Fate/Digital traveller 作:センニチコウ
あれから何体もの敵を倒して回った。それこそ、同じ場所を何度も巡ってランサーが満足するまで。
倒したエネミーの数は優に10体を超えているだろう。
でもそのお陰でランサーの気分は絶好調、とまではいかないがいつも通りに戻った。
これで探索も再開できる。
ぐるぐる周っていたエリアから離れ、新たな場所に出る。
そこにも敵はいたが、何度も倒したせいで行動パターンはすべて把握している。悲しきかな、苦戦することもなく数手でエネミーは消失した。
そして、そのエネミーがまるで守るようにしていた赤いアイテムフォルダ。それは今まであったものと違い、既に開けられていた。
「なにこれ」
「……礼装じゃない? さっきの女が使っていたでしょう」
さっきの回復のコードキャストのことか?
なるほど、あれはここにあった礼装を用いたものだったのか。
いくら目的の礼装ではなかったといえ、敵に取られたのは痛手だ。今後はこのことも考えて行動しなければ。
この先は行き止まりだったので、来た道を戻り別の分かれ道へ向かう。
途中出会ったエネミーを倒しながら進むと、再び赤のアイテムフォルダを見つけた。
その中にあったのは剣道着。
恐らく藤村先生から頼まれたものだろう。面、胴、篭手、垂、そして袴。一式すべて揃っている。
これで先生の依頼も完了だ。
「ん?」
アイテムフォルダにまだ何か残ってる。これは、木刀?
「剣道は竹刀じゃなかったっけ」
手に持って見てみるが、どこをどう見てもただの木刀だ。可笑しな所はどこにもない。
「それ、礼装ね」
「これが?」
「ええ」
もう一度木刀をよく眺めるが、やはりただの木刀に見える。
礼装とそうでないものの見分け方を覚えておくべきか。
結局見てるだけでは分からず、一度端末にしまってアイテム項目から調べてみた。
確かに木刀は礼装に分類されている。あれ、本当に礼装だったんだ。
やっぱり後で見分け方を教わろう。何かの役に立つかもしれない。
ついでにこのまま二つの解説と効果を調べておこう。
実はこの項目ではそのアイテムについて一言程度の解説が添えられている。これを読んだりするのが意外と楽しいのだ。
さて、この木刀と剣道着にはなにが書いてあるんだろう。
まずは剣道着から。
「『部活用の剣道着。実は臭う』……うっわ」
知っていたけど知りたくなかった事実。
これを着て部活をするんだから、剣道部員はすごい。
気を取り直して、次は木刀だ。
これは礼装だから剣道着とは違い効果も記されている。解説はおまけみたいなものだ。
ちなみに解説は『枇杷の木でできた高価な木刀』だった。意外にもレアな木刀らしい。
効果の一つは『
そしてもう一つは……。
「『
「敵を一定時間
ランサーから説明が入る。それは私が求めていたコードキャストだった。
回復用の礼装を取られたのは痛いが、代わりにこっちを手に入れられたのは幸い……って、まずい。
「これ、藤村先生に渡さないといけないのかな」
剣道着と一緒に入っていたこれは、藤村先生に頼まれていた一つかもしれない。
でも竹刀じゃなくて木刀だ。偶然一緒に入ってた、とかならいいなぁ……。
とりあえず、先生には譲って貰えないか交渉しよう。
だけど、うん。とりあえず今は使わせてもらおう。そう思い、装備項目から礼装を装備する。
変わったところは特にないが、これでコードキャストが使えるはず。
敵はいないが試しておこう。コードキャストの使い方にも慣れておきたいし、いい機会だ。
意識して礼装に魔力を流す。
前に突き出した手の周囲に羅列が渦巻き、それは一つになっていく。
「
一つとなったコードは勢いよく飛び出し、アリーナの壁に当たって消滅した。
電撃というよりは銃から飛び出す銃弾のようだ。早さもそれなりにあるし、これなら威嚇としても使えそう。
魔力消費も少ないので重宝したい。藤村先生への交渉は頑張らないと。
コードキャストの試し撃ちも終わり、残りはトリガーを探すだけとなった。
といっても行っていないのはこの先だけ。恐らく進んだ先にトリガーもあるだろう。
再び一本道を進んでいくと、通路の先に蜂型のエネミーがいることを視認する。昨日通路を塞いでいたのと同じ敵だ。
やはりここで出会った二種のエネミーとは違う雰囲気を纏っている。
もしかしたら行動パターンを読みたい、なんて悠長なことは言っていられないかも。
ならば。
「ランサー、先手必勝だ。様子見せずに倒そう」
危なくなる可能性があるなら、最初からそんなことはしない方がいい。
敵がこちらに気づく前に攻撃する。それで倒せたら御の字だが、そこまで防御力がない訳はないか。
「行くわよ」
ランサーが走り出す。同じタイミングで地を蹴るが、先に敵の許へ辿りついたのはやはり彼女だ。
相手がこちらに気づくが、動き出す前に蹴りを放つ。
うろたえる敵へ追撃を促す。しかしそれは素早く羽ばたいた敵に避けられてしまった。
敵は容易に届かない距離を保って飛び続けている。
