見守る少年のお話し   作:オミズ

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一話の泰牙視点となります。
泰牙と水希の意識の違いなどに注目してみると面白いかもしれません。


見守る少年の予想外の一話 ルート泰牙

「あの…泰牙さん」

 

金曜日の放課後。

弾むような声が響く校舎の影で、少年少女が向かい合っていた。

 

少女は緊張しているのか、小刻みに足を震わせている。

少年は反対に、リラックスして少女の言葉の続きを待つ。

 

…数秒の時すら苦しく感じたのか、少女は覚悟を済ませ、用件をまくしたてる。

 

「…わ、私とデートしてください!!」

 

「え、いや、その…む、無理」

 

予想していた用件とはまったく違ったのか、先程までの余裕溢れる態度から一転して焦る少年。

しかし、肝心な部分だけはきっちり答えることの出来る人間だった模様。

それがこの少女にとって、いいことなのかは分からない。

それでも、分かる事はある。

 

哀れ少女は一瞬で。

一世一代の勇気は木っ端微塵だ。

 

これだけだ。

 

このままではめげない少女は、望む未来への切り口を探す。

幸い少年は、断った負い目があるのか、少女の返答を待ってくれている。

ショックで揺れる脳みそを回転させて、少女は望む未来を手に入れるべく、奮闘する。

 

「………何で、ですか?」

 

そもそも断られた理由すら分からないのだ。

まずはそれを知るべきだろう、という判断の元のこの一言は、後に少女に多大なる衝撃を与える一言となった。

 

「え?…好きな人…いや、彼女がいるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でこんなことになったんだ。

自室で頭を抱える。

 

思い浮かぶのは、悩みのタネを作った女のセリフ。

 

「へ……彼女ぉ!?連れて来てください!!日曜日、14時、近所のカフェに!!!」

 

何でこうなる。

いいじゃんか、嘘吐いて逃れるの。

なのに、何でお前は嘘が露呈するような道を整備するんだ…

クソッタレめ。

あのまま帰れよ…

 

文句を吐いても仕方ないのに、頭の中は文句の大合唱だ。

クソ…頬を叩いても文句合唱隊は出て行かない。

 

誰か…誰か…頼れる奴はいないものか…?

彼女…女…静音…幼馴染。

幼馴染?

 

閃いた。

閃いたがこれは…許されるのか?

だが、アイツ以外に頼れる奴はいない。

 

許せ、水希。

 

「水希。俺の彼女として振舞ってくれないか」ガチャンッ!!

 

やべえ。

通話最低記録達成。電話、叩きつけてきった。

分かる事。

メチャクチャ怒って拒絶してやがる。

 

水希よ、言葉足らずだったのは認めるが、幼馴染の言葉を拒絶するのは酷くないか?

 

そうは思うが、頼みの綱が水希だけな現状、縋りついてでも水希に彼女をしてもらわなければ!!

 

「…分かった。引き受けてやるが、条件がある」

 

よっしゃ!!

情けなく縋りつく作戦、大成功!!

 

と、喜ぶのはいいが条件って何だ?

 

「何だ?」

 

「一つ、静音にこの事を話す。二つ、今日から明日まで飯を奢れ」

 

微妙に痛いところついてくるな。

流石は幼馴染。

俺の弱点を熟知してやがる。

 

メシ代はいいとして、静音については大丈夫だろうか?

最近の様子を思い出せ…着せ替え人形が欲しいとか言ってたような…

なら、水希が適任だろう。

どうせ、化粧してもらって服を借りるんだろう。

それは着せ替え人形みたいなモンだろう。

 

「………分かった。よろしく頼む」

 

さて、一つの問題は脱したが、水希を彼女役にして上手くだませるだろうか?

女の勘はするどいとは言うが、果たしてどれほどのものか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ったか」

 

13時、町の待ち合わせの定番スポットで、日傘を差している華奢な人影を見つけた。

おそらく水希だろうから声をかける。

 

「ううん、待ってないよ」

 

昔に比べると、水希は頼もしくなった。

腕っ節はアレだが、こういう演技はピカイチだ。

 

そんな水希が不機嫌そうな顔で振り向いたので、首を捻る。

 

何かしたっけな?

…そもそも、この状況自体が不機嫌になる要因か。

 

この予想はおそらく正しいだろう。

さっきから水希は、他人に気付かれない程度に顔を歪めてる。

 

「あっちのカフェで女が待ってる」

 

雑談など、今の水希にとっては薬にならないだろう。

むしろ毒になる。

今は最短ルートで向かおう。

 

「早く行って終わらせよう」

 

そう言った水希の表情は、遠い過去を思い出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、凄く居心地が悪い。

 

カフェに入った俺達は、件の女、沢村美紀(さわむらみき)のいるテーブルに座った。

奴は、自己紹介をして数分、ジッと俺達を見ている。

 

そんなに見たって面白いモンなんかねえだろうに。

何が楽しいんだか?

