「えーっ、今日からこのクラスにはいることになった北野誠一郎くんだ。みんなよろしく頼むよ」
竹久は待ってましたと言わんばかりの反応をした。ついに自分が尊敬する北野さんがやってきたと思った。
「北野誠一郎です。こんな顔してますが、内気な小心者です。どうか皆さん仲良くして下さい」
予想通り、北野を怖がる生徒が大半であった。ひそひそとその手の会話が聞こえてくる。
「先生、俺のとなり空いているんで、北野さんはそこに座って貰いましょう」
「そ、そうだな。よろしく頼むよ竹久」
北野も竹久の存在に気付き、緊張が少しほぐれたようだ。北野は竹久の隣に座り挨拶をした。
「やぁ、優子ちゃん。同じクラスで嬉しいよ」
「こちらも北野さんと同じクラスで嬉しいですよ」
竹久は北野が怖くない男だと知らせるために、気軽に話しかけた。しかし周りの生徒の反応は竹久が思っていたものではなかった。
「竹久があの化け物と普通に話し合ってる!? 竹久はただの不良じゃないかもしれない!?」
「最凶のカップルが誕生したのかもしれない……」
「この教室どうなるんだろう……」
この後、一限目の国語の先生が北野君にジョークをかまし、恐ろしい笑顔を返されたので、おびえてしまい授業にならなかった。他の授業も同様であった。そんなこんなでお昼休みの時間となった。
「北野さん、何か困ったことがあれば俺が力になりますよ」
「うん、ありがとう優子ちゃん」
「時間が立てば、北野さんを普通の生徒と思う人も増えると思うので、それまでの辛抱です」
楽しいお昼休みの時間であるが、会話をしているのは北野と竹久だけ。彼ら以外の生徒は、北野におびえ、会話が出来なかった。
「でりゃああ! このクラスに転入した野郎ってのはどいつだ――――――っ!!」
教室に聞き覚えのある大声が鳴り響いた。元番長の黒田であった。黒田は一人の生徒の制服を掴み、転入生北野が誰かを聞いた。黒田が北野の顔を見ると、恐怖におびえた顔をしていた。
(そうか、この日に黒田が番長の座を陥落したのか。まっ、今暫定的に俺が番長ではあるが)
「てめえか――――――っ!」
黒田は地味なメガネ男 佐々木をとっつかまえた。黒田は北野に喧嘩を売るのは危ないと判断したのだ。
「おい黒田、北野さんはこの方で合ってるぞ! それともビビっちまったのか?」
「そ、そうです! 俺は佐々木です! 北野ではありません!」
佐々木も竹久の言葉に合わせて、自分が北野ではないことを主張した。
「なんだと――――――っ! 俺が間違っているとでも言いたいのか!! お前が間違いなく北野なはずだ――――――っ!」
「く……黒田さん……そいつは明らかに違いますよ!」
「うわああおれじゃねえよ――――――っ!」
佐々木の悲痛な悲鳴が教室に鳴り響いた。佐々木は黒田達に引きずられ、教室から離れていった。周りからは佐々木を追悼する声が多く聞こえた。
「北野さん、わざわざそんなことしなくていいですよ」
「そうもいかないよ。これからこの学校にお世話になるんだから、掃除くらいしないと。あっ、あんなところに折れた大木があるぞ。よいしょっと」
(普通の人がこの人の掃除するって言葉を聞いたら邪魔者を排除するって思うんだろうな……)
「木が重くて……バランスが、うわぁ――――――っ!」
「き、北野さん!?」
北野は大木を持ちながら、いつの間にか黒田達三人組が固まっている場所に出た。竹久はなんとなくこの先の展開が読めてしまった。彼の予想通り、北野は大木ごと黒田達三人組に突進し、黒田達は恐れをなして泣きながら土下座していた。かくして、北野・竹久は番長カップルとして全校生徒に恐れられるようになった。
とある昼休み、廊下で竹久と北野が歩いているところ、向かいから良子が郁子と一緒に歩いていた。竹久は良子が何をしてくるかと気をつけていた。
(あのバカ女か、北野さんにちょっかいかけねえよな)
(あの人が金髪ちゃんが強いと言っていた人ね。顔は確かに怖いけど、体つきは細いし格闘技をやっている体じゃない)
(なんか、あのバカ女の殺気を感じるな。何かしてきそうな顔をしているな)
竹久がそう思った瞬間、北野は良子の顔の前に拳を突き出した。良子は冷や汗を流している。周りの生徒も緊張した様子で成り行きを見守っている。
「危なかった……もう少しでやられるところだったよ」
(すげえ、バカ女の殺気を感じ取って即座に拳を突き出すとは、流石北野さんだ……)
「い……いこう良子」
「う……うん」
郁子が空気を読んで良子を引っ張り、その場を去った。
(あれ、これどっかで見たような……)
「優子ちゃん、悪いけど窓を開けてくれるかな」
「あ、はい」
窓を開けると、北野も宙にかざしていた拳を開き、ハチが窓の外へ逃げていった。
「あ、そういう事か」
