『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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後日談、そして

ジャイアン支部での事件は、支部長の強漢(ごうかん)未遂事件として世間で報道された。

ここから盗撮事件に関わった複数の企業団体の検挙へ移行できるかどうかは、ぽえみの尋問とぽえみ周辺の捜査を続けている南無瀬組の手腕にかかっている。

 

 

さて、ジャイアン大捕り物に巻き込まれ、強漢未遂事件の被害者となった俺だが、被害者男性の人権やら何やらの配慮で実名が報道されることはなく、あれ以降は平和な日々を送っている。

心配していた新築への移住や嫁さん候補の押しつけはない。南無瀬組の屋敷に保護されているから、周りから手出しされないのかもしれない。

そう思えば、厳つい黒服のお姉さま方の中で暮らすのも悪くないな。

 

 

あと、問題と言えば正式に俺のダンゴとなった音無さんと椿さんだろうか。

 

「三池さん、三池さん、あなたが可愛いって言ったダンゴですよ~しかもあなたの好物のダンゴですよ~良い感じに美味しくなっていますよ~」

 

「……」しゅるしゅる(無言で服を脱ごうとする音)

 

彼女たちには俺の好物はダンゴではなく、団子だと懇切丁寧に、時間をかけて、何回も何回も語り聞かせた。

その結果、一般的に美人と言える二人の顔は、苦虫を噛み潰して口直しで飲んだドリンクが青汁の濃いやつだったみたいに歪んだが俺の知ったことか!

 

あと、南無瀬組にいる時は護衛をしなくていい、とお願いした。人を見る度に舌なめずりする輩が四六時中近くにいたら俺、心労で倒れるかもしれないからな。

その結果、一般的に美人と言える二人の顔は、あなたの寿命は後一日です、というのを昨日言い忘れましたと宣告された患者のように絶望で染められていたがやっぱり俺の知ったことか!

 

だんだん音無さんと椿さんへの態度が雑になってきたと自覚はしている。が、甘い態度を見せると、すぐこっちの懐に比喩じゃなくガチに入ろうとしてくるのでこのくらい突き放すのが丁度良い。

 

まあ、護衛はつけないが用心はする。俺の手首と足首には位置を知らせる発信機が巻き付けられている。俺が無断で屋敷の外に出ようとしたり、無理に外すと警報が鳴る機能も搭載した優れ物だ。

こいつの存在をアピールして、執拗に護衛しようとする音無さんと椿さんを退けることに成功した。

 

 

二人とも南無瀬組の一員となり、平時は組の手伝いをするようになった。屋敷の掃除や料理、それに簡単な雑務をしているらしい。

音無さんは「私はダンゴなのにぃ」と不満をこぼしていたが南無瀬組に住み込んでいる身の上なので渋々納得した。

椿さんは「外出の少ない男性に付いたダンゴは家政婦の真似事をすることもある。想定の範囲内」と現在の仕事に異論がないことを示した

 

俺も居候の身なので手伝おうとしたのだが、男性にそんなことをさせるわけにはいきません! と黒服の人に拒否されてしまった。

 

そういうわけで、俺は暇だ。

日がな一日やることもなく、同じく暇人のおっさんとダベるか、テレビを眺めながら不知火群島国の情報を漠然と入手するだけ。

外出して元の世界に戻るヒントを探したいが、男性が外出するというのはダンゴの手配を始め、いろいろなバックアップが必要らしい。おいそれと屋敷を出ることも出来ない。

 

日本ではアイドルデビューを目指してのレッスンやバイトに明け暮れていた俺だから、この生活は苦痛だ。人間がダメになる。

 

 

だんだん不満が溜まっていた、そんなある日。

 

「こんちは~ぁ。元気しとる?」

 

真矢さんが訪ねてきた。

俺の部屋に通し、座布団を渡して適当に座ってもらった。俺も向かい合う形で腰を下ろす。

 

「ぽえみが盗撮したことを認めたで」

 

最初に真矢さんが知らせたのは朗報だった。

 

「よく認めましたね。南無瀬組の尋問でもなかなか口を割らないって聞きましたけど」

 

ぽえみが捕まったのはあくまで俺に対する強漢未遂のためだ。そこから盗撮事件に結びつけようとしても、ぽえみは上手いことかわしていたそうだけど。

 

「妙子姉さんが自ら尋問して吐かせたわ。派手さはないけど、見事な誘導尋問やったで」

 

決め手はトロフィーだったらしい。

トロフィーに記録ディスクは隠されていた。

 

