『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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パンツァー対策

祈里さんの下着求道者(パンツァー)化。

その一報から数日、俺は彼女を正道に戻せないものかと頭を悩ませていた。

 

いつもなら南無瀬組の人たちに相談するのだが……天下の天道家の長女がパンツァー、というのは外聞が悪すぎて、軽々しく人に言えるものではない。

それに、俺が直接被害を受ける問題ではないので、多忙な南無瀬組に協力を仰ぐのはどうかと思った。

 

 

そんな時である。意外な助言者が現れたのだ。

 

『お久しぶりです、タクマさん』

かつて東山院で友情を育んだトム君から手紙が届いた。

 

タクマ宛てファンレターのほとんどは、官能小説バリの不健全描写があったり、タクマ神格化の危険思想が含まれているとか。そのような過激レターは、ファンクラブ運営が俺の目を汚さないよう事前に処理してくれる。

 

その点は感謝だが、おかげで俺は自分宛の手紙を読んだ経験がまったくなかった。

故にトム君からの手紙は自分でも驚くほど嬉しく、未だ覚束(おぼつか)ない不知火群島国の文字を必死に翻訳しながら読んだ。

 

 

男子の夢や未来のために東山院男女交流センターを占拠したトム君。

見た目は小太りで愛嬌のある彼だったが、なかなかに肝の据わった子であった。東山院での事件後、彼は夢だったお菓子屋さんへの道を歩み始めたらしい。

 

この度、高校を卒業して、幼なじみにして許嫁だった東山院メアリさんと籍を入れた、とも書いてあった。

子どもだったトム君が結婚とは……一気に彼が大人になってしまった感がある。この調子なら次の手紙あたりで『妻が妊娠しました』と報告を受けるかもな。

 

「ん、こ、これは……ッ!?」

 

たわいもないトム君からの手紙だったが、そこにはパンツァー撲滅計画のヒントが隠されていた、しかも二つもだ。

 

俺をすくい取った手かがりが現実的に可能かで、再び頭を悩ました――

 

 

 

 

また幾日か経っての夜。

 

『その顔からして、良い案が浮かんだようね』

 

「まあな。でも、まだアイディア段階だ、それが本当に行えるのかを判断してもらいたい」

 

俺は自室の机に南無瀬組から借りたノートパソコンを広げ、画面に映る紅華と――

 

『タクマお兄ちゃんのアイディア! うん、聞きたい聞きたい!』

 

はしゃぐ咲奈さんと会話をする。以前はお姉ちゃん振っていた咲奈さんだが、最近はもっぱら年相応の可愛らしい少女でいてくれる。そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので。

 

天道祈里さんの問題は、三女の紅華だけでなく四女の咲奈さんにも関わってくる話だ。彼女を除外して話を進めるのは如何なものか、と思い今回の話し合いに同席してもらうことにした。

 

ちなみに、昼間、誘いのテレビ電話をした時。

 

『……へぇ、紅華お姉様とタクマお兄ちゃんで、そんなやり取りをしていたんだ……わたしを排除して……』

 

「あ、あれ? てっきり紅華から話を聞いていると思っていたんだけど」

 

『……紅華お姉様はそそっかしい所があるから、うっかりわたしへの連絡を忘れていたのかな? もーう、紅華お姉様ったら』

 

咲奈さんはぷんぷんと頬を膨らませた。あまり怒っていないようだが……一瞬、咲奈さんの背中から立ち上った闇のオーラが、漠然とした不安感を俺にもたらした。

こういう時、危険予知センサーの働きをしていたジョニーを失ったのが悔やまれる。故・ジョニーなら不安感の正体をもっと具体的に捉えてくれるのに……

 

 

 

「じゃあ、まず一つ目の考えを発表する」

 

俺はパソコンの別々のウィンドウから顔を見せる二人に向けて言った。

 

「祈里さんの婚活を成功させる」

 

『却下』

『却下だよ』

 

言い終わるや反射的な速度で、第一のアイディアはダメ出しを喰らった。

 

「い、一応理由くらいは説明させてくれないか」

いい返事は期待出来ないと思っていたが、ここまでバッサリ断られると凹む。

 

トム君からの手紙の中で、結婚をしてからというものメアリさんからのスキンシップが増えた、と書いてあった。

三十分に一度はハグをしないと彼女の情緒がアカンことになるらしい。あの堅物のメガネ女子だったメアリさんが、発情ドハマり女子になったわけである。トム君の幼なじみで許嫁という美味しい立場にありながら、長年お預け状態だった彼女。反動が来ているのかもしれない。

 

ともかく、メアリさんはトム君に首ったけ。トム君だけでなく、彼の衣類への関心も高いらしく、次期領主としての職務が忙しいのに夫婦の洗濯だけは彼女がやっているらしい。

 

