ここまで見てくださったみなさまありがとうございます。
先程よりは流石に長いのでご安心を。
それでは、お楽しみ下さい。
俺、山鳴水希(やまなりみずき)には幼馴染の男女がいる。
男の方は菊池泰牙(きくちたいが)
女の方は綾波静音(あやなみしずね)
こいつらは両思いなのに付き合っていない。
そのくせ、カップルでもなかなかしないことを日常的にやる。
そんなこいつらの恋路を俺は今日も見守る。
はずだった。
日曜日、俺が家で寛いでいると泰牙から電話がかかってきた。
何だと思いつつ電話を取ると、世迷い事を口にした。
「水希。俺の彼女として振舞ってくれないか」
即行で電話を切った。
一回死ねば良い、と思う。
直ぐに電話がかかってきたので、舌打ちしながらも取る。
「すまん、言葉足らずだった。怒らないで聞いてくれ」
泰牙の話をまとめるとこうだ。
①女に言い寄られた
②咄嗟に彼女がいるからと断った
③彼女連れて来いと言われた
④悩んだ末、俺に彼女役をしてもらえないかと思った
泰牙は身長185cm、切れ長の目、凄みのある声、バスケ部主将というカッコイイ男だ。
それに対して俺は、身長153cm、くりくりとした大きな目、アルビノだから肌と髪は白く、目は赤いし、線は細い。声変わりは…するのだろうか?
こんなんなので、素のままでも女装して似合ってしまう。
それを知ってるからこんな事を言ってきたんだろう。
クソが。
とりあえず、思った事をそのまま言う。
「静音にしてもらえ。女装&お前の彼女なんてやりたくねえ」
「頼む!俺が静音の事好きなの知ってるだろっ!?静音にか、彼女役なんて頼めねえッ!!!」
浮気がバレて必死に彼女に縋りつく男、みたいに憐れだったので、条件付きで引き受ける事にした。
「…分かった。引き受けてやるが、条件がある」
「何だ?」
「一つ、静音にこの事を話す。二つ、今日から明日まで飯を奢れ」
「………分かった。よろしく頼む」
背に腹は変えられなかったのか、泰牙は二つの条件を受け入れる。
これで、少しは俺の女装がバレる可能性を減らせるだろう。
(あ~あ。折角の休日が面倒な事になっちまった)
そう、嘆息するくらいは大目に見てくれるだろう。
なんて…誰も居ないのに言い訳をする自分が滑稽だった。
「把握。水希を可愛くしてあげる」
あの後、静音にこのことを説明すると、こう返って来た。
複雑な気持ちになったが、俺だとバレないようにするには徹底的にやった方がいい。
どうせ相手は同じ学校の奴だろうし。
今日、何度目かの溜め息を吐きながら言う。
「頼む」
心を殺して一時間、すっかり変わった俺が鏡に映し出された。
ウィッグをつけてロングヘアーにした髪、軽く朱をいれた唇。
睫毛は長く見せる為にラインを引いて、女の子っぽくなった影響かいつもより艶かしく見える肌。
白いワンピースにカーディガンを羽織った服装。
ここまで女々しくなるとわりと凹む。
生まれる性別を間違えたんじゃなかろうか?
そんな疑問を抱えつつ後ろを振り向くと、何故か静音も落ち込んでいた。
「どうした?」
「水希…男の子のくせに可愛い。女の子としての自信をなくす」
本心なのだろう。
目じりを下げて、視界に入れたくないかのように目を逸らしている。
だが、言わないで欲しかった。
おかげさまで、たわんでいた心が折れた。
仕返しに忠言をしてやろう。
「着いてくるなら泰牙だけには気付かれるなよ」
目をパチパチとさせてから静音は意外そうに言う。
「…バレてた?とりあえず了解。水希ちゃんの頑張りを遠くから見守る」
ニマニマと笑う彼女を殴りたい衝動に駆られた。
13時、この町の待ち合わせ場所の定番の噴水で、日傘を差して一度きりの彼氏を待っていた。
その際、何度かナンパされたがやんわりと断っておいた。
「待ったか」
背後から泰牙の声。
(正面から来い)
「ううん、待ってないよ」
心の中で悪態をつき、吐き気をこらえながら言う。
「あっちのカフェで女が待ってる」
泰牙が北の方角を指差しながら、女の居場所を告げる。
(一度きりの彼女を、労わる甲斐性はないんですかねぇ?)