ランサーの脚力なら攻撃を届かせることもできるだろうが、避けられた後は無防備になってしまう。それは避けなくてはならない。
ならばどうするか、なんて決まってる。
「動きを止める! その間に羽を切り落として!」
「ええ!」
もう飛べなくしてしまえばいい。
腕を前に突き出し、先程の感覚を思い出す。
礼装に魔力を流す。コードが現れ、一つになっていく。
敵の動きは一見すると不規則に見えるが、所詮は敵性プログラム。それにもちゃんとパターンがある。
それを見極めろ。大丈夫、私ならやれる。
だって、ちゃんと
広げていた掌を銃のように構えて。
じっと敵の動きを観測する。
「
指先から放たれたコードキャストは敵の胴体へ。
空中で動きを止めたそれに向かってランサーが跳躍する。
「ふっ!」
片羽を切り落とされた敵は重力に従い落ちてくる。
大きな音を立て地面に叩きつけられる。敵は再び飛び立とうと体を動かすが、残った羽では自分の体を支えることはできない。
対照的に華麗に着地を決めたランサーが、ゆっくりと敵に近づいた。
もがく敵を見下ろしていたかと思うと、軽く蹴るように足を動かす。
その行動だけで、ランサーの鋭い足は残っていた片羽を切り裂いた。
「■■■■■───ッ!!!」
声などないはずなのに、苦痛が詰め込まれたような音がアリーナに響く。
その音に私は顔を顰めるが、ランサーは気にした様子もなく敵を踏み続けている。すぐには殺さないよう気をつけながら、弄ぶようにゆっくりと。
後ろからはランサーの顔を見ることはできない。
ただ、動けない敵をゆっくりと嬲り殺すその光景を、黙って見てるわけにはいかなかった。
「
彼女に当たらないよう場所を変えコードキャストを放つ。
このコードキャストで与えられるダメージなんて極僅かだろうに、たった一撃で敵はデータへと還っていった。
「あら」
彼女はつまらなそうな声を出す。
けれどすぐに興味を失ったのだろう。一言先に行くと言い残し、奥に見える、恐らく帰還用のポータルへ行ってしまった。
「……はあ」
なんとなく察しはついていた。
でも、まさかここまで彼女に加虐趣味があったとは思ってもいなかった。
大方、飛ぼうともがく姿が彼女をそそったんだろう。
無我夢中で敵を踏みつける様子は、簡潔に言えば恐ろしかった。
もしあれが自身に向かったら。そう思うと、彼女の存在自体が恐ろしく感じる。
だけど、ランサーは私に力を貸してくれている。
確かにあの加虐性は恐ろしいけど、それだって彼女の一部だ。怖がったままでもいい。少しずつ、彼女のことを知っていこう。
それに、大きな問題はそこじゃない。
問題なのは、彼女が私の放ったコードキャストに気づかなかったことだ。
気配を隠していたわけじゃない。正直、邪魔をするなと怒られると思っていた。でも彼女は私に気づかず攻撃を続けていた。本当に無我夢中だったんだろう。
これが戦闘中にでないことを祈るしかないが……。
「はぁ」
新たな問題に頭を抱えながら、アイテムフォルダからトリガーを取り出す。
カードキーのような形のそれを端末にしまいつつ、ランサーが向かったポータルに足を進める。
「──────え?」
「どうかしたの」
校舎へ帰ろうとした瞬間、何か妙な気配を感じた。
懐かしいような、そんな気配だ。
「……いや、なんでもない」
だけどその気配がどこから感じたのかわからない。
今から戻っても見つけられる保証はない。さらにサーヴァントとの戦いとアリーナの踏破で疲れも溜まっている。
明日、またこの階層にこよう。そのとき今の気配を調べればいい。
そう自分に言い聞かせ、今度こそポータルへ足を踏み入れた。
*
校舎へ戻ると、窓の外は既に夕焼け色に染まっていた。
調べものはあるが、図書館はもう使えない。今日はこのまま食事を取りに行こう。
食堂は昨日のように多くの生徒で賑わっていた。
カウンターで今日の夕食である焼きそばパンを受け取り席を探す。
少し離れた机の端で、一人黙々と食事をしてる白乃の後ろ姿が目に入った。その隣がちょうど空いている。約束もあるし、同席していいか聞いてみよう。
「白乃」
「あ、クレア」
「隣、いい?」
「うん……」
小さく頷く姿に違和感を覚えながらも、隣の席に座る。
今日は確か彼女の対戦相手の発表があったはずだ。気にはなるが、一マスターである私が聞いていいものか。
かといってこのまま話をしないのもどうかと思う。無難に今日あったことを聞こう。
「今日はどうしてたの?」
「……うん」
まさに上の空。答えになってない答えが返ってきて反応に困る。
確実に何かあった。けどそれは、私が入り込んでいい問題なのか。
「……実はね、対戦相手が慎二だったの」
迷っているうちに告げられた内容は、考えもしてなかったものだった。
間桐慎二。彼のことは私も知っている。
特別仲がよかったわけじゃないが、予選で友達だった男性だ。そして、白乃の友達でもある。
そんな彼が、彼女の対戦相手。
「それは……」
言葉が続かない。
今、私は何を言おうとしていた。
災難だったね?
