モモです! 外伝集   作:疑似ほにょぺにょこ

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これは、お題目募集時に削除されたお話を元にしています。
しかし、その元になったお話は早々に削除されたため、記録に残っていません。

誰なのでしょうね?
というわけで文章化しましたが、今回その該当者様はお気に入りに入ることはありません。
次回また狙ってくださいね、ナナシノゴンベエさん!

──これでナナシノゴンベエって名前の人が居たらどうしよう!?


外章 バハルス帝国 漆黒の英雄モモンがまた美女を落したらしい

「おや。どうされました、お嬢さん<フロイライン>」

 

 我が神にして創造主たるアインズ・ウール・ゴウン様の命──『引き籠ってないで、たまには散歩でもしたらどうだ』というご命令──により、私はナザリック内を散歩していた。誰かに会えば、何かしらの交流や情報交換ができるだろうという優しき主の御心に沿って。そこに丁度現れたのが、羨ましくもアインズ様が英雄の姿をとられている時の警護兼従者として連れられているナーベラル・ガンマだった。

 私と同じくドッペルゲンガーではあるものの、ナーベラル・ガンマの創造主たる至高の四十一人の一人である弐式炎雷様のいと深きお考えによってドッペルゲンガーとしては最低限の能力しか持ち合わせていない。それはドッペルゲンガーとしては失敗作と言っていいだろう。ドッペルゲンガーは主のために他者のコピーを行って能力の調査を行ったり、潜入調査を行ったりするのが主な役割である。また、コピーした存在の能力を行使できるのも大きな力と言えるだろう。まぁ私ほどのような者になると、至高の方々を含めた最高位の存在をまるごとコピーしてしまい、その能力の全てとはいかずとも80%を行使することが可能となっている。

 しかし目の前に居る者はどうだ。コピーしているのは外装のみであり、代わりに自身の戦闘能力を上げるというドッペルゲンガーとしてあるまじき所業を行っているのだ。

 私が思うに、弐式炎雷様はこの者を創造するときに失敗なされたのではと思って居る。本来であれば至高の方に作られたのであれば、至高の方々ほどではなくとも最上位のモンスターを最低でも20種はコピーしてしかるべきなのだ。それが誰一人、何一つコピーすることも出来なかったこの失敗作に弐式炎雷様は、それを挽回させることなく戦闘能力を上げるという愚行を行わせた。

 ドッペルゲンガーは相手の能力をコピーできる。最上位のモンスターを一体でもコピーすることができるのであれば、今目の前に居る失敗作と同等以上の戦闘能力を有することが可能だというのに。

 

(全く。見るに堪えないですね。なぜこの程度のものがナザリックの栄えあるプレアデスの一人などになっているのか、理解できません)

 

 恐らくではあるが弐式炎雷様は、戦闘能力を持った者ではなく単に愛玩動物を欲しがって居られたのだろう。彼女の外装は人間の基準で言えば相当美人であるのだから。

 

「これは、パンドラズ・アクター様」

 

 ゆるりと頭を垂れる彼女の姿は、流石プレアデスの一人と言える所作ではある。だがそれだけだ。恐らく彼女がプレアデスの中でも最も弱い存在であるだろう。なぜアインズ様はこんな者を護衛兼従者となされたのか。単純な見た目で言うならば、長であるユリ・アルファは外すにしても、ルプスレギナ・ベータやソリュシャン・イプシロンの方が良いだろうに。しかしそれはあくまで私個人の意見だ。神と同等──否、それ以上の存在と言えるアインズ様がこの程度の結論に辿り着かないわけが無い。ならばこれを使う何か理由があるのだろう。

 

「いけませんね。淑女は常に優雅たれ、ですよ」

「は──申し訳ありません」

 

 珍しく彼女の眉間に皺が寄っている。唯一使える外装を上手く使いこなしていると言えば聞こえはいいが、それは同時に相手に自身の意図を無意識に伝えてしまうという非常に危険な欠点があるということをドッペルゲンガーであるこれは知らないのだろうか。

