「おい待てコラ。こら、そこのトゲトゲ」
竹久が学校の門をくぐると、岸田の声が聞こえてきた。
「なんだそりゃ? てめえ昨日俺が行ったことわかってねーのか? 女でも容赦せずに丸坊主にすっぞこら」
竹久にはこのやりとりが懐かしく感じられた。この後、自分が岸田を殴り停学になったと思い出した。
「うるせーハゲ。お前とのやりとりめんどいんだよ」
岸田に青筋がたった。
「あ? なんて言ったんだてめぇ」
竹久は岸田を無視してスタスタと立ち去っていった。周りから女子生徒のクスクスという笑い声も聞こえてくる。
「まてこらぁ! くそぅ! 俺が女に手を出さないとでも思いやがって!」
岸田は笑い声の聞こえた方へと向かっていった。岸田は女子生徒の佐伯祐美の前で立ち止まった。
「お前か!? さっき笑った奴は!」
竹久は、怒りにまかせておとなしそうな生徒にやつあたりする岸田の姿に無性に腹が立った。
ドッカアン
竹久は以前岸田に一言申してからぶん殴ったが、面倒に思い、不意打ちで強い右ストレートをくらわした。岸田は竹久の一撃で失神した。
「大丈夫か? すまないな、俺のせいで」
竹久は佐伯に自然に申し訳ない気持ちになっていた。
「あ、はい、大丈夫です……」
佐伯は教師を一撃で失神させた不良を恐ろしく思ったが、彼女には一種の心が芽生えた。佐伯の元に親友の真子がやってきた。
「祐美! 大丈夫? 岸田のやつ酷いよね! 彼女、竹久さんだっけ、怖いけど岸田ぶっとばしてくれ清々したよ。あれ、祐美の顔赤いけど熱あるの?」
「あっ、違うの! 竹久さん格好良かったなとかそういうのじゃなくて! その!」
佐伯祐美。彼女の初恋の相手は不良女子生徒 竹久であった。
やがて、男性教師が三人ほどやってきて、竹久を厳しい口調で問い詰め、指導室へと連れて行った。
「厳重注意だけですんだか。やっぱ女子生徒だからかな……」
竹久は停学だと思っていたが、意外にも注意だけで話は終わったのである。竹久は自分の教室へと戻り、席に着いた。北野さんが転校するまで退屈だなと思いながら、竹久は授業中ぼーっとしていた。昼休み、暇つぶしになると思い、竹久は黒田達の元へと向かった。
「よう優子ちゃんか。岸田のやつ失神させたって聞いたぜ」
竹久が岸田を殴った事は既に全校生徒に広まっていたようだ。呑気に話している黒田に、取り巻きの二人が警告をした。
「黒田さん、こいつヤバいすよ!」
「もしかして俺らのことも岸田みたいにぶちのめすんじゃないですか!」
「なぁに、いざとなりゃあ俺も闘う。もちろんスケバンとはいえ、相手は女性だ。ちゃんと手加減してやるさ!」
バキィ
「どわはぁ!」
竹久の一撃で黒田が倒れた。黒田は意識を失ってはいないものの、鼻血を出していた。竹久は殴るつもりはなかったが、黒田の調子に乗った発言でつい条件反射的に殴ってしまったのである。
「ふふふ、どうやら俺を本気にさせてしまったようだね優子ちゃん。よろしい! この番長黒田が直々に」
バキィ ドガァ ガコン
竹久は黒田にパンチの連打を決めてKOした。
「俺が手加減してやるべきだったみたいだな。番長の座は後々北野さんのものになるが、暫定的に俺がなっておくぜ。ちなみに、取り巻き二名、お前らは闘うか?」
取り巻き二名は何も答えられずに立ち止まっている。戦意喪失してしまったようであった。竹久はそれを察して、黒田達の元を去った。
校内では、竹久が番長、黒田が元番長になったという話で持ちきりだった。竹久も髪を金髪に染めて気合いを入れた。周りの生徒は皆おびえて、近寄ろうともしない。教室に入ると、意外な声が聞こえた。
「お、おはよう、竹久さん」
「ん?」
竹久は自分に挨拶した人の姿に驚いた。以前、岸田に絡まれていた佐伯であった。
「お前、俺が怖くねえのかよ」
「た、確かに怖いと思うけど、でも、悪くない人だと思っているよ」
「……そうか」
竹久はそう言って、自分の席に座った。竹久は席に座りながら、自分の変化を感じていた。この時期の自分は狂犬という感じで、強い奴に向かっていく性格であった。それが、北野と出会ってから、性格に丸さが出てきたなと感じた。以前の自分なら、岸田を殴ったときに佐伯に声をかけなかっただろうし、今こうやって佐伯と挨拶もした。竹久はそれを良く思った。それが自分が尊敬する北野誠一郎の影響だからと……。
休み時間、廊下で二人の生徒の視線が合った。竹久優子、そして小磯良子である。
(バカ女か、まだ北野さんと会ってないせいか、ギラギラとした目をしているな。まさか俺に喧嘩を売る気じゃないだろうな。確か、この時期辺りに碧空公園で北野さんと闘ったという話も聞くし、今のうちにおとなしくさせた方がいいか……)
