『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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開かれた扉

「私……お父さんやお母さん、それにたくさんの人にご迷惑をかけて……なんとお詫びすればいいか」

 

グレた少女が更生した。

結果だけ見れば、良いことのように思えるが――

 

「罪は必ず償います。タクマさんという光の下に出ても恥ずかしくない人間になります」

 

非常に危ない悟り方をしていらっしゃる。俺を見る目が、今すぐ神棚に飾り(あが)(たてまつ)りたくてウズウズしている狂信者のソレだ。

こちとらアイドルであっても偶像(アイドル)じゃないんだぞ。

 

ともかく陽南子さんの処遇は、『鬼ごっこ』が終わってから妙子さんに任せよう。

彼女にはそれまでここで大人しくしてもらうとして、俺は……

 

「行ってしまわれるのですか?」

 

部屋のドアに視線を移した俺の心中を読んだのか、陽南子さんが不安げに言う。

 

「……はい、少しでもトム君たちの支援をします。辛いでしょうが、陽南子さんのロープを解くのは競技終了後です」

 

「私の扱いに不満はありません。当然の処置です。けれど」

陽南子さんは一度言葉を切った。

沈痛な表情である。言おうか言うまいか迷っているようだ。

 

「けれど、何ですか?」

 

俺の問いに、陽南子さんは躊躇(ためら)いながらも言葉を続けた。

 

「タクマさん……あなたは男子が『鬼ごっこ』に勝てば、すべての問題が解決して大団円と思っていませんか?」

 

えっ……違うの?

 

「男子の敵は、お見合い指定校の女子だけではありません。()()()()を何とかしなければ、『鬼ごっこ』に勝とうが、彼らに安寧は訪れません」

 

なん……だとっ!?

 

「な、なに言っているんですか? 真なる敵? いや、そもそもトム君たちが勝てば、一カ月の長期休暇と卒業日まで結婚を拒否する権利が得られるんですよ。それで万々歳じゃ?」

 

「勝利の報酬を決めたのは、あの用意周到な杏さんです。当然、そこには罠が仕掛けられています」

 

たとえば、と男子が勝利した場合の未来を陽南子さんは語る。

 

一カ月の長期休暇中に、トム君たちは夢であった職業体験を行う。

その職場に客として、あるいは同僚として、お見合い指定校の女子たちは入り込むだろう。職場の一般女性と男子たちの仲を深めさせないために。

すでに水面下で各男子のインターン先へ潜入する手続きが進められているらしい。

女子たちに監視されれば、男子は夢の仕事を心から楽しめない。

 

また、卒業の日まで結婚はしなくても良い、と言っても女子側のアプローチが禁止されたわけではない。

再びコンテストが開かれ、男女交流センターで男子と同棲する女子が選出される手筈が整えられているそうだ。

結婚はなくても、男子たちが食べられてしまう可能性は十分にある。

 

「ですから、タクマさんがいくら身体を張って男子を守ろうと、彼らの運命が大きく変わることはないのです」

「そ、そんな……あんまりじゃないですか!」

 

トム君たちは、女性が当たり前に持っている夢と自由を欲しがっているだけなのに!

そこまでして男を手に入れたいのかよ!

 

「杏さんを説得すれば良いんですか? くそっ、あの人を止めるにはどうすりゃいいんだ!?」

妙子さんや、中御門の領主様の力を頼ればいいのか?

 

「方法はあります」

「本当ですか!? 教えてください、俺に出来ることがあれば何でもやりますよ!」

「タクマさんの光を杏さんに浴びせればあるいは改心を……具体的にはタクマさんの股間を」

「すんません、出来るだけ何でもやりますけど、股間以外でオナシャス!」

 

陽南子さんの中で、俺の股間はどういう扱いになっているのだろうか? 訊くのが怖い。

 

「……そうですね。私もタクマさんの股間を安売りしたくはありません。それに、今更杏さんを説得したり失脚させても男子たちは救えません。やはり、真なる敵を何とかしなければ……」

 

「えっ? あの真なる敵って杏さんのことじゃないんですか?」

 

話の流れからそう思ったんだけど……

 

「杏さんは難敵ですが、真なる敵と比べれば可愛いものです。タクマさん、あなたが本当に男子たちを助けたいのなら、戦うべき相手は――」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

陽南子さんの口から出たモノは、俺を絶望させるに十分過ぎるものだった。

 

勝てない、と言うよりどう勝負すればいいか分からない。

これならまだザマスおばさんとやり合う方がずっと良い。

 

しかも今は、『鬼ごっこ』中のせっぱ詰まった状況だ。

お見合い指定校の女子、ザマスおばさん、そして真なる敵――その全てを相手取るのは厳しいにも程がある。

 

しかし、それでも――

 

「それでも、あなたは男子を守ろうとするのですか?」

 

それでも、俺は――

 

