すねに打撃を受けた良子は動けない状態であった。動けない良子に堅山が蹴りをくわえた。
ドッ
「ったくよォ……今までよくもコケにしてくれたな!」
「く……」
良子はただ耐えるだけであった。
「だめだよケンカは!! 女の子にそんなことしちゃいけないよ!!」
北野が両手を上げて堅山に向かっていた。堅山はまっすぐ向かってきた北野を殴り飛ばした。
「あ……あ……」
竹久は倒れた北野を見て、堅山にダッシュした。堅山は右拳を出すが、竹久は簡単によけ、左の大ぶりのフックを堅山の顔面にたたき込んだ。堅山は吹っ飛び、意識を失った。
「堅山さん!!」
堅山の取り巻きの二人が驚いた顔をした。
「ついでにお前らもやっておくか。怖いなら2体1でもかまわないぜ」
「くっ、舐めるな金髪女ぁ!」
取り巻きの一人が襲いかかったが、竹久は難なく一撃で仕留め、もう一人も一撃で仕留めた。竹久は堅山達が戦えない状態なのを確認すると、北野の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか北野さん!」
「うん、僕は大丈夫だよ。それよりも良子ちゃんが……」
「私も大丈夫。骨は折れてないみたいだから」
竹久は北野の無事を確認できて安心した。しかし、竹久は重要な事を思い出した。
「そういえばこの堅山ってやつは自分が勝つまでケンカをやり続けるらしいな。なら、徹底的に負けという事を分からせねえとな」
竹久は倒れている堅山の腹部に強烈な蹴りをくわえた。
ガゴォ
「優子ちゃん! それ以上の暴力はいけない!」
しかし、竹久はやめなかった。堅山の腹部、あばら骨、そして顔面に強烈な蹴りをくわえていった。
「北野さん、今後のためにこうした方がいいですよ。こいつらはまた俺らを襲ってくる可能性があります。そこのめっぽう強いバカ女でも不意打ちを食らったらこのざまです。なら、仕返しする気も起きないほど痛ぶんなきゃいかんでしょ!」
ドガァ ガギィ ベキィ
「う……やめ……」
堅山の意識が戻った。顔には脂汗が流れ、苦しそうに顔をゆがめていた。
「あばら骨がいったようだな。もう二・三本いっとくか?」
「うあ……」
堅山は竹久にすっかり怯えている。竹久がさらに一撃をくわえようとした瞬間であった。
竹久の胸部に強烈なインパクトが伝わり、体が吹っ飛んだ。北野の双掌打が竹久に決まったのだ。竹久は意識を失い、しばらくの眠りについた。
「す……すごい……並外れた瞬発力を持っているわ……双掌打があれだけ人が吹っ飛ぶなんて……」
北野の実力を目の当たりにして良子は驚いていた。
対照的に竹久を倒した北野は泣いていた。
「ごめんよ……ごめんよ優子ちゃん……女の子に暴力を振るっちゃいけないと言ってたのに……」
北野は意識を失った竹久の元に駆け寄っていく。
「竹久さん!」
佐伯が突然茂みから飛び出してきた。竹久のそばに走って駆け寄った。
「私が体を張って止めれば、竹久さんが死ぬこともなかったのに……できるなら私が悪魔の犠牲になりたかった……」
物騒なワードを聞いて、とまどう北野の姿があった。
「え、え、その……」
「佐伯さん! 危ないよ!」
郁子も茂みから飛び出してきた。郁子の姿に良子がおどろいた。
「郁子! あなたいつからいたの?」
「途中までつけていたんだけど、はぐれちゃって、ちょうど良子が倒れたタイミングで来たの」
「ちなみに、そっちの人は郁子の知り合い?」
「まぁ、そんなもんかな?」
「そこの人! 金髪ちゃんは気絶してるだけだから、心配しなくてもいいわよ!」
北野と良子はこれまでの経緯を佐伯と郁子に説明した。
「やっぱり北野君が普通の人だって言っても、ちょっと信じられないな~」
「あの人達、竹久さん一人でやっつけちゃったんだ。すごい……」
「二人には北野君が普通の人だって分かって貰うために、気軽に挨拶するように心がけてね。分かった?」