そりゃあ災難だと思う。だけどそれは蚊帳の外である私が容易に言っていい言葉じゃない。
かける言葉はうまく見つからない。いや、むしろ何も言わない方がいいのだろうか。
わからない。こんなとき、どうしたらいいのだろう。
「白乃が、後悔しない道を探せばいいと思う」
結局、出てきたのはそんな言葉だった。
なんの解決にもならない言葉。これなら言わない方がよかったかもしれない。
「そう、だよね。うん、ありがとうクレア」
でも、白乃の顔にはいつものように笑ってくれた。
強がりかもしれない。心配しないよう気を使っているのかもしれない。
それでも、いつもの笑顔を見ただけで正直安心した。
「これからも一緒に食事をしよう。時間が合わないときは仕方ないけど、できるだけ一緒に」
白乃が昨日言ってくれた言葉を、今度は私からも伝える。
私はこの言葉が生き残る一つの理由になった。だから彼女にも、なんていうのは押しづけがましいか。
だけど私は、白乃に生き残ってほしいと思った。
だって白乃は、私にとって初めての───。
「うん、ここで集合ね」
にこり笑う白乃に笑い返す。
彼女が小指を差し出してきたときは子供っぽくて少し恥ずかしかったけど、したことがなかったから嬉しくもあった。
でもそれを悟られるのはやっぱり恥ずかしくて、軽い文句を言う。
「しょうがないなぁ」
小指を絡ませる。
お互いにだけ聞こえるように、約束の歌を歌った。
真っ直ぐで優しい私の友達。
初戦で友達である慎二と戦う彼女の気持ちを理解することはできない。
けれど、少しでも支えになれたらいいと思う。
*
「随分仲がいいのね」
「? ……ああ、白乃のこと?」
白乃と別れマイルームに戻った途端、ランサーがそんなことを言い出した。
いつもと変わらぬ様子で、だけどまるで忠告をするかのように話し出す。
「仲良くしない方がいいわよ。戦うときになって嫌だなんて言われたらたまらないし」
「それは、」
ランサーの言っていることは正論だ。
白乃が勝ち残り、私も勝ち続けていれば戦うときは必ずやってくる。そのとき殺したくない、なんて我が侭は通用しない。
だから、そう。本当はランサーの言う通り、仲良くなんてしない方がいい。
でも。
「ごめん、それは無理だよ」
初めはランサーの言うとおり、それほど仲良くする気はなかった。
私も白乃もマスターで敵同士。それに友達だったのも予選での話だ。作られた世界で作った関係が本物なのか、私には分からなかった。
だけど、滝波白乃は私の友達だ。
今はそうはっきり言える。
今更距離を取ったってその想いは変わらない。変えられない。
「大丈夫、聖杯戦争に関することはちゃんとする。こっちが不利益になる情報は漏らさない」
いつかくるかもしれないそのときも、ちゃんと戦うから。
「ごめんなさい、ありがとう」
忠告を聞けないことへの謝罪と、してくれたことへのお礼。
二つの気持ちを伝えれば、彼女はなぜか呆けたように目を瞬かせた。珍しい。
「貴女、やっぱり変な人間ね」
「そうかな」
「そうよ、初めて会ったときだって……」
言葉が止まる。
それから先を、ランサーは口にしなかった。
「だって、なに?」
「いいえ、なんでも」
え、待って。すっごい気になるんだけど。
思わず呼び止めるが、ランサーはそっぽを向いたまま応えてくれない。
そのまま背を向け、ベッドの方へ歩いて行ってしまった。
せっかく聖杯戦争以外のことで話が続いたというのに。
んー、あの先を追及したのがいけなかったのか? いや、それとも単に言葉が悪かったか。
会話が途切れた原因を思い浮かべてみるが、中々答えは見つからない。徐々に返答全てが間違っていた気がしてきた。
……今日はもう寝よう。
このままじゃ全てがネガティブな方向に行ってしまう気がする。
なぜか唯一備え付けられていたお風呂に入って寝る準備をする。
ランサーは既にベッドに横になっていた。もしかして、疲れていたのだろうか。
「……おやすみ、ランサー」
小さく呟いて電気を消す。
長い一日が、今日も終わった。
これにて二日目終了です。
大河から頼まれた剣道着と、同じアイテムフォルダに入っていた木刀はオリジナルです。
スタン系の礼装は刀だったので、「守り刀」と「破邪刀」の下位互換なら木刀かな、という感じで選びました。
7月にもなり、暑い日も続きます。
Extraは何月くらいに設定されているんですかね? 冬服なのでやはり11月とかでしょうか。
こうも暑いと少し冬が恋しくなりますね。