Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

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第六話 改竄

 3日目の朝。今日はすぐにアリーナには行かず、図書室へ来ていた。

 勿論目的は一つ。敵サーヴァントの情報を集めることだ。

 

 昨日見た小鳥遊のセイバーの容姿を思い出す。

 銀色の髪に緋色の瞳。これだけなら外国人にも見えるが、武装は日本特有の刀と鎧。その格好から相手が日本人であると予想はつく。

 

 まずは鎧から調べてみよう。

 歴史に関する棚は……あった、ここだ。

 目的の本も比較的早く見つかった。題名は『鎧の歴史』。名前からしてぴったりだ。

 

 日本以外にも色々な国の鎧が載っていたが、今回は無視。興味はあるから、時間があるときに読んでみるのもいいかもしれない。

 本は写真と文章で構成されている。載っている写真の中にセイバーが着ていた鎧がないか探してみるが、中々見つからない。

 似たような鎧はいくつかあったから、恐らくその年代の英霊だろう。ただ、なんか違和感を覚える。

 

 写真の鎧にはあって、セイバーの鎧にはなかったもの。

 それは一体なんなのか。答えは、案外すぐに見つかった。

 

「ああ、家紋か」

 

 家紋は日本固有の紋章だ。

 鎧のどこかに印されていることの多いそれが、セイバーからは見つからなかった。

 どうにかして隠しているのだろう。つまり、家紋が分かれば真名が分かるということだ。後で家紋の種類もいくつかメモしておこう。

 

 続いて文章も読んでいく。すると、あれは大鎧と呼ばれる鎧だということがわかった。

 騎射戦が主流であった平安・鎌倉時代に合わせて作られた鎧。主に騎乗の上級武士が着用していたそうだ。その成り立ちから最も格の高い正式な鎧とされており、着背長という美称もある。

 

 他にも色々と書いてあったが、まとめるとこんなところか。

 これで時代を絞ることができた。平安・鎌倉時代辺りに有名な女武士となれば、かなり特定できるだろう。

 

 よし、武士の本を探そう。この近くにあるはずだ。

 鎧の本は持ったまま、次の本を探す。

 

 それっぽい本を一つ取って読んでみると、女武将として名前が出てきたのはたったの二人。

 巴御前と板額御前だ。

 他にはいないのかと探してみるが、少なくともその本には書いてなかった。

 この二人以外はあまり有名ではないのだろうか。

 

 念のため他の本も見てみるが、やはり平安・鎌倉時代の女武将として出てきたのはその二人のみ。

 これは、もう真名にたどり着くことができたんじゃないか?

 

『そう決めつけるのは早計ね。史実で男性と伝えられている奴が実は女だった、なんてのはよくある話よ』

「え、嘘でしょ?」

『本当よ。まあ、かといって候補を増やしすぎても切りがないわ。もっと情報を集めてから決めなさい』

 

 え、ええ。なんで今更……。

 いや、全部調べ終わる前に言われたからましだ。

 

 時代は絞れた。それに最有力候補とも言える二人の人物は把握できた。

 だけどランサーの言う通り、先入観を持ってしまうのはよくない。真名を絞るのはもっと情報を集めてからにしよう。

 とりあえず、他の有名な武士も軽く調べておくぐらいはしないとな。

 

 源義経、平清盛、坂上田村麻呂などなど。ぶっちゃけ振り仮名がなければ読めない名前をメモしていく。

 なんでこんなにも昔の日本人の名前は難しいのか。平清盛とか、どこから"の"が出てきたの?

 

「んー……っ」

 

 頭が痛くなりそうだ。

 もう大分調べたし、今日はここまでにしておこう。

 

 図書室から出て、これからどうするか考える。

 すぐにアリーナへ向かってもいいが、他にやり残したことはないか。アイテムは十分。図書室にも今行った。なら後は……。

 

『教会へ行くわよ』

「え?」

 

 教会?

 なんで今教会へ行かなければならないのだろう。

 

『……そうね、なら一度マイルームに戻りましょか』

 

 思ったことを口にすると、ランサーは小さくため息をついてそう言った。

 またやらかしてしまった。あれは知識がないことに呆れている声色だ。

 だが言い訳をさせてほしい。私だって好きで記憶をなくしたわけじゃないんだ。

 

「設備案内をつけない運営(学校)が悪い」

『校内にそんなのつけるわけないでしょう。あるとしたら新入生向けのパンフレットよ』

 

 ド正論。

 い、いやでも私もある意味新入生じゃない?