「良子がそうまで言うなら……」
「竹久さんと仲良くしている方なので何とか……」
「よし! このしつこい輩達が起きる前に退散しますか! まあ金髪ちゃんがボコボコにしたから大丈夫でしょう。郁子、ちょっと足が痛いから肩貸して貰える?」
「いいけど、私小さいから大丈夫かな……」
竹久はまだ意識を失ったままである。北野がそんな竹久を見て発言した。
「じゃあ優子ちゃんは、僕が家までおぶっていくよ。彼女の家なら知っているし」
そこへ割り込むように佐伯が発言した。
「あ、あの! 私も竹久さんと一緒についていきます!」
「うん、いいよ」
その様子を見てもの言いたげな良子がいた。
「もしかして、佐伯さん金髪ちゃんのこと好きなのかな? 空気を読んで北野君と二人で帰らせた方が良いかなと思うんだけど、そうさせたくないのかな?」
「あれ? 私てっきり良子も北野君に惚れたのかと」
「な、何いってんのよ! 確かに北野君すてきだけど! ほら! 案外、金髪ちゃんとお似合いのカップルじゃない!」
「仮に佐伯さんが竹久さんとくっついたら、北野君フリーになるよ。良子にチャンスが来るんじゃない?」
「……そうか……いや、その……とにかく! 北野君は私にとって良いお友達! 分かった?」
良子は顔を真っ赤にして郁子の発言を全力で否定しようとした。しかし、郁子から見れば、好きなのを隠そうとしているようにしか見えなかった。
どう帰るか話もまとまり、皆帰宅していくのだった。
「……あれ? 俺、そういえば碧空公園で……」
竹久の意識が覚めた。誰かにおぶって貰っているような感覚がある。一体誰が自分をおぶっているのか確認して驚いた。
「き、北野さん!?」
「あっ、目が覚めたんだね」
「良かった……竹久さん」
「あの、これは一体……?」
「ゴメンね。僕が優子ちゃんに乱暴しちゃったから……せめてものお返しで家まで送っているんだ……」
「いいですよ悪いですから! 降ります!」
「ダメだよ! まだしばらくおとなしくした方が!」
「そうですよ! あんな一撃くらったんですからしばらくはおとなしくしてないと!」
竹久が佐伯の顔を見て不思議な顔をした。
「佐伯だっけ? お前なんでいんだ?」
「あっ、それは、良子さんと不穏な雰囲気になって心配になったので……」
「そうか……」
しばらく沈黙の状態となっていたが、佐伯がとんでもないことを言い出した。
「あの……竹久さんって北野君の事が好きなんですか?」
突然の発言に竹久と北野の顔は真っ赤になった。
「な、何を言っているんだ佐伯さん! ぼ、僕と優子ちゃん友達なだけで、今も友達として当然のことをしているだけで!」
「そ、そうだぞ! 俺は北野さんの……北野さんの……あれ」
(なんなんだこの気持ちは! 俺は一体何を考えているんだ!)
竹久は自分でもよく分からない気持ちになっていた。北野とは友達ということを佐伯に伝えようとしたが、それを自分の脳が否定しているのだ。じゃあ自分の北野に対する熱い思いはなんなのか? その答えを考えようとすると竹久の心臓の鼓動がドクンドクンと高まった。
佐伯は、二人の気持ちを察してしまった。
「あ、諦めませんから!!」
そう言って佐伯はどこか遠くへ走っていた。
「なんだったんだろう今の?」
「さぁ?」
北野と竹久の二人で帰る事になり、なんとなく竹久は落ち着き、背中で眠りについた。
竹久はベッドから上体を起こした。時計を見ると朝の七時。体は男の体に戻っている。
「もしかして、今までの事全部夢だったのか……クソ女が変な事言ったからか……」
その日の竹久は、北野をまともに見る事が出来なかった。一目でも見た瞬間、こっぱずかしい気持ちになり顔が真っ赤になるからだ。
更に、良子が北野と仲良く話しかけるたびに、バカ女どっかへ行けという強い気持ちがうまれてきた。
かくして、彼のヒロイン物語は一端幕を閉じたのであった。