーヴァントを包み、切りつけられた怪我が治る。
恐らく、治療用のコードキャストだ。今私が持っている治療アイテムよりも回復量が多いのは見て分かった。
敵サーヴァントは礼を言うと再び刀を構える。ランサーも構えを取り、地を蹴り敵へ接近する。
再び切り合いが始まろうとした、その瞬間。
警告音が鳴り響き、ノイズが走る。
突然の不快感に顔を顰めていると、敵に向かって行ったはずのランサーが私の隣に立っていた。
それは向こう側も同じだ。敵サーヴァントは刀を持ったまま小鳥遊の隣に立っている。
「強制終了ね」
「ああ、言峰が言っていた」
アリーナでの私闘は僅かな間で強制終了させられる、だったか。
これ以上の私闘は危険だ。警告を無視してペナルティを受けては意味がない。
「今日はここまでですね」
彼女も同じことを思ったのだろう。
自らのサーヴァントに心配の目を向けながら、静かにそんなことを言う。
「それでは、また明日」
小さく頭を下げ、小鳥遊飛鳥とそのサーヴァントは一瞬で姿を消した。
アイテムを使いアリーナの外に出ていったんだ。アリーナを包んでいた緊張感がなくなっている。
「ランサー、怪我はない?」
「見ていたならわかるでしょう」
確かにそうだけど、全部を見れたわけじゃない。死角になった所で怪我をしていないか心配なんだ。
ただでさえ防御力はなさそうなのに。
「……ないわよ」
ならよかった……とはならない。
僅かではあるが切り傷が見えた。隠したかったのか、それとも本当に気づいてないか。どちらにしても私の目は誤魔化せない。
あれぐらいなら回復量の少ないエーテルの欠片でも完全に治せるだろう。
「少しじっとしてて」
アイテム欄から目当てのものを選び、取り出す。
欠片をランサーに向けると、それはデータとなり傷を治していった。
全てのデータがランサーに取り込まれるのを見届け、傷口を確認する。血が滲んでいた切り傷は痕もなく消え去っていた。
「バカじゃないの? この程度の傷にアイテムを使うなんて」
「効果を試したかったし、まだアリーナの探索は続くんだ。念のためにね」
そう言うと彼女は、興味無さそうに頷いて先に歩き出してしまう。
嘘は言っていないが、傷を治したのにはもう一つ理由がある。でもそれを言うのは少し恥ずかしいから、あれ以上追求されなかったことに安心した。
一切こちらを振り返ることなく進むランサーの後ろを追いかける。
隣へ並び、小鳥遊飛鳥とそのサーヴァントについて話し合う。
「クラスはセイバー。鎧から見るに、日本の英霊かな?」
「十中八九そうでしょう」
今回の戦いで分かるのはそれだけだが、それでもいい情報だと思う。
日本の女武士で有名な人物と言えば限られてくるはずだ。こればっかりは調べてみないと分からないが、鎧から年代が判明できるかもしれない。
明日にでも図書室で調べてみよう。
「敵よ」
「ああ」
キューブ型とは違う、羽を広げているようなエネミーだ。
……なんでだろう。あれを見てると不快感が募る。
さっさと倒してしまいたい。が、行動パターンを把握しなければ後々大変になるかもしれないので。
「ランサー、悪いけど……」
「わかってるわ。長引かせればいいんでしょう?」
本当に、本当に嫌そうな顔をしてる。
今回ばかりは同意するが我慢してもらおう。私も我慢する。
ランサーが構え、敵は迫る。
しかしどういうわけだか、距離を開けて停止したエネミーはそのまま動こうとはしない。
「…………」
棒立ちのまま数分が経ち、ようやく攻撃をしてきた。
それを防ぎカウンター。再び防御の体制を取るランサーと、また攻撃してこないエネミー。
「……あー」
ランサーの目に、怒りが満ちた気がした。
力任せに敵を蹴る。
二手ほどで塵となったそれを見向きもせず、恐ろしいほど冷たい声で彼女は言った。
「次、行くわよ」
「は、はいっ!」
こ、こわい……。
明らかに怒ってる。絶対怒ってる。
これはなにも言わないのが得策だよな……。
「あ」
先程と同じエネミーを見つけた。が、それは一瞬で塵となる。
「……」
今度はなにも言わない。
無言で進むランサーに、とある言葉が思い浮かんだ。
────触らぬ神に祟りなし。
これから出会うだろうエネミーに合掌しつつ、置いていかれないよう走り出す。
……さっきよりも、少し距離を開けて。
初めまして、センニチコウと言います。
1回戦はオリキャラとセイバー?との戦いになります。
戦闘描写等ぎこちない文ではありますが、これからも読んでいただけるとうれしいです。
また活動報告の方に、とても些細なことではありますが、この作品についてのご意見を頂きたくアンケートを投稿させてもらいました。
ぜひ、活動報告の方でご意見をお聞かせください。
その他、感想、誤字脱字等のご指摘もお待ちしています。お気軽にどうぞ。
12/15追記
言峰との会話を一部修正しました。