 

不意に目を見開いた沢村が叫んだ。

 

「その人は誰ですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

うるせえ。

 

そう俺達は思ったが、興奮しきった奴には届かない感情だろうな、とも思う。

結局、俺達に出来るのは、沢村という嵐が過ぎ去るのを待つことだけ。

直撃している際は、最小限の被害で切り抜けるしかない。

 

溜め息を吐きたい感情を抑えて、嵐を受け止める。

 

「…俺のか、彼女だ」

 

ミスった。

スマン水希。

思ったより彼女って言うの、勇気いるな…

 

「泰牙くん、恥ずかしがらないでよ。私まで恥ずかしくなっちゃう」

 

演技中の水希は、俺のミスをカバーする為に、はにかみながら俺の手をとってくる。

これが女子で、本心からだったら照れるんだろうけど、生憎と水希の感情はビシビシと伝わってくる。

 

吐きてえ

 

そんな感情が伝わったら、照れるどころか申し訳なくなる。

今後はからかう回数を減らすから、今は我慢してくれ水希。

 

「……水希さん。泰牙さんのどんな所が好きなんですか?」

 

女よ。

初めて俺はお前に感謝したくなったぞ。

 

こう聞けば、水希は俺の長所を言ってくれるだろう。

その中には本心が含まれているはず。

普段、好きなところを言ってくれない水希の、俺に対する本心を知るチャンスになる。

 

これだけで、俺が水希とココに来た意味があると言ってもよくなった。

 

「泰牙くんのバスケをしている姿がカッコイイし、恥ずかしがり屋なところは可愛いし、病弱な私を気遣ってくれるし、喧嘩をしてもすぐに謝ってくれるから、かな?…まだ、あるけど聞きたい?」

 

………お腹一杯です。

 

やばい。

やっぱりコイツはカワイイなぁ。

ホモって訳じゃないんだが、水希は小動物的な可愛さがあるからな。

 

今すぐ頭を撫でたい。

払いのけられて睨みつけられるだろうが、撫でたい。

 

そのためには、今すぐコイツを遠ざけねば。

 

「…分かっただろ。俺の彼女はコイツだ。文句なら俺に言え。コイツに言ったら…潰すぞ」

 

「は、はい!失礼しました!」

 

よっしゃ!!

邪魔者は去った。

 

後は速やかに帰って、撫でるだけだ。

 

「泰牙くん。コイツって彼女に言っちゃダメだよ。…そのせいで私は機嫌を損ねたので、家まで送ってください」

 

「あ、ああ。悪かったな」

 

まだその演技続けるのか…?

 

まぁいい。

折角の提案だ。

機嫌を損ねないように、水希の家まで送ってから、あがらせてもらおう。

 

そう浮き足だっていた俺の心は、カフェの外に出た瞬間、焦りによる地団駄に変わった。

 

「し、静音!どうしてここにいるんだよ!?」

 

何でいるんだ!?

その混乱から、やましい事があるような態度をとってしまった。

 

やばい。

静音の視線が、虫けらを見る目に変わってきてる。

弁解、弁解、弁解…?

どうするんだ?

水希とデートしてましたって言うか!?

アホか!!

そんなの分かりきってるだろ!!

弁解にすらならねえ!!

 

「いて…悪かった…?」

 

「ぅえ!?そ、そうじゃなくて…」

 

静音の不機嫌メーターが急上昇してくのが目に見える。

ゆらゆらと幽鬼のように佇む静音は、他者を拒絶する冷たさに溢れかえっているようにさえ見える。

 

静音に嫌われたら…

その先は考えすらしたくない。

今は、嫌われないように頑張るしかない。

 

よし。

水希、助けてくれ!!

ちらちらと水希の方を見て救難信号を出す。

 

その信号を受け取ったのか、水希は呆れた顔で俺達を傘で軽くどついた。

 

「帰るぞ」

 

…静音と顔を見合わせる。

お互い思ってることは同じのようで、俺達の心が繋がってるのを認識させてくれる。

それさえ分かれば、後で納得がいくまでじっくり話せばいい。

その信頼関係を思い出させてくれる。

 

ったく…本当に

 

 

(俺達は水希には一生叶わないな)

 

 

 




ご読了ありがとうございました。

次話を投稿するとしたら休日になると思いますが、お楽しみしてくださっている皆様、のんびりお待ち下さい。

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