ご注文は祝福ですか?   作:すぱいす

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感想、ご指摘、評価ありがとうございます! まだまだカズマさんらしさや、チノ、ココアの魅力は全然出しきれてはいませんが、これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!


ひと目で尋常でない鬼畜だと見抜いたよ

「エクスプロージョン!」

 

 めぐみんの朗々とした声が廃城の周りに響き渡った。かと思うと、大きな爆音と少しの熱風がこちらまで伝わってくる。

 流石、爆裂魔法だ。

 殆どのモンスターに対してオーバーキルで、一発撃ったらその日は何も魔法を使う事はできないと言われるだけある。めぐみんの持てる魔力をありったけ詰め込めるだけ詰め込んだ一撃は、それはもう凄いもので。

 観るだけ。ホントに観るだけで、何も被害を気にしなくてもいいなら、爆裂魔法は結構面白いものだった。

 

 最近、俺はめぐみんの爆裂魔法を撃ちに行く散歩。通称、爆裂散歩に付き合わされていた。

 理由はよく分からないが、魔王軍の幹部が俺たちの住んでいる町、アクセルの近くに来たらしく、俺たちが倒せそうな弱っちいモンスターは全て隠れてしまったらしい。つまり、その日食べる為に使う金をその日のうちに稼ぐというやり方は出来なくなった訳だ。俺は偶然にも突発的に入ったキャベツ採取によって、小金持ちになっていたから日々の暮らしに困る事は無かった。

 しかし、ここで困る奴が俺のパーティーメンバーには居た。

 アクアだ。

 そこで、アクアはバイト、ダクネスは家に帰って筋トレ。なんだ筋トレって、馬小屋でやればいいだろ。そもそもあいつは馬小屋を借りているのだろうか。パーティーメンバーについて知らない事がある事に対して少し気になる。まあそれは置いといて、あぶれたというか、暇になった俺はめぐみんに付き合う事となったってわけだ。

 

 最初は、めぐみんの訳の分からない爆裂欲とかいう物に付き合わされて面倒だと思っていた俺だが、今はもうめぐみんの散歩について行くのが毎日の楽しみになりつつある程だ。

 

「いやあ、毎日のことではありますが、あの城に向けて爆裂魔法を撃つのは最高ですね! そう思いませんか? カズマ?」

「まあ、俺は撃ってないけど、観るだけでもちょっと楽しいよ。それにこう、何となくではあるが爆裂魔法について少しずつ理解してきた気がする」

「ほう! カズマ、爆裂魔法について少し分かった事があるというのですか?」

「ああ! 例えばだが、今日の爆裂魔法は昨日の爆裂魔法に比べて威力が強かった様に感じる。しかし、昨日は雨だ。俺の爆裂魔法に対する判断基準である炎熱や、音が届きづらかったと考えられる。そこで、今日のような快晴の一昨日と比べてみると今日のは少し威力が弱かったと気づく。つまり、めぐみんは今日調子が悪かった。その原因は何故か俺なりに考えてみた」

「ふむふむ。それで? カズマの考えというのを聞かせてください」

「それはめぐみん自身も日々爆裂魔法をチューニングしながら撃っている、という事だ。1日に一度しか撃てない爆裂魔法はどうしても撃つ回数が少なくなってしまう。従って、めぐみん自身も良いものを撃とうとすると過去のイメージを頼りにするしかないわけだが、昨日は雨だった。その昨日の撃った爆裂魔法と同じくらいのものを撃とうとしてイメージに引っ張られてしまい一昨日より弱くなってしまった、というわけだ」

「ふむ、カズマからはそう見えたのですか。私としては常に一番良いものをと、イメージして撃ってはいるのですが……まさか、昨日の爆裂魔法に引きずられているとは……爆裂魔法は常に至高。しかし、その上で最強を求めねばならない物です。まだまだ私も未熟。一人で極めようと思った道ですが、やはり、誰かに見てもらうのも悪くはないですね」

 