(彼女が番長になったと噂の竹久さんね。あの目つき、ただのスケバンかと思ったけど、そうでもないみたい。よほどの強豪と戦ったのかしら、自分よりも強い者がいる事を達観し、なおかつ、どんなやつにも負けないという意思がある)
竹久と小磯は互いに互いのことを思い、それがなんとなくお互いに伝わったようだ。
「おい、何ガン飛ばしてんだバカ女」
「ふふ、強そうだから闘ってみたいなと思ったの」
「ちょっと良子! また悪い癖出して!」
良子の親友の平山郁子が彼女を制止しようとした。その場を通りがかった佐伯も二人の険悪な雰囲気を察して機転を利かせた。
「竹久さん! 先生が呼んでるの! ちょっと来て!」
「……また後だな」
竹久は良子にそう言って、佐伯のところへ行った。
「こっちだよ」
佐伯は良子の目の見えないところまで竹久を連れて行った。
「おい、先生はどこにいんだよ」
「ごめんなさい! 喧嘩になりそうだったからつい!」
「……あんまし俺に係わるな。お前まで危険な目に遭うぞ」
竹久は佐伯に忠告した。竹久自身不良と闘う事が良くあり、そうなれば自分の身近な人にも危害が及ぶ。ゆえに、一般人である佐伯を巻き込みたくないと思った。
竹久は放課後、校内の人通りの少ない場所へと来た。小磯良子が来ると思ったからだ。竹久の思惑通り、小磯良子も姿を現した。
「その気になってくれてありがとうね」
「礼を言うのはお前が勝ってからにした方がいいぜ」
両者戦闘体勢に入った。良子が早い踏み込みで突きを出した。突きを察知した竹久は顔面を横にそらす。突きが通った後、竹久のほほに切り傷が出来た。竹久は良子の強さを改めて認識し、冷や汗をかいた。
「へぇ、殴るだけじゃなくよけるのも上手いのね !?」
竹久は右の拳を振るった。良子はスウェーぎみになんとかかわしたが、竹久のパンチが予想以上に速く重い一撃であり、冷や汗を流す。
「ただのヤンキーだと思っていたけど、私以上に相当の修羅場をくぐり抜けてきているようね」
「いっとくが、俺よりも強い奴がそろそろ転校してくる。北野さんという方だ。俺も強さには自信はあるが、あの人にはかなわない」
「なるほど、あなたがそこまで言うほどだからよっぽど強い人なのね。是非闘ってみたいわ」
「俺に勝ってからな!」
二人はまた拳を交じ合わせた。
さて、この決闘の場面に偶然出くわした男達がいた。
黒田三人組であった。
「あ、あれは竹久じゃねえか! そして、一般人の女生徒が闘っている!? あの娘……」
「二人とも、レベルの高い闘いしてないですか?」
「これは貴重なものを見ているって感じですね黒田さん」
「いい……」
「く、黒田さん?」
「あの三つ編み娘可愛いじゃないか……」
黒田は顔を赤くして知能の高くなさそうな面となっていた。
「よし! あの娘を助けてやるためにも俺は加勢するぞ!」
黒田は二人の取り巻きの制止を振り切って、決闘の場に突入した。
「ん? タッパのある人がこっちにくるわね」
「げっ! 黒田じゃねえか? 面倒な事になりそうだから、早くこの場を去った方が良いぞ」
「あなた! 私たちは決闘をしているのよ! 乱入者がなんだっていうのよ! どちらか倒れるまで続けるわよ!」
(融通がきかねえなこのバカ女は。どうなっても知らねえぞ)
「待てい! か弱い女子生徒に暴力とは許さんぞ竹久!」
(呼び方が優子ちゃんから竹久に変わったか。まあこっちのほうがしっくり来るからいいか)
「おい! お前は早めにこの場を立ち去った方がいいぞ。痛い目に遭うからな」
「上等だ! 愛の前には障害というものがつき、ほげぇ!?」
良子は上段回し蹴りを黒田の脳天のに食らわし、一撃でKOした。
(せめて話ぐらいは聞いてやれよ)
「く、黒田さん!」
黒田の取り巻き二名が慌ててやってきた。
良子はため息をついた。
「気持ちが乗ってきたとこだったんだけど、一気に抜けちゃったな。この続きはまた今度ね」
(続くのかよ……)
竹久は良子の執念に呆れていた。後日、竹久と良子はまた決闘するのだが、黒田が乱入してきて仕切り直しとなり、その後日もまた同じパターンとなり、まともな決闘が行われることはなかった。
ちなみにこの二人の決闘の様子を見守っていた女子生徒がいた。
「竹久さん、今日も無事だったのね」
「良子、今日も無事だったのね」
二人の女子生徒は佐伯と郁子であった。独り言がお互いに聞こえ、二人は誰だ?と思い向かい合った。
「もしかして小磯さんのお友達ですか?」
「そういうあなたも竹久さんのお友達?」
二人は互いに似た者同士であることを認識した。ひょんなことで二人はよく話し合う仲となった。
そして……北野誠一郎の転校の日がやってきた……。