『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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炎上は様式美

妙子さんから外の状況を聞いた俺は、いつものように頭を抱えた。

領主会談が開かれるほど、トム君たちの闘争は世間の目を集めているらしい。

 

さらにミスターこと俺の扱い――中御門の領主さんのおかげで実名報道はないようだけど、あくまで俺が事件に関わっていなければの話だ。

 

すいません、思いっきり関わっています。

 

もし事件が終結すれば、男子たちがなぜ決起したのか調査のメスが入るだろう。それで扇動&洗脳したのが俺だと判明したのなら……俺にも裁きの矛先が向けられるのではないだろうか。

 

俺はただ歌っただけですぅ! 

歌で闘争を煽るだなんて、そんなつもりまったくありませんでした! 

悪気はこれっぽっちもなかったんですぅ!

 

と、言って世間の皆様は信用してくれるのか。

 

たとえ信用してくれたとしても……それって籠城の罪と責任をトム君たちに全部押しつけ、自分は平穏無事に済ませるってことだよな。

人としてどうよ、それは……

 

 

『まだ、男子たちは引き返せる。彼らは警備員を眠らせ、拘束はしたものの怪我はさせていない。今ならまだ厳重注意で終わらせることが出来る、あたいも何とか擁護してみるよ』

 

「あ、ありがとうございます」

 

『せやから拓馬はんは、トムはんたちにこれ以上過激なことをせんよう説得してくれへんか』

 

電話の向こうから真矢さんの声がする。

妙子さんは現在東山院に来ており、真矢さんたちと合流したそうだ。今は携帯をスピーカーモードにして、組員みんなが俺の声を聴けるようにしているらしい。

 

「説得ですか……」あの熱血暴走列車の男子たちを止められるのか。でも、

「で、出来る限りやってみます」

 

『頼むよ。あたいと由良様の方で、男子の帰省が叶うよう仲人組織に働きかけてみるからさ』

 

領主二人の圧力があれば、あのザマスおばさんとて温情を見せてくれるかもしれない。

それまで男子たちを食い止めて時間稼ぎをしないと。

 

『三池さんが大変な時に傍にいないなんて、あたしはダメダメなダンゴです。こうなったら、交流センターの壁をよじ登ってでも三池さんの所へ……』

 

「音無さんにそれをされると、俺や南無瀬組の立場がどんどん悪くなるんで自重してください。気持ちだけで十分ですから」

 

『う、うう。そんなぁ』

 

『だが三池氏の不在が長いと……私たち、終わる。その前に暴走するかもしれない。タイムリミットは近い』

 

「男子たちと話し合って、平和的な解決を目指します。可及的速やかに」

 

先ほどまで南無瀬組の皆さんは、俺の成分が足りなくてグロッキー状態だったらしい。

この電話が始まった当初「はぁ、はぁっ、はぁ」と、録音ではない俺の新鮮なボイスを吸収せんと過呼吸気味だった組員さんたちだが、ようやく普通に話せるようになっている――ってなんだこれ、自分で言っていて意味が分からねぇ、分かりたくねぇ。

 

「じゃあ、携帯の電池が少ないので一旦電話を切ります」

 

『おう、気を付けるんだぞ』

『拓馬はん、無理せんでな』

『あっ、最後に甘い囁きを』

『私の名前付きで所望』

 

「失礼します」

 

電話を終わらせる。電池の残量をみると、外と連絡を取れるのはあと一回か二回。

充電器を持ってこなかったのが悔やまれる。男子たちから充電器を借りるのは、外とこっそり連絡をしているのがバレるので無理だよな。

 

体育館に侵入する前に、保健医の丙姫さんと陽南子さんに充電器を持っていないか尋ねたが。

丙姫さんの充電器は携帯を没収される際に念のためと持って行かれたらしい。陽南子さんは充電器を持ち歩かないので手元になし。

 

充電が出来ないとすると、電話するタイミングはよく考えないといけないな。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

体育館を出ると、夕日が差していた。

冬の日は短いな。

山の中腹にある交流センター、少し上を見ると山の峰が黒くなってきている。

こんな僻地の夜は冷たく静かなものになるだろう、普通ならば。

しかし、壁の外の喧噪は未だ続いており、ぽつぽつとライトの光が漏れてきている。

 

籠城事件の熱気に、冬山の夜は関係ないようだ。

 

グラウンドを見ると、丸太を担いで動き回っていた男子たちの姿はない。

すでに交流センターに戻ったのだろうか。

 

トム君たちはどこかな――と、交流センターに入ったところで、居所はすぐに知れた。

 

賑やかな声が一階の食堂からする。

 

 

「あっ、タクマさん!」

「お加減はいかがですか?」

「ボク達の頑張り、見てくれたんですよね? どうでした?」

 

食堂に踏み行った俺をVIP待遇で歓迎する男子たち。

誰もが生き生きした表情をしている。

この場面だけ切り抜けば、部活の合宿に来ていて非日常を楽しんでいる少年たち――と、思えなくもない。

 

「こらこら、お前ら。タクマさんは病み上がりなんだから丁重におもてなしするんだぞ」

 

スネ川君が興奮する男子たちを(なだ)める。

 

「タクマさんの席はあっちッスよ」

 

長テーブルの上座に上等な座布団を敷いた椅子があった。

 

「あの、その前にみんなに話が」

和気藹々(わきあいあい)の雰囲気のところ悪いが、籠城は良くないことだと言わなければならない。

男子たちに憎まれたとしても、彼らの処遇が今以上悪くなるのを何としても防ぐのだ。

 

「話ですか? それは良いッスけど、先に食事にしませんか? 料理が冷めちまいます」

 