 爆裂魔法に関して一切の妥協をしないめぐみんにとっては屈辱かもしれないような指摘をしたのだが、少し悔しそうな顔をしたものの、思ったよりめぐみんは堪えてないようだ。ことあるごとに、爆裂道に誘ってくるように、これまでコイツは爆裂魔法に関して理解してくれる人というのは居なかったのかもしれない。だから、そういう人間が現れて嬉しかったのだろう。

 ひとしきり改善点のようなものをブツブツ言った後、めぐみんは晴れやかな顔で、

 

「ふむ! カズマ!明日は絶対カズマに一分の文句も言わせないような爆裂魔法を撃ってみせますよ!」

「おう、期待してるぜ!」

 

 うん、これでこそめぐみん。俺はもう少し手伝ってやることにした。

 

「それにしてもカズマの成長は留まることを知りませんね。そのうち、爆裂魔法のできをハッキリ言い当てることが出来るようになるのではないでしょうか?」

「そうかもな。まぁ、そうなったときは爆裂ソムリエとでも呼んでくれ」

「いいですね! 爆裂ソムリエ! 何というか、紅魔族的にもいいネーミングです!」

 

 そう言われると何となく嫌になったが、まぁ喜んでいるようなので良しとした。

 

「おい、帰るぞ。めぐみん」

 

 ちょっと俺とめぐみんの友情が深まったような気がして、旨い昼飯でも食わせてやろうかと考え、早く帰ろうとすると。

 

「あの……私、爆裂魔法撃ったら動けないからカズマに来てもらっているのですが……」

 

 ちくしょう! コイツ、そういえばこんないい感じの場面でも寝っころがってやがった!

 俺はむしゃくしゃしたので、帰りはめぐみんの尻なんかや、身体中を堪能して帰ることにした。めぐみんは嫌がったが俺は悪くない。絶対にだ。

 

 *

 

 めぐみんと二人で帰って、昼飯を食った後、俺は色々考えて、町に繰り出す事にした。思い返して見れば、俺はこの世界に来てから、バイトやクエストばかりして、寝る。そんな日々を過ごしてきたせいで、あんまり町を回るということはしていなかったような気がする。

 必ずしも冒険とは命を懸けてギリギリの戦いをするとではない。寧ろ、未知の場所を探検することこそ、冒険の真骨頂といえるだろう。ましてや、俺はかつては引きこもりをしていたのだ。自分の町を見るだけではあるが、ワクワクしないわけがない!

 だから、めぐみんも爆裂魔法の疲れが抜けきらないが、着いてきたいと言ったが断った。アイツにとって当たり前の事はこっちにとっては当たり前ではないのだ。

 変に解説されて面白くなくなったり、ワクワクしているところをバカにされたくはなかった。

 

 ひとしきり回って確かめてみたが、やはりこの世界はゲームなんかでありがちの中世の世界観に近いらしい。魔法の発展だかによってトイレなんかは有るらしいが、それはゲームの中では語る必要の無かったものだし当然といえば当然だ。寧ろ、現代日本人の俺にとっては、水洗トイレが在るかどうかは、死活問題に近い。この事だけは感謝すべきだろう。

 

「さて、どうするかなー」

 

 アクセルはそこまで大きくない町なので、日が暮れるまでに回りきれてしまった。途中で、アクアのバイト先を通りがかって、アクアの目の前で旨い串焼きを貪り食うという暇潰しまでする余裕があった。

 どうするかな、とはいったもののやることもない。帰るかと思った時に、珍しい物が目に入った。

 

「ん? あれは、喫茶店?」

 

 近づいてみたら、確かに喫茶店だった。ゲームなんかの世界観では、酒場が主流で喫茶店はあまりない気がする。確かに、喫茶店で仲間を見つけた! と言われても何か弱そうな気もするが。

 

「えーと、名前はラビットハウス? 変な名前だな。もしかして、如何わしいお店か?」

 

 ラビットハウスという名前の通り、うさぎの耳を着けたスタイルのいいお姉さん達が、あんなサービスやこんなサービスをしてくれるのをイメージしたが、すぐそんなものがあるわけないと切り捨てた。