「トム君たちの所へ行きます。敵が何だろうと彼らを見捨てるなんてありえません」

 

この世界で数少ない同性であり、何より俺を慕ってくれるファン。

男として、アイドルとして、ここで逃げるわけにはいかない。

 

「私とここで事が終わるまで居て欲しいのですけど……いえ、それでこそ私の光ですね」

陽南子さんが狂信度マシマシの笑顔を向けてくる。

逃げるわけにはいかないけど、陽南子さんからは是非逃げ出したい。

 

「絶望的な事態ですが、あなたなら何とかしてくれる気がします。では、タクマさん。私からお渡ししたい物があります」

 

モゾモゾと陽南子さんが身体をくねらせる。

今までシリアスな会話を行っていたが、客観的に見れば床で芋虫状態の陽南子さんとそれを見下ろす俺の構図。凄くシュールです。

 

「私のポケットに鍵があります。さあ、思う存分私をまさぐって取ってください」

 

何かを期待する目で俺を見る陽南子さん。

 

「鍵? もしかしてコレのことですか?」

 

先ほど床に落ちた特注製の鍵を持ち出し、陽南子さんに見せる。

 

「そ、それはっ!? なぜタクマさんがお持ちに?」

 

「陽南子さんを縛っている時に服から落ちたんですよ」

 

「ガッデム!!」

 

唇を強く噛んで悔しがる陽南子さん――を適当にスルーしながら俺は尋ねる。

 

「で、この鍵が何ですか?」

 

「あ、はい。私は男子たちを監視、扇動するために交流センターに入り込んでいたのですが、もう一つ仕事を請け負っていました」

 

「仕事?」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

籠城事件が起きてから何度経験したか分からない悪寒が、また走った。体感する冷たさはこれまでで一番かもしれない。

 

「開かずの間って、この建物の一階の奥にある……あの?」

 

「そうです。男子たちには秘密にしていましたが、あそここそ『鬼ごっこ』の勝敗を左右する重要ポイントなんです」

 

うわあああああっ!!

まさかまさかまさか! なんで気付かなかった! あんなあかさらまに怪しい場所をどうして警戒しなかった!

 

交流センターで暮らすことになったトム君たちは、始めに一通り施設の説明を受けた。

だが、あの開かずの間に関しては何も聞かされなかった。

 

その時点から、ザマスおばさんの計画は動いていたんだ。

 

俺は吐き捨てるように言った。

 

「開かずの間、あれは外へ繋がっているんですね!」

 

「ご明察です。男性が住む施設には、特殊な避難経路が往々にしてあります。この交流センターの場合、秘密裏に地下道が作られており、山中のとある場所と繋がっているのです」

 

戦国時代の城じゃあるまいし、よくもまあ大掛かりな仕掛けを作りやがったな、ちくしょうめっ!

 

「開かずの間の扉は、山中からの侵入者対策として、交流センターの建物側からしか開けられない仕組みになっています。そのため、男子たちに信頼されて交流センターに入ることが許された私に、扉を開ける仕事が任せられたのです……今更こんなことを言っても罪が軽くなるわけではありませんが、男子たちには申し訳ないことをしました」

 

もっと早く言ってくれよ、こんな重要な話は!

 

「やり方が卑怯過ぎる! 反則でしょ!」

 

「そう言いたいところですが、『既存の物を参加女子が使うのは問題ない』と、取り決めが――」

 

もう聞いていられなかった。

俺は陽南子さんを放置して、廊下へ飛び出した。そのまま全力疾走で、開かずの間へと急ぐ。

 

一分もかからず、目的地に到着。

荒い息を整えるのを後に、開かずの間のドアノブに手をやると――

 

ギィィ……重い音を立てて、扉が動く。 

 

開かずの間が、開いている。

ここが、女子たちの侵入ポイント!

 

慎重に中を確認すると、何もない狭い部屋の床に四角い切り込みと取っ手が付いていた。

あの取っ手を引っ張ると、地下への入口が開くわけか……

 

俺はすぐに開かずの間の扉を閉め、鍵をかけた。

 

これで、女子たちは侵入出来なくなった――が、辺りを見回す。

一階の廊下に俺以外の人は見当たらない。

 

だが、もしかしたら……

 

陽南子さんが扉を開錠して、俺が施錠するまでの間に、この扉から交流センター内部に侵入した者がいるかもしれない。

 

窓の外を見る。

壁を乗り越えようとする女子たちに、男子たちが防犯銃を発砲して、何とか侵攻を阻止していた。

 

あれは陽動で、こっちが本当の狙いだったのか。

 

最早、交流センターの内部は安全ではなくなった。

息を潜めた婚活者が、今まさに男子を襲おうとしていてもおかしくない。

 

ザマスおばさんや真なる敵どころじゃないぞ、こりゃあ。

 

俺は再び走り出した。

みんなの安否が気懸かりだ、早くトム君たちと合流しなくては!

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