 特にドッペルゲンガーとして重要な、固有名詞を覚えようとしないという異常というべき欠点を持って居る。いくら至高の方のお作りになられた存在とは言え、破棄してしまった方が良いのでは。そうは思うも口に出すことは無い。これの存在が許されているのは、単にアインズ様の御意思によるものなのだから。

 

「どうしましたか。プレアデスたる貴女がそこまで困惑する案件でもありましたか」

「それが──」

 

 ふむ。ぽつぽつと、あり得ない程に拙い情報伝達を出来るだけ噛み砕きながら理解してみる。しかしこれは失敗作というより、それ以前にすらいってない欠陥品ではないのだろうか。その辺りのドッペルゲンガーの方がもっと情報伝達も上手いだろうに。

 

「──というわけなのです」

 

 要約すれば、これはアインズ様の命によって一時的にバハルス帝国の冒険者となっていた。そしてそこで何かしらの恩を受けた人物が居るだろうと言われた。だから、その人物に恩を返しなさいとアインズ様に言われた。しかし固有名詞を覚える気のないこの欠陥品は、恩を受けたことすら気付かずにいたために、恩を返す宛てがない。

 

(本当に、これは破棄して新規に作り直した方が良いのではありませんか、アインズ様)

 

 不必要なほどに落ち込む姿を見て、天を仰ぐ。何なのだこれは。こんなものが栄えあるナザリックの一員で、至高の存在たるアインズ様の配下で良いのだろうか。

 

「ふむ──」

 

 しかし、全てはアインズ様のお考えが元にある。つまりアインズ様はこれがこのような事態になることを想定していたことになる。そして同じプレアデスに相談できないだろうことも想定済みだったはずだ。

 

(なるほど、そういうことですか。アインズ様!)

 

 そう考えると合点がいく。わざわざ今日、私に散歩しろと言った理由はこれだったのだ。全く、頭の回転が速すぎますよ、アインズ様。せめて過程を教えて頂ければ良いというのに、行動の命令しか出されないのですから。

 

(いえ、アインズ様がそんな意地悪をなされるはずもない。そう、それは私がこの答えに辿り着くことが当然であると思われたからなのですね!)

 

 嗚呼。なんと素晴らしきかな、我が神よ。

 

「あの、どうか──なされましたか」

「いえいえ。いと素晴らしき我が神の、深淵なるお考えに改めて敬意を表していただけですよ」

 

 私がそう言うと、全く理解していないのか──むしろ妙な誤解をしているのか若干引いているようだ。

 なんだその顔は。私の事ならばいざ知らずだ。アインズ様がどれほど素晴らしいお考えで行動なさっているのか、まさか気付いていないとでもいうのだろうか。

 まぁいい。これはこれで何かしらの使い道があるのだろう。アインズ様がお許しになっていることそのものが、これの存在理由なのだから。

 

「まかせてください、このパンドラズ・アクター。お嬢さん<フロイライン>の悩み、さっくりと片付けてしまいますよ!」

「え、あの──」

 

 さらりと普段の軍服姿から英雄モモンの姿を取る。呆気に取られているこれは放置でいいだろう。

 さぁ、アインズ様のために頑張るとしましょう。

 

(散歩がてら、ですけどね。ふふっ)

 

 

 

 

 

「これはモモンさん!まさかここ、帝都アーウィンタールにいらっしゃるとは」

「ん、お前はフォーサイトのリーダー──だったか。確か、ヘッケラン・ターマイト。だったな」

 

 まずは情報収集が必要だろうと帝都をうろつく予定で門を潜ったのだが、流石はアインズ様の分身たる英雄モモンだ。主だった行動範囲は王国中心だというのに、帝都にまでその名が広まっているとは。

 異常に馴れ馴れしい人間だと思ってアルベド達より手に入れている情報と照らし合わせてみれば、どうやらピンポイントで当たりを引けたらしい。これも想定済みなのですか、アインズ様。

