『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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ぽえっとした女

「まあまあ、よくお越しくださいましたね~」

 

支部長が俺を迎えた。

 

さすがジャイアンの支部長だ、ジャイアンの母ちゃんリスペクトの体型をしていらっしゃる。

 

太ましいお腹がアピールポイントの中年女性が、上等な椅子から重い腰をえっちらおっちら上げた。

そして、こっちへ近づき握手を求めてくる。

 

俺は一所懸命な作り笑顔で応えた。

手を握ると、ぷにぷにと肉厚を感じてしまう。よく育ったものですね。

 

「わ、私は三池拓馬と申します。今日からお世話になります」

 

「まあまあ礼儀正くて見目麗しい好青年ね。私は弱者生活安全協会南無瀬支部の代表を務めています丹潮(たんしお)ぽえみです。よろしくね」

 

……っ!?

 

思わず噴き出しそうになった。

ぽえみ、ぽえみだとっ!?

小さい女の子ならまだしも、ジャイアンの母ちゃんがぽえみ! 腹が痛いぞ、どうしてくれる!

 

 

「どうかなさいました?」

 

ぽえみがぽえっとした顔で聞いてくる。

だ……駄目だ。まだ笑うな……こらえるんだ……し、しかし。

 

外国の人名や地名には、日本人からすると笑えるものがあったりする。有名どころではエロマンガ島やスケベニンゲンとか。

このぽえみさんの名前も日本人的には一生を賭けたギャグだが、不知火群島国ではそれほどおかしくないのかもしれない。

 

「い、いえ。素敵な名前ですね」

 

「まあ、ありがとう。私の『ぽえみ』という名は教祖様から頂いた大切なものなの」

 

「教祖様?」

 

「ええ、マサオ教の教えを体現する立派な方で」

 

マサオ教ってなんぞ?

 

「支部長、早くも話が逸れてますわ。今日のところは教祖様やなく三池拓馬はんの話をしましょ」

 

「あら、そうね。男の方に名前を誉められて年甲斐なくハシャいでしまったわ。ごめんなさいね。てへっ」

 

中年女性のぽえみさんがテヘペロをする。

俺の中で危うく殺意が芽生えるところだった。

 

 

 

 

 

「早速やけど拓馬はんの今後について説明に入るで。拓馬はんは、そっらの椅子に座ってな」

 

真矢さんが手で示したのは、支部長机の前にある応接スペースだった。センターテーブルを挟んでソファーが配置されている。どれも一目で分かるほど高品質だ。

 

言われるままにソファーに座る。反対側にはぽえみさんと真矢さん。三人の腰が落ち着いたとこで、タイミングを見計らっていたのか白服の女性が入室してきた。手に持つトレイには湯気の立つカップがいくつか載っている。

 

「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」

女性の質問に俺は背筋を伸ばして答える。

 

「じゃあコーヒーをいただきます」

「砂糖とミルクはどうします?」

「ブラックで大丈夫です」

「かしこまりました」

上品な手さばきでカップが俺の前に置かれた。

 

続いてぽえみさんと真矢さんの前にもそれぞれの飲み物とミルクや砂糖のオプションが配られる。

二人に飲む物の質問がなかったということは、これが二人の『いつもの』なのだろう。

 

配膳が終わり、白服の女性は退室した。

 

「珍しいですねぇ、男性がブラックだなんて」

 

「そうですか?」

ブラックコーヒーに口を付ける。世界が違ってもコーヒーはコーヒーだ、良かった。

 

「ええ、男性と言えば甘党の方が多いです。あっ、でも三池さんは異国の方ですから文化が違うのかしら」

 

ぽえみさんが人差し指を自分の頬に当てながら思案している。その指が異様に頬にめり込んでいた。ふくよかで弾力がありそうだ。

 

俺はコーヒーを飲みつつ、周りを見渡した。

整理された部屋だ。支部長の机と応接コーナー以外で目につくのは部屋を囲うように配置された棚である。

 

背表紙の文字は読めないが、難しそうな書類をまとめたファイルが並べられている。

他に賞状や、トロフィーが……あれ、あのトロフィーって……

 

「では、そろそろ三池さんのお話を聞かせてもらいますね」

「あ、はい」

 

ぽえみさんの声で我に返る。俺は一旦思考を中断した。

 

 

 

ぽえみさんと真矢さんによる質問攻勢によって、日本特定のための情報が俺の口からどんどん出される。

俺としてはここは異世界か別惑星で、日本が見つかるとは思えないなぁ……というのが内心だ。けれど、真面目に職務に励む彼女たちを前にやる気のない態度は出来ないので、律儀に返答していった。

 

ジャイアンの支部長と副支部長は、日本が男女比1対1であることに大きな関心を寄せた。俺の話が嘘でないことを少しでも証明するため日本製のスマートフォンも見せている。

 

