某県某市にある碧空高校。ここには最凶の番長北野誠一郎が通っている。ある日の二人の生徒の会話において、
「お前、北野を好きなのか?」
茶髪のおかっぱ頭の美少女が金髪の不良少年に尋ねた。
「はぁ? いきなり何言ってんだ茶くそ女?」
「私は茶くそ女ではない、白滝幾奶だ。いいから質問に答えろ」
「……北野さんは好きって言うよりかは、かけがえのない存在だ。なんでてめえにこんなこと言わなきゃいけないんだか」
「なるほど、てっきりお前に同性愛の気があるもんかと思ったぞ」
「ふざけたこと抜かすなこのアマぁ!!」
「だから私は白滝幾奶と言っておるだろう。お前にも竹久優二と名前があるように名前で読んでだな」
竹久は、白滝を無視してどっかへ行ってしまった。
ところかわり竹久の家、竹久はベッドで眠りにつこうとしていた。
「ったく、あの女ふざけたこといいやがって」
ぶつぶつと独り言を言いながら眠りについた。意識が遠くなる感覚を覚え、気がつけば朝になっていた。
「なんだかあんまし寝た気がしねえな」
竹久は何か自分の体に違和感を覚えた。胸のあたりがいつもより重い感じである。なにげなく自分の胸に手を当ててみた。
「!?」
予想だにしない感触があった。膨らみがあり、ふかっとした柔らかさがあった。竹久は着ていたパジャマを脱ぎ、体を確認した。
「ど、どうなってんだ――――――っ!!」
竹久の体は女となっていた。
竹久はまだ現実を受け入れていない状態だったが、それでも落ち着いて現在の状況を分析できる状態となった。まず名前は竹久優子と女っぽい名前となっていた。体自体は変化したが、容姿にそこまで変化はない。髪の色が茶色いことや、カレンダーで月日を確認したところ、どうやら入学式あたりの時期らしい。竹久はとりあえず学生服に着替えて登校することにした。
「スカートっていうのがどうも慣れないな。スースーして脚の辺りが不安になるぜ」
竹久は入学式の話を意識半分で聞きながら、今後どうしようかと考えていた。過去の記憶を思い出し、入学式の後、黒田のところへ行ったのを思い出した。黒田達がいつも固まっている場所へと向かう。
「ついに来たぞ――――――! ついに俺の時代がやってきたのだ――――――ッ!」
「やりましたね黒田さん。つに最上級生っスよ!」
「これで俺達でかい面できますよ!」
遠くから黒田と取り巻きの二人の声が聞こえてきた。遠目から見て、この三人はなにも変わりが無いことを確認できた。
「おおいたいた。相変わらずへんぴな場所にたまってんだな」
黒田達が竹久の存在に気付いた。
「はじめましてかな、黒田と取り巻き二名。俺は竹久優…優子。とりあえず挨拶しとくぜ」
黒田達は驚いた。茶髪のトゲトゲ頭、眉もそってあり、俺口調。完全にヤンキーの入った女が自分たちの元に来たからだ。
「す、スケ番だ……この展開は予想してなかったぜ。だが、スケとはいえ上に立つ者として、威張ることができるぜ! しかし俺様の名前を知っているとは光栄だな! がはははは!!」
黒田がバカ笑いをして浮かれていた。
「あの、黒田さん、俺ら少し舐められてますよ。一年の女とはいえ、ここは上級生としてガツンと言ってやらないと」
「そうだな、ごほん! 優子ちゃん、まぁ我々も上に立つ者として色々とうるさいこと言うときもあるかもしれない。いや、今うるさく言っておくべきか。一応上級生だから敬意をもってだな」
「悪ィな。俺あんたの話を聞くために来たわけじゃねーんだ。知っている奴がどんな感じになっているか確認しただけだ。後、番長の座は転校してくる北野さんって方のものになるから、今のうちに番長気分を味わっておくがいいさ」
竹久は黒田を無視してスタスタと立ち去っていこうとした。しかしそれを邪魔するかのように生活指導の岸田がやってきた。
「! なんだ、お前見ねー面だな。この学校で女の不良とは珍しい」
「ようハゲの岸田」
「あ? 俺が気にしている事を言うとは良い度胸しているなこのスケは。この学校でそんな口聞く奴がいたとは思わなかったよ……まぁいい……高校生になったばっかでうかれてんだろ。そのうちおとなしくなるか。後、その頭を明日までになんとかしろ。女とはいえ容赦せずに髪を切るからな」
竹久は岸田の言葉を半分聞きながら、その場を去った。とりあえず今後どうしようかと街中をさまよっていた。そんなときに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あのすみません……」
振り向くと、よく知っている顔の男がいた。竹久が尊敬する北野誠一郎であった。
「ちょっと道を尋ねたいんですけど……」
北野の質問などおかまいなしに、竹久ははしゃいだ。
「北野さん! あ、俺の事を知らないですよね! 自分は一年の竹久優子! 同じ碧空高校に通うことになるので今後ともよろしくお願いします! あっ、道案内しますよ!」
「ど、どうして僕の名前が分かったんですか? 初めてこの街に来たばかりなのに……」
「なぁに、気にしないで下さい。さっさ、好きなところへ案内しますよ」
「うん、じゃあ碧空高校までの道を教えてくれないかな?」
「了解です!」
それから北野と竹久は楽しく会話をしながら、碧空高校まで歩いて行った。