 彼らに誘われるままに喫茶店のテラス席に座る。どうやら彼女とデート中だったようだ。彼女は確か──

 

「君はイミーナ、だったな。デート中に邪魔ではなかったかな」

「あら、流石はアダマンタイト級冒険者というべきなのかしら。一目会っただけの人を覚えているなんて、凄いわね。それに、デートじゃないわよ。今はワーカーを止めて、新しい仕事を探しているところなの」

 

 彼女の斜め向かいに座り、ジュースを頼む。こういう場所の味覚の情報収集も大事なのだ。あれでは無理だろうから、私がやるしかないだろう。アウラ・ベラ・フィオーラも基本的にバハルス帝国の食事は摂られていないらしいので。

 

「ふむ、なかなかの味だな(甘味:最低(ほぼ皆無。価値無し)。酸味:最低(強すぎて雑味が多い。価値無し)。旨味:最低(無し。価値無し)。総評:味覚データとしての価値は無し。この程度の味で満足している帝国民の味覚も相当酷いものであると思われる)」

「でしょ。ここのジュースは結構美味しいのよ」

 

 自国の味を褒められていると勘違いしているイミーナは嬉しそうだ。こんなもの、デミウルゴス様が管理なされている家畜の方が良い食事を摂っているのではないだろうか。

 ──おっといけない。本来の仕事を忘れるところでした。

 

「そういえば、お前たちにはナーベが色々と世話になっていたな」

「いやいやいや!むしろ俺たちの方が世話になっていたんですよ。それに、アルシェのことも世話してもらって──ほんと、感謝しかないんで」

「そうそう。アタシらなんかより、レイナース様の方が世話してる感じだったわよ」

 

 ──レイナース様?これは良い情報のようだ。

 

「もしや、帝国四騎士の一人、重爆レイナース・ロックブルズの事か?」

「そうそう!流石に王国冒険者内でも帝国四騎士は有名ですか」

 

 どうやらその娘に世話になったのか。なるほど、と合点が入った。アインズ様の意図の片鱗を掴めたのだ。

 礼をするという前提でその娘に近付き、信用を得る。帝国四騎士の口から『漆黒の英雄モモンは素晴らしい人物だ』と言わせる。なるほど王都に居ながらにして、モモンの名声は帝国で天井知らずに上がっているわけである。

 

(ただの一手でここまでのことを想定なさるとは。貴方様は本当に素晴らしい御方です、ン──アインズ様!!)

 

 そもそもあれをフォーサイトに会わせた最初の人物でもあったらしい。素晴らしい。本当に素晴らしい。全てがアインズ様の想定の範囲にあるのでしょう。

 

「なるほど、情報助かった。私はこれから件の彼女に会いに行くとしよう」

「でしたら──」

 

 席を立つ私に、ヘッケランが半笑いで顔の右半分を指さしている。

 

「彼女の顔の右半分が呪われているんです。その呪いの解除法を知っていたら、教えてあげてはどうですか。それが何よりの恩返しと受け止めてくれるはずですよ」

「ありがとう、助かったよ」

 

 まさか彼女の情報まで貰えるとは。そういう情報は得難いので非常に助かる。私が王国金貨を置くと、彼らは目を見開いた。ワーカーであった頃を考えれば高い金額ではないが、情報料としては妥当だろうに。

 いや、むしろ無料<ロハ>で教えたつもりがお金になって驚いたのか。

 大声で『ありがとう』と叫ぶ二人に後ろ手を振りながら、私は皇城へと向かった。

 

 

 

 

 

「王国のアダマンタイト級冒険者である漆黒のモモン殿が、私に会いに来た、ですって?」

 