 

『そうね。でも、パンフレットを読み込んだ癖にすぐに忘れるバカなタイプじゃない?』

「だから記憶喪失は私のせいじゃ……っ!」

 

 あんまりな言い方にムカついて、言い返そうと声を荒げる。

 だけど振り返った方向にランサーはいない。当たり前だ。少しでも情報を与えないために姿を消しているのだから。その状態だと、声もマスターである私以外には聞こえていない。

 

 つまり周りから見た私は、なにもないところに向かって怒っている状況なわけで。

 

「っ!!」

 

 ここにいる生徒はみんな聖杯戦争の関係者。だから、きっと私が誰に怒っているかは察している。

 そう言い聞かせる。けど、向けられる奇異の目は変わらない。

 

 顔が真っ赤に染まるのが、自覚できた。

 

「う、うう……!」

 

 最初からこれが目的か、あの女!!

 叫びたくなる衝動はなんとか抑え、逃げるようにマイルームに駆け込んだ。

 

「まさか、あんなに簡単にいくとは思ってなかったわ」

「くっそぅ……」

 

 暗に単純だと言われた。うっさい。

 ベッドに顔を押し付け枕で頭を隠す。真っ赤な顔と耳を見られないためだ。

 絶対いつかやりかえす……!

 

「それで、なんで教会なの?」

 

 顔の熱が引いてきたころ、気を取り直すように問いかけた。

 気丈に振舞っているのがばれている。楽しげな色を目に宿したまま、ランサーは問いの答えを一つずつ教えてくれた。

 

「貴女、私のステータスは見た?」

「え? そういえば、見てないかも……」

 

 というか、ぶっちゃけ知らなかった。サーヴァントってステータスに数値が振られてるんだ。

 あ、でも確かにマトリクス項目に彼女の欄があった気がする。

 端末を取り出し、マトリクスを見てみる。サーヴァントリストと書かれた一覧には、”ランサー?”と”セイバー?”と、なんとも曖昧な表現でクラス名が書かれていた。

 今見るのは”ランサー?”の方だ。

 

 

 CLASS:ランサー?

 

 マスター:クレア・ヴィオレット

 

 真名:

 

 宝具:

 

 キーワード:

 

 ステータス:筋力E 耐久E 敏捷E+ 魔力E 幸運E

 

 スキル:騎乗B

 

 

 見事に空白ばかりである。

 そして。

 

「ねえ、ステータスの値って……」

「上からA、B、C、D、E。規格外でEXがあるわ」

 

 つまり、このステータスは最低値ばかりだってことだ。唯一敏捷、つまり素早さに”+”がついているくらい。

 誰のせいか。そんなのは聞かなくても予想はつく。

 

「私のせい、だよね」

「そうね」

 

 ランサーが強いということぐらい分かっている。本来の力が出せていないのだということも、なんとなくだが察していた。

 稀に動きが固く感じられたのは、恐らくこれが原因だろう。

 

 悔しさが生まれると同時に、ほんのちょっとだけ心が躍った。

 すでにあんなにも強いランサーが本来の力を取り戻したら、一体どんな風になるのだろう。

 あんなにも綺麗に踊り戦うランサーが、本来の力を取り戻したら────。

 

 ───どれだけ、綺麗になるんだろう。

 

「ちょっと」

「っあ、ご、ごめん。ボーっとしてた」

 

 頭を振って考えていた妄想を追い払う。

 なんてことを考えていたのか。おかしいな、別に戦闘が好きとかそんなことはないのに。

 そりゃあ、戦うランサーは綺麗だと思ってはいるけど。

 

「それよりっ、この宝具って言うのは?」

「英霊の象徴ともいえる武器や逸話が物質化したものよ。そうね、切り札や必殺技と言ったほうが分かりやすいかしら」

 

 堂々巡りが始まった思考を止めるため、別に気になっていたことをランサーに聞いてみた。

 宝具。英霊の象徴であり切り札。

 ぱっと思い浮かんだのはレオのサーヴァント、ガウェインが帯刀していた剣。恐らく、あれも宝具の一つなんだろう。

 

 となると、ランサーも宝具を持っているということだ。

 彼女の宝具は一体何なのか。気にはなるが、答えてくれないことは容易に想像できる。

 まあ、聞くだけ聞いてみよう。

 