「妙子姉さんはトロフィーと言う単語を一切口に出さずにな、『どうしてお前の部屋に記録ディスクがあったんだ!?』ってプレッシャーをかけ続けたんや。最初ぽえみは、強漢未遂はやったけど盗撮なんぞ知らぬ存ぜぬの一点張り。せやけど妙子姉さんが巧みに煽ってな。そんで」

 

最終的に。

トロフィーの中の記録ディスクなんて知るわけない。と言わせたらしい。

後は簡単。

記録ディスクの隠し場所がトロフィーってどうして知っているんだ――からの連撃でぽえみは轟沈した。

 

 

聞けば単純な誘導だが。

 

「拓馬はんを襲ったことで長年築いた地位も名誉もパーになっていたぽえみや。それにせっかくゲットした旦那から絶縁状が届いたらしいで。そんだけのショックと妙子姉さんの威圧で平静ではいられなかったんやな」

 

真矢さんはかつての上司を寂しげに語った。

 

 

 

「そうや! うち、トロフィーの件で訊きたいことがあんねん」

しんみりとした空気は、次なる話題でかき消えた。

 

「妙子姉さんから聞いたんやけど、拓馬はんって盗撮事件のことを教えられてなかったんやろ。それなのになんで支部長室に行こうとしたん? 胃腸薬って嘘やろ。結局、支部長室から薬なんて出てこんへんかったし。なんでトロフィーを掴んだん?」

 

おうふっ!

すっかりウヤムヤになっていて、トロフィーのことは俺の中で終わった話になっていた。

どうしよう、トロフィーを掴んだ理由? 

そりゃあんた、元の世界に戻るためだよ。あのトロフィーは願ったことを叶えるファンタジックなやつだと思っていたんだもん。思いたかったんだもん。

 

ってことを言えば「うちと一緒に病院いこ」と腕を引っ張られるに決まっている。

考えろ、上手い言い訳を。あ~なんだ、その~この~~

 

 

「正直に言います。真矢さんの指摘する通り、胃腸薬は支部長室に入るための嘘で、俺の狙いは最初からトロフィーでした」

 

「ほなら拓馬はんはトロフィーに証拠が隠されていることを知ってたんやな。おかしいやろ、それ」

 

「違います。証拠なんて知りません。盗撮事件は真矢さんに説明されるまで聞いたこともなかったです。俺はただ、あのトロフィーを触りたかった」

 

ここからだ。ここからがトークの見せ所だぞ、三池拓馬!

 

「実はあのトロフィーによく似た形の物が俺の国にもあるんです。それもとても名誉あるトロフィーとして」

 

「ほーん、気になる言い方やな。なんのトロフィーなん?」

 

「トップアイドルに贈られるトロフィーです。一年間で最も活躍したと認められたアイドルにだけ贈られる特別な物。妙子さんから聞いたかもしれませんが、俺はアイドル事務所の研修生として日本で頑張っていました。そんな俺からすれば、プロのアイドルたちの頂点に立つことで得られるトロフィーは憧れだったんです。だから、一度でいいから触ってみたかった」

 

トップアイドルにだけ贈られるトロフィー。

そんな物が本当にあったら戦争だな。アイドルだけじゃなくファン同士の争いも必須だ。それを煽る連中も登場し、ネット上は魔境と化して、リアル世界にも飛び火して……う~ん、考えただけで恐ろしい。真に恐ろしいのはあんなヘンテコなトロフィーのために熱くなる連中の美的センスだが。

 

「拓馬はんは翌日に新居へ移動する予定やった。トロフィーを手に取る機会はあの夜しかなかった、そういうことやな」

 

「ええ、真矢さんに無理言って支部長室に行ったのはそのためです。まさか、ぽえみがトロフィーに仕掛けをしているとは夢にも思いませんでした」

 

どうだ! 真実と嘘を半々に織り交ぜての作り話。

自分で言うのも何だけど、即興にしては悪くない出来じゃない?

これで納得しましょ、そうしましょ、ねえ真矢さん。

 

「ふーん」

真矢さんが思案顔をする。いいじゃん、これで終わりにしようよ。世の中、大雑把でいいじゃないか。

 

「拓馬はんは……」

 

「は、はい」

 

「満足したんか?」

 

「えっ?」

 

「あのトロフィーに触って満足したんか?」

 

「満足って、いやその……」してはいない。元の世界に帰れなかったし。

 

「残念やけどな、あのトロフィーはレプリカ。きっちりした本物は別の所にある」

 

なにぃぃ!? 本物!?

思わず身を乗り出してしまった。

 

「おっ、興味ある? 今日来たのはな、これを言いたかったからや。なあ、拓馬はん」

 

真矢さんは溜めを作って、言った。

 

 

 

「うちらと、この国の芸能界に殴り込まへん?」

 

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