 兵から聞いた言葉は寝耳に水であった。漆黒の英雄モモン。その名声は王国のみならず、この帝国でも決して低くはない。強大な吸血鬼ほにょぺにょこを絶戦の末に倒した話や、王国でヤルダバオトなる悪魔を倒せなかったものの撃退した話。それに、エ・ランテルを襲った謎の大量アンデッド襲撃事件も彼が救ったと聞いている。それらは帝都でも吟遊詩人たちが挙って歌にしているくらいなのだから。

 しかしそれほどの存在がなぜ私の所を訪ねて来るのだろう、と考えながら歩いて数歩。足が止まった。ゾッと冷えたからだ。

 

(ま、ままま──まさか──)

 

 確か漆黒のメンバーは二人のはず。一人はモモンであり、一人は美姫と謳われるナーベという者。

 そう、先日帝都に来た奴だ。彼女のあまりの美しさにしつこく付きまとって、色々と世話するふりして愚痴愚痴と文句を言い続けていたのだ。

 それをそのモモンが聞いていたとしたら?

 

(自分の信頼する仲間を、嫉妬に塗れて徹底的に蔑んだ愚かな女に会いに来るなんて──)

 

 私は帝国四騎士の一人だ。殺しに来るとは思いたくはないが、話を聞いている事が全て事実だとするならば、私は抵抗することすら出来ずに一撃で殺されるだろう。

 

(それとも──笑いに来たの──?)

 

 もう一つあるとするならば、彼女から私の呪いを聞いてきたとすれば。蔑んだ私を蔑みに来たのか。英雄と謳われる人物がそこまで暇だとは思えない。

 

(殺しでも、蔑みでもなければ──何なのよ──何しに来たのよ──)

 

 城兵に案内されながら彼の待つ部屋へと向かう。足取りが重い。脳裏に浮かぶのは、私を捨てた両親。私を捨てた婚約者。もう既に居ないというのに、なぜまた浮かんでくるのか。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 そう、出来るだけ繕いながら、努めて明るく件の彼の居る客間のドアを開ける。一瞬足が止まった。部屋に全身黒尽くめのフルプレートを着た大男が居たら、誰だって入る足を止めるだろう。

 しかし見ればわかる。そのフルプレートもただのフルプレートなどではなく、細かい意匠を施した最高級品であることを。決して安くない──下手をすればその鎧だけで庭付きの屋敷が使用人込みで買えるだろうくらいの事を一瞬で判別してしまう自分を呪いたい。まだ貴族の娘であるつもりなのだろうか、私は。

 確かに私は、私の身体──顔を蝕む呪いが解けたら何をしようかと考えることは多い。そのための行動もし続けていると言っていいだろう。だが、いざ呪いが解けた所で私は何も知らぬ貴族の娘に戻ることはできない。親とは絶縁し、今ではその爵位も領地も帝国へと返上された今だ。まぁ皇帝に打診すれば貴族位くらい嬉々としてくれるとは思うが。

 

「──失礼しました」

 

 入り口で立ち尽くすなどあってはならない。実際は一瞬程度であったとしてもだ。

 私は努めて平静を装いながら彼の向かいに座った。しかし、なぜ彼は兜を脱がないのか。

 

「私が帝国四騎士、重爆のレイナース・ロックブルズです。失礼ですが、貴方がアダマンタイト級冒険者である漆黒のモモンですか?」

 

 言外にヘルメット脱げよと言っているのだが、伝わったのだろうか。まぁ彼ほどの凄まじい鎧を着て居れば真似することなどできはしないのだから、顔以上に証拠とはなるだろう。しかし私はそこに目を付ける。常にヘルメットをかぶっている。つまり、相当醜悪なのか、もしくは禿ているのか。さぁ、私に見せるがいい。あのような美人を侍らせるような男だ。恐らくコンプレックスの塊のはず──

 

「これは失礼した──これで良いかな」

「びっ──」

 

 思わず『美形ぃ!?』と叫ぶところだった。なんだこの方は。神が与えたもうた最高位の存在なのではないだろうか。

 癖の少ない、少し量の多いストレートの髪。勿論禿げては居ない。

 見つめるだけで思わずため息を付いてしまう程の甘いマスク。青年という程若くなく、壮年と言う程年老いて居ない。しかしその雰囲気は若々しく、エネルギーに溢れている。

 