 多分、只の喫茶店だろう。

 しかし、ここでふと思い当たる事があった。

 冒険者ギルドからは少し遠い。だからか、あんまり冒険者は来にくそうだ。店の前の看板によると、自家製ブレンドのコーヒーがオススメのようだが、コーヒーなんてものは嗜好品だ。一般家庭なら自分の家で淹れるか、飲まないかのどちらかだろう。よって、一般人もいない。

 

 ということは、もしかしてだが、ここは『隠れ家』ではないだろうか。

 男なら、きっと誰もが憧れる、『隠れ家』

 自分だけが知っていて、自分の趣味嗜好を知っている渋いダンディーなマスターが『いつもの』と頼むだけで、言葉少なに「どうぞ」と、そっとコーヒーを出してくれる。

 少なくとも俺はそういうのに憧れるタイプだった。

 俺は期待に胸膨らませ、扉を開いた。

 

「「いらっしゃいませ! ラビットハウスへようこそ!」」

 

 元気な声と穏やかな声だ。どちらも女性の声らしい。

 どうやら、ダンディーなマスターが淹れてくれるコーヒーというのは夢に消えてしまったらしい。

 ちょっとガッカリしながら、「お好きな席へどうぞ!」

 と言われたので、テーブル席に着いてみる。

 期待にちょっとそぐわなかったので、せめてもの四人がけのテーブルを独り占めすることで紛らわせようという試みだ。

 

「お客様! ご注文は何に致しますか?」

 

 元気な方の女の子が注文を取りに来た。茶色の髪の毛にピンク色のカーディガンのようなものを着ている。見た目に関しても、俺の仲間達にひけをとらないくらいだ。それに、俺は機嫌を直して、

「それでは、お嬢さん『いつもの』頼めるかな?」

 軽い意地悪をすることにした。

 初見の癖に『いつもの』なんてあるわけない。

 まぁ、もう一度聞かれるだけだろう。

 そう考えていたのだが、

 

「は、はい! わ、わかりました! 『いつもの』ですね! 少々お待ち下さい!」

 

 あれ? どうやら納得されたらしい。

 もしかしたら常連客と間違われたのか。

 まあ、それならそいつのいつも飲んでいる物を味わってみるのも悪くない。もし良かったらそれを俺の『いつもの』にしよう。

 店員はてとてとと戻っていった。

 

 *

 

「チノちゃん、『いつもの』だって!」

「はい? それだけ言われても何も解らないですが。ココアさん」

「あ、そっか! えっと、ね。あちらの席に座ってるお客様だよ!」

「ココアさんのお知り合いですか?」

「え? 私はチノちゃんが知ってるから、そんな頼み方したんだと思ってたんだけど!?」

「私、あの人知らないです」

「えー!? 私あの人にかしこまりました! って言っちゃったよー!!」

「自業自得じゃありませんか」

「どうしよーー!! チノちゃん!! 何となく見たことがある気がしたから大丈夫だと思ったのにーー!!」

「はぁ、全くしょうがないココアさんです……わかりました。取り敢えず、ココアさんが見たことがあるというなら私がお名前だけ聞いてきてみます。それで、ココアさんが全くわからないようなら、一緒に謝りましょう」

「うう。チノちゃん、ダメなお姉ちゃんでごめんねぇ~~」

「く、くっつかないでください! あと、お姉ちゃんじゃないです」

 

 *

 

 少し待っていると、さっきの子とは別の女の子がこちらに近づいてきた。青い髪の毛にばってん模様にした髪飾り、その上に毛玉? みたいなものが乗っているこれまた可愛い女の子だ。

 

「あの……」

「ん?」

「はじめまして、私はマスター代理のチノと言います。こっちはうさぎのティッピーです。本日は当店をご利用頂きありがとうございます。失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 頭の上を指差して自己紹介された。

 というか、上の毛玉、うさぎなのか。なるほど、だからラビットハウスなのか。全然、うさぎには見えないが。

 

「えーと、ご丁寧にありがとう。俺は佐藤和真。一応、冒険者やってる」

「そうですか、ありがとうございます。お近づきの印に当店自慢の腹話術をしたいと思います。よろしくお願いします、お爺ちゃん」

「腹話術?」

「チノ、いきなりワシにふるでない!」

 