「ランサーの宝具はどんなものなの?」

「……防御ではなく攻撃に使うもの、とだけ言っとくわ」

 

 詳細は教えてくれなかったが、攻撃用と教えてくれただけでも助かる。

 切り札、ということは体力も多く使うはずだ。使い時は考えていかなければならない。

 

「さて、本題よ。教会ではサーヴァントの魂を改竄することによって、ステータスを上げることができるわ」

「改竄、って」

 

 悪い意味じゃないのか、その言葉。

 しかし、なるほど。だからランサーは教会へ行こうとしていたのか。

 ステータスは私のせいで最低値だが、それを上げる方法がある。それなら大変なのは最初だけだ。

 

「詳しくは向こうで教えてもらえるでしょう。行くわよ」

「うん、分かった」

 

 教会は一階にある広場に建っている。学校にあるとは思えない、とても立派な教会だ。

 だがあまり人が出入りしたのは見たことがない。私も予選のあのときに初めて入ったくらいだ。

 そういえば、あのとき校舎とは別の違和感を感じたな。もしかしたらあれは、サーヴァントと関わりがある場所だったから感じたものかもしれない。

 

 

 *

 

 

 教会の大きな扉を開ける。

 薄暗い空間に並ぶ幾つもの長椅子。教会にはステンドガラスがあるのだと思っていたけど、ここにはないらしい。

 少し不気味な雰囲気と、目の前にある光景に思わず足を止めてしまった。

 

 教会の奥、大きな祭壇の上。そこには不規則に回転するキューブ状の青い物体と、それを包みながら同じように回転する二つのリングが浮遊している。

 その両端には二人の女性が座っていた。青い短髪と赤の長髪。まさにま逆といえる容姿をしている。

 見た感じシスターではなさそうだけど、どうしてここにいるんだろうか。

 

「はあい、ようこそ教会へ。君も魂の改竄をしにきたのかな?」

「ん、お前は……まあいいだろう。ようこそ楽園(エデン)死角(ひがし)へ。魂の改竄に来たのだろう?」

 

 二人の問いに頷く。

 ただ知っているのはサーヴァントのステータスを上げれるということだけだ。できればもっと詳しく教えて欲しい。

 そんな私の頼みに先に応えてくれたのは、青髪の女性だった。

 

「簡単にいえば、君の魂とサーヴァントの魂を連結(リンク)させることだ。マスターの魂の位階が上がれば、それだけ強く連結させることもできる。どう連結させるか決めて、直接魂にハッキングを掛けるというわけさ」

 

 つまり、マスターとサーヴァントの繋がりを強くしてステータスをあげる、ということか。

 しかし、やはり改竄と聞くとあまり安心できないのが本音だ。

 魂の改竄というのはサーヴァントの体に悪影響を与えたりはしないのか。それが明確にならなければ、正直進んでやりたくはない。

 

「安心しろ、と言いたいところだが……この女は一度失敗しているしな」

「えっ」

「ちょっ、あれはマスターが悪かったんだってば! 違法スレスレで改竄してくれって言うから、スキルを幾つか付加しただけじゃない!」

 

 距離をとる。

 言い訳にも聞こえることを言っているが、失敗したという事実があるのは安心できない。

 しかも青髪の人曰く、巨大(G)化した挙句ロストって、さらに信用ならない事実が聞こえてきたんだけど。

 

「いいかな、お嬢さん。命が惜しければ、その女の力をあまり過信しない事だ。ま、サーヴァントの失われた霊格を取り戻す程度にしておけ」

 

 彼女の言うとおり、無茶な要求はしないほうがよさそうだ。

 魔術師ではない私でも、赤髪の女性はあまりこの手の作業に向いているとは思えない。どちらかといえば、青髪の人に頼んだほうが安心だと思う。

 

「うん? そりゃあそうだ、改竄は私のほうが上手いよ。青子の十倍は効率よく強化できる」

「ぐっ……悔しいけど、ここは我慢してあげる。橙子の嫌味なんて日常茶飯事だし」

 

 突然出てきた、青子に橙子という名前に首を傾げる。

 が、誰のことを言っているのかすぐにわかった。この場にいるのは三人だけなのだから。

 赤髪の人が青子で、青髪の人が橙子だろう……髪色的には逆なのだけど、聞かないほうがいいかな。

 