「どうした、お嬢さん<フロイライン>」

「あ、あぁぁいえいえ──なんでも──ありません──」

 

 何だろう。この方。どうして自然体<ナチュラル>に私を口説いて居るのだろうか。だがその胸に抱かれながら、耳元で愛を囁かれたらほとんどの女は一瞬で落ちそうだろうことは間違いない。

 確かにこの方は、あの美人を傍に置いておける良い男である。ただの顔の良い男ではない。内面からして違う。溢れ出るオーラからして違うのだ。

 

(お、お願い──私に笑顔を向けないでぇ──惚れてしまうでしょうがぁぁぁ)

 

 一体どれだけの女性がこの笑顔に熔かされていったのだろうか。しかし王国からこの方の浮名は聞こえてこない。これだけの顔<ルックス>ならば少なからず女性問題を抱えていてもおかしくないだろうに。

 

「ひぅっ!?ち、ちちっ──」

(近っ!!なんでぇっ!?)

 

 視線を合わせることも出来ずに下を向いていたら、いつの間にか隣に座られていた。互いに鎧越しとはいえ、ほぼ密着している。

 

「じっとして──」

 

 ガントレットを外された、生身の彼の手がそっと私の顔に触れて来る。誰もが気味悪がり、恐ろしいと近づかぬ呪いのかかった顔に。

 この方は呪いが怖くないのだろうか。なぜ躊躇なく私の顔に触れて来るのか。そこまでして私を落したいのか。良いだろう全力で落とされてやる。ただし放置したら全力で追いかけるぞ。私が重爆と名付けられている本当の意味をその身で──

 

「これでよし」

 

 ぷつり、と右半分を覆う髪を止めていた紐が切られる。

 さらり、と髪が流れる。

 そして、見えた。世界が。彼の顔が。私の右目で。

 

「え──えっ──えぇっ!?」

 

 ぺたぺたと右頬を触る。何も手に付かない。むしろ何もなかった左の頬よりもぺたりと手に張り付くほどに瑞々しく感じる。

 強めに抓る。夢ではない。膿に、呪いに侵された右頬に痛みが走ったのだ。

 

「治って──うそ──」

 

 彼は一体何をしたのだ。手で触れただけのはずなのに。

 彼が髪留めを右に着けてくれる。はっきりと両目で彼を見た。見えた。彼の笑顔が。

 視界が歪む。滲む。大粒の涙が、熱い涙が止め処なく溢れて来ていた。

 

「ありがとう──ございます──ありがとう──」

「女性が涙を濫りに見せるものではないよ、美しいお嬢さん<フロイライン>」

 

 そう言いながら、真っ白いハンカチで私の涙を拭っていく。拭うハンカチが吸うのは涙だけ。汚く臭い緑色の膿はもう付かない。

 

──私は、彼に救われたのだ。

 

 

 

 

 

「ミッションコンプリート、ですね。んふふ──」

 

 頬を上気させ、荒い息を吐きながら気絶した彼女を放置して皇城を出る。人気のないところから転移。さっさと上空まで上がって、やっと一息つくことができた。

 いやはや。まさかあれほど簡単な呪いだったとは。最下級状態異常回復薬<レッサー・キュア・ポーション>で済む程度で本当に良かった。かなり強力な呪いかもしれないと思って上級まで用意していたが、まだまだ大量に素材がある最下位と違って数限りのあるこちらを使わずに済んだことは僥倖と言える。

 しかしあの程度の呪いを解除したくらいで身も心も捧げようとするとは。本当に安い命だと言える。あの程度で四騎士など名乗って良いのだろうか。いや、帝国ではあの程度ですら四騎士になれるのだろう。戦闘能力も皆無に等しかった。彼女のデータをコピーするために色々させてもらったが、彼女の脳内にあった情報以外は特筆すべき点も何もなかったのだから。