 いきなり渋い男の声がした。ここには俺しか男は居ない筈だが、というか、思い切りチノの頭の上から声がしたような気がしたが。

 

「おい、そのうさぎ喋ったか?」

「喋ってないです。腹話術です」

 

 両手で口を塞いで喋ってないアピールをするチノ。

 誤魔化すかのようにカウンターまで逃げていった。

 まあ、いいか。アクアもあんな宴会芸くらいできそうだし。この世界のスキルには少女の声をオッサンの声にするスキルくらいあるんだろう。

 

 *

 

「聞いてきました。サトウカズマさんだそうです。ココアさんご存知ですか? ……ココアさん? なんで、震えてるんですか?」

「あ、あ……」

「本当にどうしたんですか? 何かあの人とあったんですか?」

「う、ううん! 何もないんだけどね……耳かして! これは私が近所の奥さん達に聞いた話なんだけどね……」

「いきなり引っ張らないでくださいよ……というか、お店サボって何してるんですか。ココアさん」

 

「実はね、あのサトウカズマって人は女の子ををヌルヌルにするプレイが好きで、しかもその子は愛人で人前で捨てないで、って言っているのを捨てようとしたり、パンツをスティールして、女の子を泣かせたり、恋人か奥さんかは解らないけど水色の髪の毛をしている女の人にだけ働かせて、自分は自堕落な生活を送っているとかっていう噂が……そんなところから、人よんで『鬼畜のカズマ』! アクセルの奥様界隈では結構ホットな話題なんだよ!」

 

「え……えぇ……なんでそんな人が……う、ウチ何かの店に……こんな、ちょうどリゼさんが居ないときに来るなんて……どうすれば……あう、あう……」

「チノちゃん! 気をしっかりもって! これはね!『鬼畜のカズマ』からの挑戦状なんだよ!」

「挑戦状……ですか……?」

「俺の『いつもの』に加えるに足りる物を出してみろ!

 っていう意味だよ! ちゃんと期待通りの物を出して、『鬼畜のカズマ』をご機嫌にすれば何もされないよ。それに、あの人はお客様! つまり、いつも通り、私達は接客すればいいんだよ! 」

「なるほど、ココアさんの言うとおりです。でも……その、期待に添えなかったら?」

「……チノちゃん! 私はチノちゃんの代わりにヌルヌルになるからね!」

「ヌルヌル以外は私なんですか!?」

 

 *

 

 来店してから、結構経っている。

 俺が変な注文をしたのも悪いが、ちょっと遅すぎないか? どうやら、何か相談しているみたいだが……文句言ってやろうか。

 立ち上がろうとした時にちょうどコーヒーを淹れ始めた。だったら、俺ももう少し待つのはやぶさかじゃない。

 

「大変お待たせしました。当店自慢のコーヒーになります。どうぞ」

 

 本当に大変待たされたが、このコーヒーのいい香りに免じてまぁ、良しとしよう。それはそれとして、

 

「なぁ、なんで二人とも俺の目の前にいるんだ? 飲みづらいんだが」

 

 二人は俺の横に立ってじろじろ見てくる。

 

「いえ! す、す、すみません! やっぱり喫茶店の店員は自分達の淹れた一杯でお客様が笑顔になるのが喜びというか、何というか、私、バリスタ志望なので」

 

 何をそんなに慌てているかわからないが取り繕うかのように答えるチノ。そんなに、厳しい声で言っただろうか? それは良くないな。俺は年下には優しいカズマさんだ。気を付けるようにしよう。

 まぁ、そういうことなら俺としても何も言うことはない。ちゃんと批評をぶつけることにしよう。

 

「(ココアさん……あれで大丈夫だったでしょうか?)」

「(大丈夫だよ、チノちゃん。ブルーマウンテン淹れといたんだから! お客様っていうのは高い物を淹れておけば、取り敢えず文句は言わないものなんだよ!)」

「(それは偏見だと思うんですが……でも、そうですね。ココアさんみたいに間違えたりしない、味のわかる人なら喜んでくれそうです)」

「(それは言わないでよぅ……)」

 

