相手は知り合いであるが同時に客人だ。確り礼儀を持って接しなければ。そう考えながら黒い無地のネクタイを締める。取り敢えず料理を作ろうと厨房に向かった。
「うめぇ。家のレムりんにも負けねぇくらいだ、、、」好評ならなによりだ。厨房から出ていってクルシュ様の斜め後ろに立つ。
「この料理を作ったのは彼だ。彼は私の執事だ」クルシュ様が紹介すると同時に一礼をする。
「紹介預かりました。シワス・チカゲと申します。短い期間で御座いますが宜しくお願いします。何かあれば私に」もてなしモードで一人称が変わっていることはこの際措いておいて欲しい。
「そう畏まるなって。チカゲ」砕けた感じで笑いかけてくるスバルに酷くぎこちない笑みを返す。
「分かりましたよ。スバル」何時もの調子に戻る。
「一応スバルは客人扱いです。なので何か在れば俺に言って下さい。可能な限り聞きましょう」スバルはおう、と快く返事をした。クルシュ様に下がって良い、を言われたので下がると同時に全員の空いた皿を片付ける。
厨房で皿を洗っていると青髪の女の子が入ってきた。
「食器を洗うの手伝いますよ。」
「お客様に食器を洗わせるなんて出来ませんね。貴女がレムリンさんですか?」そう訪ねると物凄く冷ややかに、レムです。リンは要りません。と言われた。チカゲのガラスの心に10000ダメージ。チカゲはひんしになった。とはならずに好奇心が勝ってレムさんに食器を数枚洗ってもらうことにした。実際一人じゃ捌ききれないかもしれなかったし、この子、謂わば他のメイドの働き振りとはどの様なものだろうかと気になったためだ。自分も洗いつつ横を見ると凄く手際良く、汚れ一つなく洗っていた。
今日の俺の仕事は全て終了して、あとはヴィルヘルムさんにバトンタッチ。ここまで上手く行っている。初めて客人が来るわけだから見知った仲とはいえ緊張はあった。が上手くいき過ぎて正直怖い程だ。スバルに到っては特に何も無し。ただあの青髪の女の子。初めて会った時からずっと俺をチラチラみている。わざと目を合わせると焦っていて面白かったが、、あの女の子が俺に向けているのは殺意であり、同時に何かを試しているようだ。監視の目、そうともいえる。どちらにせよ、俺があの少女に向けられている感情、視線は友好的なものではないのは確かだ。もしかしたら俺が人を喰らう化物だと言うことに気付いたのか?一人で笑みを浮かべると外から賑やかな声と木刀がぶつかり合う音が聞こえてきた。
音は何かと外に出てみるとスバルとヴィルヘルムさんが闘っていた。多分、稽古をつけてもらっているんだろう。こうして見ると自分まで参戦したくなる。
「こんにちは。スバルにヴィルヘルムさん。ですか」
「俺には様がねぇのかよ!!客人だぞ!?」
「スバルは本当に騒がしいですね」一応反応しておいて近くに腰かけた。しばらく見ているとヴィルヘルムさんが声を掛けてきた。
「チカゲ殿も参加しませんか?」望むところだ。上着を脱いでネクタイを緩めた。
「そうさせていただきます」木刀をヴィルヘルムさんから受け取るとスバルの前に立った。
「何処からでもどうぞ?」
スバルが走ってきた。ユリウスとの模擬戦と比べて上達はしているが未々詰めが甘い。
「もっと構えを楽に」スバルの剣を防ぎつつアドバイスをする。
「力みすぎずに」
「確実に狙って」
「大きく踏み込んで」ちょっと衝撃を返し過ぎたかも知れない。スバルがいきなりの衝撃に動揺して俺から目を反らした。
「敵から目をそらすなっ!!」スバルの木刀を飛ばした。
「ユリウスとの模擬戦と比べると良くはなっていますが、まだ10点程ですね。確り練習してください」
「随分と辛口だな。何点中の10点だ?」
「1000点です」当然である。スバルの剣技はまるで下手な踊りの様でもあった。スーツの胸ポケットから煙草を取り出して火を着けた。
「お前って煙草吸うんだな。俺にも一本くれよ」木刀をヴィルヘルムさんに渡して立ち去る。
「未成年の喫煙は禁止されてますよ」
スバルとの稽古を終え、向かった先はクルシュ様の部屋だった。
「こんにちは。クルシュ」部屋に入ってソファーに腰掛けた。
「これ、今日の分の血だ」綺麗な赤色だ。多分相当健康に気を使っているのだろう。そう言えば疑問が有ったのだった。
「クルシュは俺が人を喰らう化物だ、って言ったとき驚きませんでしたよね」正直、俺が人間だとして、目の前にお前らを喰う化物ですよ、って表れたなら色々な事を思うだろう。
「そうだな」
「何故ですか?」クルシュに聞いてみると暫く考えた。そして俺を一瞥した後言った。
「そもそも、この世界には魔獣くらいしか人間を襲う者はいないからあまりイメージ出来なかったって言うのが一つ」
「それと、、、、」
「それと?」
「チカゲがとても綺麗だったから。人間と同じ容姿をしていて人間より綺麗だった」面と向かって言われると少し照れ臭くなる。でも俺が美しくたって人を喰らう化物なのには変わりない。
「それだけの事で、、、、」
「私にとってはそれほどのことだった」
「お前が人を喰らう化物だろうが、優しい人だと言うことは分かった。愛してるぞ」顔を真っ赤にして部屋を出た。
部屋から出て廊下を歩いているとスバルとレムの話す声が聞こえた。
「あの方、チカゲさんでしたっけ」どうやら俺についての話だろう。黙ってスルーするのがマナーだろう。立ち去ろうとしたが気掛かりなフレーズ聞こえてきた。
「スバル君より匂います」
「匂うって魔女の匂いか?」
「でも俺を信じてくれ。アイツは芯の通った奴だ。どっちかと言えば魔女教に加担する方ではなく、敵対する方だ。頼む、信じてやってくれ」
「スバル君が言うならそうします」
無言でその場を立ち去った。