いつもに増してささくれている心は、親友に皮肉を言う元気があるみたいだ。
「早く行って終わらせよう」
俺のげんなりした表情を見たのか、それに泰牙は黙って頷いた。
現在、非常に居心地が悪い。
カフェに入った俺達は、件の女、沢村美紀(さわむらみき)のいるテーブルに座った。
自己紹介をして数分、ジッと俺達を見ている。
そのせいで周りから注目されてる。
不意に目を見開いた(現実逃避をした)沢村が叫んだ。
「その人は誰ですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
うるせえ。
そう俺達は思ったが、周りの観衆は、修羅場?などと面白そうにヒソヒソ話していた。
クソが。
「…俺のか、彼女だ」
泰牙がつまりながらも言ったが、つまったせいで沢村が不審な目で俺を見た。
内心で溜め息を吐きながら、嘘が下手な泰牙をフォローする。
「泰牙くん、恥ずかしがらないでよ。私まで恥ずかしくなっちゃう」
泰牙の手をとりながら言う。
沢村は自然なスキンシップに大ダメージを受けたようだが、安心しろ。
俺も受けている。
「……水希さん。泰牙さんのどんな所が好きなんですか?」
テメェ、俺が大ダメージ受ける質問をしやがって。
後で下駄箱にラブレターでも入れてやろうか?
そんな思考を悟られないように笑顔を作りながら、真実と嘘を混ぜて言う。
「泰牙くんのバスケをしている姿がカッコイイし、恥ずかしがり屋なところは可愛いし、病弱な私を気遣ってくれるし、喧嘩をしてもすぐに謝ってくれるから、かな?…まだ、あるけど聞きたい?」
本当の事が8割構成しているから、少し照れくさい。
実際、俺が女だったら泰牙に惚れててもおかしくはない。
そんなくらいには、コイツの事が好きだ。
ふと、相手の反応が無いので思考を断ち切って様子を見ると、何故か沢村と泰牙も照れていた。
ていうか、周りの人達も照れてた。
この微妙な空気を打ち破ったのは、今まで頼りにならなかった泰牙。
「…分かっただろ。俺の彼女はコイツだ。文句なら俺に言え。コイツに言ったら…潰すぞ」
「は、はい!失礼しました!」
そう言って沢村は料金を払ってから、町へ駆けていった。
可哀想に。
もうちょっとだけ優しく追い返してやれないのか?
微妙に泣きそうだったぞ。
まあ…俺にとっては面倒ごとを作り出した女、という存在なので扱いなどどうでもいい。
さっきのは一般論だ。
それにしても泰牙よ。
俺を大事にしてくれるのは嬉しいが、仮にも彼女に向かって『コイツ』はないだろう。
からかいついでに帰宅を促す。
「泰牙くん。コイツって彼女に言っちゃダメだよ。…そのせいで私は機嫌を損ねたので、家まで送ってください」
「あ、ああ。悪かったな」
泰牙が、まだその演技続けるのか?という顔で見てくるがスルー。
俺は、まだ人目があるだろうが!!と叫びたいが、その衝動もスルー。
代金は泰牙に払わせてカフェを出た所で、ずっと隠れてこちらを見ていた静音が不機嫌そうに顔を出した。
(バレるなって言ったよな?)
溜め息を吐く。
「し、静音!どうしてここにいるんだよ!?」
泰牙の心情は分かるが、今の静音にその言葉は逆効果だぞ。
案の定、先程よりも機嫌を損ねた静音が、底冷えするような声で泰牙に問う。
「いて…悪かった…?」
「ぅえ!?そ、そうじゃなくて…」
俺と静音に交互に視線を合わせながら、泰牙は弁明しようとするが弁明になっていない。
カフェから出た直後なので、観客が、修羅場ラウンドツー!!と叫んでいた。
(何でお前らそんなにテンション高いんだよ)
この状況も演技も全て面倒臭くなってきたので、日傘で二人を軽く殴ってから言う。
「帰るぞ」
泰牙と静音は顔を見合わせた後、俺の横に並んだ。
こうして俺の見守れない日常が終わった。
因みに、俺が「帰るぞ」と言った後、泰牙と静音が黙って着いて来たのを見て、観客が思った事は一つだったらしい。
(ご主人様………!)
読了、ありがとうございます。
これからもおそらく投稿していくので、その際はあらためてよろしくお願いします。