竹久は分かった。今の行為は、北野にとっては女の子を守るための行動だったのだと。しかし、ちょうどよからぬ事を考えていた良子はそれを勘違いし、北野を実力者と見てしまったのだ。
「北野さん。多分今の事、勘違いされてしまったみたいですよ」
「え? どういう事だい?」
「その内、あの三つ編みの女が北野さんに因縁をつけてきて闘うかもしれないってことです」
「え――――――っ! 僕何か悪いことしちゃったのかな!」
「悪いことはしてませんが、結果的に悪いことになりましたね。まっ、そのときは俺も一緒にいるようにしますよ」
「そう、ありがとう優子ちゃん(よく分かってないけどね)」
さて、放課後の時間となった。北野と竹久を待っていたかのように良子がいた。
「ちょっとつきあって貰っていいかしら?」
「どうしますか北野さん?」
「いいんじゃないかな? 用事も特にないし」
「ということだ、場所はどこにするんだ?」
「碧空公園あたりまで行きましょう」
三人は碧空公園へと向かっていった。その後を追う二人の女子生徒の姿があった。佐伯と郁子であった。
「……多分良子、北野君と闘うみたいだね」
「竹久さんはどうするんだろう……」
三人は喧嘩には手頃な広い場所を見つけた。
「分かっているでしょうけど、北野誠一郎、相手をしてくれるんでしょうね」
「このバカ女、散々黒田に邪魔されたが今度こそ俺が」
「待って優子ちゃん、この人は僕に用があるみたいだ。僕が相手をしないと」
「……分かりました。危なくなったら俺止めますよ」
「うん、ありがとう(危なくなる事なのかな?)」
「さぁ行くわよ! 北野誠一郎!」
良子は戦闘態勢に構え、右の突きを繰り出した。速い突きであるが、北野は持ち前の動体視力と反射神経でかわす。良子はすかさず上段蹴りをかますが、北野は右腕でガードした。
「待って、どうしてこんなことをするんだい?」
「あなたが強いと聞いたからよ! 先日の廊下のやりとりでも私の闘気を読み取ったじゃない! あのとき、あなたが強いと確信したのよ!」
「な、何を言っているんだ君は?」
「ここまで来たら変な駆け引きはなしよ! さぁあなたの全力を出しなさい」
竹久はここまで防御一辺倒の北野に危機感を感じた。
(そうか、北野さんは優しい性格だから男なら手を出しても、女には絶対手を出さないはずだ。良子がぶったおれるまで殴られるか、北野さんが耐えきれずに倒れるか……。不利なのは北野さんじゃねえか!)
突然、北野が良子に抱きついてきた。
「なっ!? 何をしているの! 離しなさい!」
「僕は君に何か悪いことをしてしまったのかもしれない。でも僕が何をしたのか分からないんだ。僕は君にどうすればいいんだ」
(何を言っているのこの人は、何かの作戦だというの?)
「騙されないわよ!」
良子は膝蹴りを北野の土手っ腹に突き刺した。北野の抱きつきがゆるくなり、即座に距離を置いた。
「君に悪いことをしたのなら謝るよ。だから」
「何度も行っているように騙されないわ! さぁ! 早く本気を」
北野の目から涙が出てきた。その涙を見て良子の動きが止まった。
「あ……あれ、ごめん。こんなことで涙を流すなんてみっともないね。信じてもらえないのは慣れてるはずなんだけど……」
竹久はこの様子を見て思った。何故、良子が北野さんを理解したのか、何故彼女が北野さんに惚れたのかを……。
良子は真の北野誠一郎を理解できたのであった。
「だから言っただろう。北野さんは普通の人だって」
「そうか、残念だったな。本当のことを言うとね、結構期待していたんだ。北野君が本当に強くて私と武道で互角の戦いが出来るんじゃないかって……」
「確かに、北野さんは俺でも恐ろしく感じるほどの強さを見せたりはするけど、基本的に優しい人だ。お前のように乱暴な事はしない」
「何よ! 大体あなた女なのに、ツンツンした金髪ヘアーだわ、俺口調だわ、ヤンキーだわ。人のこといえるの!」
「何を! てめえをこの場で殴り飛ばしてもいいんだぜ!」
「上等じゃない! やってやろうじゃないの!」
言い争う竹久と良子を、北野は慌てて止めようとした。
「ふ、二人とも、仲良くしてよ。ねっ!」
「北野さんがそこまで言うのなら……」
「私も大人気なかったわ……そろそろ友達が心配していると思うから……先に行くね」
そう言って、良子は先に帰っていく。
ガキッ ミシ
なにか、木で生身の体を打ったかのような痛々しい音が聞こえてきた。
「きゃあああ」
「!!」
北野と竹久は良子の悲鳴に気付き、スネを押さえて倒れている彼女に気付いた。
「小磯さん!!」
「一体何があったってんだ!!」
そこには木刀を持ち、傷跡を残した坊主頭の皮ジャンの男がいた。
「いったろ。しつこいのが性分でね。勝つまでやるのが俺の流儀だってな」
堅山と取り巻きの二人組がいた。
かくして、北野&竹久VS堅山組のバトルが始まろうとしていた。