 何かひそひそ話をしてるみたいだが……

 まぁ、気にしないようにするか。

 いざ。コーヒーを口に含む。

 これは……

 

 

「うん! これは旨い! こんな旨いコーヒー飲んだのは初めてだ!」

「わぁ……ホント? やったねチノちゃん!」

「はい! やりましたね! ココアさん!」

 

 ふっと笑顔になった俺を見て、我が事のように喜んでくれるココアとチノ。ダンディーなマスターは居なかったが、この店は本当にいい店かもしれない。

 

「ああ、本当だ! 軽い口当たりに爽やかな苦味。たくさんのコーヒーを飲んできた俺だが、ここまで旨いのは無かった。この店に3つ星を上げよう!」

「やった! チノちゃん、3つ星だよ! 3つ星! これで私達も名店の仲間入りだね!」

「どういう基準か、よくわかりませんが……コーヒーを誉められるのはうれしいです」

 

 まぁ、正直、あんまり違いはわからないのだが。漠然と何かこれまで飲んだやつより飲みやすく、旨いなってくらい。まぁ、俺のリアクションで喜んでもらえるなら何よりだ。

 そこで、調子に乗った俺は、

 

「ああ、最高だよ! これはコーヒーマイスターの俺の鑑定から言って、この店のオリジナルブレンド! どうだ! 当たっているだろう?」

 

 持ってもない資格まで出して、鑑定したふりをする俺。

 実際は、店の前の看板を参考にしただけだ。

 

「え、あ、その、それは……せ、正解で」

「あ! 私と似たような間違えしてる! そうだよね! 間違えちゃうよね! 私も来たばっかりのころ、ブルーマウンテンを別のコーヒーと間違えちゃったんだよー」

「え?」

 

 間違えちまった、はずかしーー!!

 3つ星だとか、コーヒーマイスターだとか言ってしまった分、とてつもなく恥ずかしい。

 

「な、何言ってるんですか! ココアさん! 隠してたら分からないじゃないですか!」

「あっ! 私もしかして、やっちゃった?」

「やっちゃったじゃないですよ!」

 

 どうやら、チノは俺のミスを見逃してくれるつもりだったらしい。しかし、しかし、年下に気遣われた俺は、そのいたたまれなさに、

 

「なんで、ブルーマウンテンなんだよ!『いつもの』って言ったら、ブレンドだろ!?」

 

 と逆ギレしてしまった。ビクッと体を震わせて言い合いを止めるココアとチノ。そのままガタガタ体を震わせた。それを見て俺は我に帰り、

 

「あの、すまなかった……俺がコーヒーマイスターなんてのはう」

「ごめんなさい! ヌルヌルだけは勘弁してぇ!」

 

 何?

 

「ブルーマウンテンを淹れろって言ったのは私なの! チノちゃんは関係ないの! パンツが欲しいなら私のをあげるから、チノちゃんは許してあげてぇ!」

 

 は?

 

「そんな目で見ないでぇ! あなたの奥さんみたいにお金は稼いであげられないからぁ!」

「おいっ、ちょっと待て! 何の話をしてるんだよ!?」

「怒らないでぇ! だってカズマさんは女の子をヌルヌルにしたり、パンツ取ったり、働かせたりするのが好きなんでしよ!?」

 

 誰がそんな変な趣味を持っているというのか。滅茶苦茶イライラしたが、初対面の人間にキレるのは少し憚られたし、その思い込みを否定するほうが大切なので、どうやって俺のその人物像を作り上げたか聞く事にした。

 

 *

 

「つまり、だ。お前は近所の奥様達の噂のイメージだけで、俺の事を決めつけた。そういうことだな?」

「はい……」

「俺がどんなに頑張って冒険してるかも知らず、寧ろ、あいつらをフォローしているのにも関わらず、だ。」

「はい……ごめんなさい……」

「全く、これに懲りたらココアさんも噂話を鵜呑みにするのは止めてください。こんな風にお客様にご迷惑をお掛けしてはたまったものじゃありません」

「すみませんでした……」

 

 俺はココアから事情を聞いた後、その全てについて懇切丁寧に状況を説明し、論破した。いや、勿論、クリスについては俺にも非があったので少し脚色したが。

 