「現物や内部データがあるとしても、にわかには信じられませんね。いえ、心情的には信じたいですよ。日本……私たちにとって理想郷だわ。こんな地域が世界のどこかにあるだなんて」

 

俺と男友達の写真を凝視しながらぽえみさんが呟く。その声は震えていた。

 

「しっかし、こうなると日本探しは難しそうやな。おそらく日本って地域は秘匿された場所や。拓馬はんの話によれば、日本には相当数の男性が集められている、そして無防備に生活をしている。そんな場所を作り出した経緯や方法はチンプンカンプンやけど……」

 

真矢さんは喋りながら考えを整理するタイプなのだろう。俺たちに意見を求めている、というより独白に近い話し方だ。

 

「どんなお偉い目的があろうと他の国にしてみれば日本は狩り場にしか見いひん。情報が外に漏れれば、何かしらの口実を付けて戦争をふっかけ、男性の奪取を企てる国が出てきてもおかしくないで」

 

「ええ、そうね」

 

ええ!? そうなんすか!

ちょっとこの世界、バイオレンス過ぎんよ!

 

「拓馬はんがなぜうちらの国に運ばれたのかは分からんけどや、君を返還したいので日本は名乗り出てくださ~い、と世界に発信したところで反応は」

 

「長年に渡り秘密にしていた場所を三池さん一人のためにバラしたりはしないわよねぇ」

 

あれ、この二人。まさか話の流れを……

 

「ああ、ごめんなさいね。不安にさせちゃったかしら。もちろん、日本探しには全力を尽くすわ。国際問題に発展するかもしれない案件なんですもの。ただ」

 

「時間がかかるのは分かってな」

 

「それまでは私たちがしっかりフォローするから安心してね」

ぽえみさんが柔和な笑みを浮かべた。

 

「そ、そんな……」

 

嫌な流れだと思ったら予想通りだ。ちくしょう。

これじゃあ、やんわりと日本に帰ることを諦めて、不知火群島国で暮らしてくださいと言っているもんじゃないか!

 

俺が憤っていると、また白服の人が入ってきた。

今度は大きな茶封筒を持っている。

 

「支部長、ご依頼のものです」

「ご苦労様。どうだった?」

「五名ほど確保できました。詳細はこの中に」

支部長の手に封筒が渡る。

 

「五人ね、ありがとう。あとはこちらで考えるわ」

 

白服の人が出ていくと、ぽえみさんが封筒の中身を机に広げた。

 

面接シートのようだ。

顔写真と経歴らしいものが書かれている。

 

「なんですか、これ?」

 

「三池さんの世話役を決めようと思いましてね。ほら、慣れない環境だからフォローしてくれる人がいた方が助かるでしょ」

 

「まあ、そりゃあ……ってことはここに載っている人たちはみんなダンゴなんですか?」

音無さんと椿さんの顔がちらつく。

 

「いえいえ、ダンゴは身辺の護衛でしょ。このシートにある女性たちは三池さんの生活を快適にするためにいるのよ」

 

「五人ともみんな炊事洗濯掃除と家事のプロフェッショナルやで。拓馬はんはうちらの文字が読めないんか? なら、うちの方から候補者のプロフィールを紹介させてもらうわ」

 

真矢さんが(おのおの)の経歴や特技、好きなことなどを読み上げる。それを聞きながら俺は候補者の写真をしげしげと眺めた。

 

アイドル研修生として、何度かテレビ局に行ったことがある。その時に女優や女性アイドルを目撃する機会に恵まれた。さすが芸能界、巷ではお目にかかれない美女ばかりだ……そう感嘆のため息を漏らしたものだ。

 

「はぁ~」

そして今、俺は同じため息を漏らしている。

 

それくらい候補者はみんな美人だった。しかも可愛い系、清楚系、お姉さん系とそれぞれ特徴を持っている。

ジャンル被りをしないでこれほどの逸材を集めるとは、やるなジャイアン!

 

こんな人たちにお世話してもらえるなんて……不知火群島国って素敵やん……って、はっ!

いかんいかん、ついさっきの憤りをコロッと忘れてしまうところだった。

慎重になれ。世話をしてくれるのは有難いが、容姿が良すぎて怪しいものを感じる。

 

 

「で! で! 誰が好みなん?」

 

一通りの説明が終わり、真矢さんが選択を求めてきた。

 

「ちょっと考えたいんで。返事は明日でもいいですか?」

即答は避け、先延ばしをお願いする。

 

「分かりました。資料をお渡ししておきますから後悔のないよう決めてくださいね……大事なことですから」

 

「は、はい」

ぽえみさんが言った最後の「大事なこと」には妙に力が入っていた。

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