「りょ、料理!?」

 

ぐ~と、腹が鳴った。

考えてみれば、コンテストが終わって倒れて以降、まともに食事をしていない。

 

「オレたちがタクマさんへの感謝を込めて、全身全霊で作りました。じゃんじゃん食べてくださいよ」

 

スネ川君に案内されて、特等席に行くと。

 

「おおっ」テーブルに豪華絢爛な料理の数々が並べられていた。

肉料理が多めで俺の好みに合致している。

ぐ~、また腹が空腹警報を出す。涎も出る。身体が食事を望みまくっている。

 

この世界の男子は、将来的に家庭を預からなければならない。そのため料理技術の高さは折り紙付きだ。

そんな彼らが腕によりをかけて作った晩飯。

見た目と匂いだけで、その美味さが保証されたも同然だ。

 

「タクマさんの快復祝いも兼ねて奮発しました」

 

「じゅるりばっ! ありがとうございますっ!」

 

男子たちの暴走を止めなくては、という使命が食欲によって頭の隅に追いやられた。

説得は後からでも良いよね! こちとら丸一日以上なにも食べてないのだから! ああ、まったくもって仕方ない!

 

「俺のために、こんなご馳走を……こりゃ感動もんですわっ!」

 

「遠慮も恐縮もなしでお願いするっすよ。この気合の入った夕食は、タクマさんのためってのはもちろんっすけど、肉とか腐りやすい食材を早めに調理したいって意味もありますから。あっ、心配しないでください。食料の備蓄はあるんで、一カ月はイケます」

 

「そ、そうですか」

スネ川君のシビアな発言に食欲が少し引っ込む。籠城が長引けば食料問題も発生するわけか。やっぱり男子たちを説得しなければ……そう、これを食べ終えたら!

 

「よ~し、準備が出来た奴から席につけ」

スネ川君の指示で、ワイワイと男子たちが自分の席に座っていく。

 

その中には、陽南子さんや丙姫さんもいた。

二人の席は俺の所から離れているため声は届けにくいが……こちらの視線に気付き二人は控えめな笑みで手を振って来る。

 

女性だから隔離や拘束ということはないようで一安心。

「あの二人も一緒に食べるんですね」手を振り返しながら、スネ川君に尋ねた。

 

「もちろんっすよ。丙姫さんはオレたちをイヤらしい目で見ず、いつも真摯に健康管理をしてくれますし。陽南子さんの方は、()()()()()()()()()()()()()()()()()恩人ですからね。監視はさせてもらいますが、あの二人をどうこうするつもりはないっす」

 

そっか。思った以上に男子たちが理性的だ。

これなら、俺の話を素直に聞いてくれる可能性は高いな。よしよし、いいぞ!

 

 

――と、肝心の人物がこの場にいないことに気付いた。

 

「あれ、トム君は?」

 

「リーダーっすか。ちょっと必要な物があって探索に行っているんですよ。オレは後でも良いって言ったんですけど」

 

「必要な物?」

 

「そうっす。ほら、そこに空の瓶があるじゃないっすか」

 

スネ川君が言うように、食堂の隅に飲料用の空瓶が何本も置いてあった。

 

「空瓶はすぐに集まったんですけど、肝心の燃料が見つからなくて。この施設の中にあると思うんっすけど」

 

空瓶、それに燃料……悪い物を食べたわけでもないのに胃が痛くなってきた。

 

と、噂をすれば何とやら。

トム君がえっちらおっちら身体を揺らしながら食堂に入って来た――重そうな金属製の携行缶を両手で持って。

 

トム君は喜色満面に言った。

 

「あったよ! ガソリン!」

 

「よし、でかした!」

「おおっ、でかした!」

「トム君、でかした!」

 

みんながトム君の頑張りを讃える。

俺は、と言えば空の瓶とガソリンの組み合わせに身体がプルプルと震えてきた。

 

「と、トム君……それで何をするつもり、なんだい?」

 

訊きたくない、でも訊かざるを得ない。

トム君、俺、君を信じているからね。危ないことなんてしないよね?

 

「はいっ!」トム君は誇るように胸を張った。

「これで火炎瓶を作って、外に投げます。ひとしきり投げます」

 

ちくしょう! 全然理性的じゃねえ!!

 

「だ、ダメだよ! そんなことすれば炎上しちゃうでしょ!」

外も事件も炎上して、この籠城を穏便に終わらせることが不可能になっちまう。

 

「え……でも、火炎瓶は闘争の様式美だって、ネットに……」

 

くそっ、これだからネット世代は困る。

「もっとこう、話し合いで解決出来ないのかい? そうだ、仲人組織から何か連絡はなかったの?」

 

妙子さんとの電話で聞いたが、仲人組織の方も説得の方向で動いているらしい。

 

「そう言えば、昼間交流センターに電話がかかってきました、仲人組織の人から」

「ほうほう! で、ちゃんと話し合ったんだよね?」

「いえいえ、世迷言(よまいごと)ばかり言ってましたから、途中で電話を切っちゃいました」

これまた笑顔のトム君。目がギラギラしていなければ素敵な笑顔なのに……

 

「二人とも、ともかく食事にしましょ。腹を空かせていたら(いくさ)は出来ないですよ」

「そうそう、早く座って。おなか減ったよ」

「ボク、小食だけどたくさん食べて、闘うぞ!」

 

他の男子たちが俺とトム君の間に割って入る。

そんな男子たちの目も一様にギラギラと血の気の多い色をしていた。

 

 

 

 

 

拝啓、南無瀬妙子さん。

 

男子たちを説得すると言った約束。

果たせないかもしれません。

 

助けてください。

ほんと、誰か助けて……

 

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