「先輩ご無事ですか!」
「マスター無事か」
「レオ君!大丈夫ですか!?」
屋根伝いに、マシュ・ジーク・ツェッドのチームが合流する。
「ああ、マシュ。こっちはなんとも。そっちは大丈夫だった?」
「よかった…はい!こちらはなんともありません」
安心した様に一息ついた後に、グッと握り拳を作るマシュだったが、ジークがそこで声を挟んだ。
「いや、少しも大丈夫じゃなかったぞ。マシュは、マスターと別れてから随分と気落ちしていたようだ」
「ジ、ジークさん!?」
「マーシュー?」
「あわ、あわわわ。ごめんなさいごめんなさい!でも体調の不良というわけではないんです!」
マシュは怒った様子の藤丸には慌てて頭を下げる。
「んじゃ、なんだっていうのさ」
「いえ…あの…そのですね…」
マシュは言いづらそうに言葉を濁す。
藤丸が続きを言うように言葉に出さずに促しても、なかなか切り出してくれない。
するとその時、ピピピピッという電子音が響いて場の雰囲気を崩した。ちらりと視線を向けると、レオがポケットから携帯を取り出すところだった。
「あ、ザップさんからっすね。向こうも片付いたみたいっす」
「全くあの人は…」
ツェッドが呆れた様に額に手を当てる横で、レオも苦笑いをしながら電話に出る。
『うおーーい!!無事かーレオ!死んでねーかー!』
暢気な様子さえ見える叫び声が、携帯越しに響く。
「大丈夫か?じゃないっすよ。こっちは大変だったんすから!」
『んだよ、生きてんじゃねえか。じゃあ別に問題ないだろうが』
「問題ないだろうがじゃないですよ、貴方はバカですか。いえ愚問でしたね」
ツェッドがきつめの口調で通話に横入りすると、すぐに反論が返ってくる。
『なんだと魚類てめー!俺をなんだと思って…ん、なんでお前がレオと一緒に居るんだよ?』
「ザップさんが不甲斐ないから応援をお願いしたんすよ」
『んだと!!』
ザップはさらに声を荒げるが、そこにもう一つ通信が入った。藤丸のデバイスからだ。
出たのはダ・ヴィンチだった。
『おや、そちらはザップ君にも繋がっているのかい?それならちょうど良かった。
彼にも此処に来てもらって一度集合しようじゃないか。
ちょっとした報告があるんだ。
…なんだい、ロマ二その顔は?たしかにクラウス氏との現代芸術論は白熱したがね、だからといって仕事を忘れる様なダ・ヴィンチちゃんじゃないんだぜ?』
今度は藤丸の端末上でロマ二とダ・ヴィンチが小競り合いを始める。
結局、それをみんなで宥めたりザップが来るのを待っているうちに、藤丸はマシュが何故調子を悪くしたのかは聞きそびれてしまうのだった。
*
『単刀直入に言おう。君達に測ってもらう予定だった12の龍脈だがね、その中でも一際特異な物を観測した。
実は君とレオ君が必死に走り回っている間に、マシュ達には二つの観測点を回収してもらっていてね。取り急ぎその二つをパターン解析したんだ。
その結果、ある程度共通するパターン…わかりやすく言うならば周波数の様な物を確認した。その土地本来の魔力の流れ、とでもいえばいいのかな?