 

「これで英雄に恋したあの女は、色々とあることないこと情報を帝国中にばらまいてくれることでしょう。そう、全てはアインズ様のためにっ!!」

 

 何か失敗はないかと遠目で見て居たが、皇城の客間だというのに発情し始めた彼女に思わず笑いが零れる。この調子ならばいずれ意識を弄って、デミウルゴスの実験の素材にするのも良いかもしれない。彼女にしかそう見えないとはいえ愛するモモンの子を産むとなれば、嬉々としてやってくれるだろうから。ここまで詰まることなく簡単に事が運べるとは。やはり全てはアインズ様の掌の中ということなのだろう。素晴らしきかな、我が神よ。

 

 

 

 

 

「──というわけで、順調に終わらせることが出来ました。流石はアインズ様の御計画!とても動きやすくて思わず笑いそうになるのを堪えるのに必死でした、はい!」

「そ、そうか──」

 

 執務室で、散歩から帰ってきたパンドラズ・アクターの話を聞いていたのだが──

 なぜコイツはただの散歩で、バハルス帝国まで行ったのだろうか。しかもナーベラルに言った宿題まで奪って。もう一つ言うならばそれが全て俺の計画通りだということになっている。本当にわけがわからない。

 あれは助けてもらったならちゃんと恩を返しなさいという、ナーベラルへの宿題。心の成長のための宿題だったというのに。

 まぁ話を聞く限り、そもそも恩を感じていた相手など居なかったらしい。しかも個人名すら覚えてない──フォーサイトの名前すら、だ──から最初から躓いて居たわけだが。

 というか、その子──レイナースだったか?──なんでモモンに惚れたんだ。惚れる要素があったのか。ただ異常回復ポーションで下位の呪いを解いてあげただけだというのに。

 嬉々とした表情で退室するパンドラズ・アクターを見送りながら、ため息を一つ。

 

(あいつ──分かっているのかなぁ?いくら呪いを解いて、どうやってかは知らないけど惚れさせたとはいえ女性を素っ裸にしたって。しかもデータのコピーのためとはいえ、色々弄り回すとか羨ま──じゃなくて普通に犯罪なんだけど。帝都に行った途端捕まったりしないよね?王都では英雄だけど、帝都では破廉恥な犯罪者とか洒落にもならないんだけど!?)

 

 お気楽に『これで帝国でも漆黒の英雄の名声は天井知らずですね!』とか言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。

 アウラに連絡して、こっそりと内情を調べて貰った方が良いかもしれない。出来れば、モモンに性犯罪者の烙印が押される前に。

 

「はぁぁぁぁ──」

 

 どうにかナーベラルへと新しい宿題を考えながら、パンドラズ・アクターの奇行に頭を抱える。俺の心の休まる日々はまだ遠いようだった。

 




というわけで、外章でございました。
うちのパンドラズ・アクターはこんな感じです。外見的見た目はお茶目ですが、あくまで外見的見た目だけです。

アインズ様以外に対しては嫌悪感も愛情も何も欠片すらもありません。あるのはただただアインズ様への無限なる忠誠心のみです。
他はただ効率や数値的なデータに基づいた、まさにプログラムの様に客観的な見方しかできないわけです。
なので、例えばアインズ様がパンドラズ・アクターに『アルベドを殺せ』と言われれば何の疑問も持たずに殺します。
例えば暴走したアインズ様を見た他の人がパンドラズ・アクターに『アインズ様を止めるのを手伝って』と言われれば、言った者を皆殺しにします。

カルマ-50ですからね。主人以外はどうでも良いんです。賢人でも悪人でも冷静でも暴走でも関係なし。主人を邪魔するモノは須らく皆殺し♪
そんな存在なんですよ。うちのパンドラズ・アクター。
傍から見てる分にはお茶目な子なんですけどね!

そんなパンドラズ・アクターの内面が書けて楽しかった外伝でございました。
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