 それより、橙子さんの方がうまくできるのなら彼女に頼みたい。

 十倍上手くできるというし、言い方は悪いが、上手な人がいるなら下手な人には頼みたくない。

 

「悪いが、私は私でやることがあってね。君たちの世話を焼いてる暇はない。魂の改竄なら、壊すことしか能のない女に頼むがいい」

 

 ……まあ、やることがあるなら仕方がない。

 不安がないわけではないが、無茶振りをしなければ大丈夫だ、多分。

 早速改竄を頼もう。

 

「じゃあサーヴァントを現界させてもらえる? 魂の改竄をするには、多少そのサーヴァントについて知らないといけないし」

 

 ハッキングをするんだから、その対象を知るのは当たり前のことだ。

 彼女の言うとおり、ランサーに現界するよう頼む。

 姿を現したランサーの姿を見て、二人は驚いたように目を見開かせた。推測だが、彼女の格好に驚いたんだろう。気持ちはすっごい分かる。

 

「え、えーと……クラスを教えてもらえる?」

「多分ランサーです」

「多分? それってどういうこと?」

 

 初日に保健室でした会話を説明する。

 彼女からクラスすら教えてもらってないこと。脚から槍を連想してランサーと予測したら、なぜかそのまま定着したこと。

 全部話し終える頃には、青子さんは興味深そうにランサーを見ていた。

 

 だがそれも数分。

 観察を終えた青子さんはランサーに向けていた視線を外し背を向ける。

 

「よし、始めましょうか」

 

 手元にキーボードを投影しながら、青子さんはランサーに祭壇の前に立つよう指示した。

 赤い壁のようなものが立ち上がり、ランサーを包み込む。体もつられるよう浮き上がり、壁は天井はまで高く延びていた。

 

「リクエストはある?」

「……敏捷は多めに。他は均等に上げることはできますか?」

「OK、それぐらい平気よ。心配しないで、失敗なんかしないから」

 

 ……なんか、そう言われると逆に不安なのだけど。

 だがまあ、作業しているのにそんなこと言って邪魔をするわけにはいかない。

 今は彼女の言葉を信じよう。

 

 カタカタというキーボードを叩く音が、静かな教会内に響く。

 ハッキングによる改竄というだけに、中々時間がかかるようだ。

 立っているのも少し辛くなったので、長椅子に座って待つことにした。

 

 改竄されているランサーの姿を見つめる。

 やることがないから正直暇だ。なにか暇潰しのものでも持ってくるべきだったか。

 

「……あの、なんですか」

「いや、珍しいやつもいるんだと思ってな」

 

 ただボーッとしていたら、妙に鋭い視線を感じてそちらに目を向ける。

 そこにいるのは橙子さんだ。ランサーとは全然違う青い瞳で私を見つめている。

 だけどその瞳にある感情は興味だ。珍しいやつって、一体どういう意味なんだろう。

 

「あの、」

 

 その意味を聞いてみようと声を掛けたとき、タイミングよく、悪く? 青子さんが声をあげた。

 どうやら改竄が終わったらしい。

 

「はい、リクエスト通り改竄をしたよ。ステータスを確認してみて」

 

 言われた通りステータスを確認する。

 敏捷はE+からD+へ。他は均等に分けたせいか変わってはいなかったが、さっきより強くなっていることくらいは見て分かる。

 

「どう、ランサー」

「完璧ではないけど、まあさっきよりはましね」

 

 ランサーはまだ不満の様子だ。

 ましというのも本音だろうが、その表情は満足していない。

 

「マスターの位階って、どうやって上げるんですか?」

「アリーナでエネミーを倒し続けるのが一番よ。そのリソースを使って改竄していくわけだし」

 

 改竄に使うのはリソースだけど、位階が上がらなければ強く連結することはできない。

 その両方を一気に獲得できるのが、エネミーを多く倒すこと。それなら今日みたいな、アリーナを踏破したけど次のトリガーが発生していない日なんかは丁度いい。

 今日はエネミーを倒すことに集中しよう。あと、あの気配も……。

 

「じゃあ、私はもう行きます。ありがとうございました」

「はい、またのお越しを、なんてね」

 

 別れを告げ教会から出る。

 その時にはもう、橙子さんが言っていた言葉のことなんて、すっかり忘れていた。

 

 




橙子と青子の初登場です。
この二人は今後も出していけたらいいと思っています。
ただ二人の口調は少々心配なので、もし変に思われたらご指摘いただけると幸いです。
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