これを事例にして考えれば、祈里さんのパンツァー化問題は……

 

「パンツァー化は治療不可能だとしても、矛先を絞ることは出来ると思うんだ。要は祈里さんを結婚させて、旦那の下着だけに興味を移す。そうすれば、世間の目や倫理的な面は置いておくとして、逮捕されることはないだろ」

 

『タクマ、祈里姉さんは婚活失敗のプロよ。前提条件が結婚の時点で、議論に値するアイディアじゃないわ』

 

実の姉に対して、その言い方は厳し過ぎやしませんかね、紅華さん。

 

『それに天道家は姉妹制をしているから、祈里お姉様の結婚相手はそのままわたしや紅華お姉様の結婚相手にもなるんだよ。わたし、嫌だよ。お姉様のパンツァー化を抑えるため急いで結婚した相手に嫁ぐ、だなんて』

 

うっ、そう言われると胸が痛い。紅華や咲奈さんにとって、この案は残酷だ。やはり、第一のアイディアはボツだな。

 

『祈里姉さんにはもう少し独身を貫いてもらわないとね。タクマをパパ化するまでは(ボソッ』

『タッくんを精神的・社会的に陥落させるには時が必要なの。それまで祈里お姉様には足踏みしてもらわないと(ボソッ』

 

「うん? 二人とも何か言ったか?」

 

『何でもないわよ、それよりまだ隠し球があるんでしょ』

『わたし、もっとタクマお兄ちゃんのお話を聞きたいな』

 

妹たちから不穏な気配が流れてくるが、散々ヤブヘビとお友達になってきた俺である。ツッコまねぇぞ。

 

「正直、二つ目もオススメ出来ないアイディアなんだ。祈里さんがディープパンツァーになってしまうかもしれない。けど、逮捕だけは免れると思う」

 

俺の悲壮な決意を感じ取ったのか、紅華と咲奈さんが真剣な顔になる。

 

『言ってみなさいよ。あそこまで堕ちた祈里姉さんが元に戻って大団円、なんて都合の良い妄想はしていないから』

『逮捕さえされなければ、天道家の力でお姉様をどうにかするから大丈夫だよ』

 

「そうか――じゃあ、言わせてもらう」

 

トム君の手紙で、こんな事が書かれていた。

 

『お菓子屋さんで働いていると、お店の人やお客さんから鋭い目で見られることがあります。とても怖いです。でも、タクマさんのピンバッチや小型フィギュアをポケットに入れていると勇気が湧いてきて耐えることができます。本当にタクマさんのご利益には感謝しかありません。ああ、でも――もっとタクマさんを身近で感じられたら、もっと頑張れるし、メアリちゃんとの夜の闘いにも勝てると思うんですけどねぇ……』

 

なんか凄く催促されている。トム君の手紙は直接表現がないだけで、さらなる刺激グッズを出して欲しいと言っていた。

俺を身近で感じられる……と言えば。

 

 

 

「タクマのイラストやロゴの入った下着を作ろうと思う」

 

『ええっ!? ブリーフある?』

『ほんとに!? ファンシー物は?』

 

紅華と咲奈さんは驚くと同時にすかさず欲望を吐いた。

 

「まだ南無瀬組に相談していないんで、全部俺の考えとして聞いてほしい」

 

そう前置きして、興奮気味の姉妹を制す。

 

「あくまで下着は作るだけで、販売するつもりはない」

男性ファン限定でプレゼントするのはアリだが、女性に贈ろうものならパンツァー大量発生になりそうだ。

 

「ただ、作る過程でモニター試験をすることにしている」

 

『ねえねえ、モニター試験ってなに?』

 

「タクマグッズと言うのは世間への影響が大きいんで、先に少数の人に使用してもらって反応を見ることにしているんだよ」

 

音声ドラマを制作した時は、モニター試験がヌチャヌチャと、いかがわしい事になったそうだ。試験をせずに世に出していたら、と思うと恐ろしい。

 

「そのモニターとして祈里さんに俺印の下着を使ってもらう」

 

『た、タクマッ。あんた、自分の言っていることが分かっているの! そんなことしたら祈里姉さんの求道対象があんたに全振りになるわよ』

 

「分かっている。だから、この案は可能ならやりたくはない。けど、祈里さんをパンツァーにしたのは俺なんだ。祈里さんが一般男性宅に侵入して逮捕、という最悪な流れは止めないと。他に良い考えがあれば、そっちを採用してもらって全然かまわない」

 

『…………』

『…………』

 

黙考を始める紅華と咲奈さん。

俺の意見は言った。あとは姉を想う妹たちの考えを尊重しよう。

 

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