碧空高校に転校生がやってきた。
「今日から君達の新しいクラスメイトになる児島猛君だ。皆仲良くしてやってくれ」
数分前まで転校生を期待していた生徒達が静まりかえった。各々の生徒の大半が「なぜ白雲高校の児島がっ!?」と思っていた。
「児島君、あそこの空いている席に座ってくれ」
児島は無言で指定された席に向かっていく。彼を積極的に見ようと思う生徒はいなかった。下手に何かすれば、恐ろしいことになるかもしれない。生徒達はそう思っているのだ。
児島猛の転校の噂はすぐに広まった。
「なにぃっ!? 児島が転校してきただとっ!?」
校舎のいつもの喫煙スペースに黒田、時山、大下のいつもの三人組がいた。黒田は大きな声を出して驚いていた。
「今学校中で持ちきりの話題何すよ」
「俺、校舎で児島が歩いているのを見ましたよ」
時山と大下が黒田に説明していた。黒田は深くため息をついた。
「くそっ、ただでさえ化け物じみた連中が多い学校なのに、ますます俺の肩身が狭くなるじゃねえか……」
「それにしてもなんで児島の奴転校してきたんですかね?」
「白雲高校で退学でもくらったんですかね?」
「聞きたいか?」
黒田達は感じ取った。強者がかもしだすオーラ・威圧。彼らの心に巨大な恐怖が生まれた。
「こ、児島! なんでここにっ!?」
「ここに行けば知っている奴に会うかなと思ってな。どれ、俺も一本吸わせて貰うか」
児島も学生服からたばことライターを取り出して、しゃがみ込み喫煙を始めた。黒田達は気が気でなかった。
「や、や、やばいすよ黒田さん! このままいたら何されるか分かったもんじゃないですよ!」
「もう俺達の愛用場所を譲りましょう! ここは児島に献上しましょうよ!」
「ば、馬鹿言うな! ここは俺達にとっては聖域だ! 元番長の意地にかけてこの場所は渡さねえ!」
「勘違いするな、俺は雑魚をとって食う気はねえよ。ただ、ちょいと誰かに話したい気分でな」
「話したい?」
ふぅ~
児島はたばこの煙をふいて一呼吸置いた。
「俺の親が離婚した。それにともなって住むところも変わった。一番近い学校がここだった。ただそれだけのことだ」
離婚というワードを聞いて、黒田達はなんとも言葉を出しづらい雰囲気になった。
「ところで北野にも挨拶しに行こうと思ったが、どこにいるか知らねえか?」
「き、北野さんなら1年11組だ! 俺達と違って真面目だから授業を抜け出す事もないし! ここには来ないだろう!」
「そうか、邪魔したな」
児島がたばこを舗装された地面に押し付けて火を消し、そのままその場をあとにした。
昼休み、児島が校舎を歩いていると、一人の男がやってきた。
「お前! 俺を転校初日にぼこった奴じゃねえか!」
真っ赤な髪をし、生来の三白眼、そして好戦的な態度。荻須高志であった。
「今こそ小磯道場での修行の成果を見せる時がきたぜ!!」
ばきぃん
児島は荻須がくりだした右のストレートに対し、カウンターで左のストレートをくりだした。
「へへっ、前の俺だったらここで倒れていただろうな!」
荻須は鼻血を出しながらも児島のパンチに対し倒れなかった。
「雑魚に用はない。消えろ」
「雑魚かどうか確かめさせてやろうじゃねえか!!」
どがぁ
児島は向かってきた荻須をボクシング仕込みの左アッパーで失神させた。
「ちょっとなでる程度で勘弁してやろうと思ったんだがな。身の程をわきまえないお前が悪いんだぜ」
いつの間にか二人の周りに多くの生徒が集まっていた。児島は転校初日で停学処分だなと覚悟した。
「ほう、騒がしいなと思ったら、久々に骨のある奴がこの学校に来たようだな」
誰もが児島に恐怖を抱く中、一人の女子生徒が児島の前に近寄ってきた。白滝幾乃だった。
「お前、俺が怖くないのか?」
「いや、むしろ久々に好敵手に出会えたなと思っている」
しゅっ
幾野は児島の顔面に高速の掌底を突き上げた。児島はかろうじて避けたが、右頬に切り傷が出来た。児島は幾野の強さを認めながらも引く態度を一切とらなかった。
「お前何者だ? 不意打ちとは言え俺の顔面に触れた奴は久々だぜ」
「私が何者かと聞かれれば幾野だと答えるが」
「ふざけてんのか? 俺は女を殴る趣味はない。俺が本気になる前にさっさといけ!」
「安心しろ。私は強いからそう簡単には殴られない」
しゅっ
児島は幾野の顔面に右のストレートを放つ。しかし、その拳は幾野の前で止まった。
「最終警告だ。お前の答えを聞かせて貰う」
「私の答えはこれだ」
ぶぉぉん
幾野は高速の上段後ろ回し蹴りを放った。児島は咄嗟にバックスウェーでかわそうとする。
ちっ
幾野のかかとが微かに児島の顎をかすめ、児島はよろめいた。
児島は一気に戦闘モードに切り替わった。
「その顔が潰れたら俺が責任をとってやろう」
「悪いな、私は既に心に決めた男がいる」
しゅっ バキィ どがっ
二人は激しい攻防を開始した。
幾野は児島の適所をつく拳を最小限の防御でさばきながらも、上中下的確な攻撃でダメージをあ。
一方の児島も幾野の体の動きから攻撃を読み取り、時にはかわし、時にはわざと攻撃をくらいながらも一撃のパンチを当てにいった。
周りの生徒はそのレベルの高い攻防をただ見守ることしか出来なかった。
「きええええええ!!!」
突如二人の決闘の場に奇声が鳴り響いた。その奇声に二人は攻撃を止め、奇声を発した人間を確認した。
「北野っ!?」
「誠一郎か、今は取り込み中だ。用があるならまた後にしてくれ」
「駄目だよ喧嘩は! 幾野ちゃん! 君は可愛い女の子なんだよ! あれっ、なんで白雲高校の児島さんがこんなところに?」
「北野、お前の強さはよく分かっている。だがな、この女との闘いの邪魔だけはするな!」
「よし、喧嘩やめた」
幾野の突然の切り替えに児島は呆気にとられた。
「ごらぁ! ここまで盛り上がってそれはねえだろうがぁぁぁ!!」
「私の誠一郎が喧嘩をするなと言ったんだ。だから喧嘩をやめたんだ。それにな……私のようながさつな女を可愛い女の子扱いしてくれたからな」
その言葉を聞いて児島の表情が柔らかくなった。
「おい、次はいつ遊べる?」
「知らん。まぁその内来るだろう」
幾野も児島に微笑をかえした。