「僕、この顔だから皆から悪い人だって誤解されているんだ。道を尋ねても誰もまともに対応してくれないし……今日は優子ちゃんに出会えて本当に良かったよ」
「なぁに、俺も北野さんを初めて見たときは怖かったですよ! 血まみれの顔で笑ったときは本当に怖かったですし」
「? 血まみれの顔?」
「あ、いえ、こっちの話です」
竹久はうっかりと過去の記憶にまかせて喋ってしまっていた。この時の北野とはそんなエピソードはないのである。そんなこんなで碧空高校についた。
「ここが来週から僕が通う学校か。良さそうな学校だね」
「退屈はしないですよ。色々と面白いやつがいますからね」
「おい、お前うちの学校の生徒か? 部外者は立ち入り禁止だ!」
生活指導の岸田がうるさい声を出して、こちらにやってきた。
「なんだお前もいたのか、名前は竹久だったか? お前の友達ならとっとと校外に出せ」
北野は悪いことをしてしまったと思い、頭を下げて岸田に謝った。
「申し訳ありません。僕は一週間後にこの学校に転校してくる北野誠一郎と申します。悪いこととは知らずに校内に入ってしまいました」
「お、礼儀正しい生徒だな。いやぁ、こっちも知らずに悪かったな。竹久、北野くんとは正反対で良い子……」
北野が下げた頭を上げて岸田を見上げた。岸田は恐ろしい顔を目の当たりにして、非常に驚いた。
「き、貴様!! 良い子かと思ったが危うく騙されるところだったぞ!! この悪人め!! この生活指導の岸田がお前を成敗してくれる!!」
岸田が竹刀を持って北野に襲いかかった。北野は慌てながらも、持ち前の動体視力と瞬発力でかわした。
「うわぁ! いきなり何をするんですか!」
「うるせぇ!」
ボガ
竹久が後ろから岸田を思い切りぶん殴り気絶させた。
「なるほど、女になっても腕力は衰えてはいないな」
「あわわわ、だ、大丈夫ですか!! 優子ちゃん! なんてことを!」
「北野さん! 人が来ないうちに逃げましょう!」
「えっ? わっ! ちょっと!」
竹久は北野の手を引っ張り、颯爽と学校を去った。
「大丈夫かな先生……」
「なぁに、誰かが気付いてくれますよ北野さん」
気絶した岸田をほったらかしにした事を北野は心配していた。
「そうだ、良い場所案内しますよ北野さん!」
そう言って、竹久が北野を連れて行ったのが碧空公園であった。
「どうですかこの景色! 絶景の風景でしょ!」
「すごい! びっくりするくらいの碧い空、僕がこれから住む街が一望できる! 初めてこの街に歓迎された気持ちになっているよ!」
「そこまで喜んでいただけたら光栄ですよ北野さん」
「ありがとう優子ちゃん、この街に初めて来たんだけど、知り合いもいないし、道を尋ねても皆逃げちゃうし、なんか悲しくなって途方にくれちゃって」
竹久は何か聞いたことのあるフレーズが北野の口から出て、思い出した。
(ちょっと待て、これって北野さんが良子に告白したときの台詞がばんばん出てきてないか!? どうなんだよこの展開! 俺が北野さんとそういう仲になっちまうのは色々と不味い気が……)
「そんな時に君に出会えて本当に良かった。これからこの街で頑張っていけそうだよ」
北野は笑顔で竹久の方を向いた。竹久は顔を赤らめて、どきどきしていた。竹久は自分のこの気持ちがどういったものかを理解しきれなかった。
「よう竹久じゃねえか、男を連れてるとは珍しいな」
そこには、竹久が以前喧嘩で倒した男達が複数名いた。
「……俺がらみでいいところを邪魔されるところまで一緒か……」
竹久は拳を鳴らしながら、戦闘態勢をとった。
「北野さん、ここは俺一人で十分です」
「え? 竹久君!」
慌てふためく北野君に対し、竹久は飛び込み、その拳でバッタバッタと相手を倒していった。
「女になったからといって弱くなったわけじゃねえな。よしこれならすぐにでも」
ガン
一人の男が竹久の背後から木刀で襲いかかった。木刀は竹久の頭に直撃した。
「てめえ、不意打ちとは汚えんじゃねえのか、ああ?」
竹久は流血しながら倒れた。
「お……おい! 頭はヤバいんじゃないのか!」
「きえええええええええ!!!!!!!! ゆゆゆゆゆうううけええ~~~~~~っ(訳→優子ちゃ~~~~~~ん」
北野は倒れた竹久を心配し、悪魔の叫び声をあげた。その様子に不良達は驚いた。
「う、うわぁ! ば、化け物だぁ!」
「怯むな! たかが一人! なんてことはない!」
気がつけば、不良の一人が空高く飛んでいた。
「え? どうなってんだ?」
双掌打で北野が不良を吹っ飛ばしていた。この後、一分足らずで不良グループ全員が北野によって倒された。
北野誠一郎の伝説は予定よりも早く始まったのだった。
「いちちち、あいつらどこへ……」
竹久は頭の痛みに顔をゆがめながら、起きようとしていた。
「まだ休んでいた方がいいよ」
北野が竹久を見下ろす形となっていた。竹久は北野の膝枕で寝ていたのだ。
「す、すいません膝枕なんかしてもらって! もう大丈夫なので!」
「遠慮せずに休んでよ。優子ちゃんが元気になるまでずっとこうしているから」
竹久はなぜだかその言葉に素直に従う気になった。しばらくの間、竹久は北野の膝枕でゆっくりしていたのであった。