それが判れば後は簡単だ。そのパターンを残りの10の地点に流して、呼応するものとそうでない物を観測する。
すると、12の地点の内一ヶ所だけパターンに反応がない場所があった。
我々は、それが魔神柱の潜む最有力候補だと推測する。君達にはその場所に行って欲しいのさ。
その場所はズバリ、エンパイアステートビルだ』
ダ・ヴィンチの言葉に従い、一行はエンパイアステートまで向かった。
「という事で到着しました、ダ・ヴィンチちゃん」
ビルの玄関口にたどり着いた一行は、代表してマシュが通信を行う。
『ふむ、そちらに何かおかしな物は見えるかな?』
「んー、人以外のヒトも沢山いるかな」
「それはここじゃおかしな事じゃねえな。いたって当たり前だ」
藤丸とザップのやり取りに、ダ・ヴィンチは考えるように顎に手を当てる。
『なるほど…貴方はどう考えるかな?クラウス氏』
『一見するといつも通りにも見える…が、人の行き交いが通常と違うように感じる』
ホログラムにクラウスが映り込みながら、神妙な口調で答える。
『というと?』
『正面玄関から出入りする人が極端に少ないのだ。街のごった返した人の波はいつも通りだというのに、正面玄関の周囲にだけ人が少ない様に思う』
「それって、入場規制が掛かってるって事っすか?」
レオの疑問にクラウスはふるふると首を振る。
『いや、その様な情報はこちらに入っていない。恐らくだが、本能的に人が立ち入りづらい様にされているのだ』
『どうやら見えてきたようだね。それは恐らく僕たちでいうところの人避けの結界だ。魔術師達が自分の工房に立ち入られないために使う基本的な結界さ。
だが問題は何のためにそんな物が張られているかという事だ』
『んー恐らく、変に反応されたら困るのだと思うよ。何も知らない人には反応されたくないし、ゲストには気づいてもらわなきゃならないからね』
ロマ二の疑問に誰より早く反応したのはダ・ヴィンチだった。
『どういう事だい?レオナルド』
『つまり誘われているのさ、私たちは。人避けの結界は、元々人通りが少ない所に工房を構えた魔術師が、人には入られないために作るものだ。
だが、この様な都市の中心部で結界を張ろうものなら、異常を探す人間にはどうやったって目につくだろう。寧ろここに何かがありますと主張しているようなものだ。
だから、最初から私たちは誘導されていたのさ。ここにたどり着くゲームの参加者としてね』
ダ・ヴィンチがたどり着いた結論に、ジークが待ったをかける。
「いや、待ってほしい。俺たちは魔神柱の反応を追ってここまで来たんだ。
ならこの案件には少なからず魔神柱が絡むことになる。それをゲーム感覚とはおかしくないか?」
それは真っ当な疑問ではあったが、ここは既に非常識こそ常識としてまかり通る街だ。
ジークの疑問に応えたのは、この街に詳しいクラウスだった。
『それが、あり得るのだ。この街には遊び気分一つで世界を滅ぼそうとするものが数多く存在する』
「なるほど…敵が見えてきたじゃねえか。つまりこいつは…」
ザップの言葉は最後までは続かなかった。
彼の言葉を遮る様に、瞬間大きな地震が発生したからだ。
いや、正確に言えばそれは地面が大きく揺れ動いているだけであって、地震ではない。
衝撃の発生源は、まさに今話題になっているエンパイアステートビルの方からだ。
「先輩!こちらへ!」
マシュが咄嗟に盾を出して藤丸を後ろに庇う。
「レオ、危ねえ!」
「ぐえっ!」
ザップがレオの襟首を掴んで自分の後ろへと引っ張る。
高さ300メートルを超える塔がいま、誰の目にもわかるほどに大きく揺れていた。
ビルの窓という窓が割れ、下にいる人間達へと降り注ぐ。
装飾の石柱が衝撃で破損し、石の塊が落下する。
端的にいって状況は最悪そのものだと言えたが、それはあくまで前座に過ぎなかった。
ビルが蠢動を大きくするにつれて、ビルの中央部分が少しずつ形を変えてゆく。
大きなビルの中に、もう一つ一回り小さな柱が閉まってあったか様に、外壁が内側に凹み輪郭を作る。
やがて、捻れたような奇妙な柱の輪郭を象った外壁は、石材と鉄材に過ぎなかったその材質を、魔力を蓄えた禍々しいものへと、形質を変化させていく。
『ま、まさか…』
ロマ二は絶句したように言葉を漏らす。ゆっくりと形を変えていくそれが知らないものだったからではない。寧ろ、我々が良く知っているものだったからだ。
人の呪いを具現化したような質感。
捻れた柱のような形状。
ラインに沿って綺麗に配置された、禍々しい呪いを宿したギラギラと輝く魔眼。
『ビルの中に、魔神柱を隠していたのか!?』
魔神柱キマリスが姿を大きくして姿を現した。