「あの……ココアさんもこのように反省してますので、ここは許していただけませんか?」

 

 チノが俺の顔を伺うように尋ねる。

 俺の名誉も何とか取り返したようだし、このままキレて、ここのコーヒーをもう飲めなくなるというのは少し寂しい。せっかくこの街でいい店を見つけたのだから。

 

「そうだな。俺も変な注文の仕方をして悪かったよ。次来るときは、ブレンドを飲ませてくれ」

「いえ、それは面白い事をしようと思っただけでしょうし……その、良ければブレンド飲んでいって貰えませんか? ご迷惑をお掛けしたお詫びとして。それに、どっちも飲んでもらえれば、カズマさんの『いつもの』決められるんじゃありませんか?」

 

 ちょっと悪戯っぽく笑うチノ。

 

「そうか。じゃあ、御言葉に甘えて飲ませてもらおうかな」

「はい。ココアさん。罰としてブレンド淹れてきてください」

「わかったよ! ちょっと待っててね!」

 

 パタパタと駆けていくココア。全くそそっかしい奴だ。

 

「チノも苦労してるな。あんな店員がいると困るんじゃないか?」

「そうですね。ココアさんにはいっつも振り回されてばかりです」

「そりゃそうだよな。俺も仲間に振り回されてばっかりだ」

「カズマさんもですか。私達少し似てますね」

 

 ふふっ、と笑うチノ。

 この年で喫茶店の店員をやってるにしては余り愛想がないと思っていたが、笑うと可愛らしい。それで、俺はここに通うことを心に決めた。

 

「でも……ココアさんが来てからこの店が明るくなったような気がします」

「ココアが来てから?」

「はい。これまでは夜はお父さんがバーをして昼には私ともう一人の店員さんが居るだけだったんです。寂しいと思ったことはありませんが、ココアさんが居ると本当に賑やかです」

「そうか、家族はチノとお父さんだけなのか?」

「そうですね。今はココアさんが居候していますが」

「ごめん、悪いこと聞いたな……」

「いえ……もう慣れました」

 

 最後の言葉だけが、少し寂しさがあるような気がして。

 俺は、

 

「そうか。なら、チノは俺の事を『お兄ちゃん』って呼んでいいぞ」

「はぁ……なら、『カズマお兄ちゃん』ですね……」

「……」

 

 ハッ! 俺はもしかしたらとんでもない怪物(妹)を産み出してしまったかもしれない……

 

「なぁ、もう一度呼んでくれないか?」

「ココアさんの準備が出来たみたいですね。お席へどうぞ」

「……なぁ、もう一度呼んでみてくれないか?」

「お待たせ! カズマくん!当店自慢のブレンドコーヒーです! あ……」

 

 これまで夢にも見た念願の妹が出来た嬉しさにお兄ちゃんと呼んで貰うのをココアに邪魔された。

 そのココアは、さっきのようにパタパタ走ってくるので危ないなと、思ったら、案の定コケた。

 

 俺の目の前で。

 

「あっつ!!」

「うわぁ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「…………」

「ねぇ、なんで手を付だしてこっちに近寄ってくるの!? ねぇ、何か言ってよ! ねぇってばぁ!!」

 

 ココアが何か言っているようだが、俺には聞こえない。俺は今、キチンとコイツに罰を与えるだけの口実ができた筈だ。

 

 俺はそのまま震えるココアに向けて__

 

「『スティール』ッッッ!!」

 

 

 

 結局、ココアの言っていたことは事実も混ざっていたと分かったことで、俺は泣き叫ぶココアを宥めたり、弁解をするのに凄く時間がかかり、アルバイトから帰って来たアクアに帰ってくるのが遅いと怒られた。

 

 因みに、チノはそれから一度もお兄ちゃんとは呼んでくれなかった。

 

 

 

 




前と同じくらいにしようと思ったのですが、何故か長くなってしまった……お読み頂きありがとうございます! 書き溜めも全くしていないので、出来た所からどんどん出しているため、今回みたいに予定より早かったり、遅かったりするかも知れませんが、お待ちしていただけると助かります。
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