『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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(だいたい)300回投稿を記念してIFストーリーをお送りします。
なお、100回記念と200回記念の続きとなっております。これまでのストーリーは。

①日本から中御門領に転移した拓馬が天道家に保護される。
②四女の咲奈がブラコンになったり、三女の紅華のファザコンが悪化したり、長女の祈里が心肺停止になる。
③日本に還るにはトップアイドルになって不知火の像を手にしなければならないと知った拓馬は、祈里をプロデューサー、メイドさんをマネージャーにしてアイドル活動を始める。
④あるトラブルの際に、祈里が誤ってパンツ姿な拓馬の急所に顔面から激突する。おや? 祈里のようすが……

こんな感じになっております。
本編とはキャラの呼び方が違ったりしますが、関係性が異なるためです。仕様です。


(だいたい)300回投稿記念 IFストーリー ~もし、転移した先が中御門だったら 第3シーズン①~

「私は働きました。人並み以上の成果を上げました。自惚れかもしれませんが、慕ってくれる娘や部下も居ます。ですが、分からないのです。私の人生は本当にこれで良かったのか……今になって分からなくなってしまったのです」

 

『迷える子よ、あなたは勤勉なのですね。周りの期待に応えるのは尊きこと。けれど、時には慈愛ではなく自愛を。思うまま生きてはどうですか?』

 

「思うまま……分かりません! 地位がもたらす責任と(しがらみ)で私は身動き一つ取れません。現状に不満があっても、変化へと動き出せない。こんな自分をどう愛せよと言うのですか……!?」

 

『おお、迷える子よ。嘆かないでください。あなたは変われます、その方法を知らないだけなのです……今から言う通りに事を成しなさい』

 

「まさか、噂のアレですか!? しかし、本当に効果があるとは?」

 

『ふふふ、疑いも迷いもすぐに晴れます。あなたも『神』に遭うのです。さあ、手順を説明します。まずは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――男性物のパンツを入手しましょう』

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「師よ! これまでの教え、感謝に堪えません」

 

『師ではありません、私は一介の下着求道者(パンツァー)。終わりなき道を探求し、時に同好の士を探す寂しがり屋です』

 

「なんという慎み深さ! あなたこそ大いなるパンツァー! 凝り固まっていた私を壊し、新世界へ導いた尊き御方! 見ていてください、私は破壊します! 私を縛っていたモノを、多くの人々を凝り固まらせる元凶を! そして、誰もが『おパンツ様』のもとに召されるのです!」

 

『あなたが何を成すかは尋ねません。ただ、同じ求道者として成功と安全を祈っております』

 

「ありがとうございます! 大いなるパンツァーの祈りがあれば百人力です! あなたの目にも留まるよう、決行の際はこの身に意匠をこらしましょう。実はなかなかの自信作でして、それというのも――」

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

紅華(くれか)咲奈(さくな)、それに拓馬さん。今回の撮影、本当にお疲れ様でしたわ! 放映はまだまだ先ですけど、高視聴率・高視聴数間違いなしですわね!」

 

「そりゃあ、あたしが実質主役なんだから当たり前でしょ。拓馬さんも頑張ったんじゃない? 温泉地が舞台だからって湯上りたまご肌を前面に出すのはどうかと思ったけど。トップアイドルを目指すなら大人の雰囲気を出すようにミドル臭を放たなきゃ。オプションで曲がり角の肌も」

 

「紅華お姉さまの年上趣味に付き合わせたら可哀そうだよ。それより拓馬お兄ちゃんのヒロインっぷりが最高だったぁ! 可愛いすぎだよ。演技を忘れてギューっしたかったなぁ。ほんとたまらなかったなぁ」

 

「はは、はははぁ……皆さん、感想は色々ですけどお疲れさまでした。ハプニングの連続でしたが、終わってみれば良い思い出(として昇華したい)ですね」

 

豪華絢爛な海の幸が並べられた足の短いテーブルを囲み、天道家の面々と団欒する。

一見平和なムードが漂っているが、俺は焦りを感じていた。

ここは北大路(きたおおじ)領の、とある温泉宿。

ひと風呂浴びたためか、天道家の皆さんは水も(したた)るイイ女になっている。

 

長女・祈里(きさと)さんはブラウンヘアーの長髪がいつも以上にサラサラ流れ、鮮やかな唇が湿り気で艶やかに映える。出るべき所の肉付きが花マルな彼女が畳に座って食事を取ると、浴衣の襟や裾が(はだ)けて「あ~だめだめ。えっちすぎます」状態だ。

 

三女・紅華さんは赤毛のショートヘアーとアスリート体型によるボーイッシュな印象が、風呂と浴衣効果で一変。しっとりとした美女が丁寧な箸使いで焼き魚を採り分け口へ運んでいる。文句の付けようがない所作、どこの令嬢だ?

 

四女・咲奈さんはツインテールを解き、セミロングヘアーで歳より高めに見せるストロングスタイルである。それでいて「このお刺身、おいしいなぁ~」と小さな口を元気にパクパク動かす様子は子どもらしい。大人と子どもを共存させる咲奈さんは一種の神秘ではなかろうか。

 

と、このように美人の一言では表せない天道家の姉妹に囲まれ、高まる欲情を抑えきれず、俺は焦りを感じていた――

 

だったら良かったのだが。

 

『普段とのギャップで自制心を失うのは二流や』

 

下半身を制御するジョニーが興奮してくれない。

 

『人間は外見やない』

 

それはそうだけど、まったく間違ってないけどジョニー! 俺はまだ若いんだし、こう何というか、手心というか……

 

若い身空(みそら)で、俺は人間としての境地に達してしまった。男としては達しなくなった。

 

そんな自分に焦る。泣きたい。

はぁぁ、なんでこんな体質に……

得意の現実逃避をするべく、俺は今回の北大路ロケに思考を向けるのであった。

 

 

 

 

初の北大路ロケという名の狂騒劇は、血と汗と涙と涎と……色々な体液を流しながらもスタッフ一同の頑張りによって完遂した。

 

ドラマのテーマはズバリ『ミステリ』、温泉地として有名な北大路を舞台に、湯けむりに隠れて凶行を重ねる犯人を推理するものだ。

先ほど「実質主役」と豪語した紅華さんは犯人役。高級温泉宿の未婚(わか)旦那に恋する従業員で、彼に唾つけようとする同僚や客をコロコロする役回りである。

 

言わずもがな俺の役は未婚(わか)旦那。常に湯上りのポカポカした身体でお客さんを魅了する客寄せパンダである。と、言っても作中で入浴するシーンはない。当然だ、視聴者が死にかねない。その前にスタッフの理性が死滅するだろう。

俺専用の個室風呂が用意され、天道家お抱えのダンゴ組合に守られながら入浴する。それを自分のシーンの直前に毎回行っていたからハードな撮影だった。

 

探偵役は咲奈さんだ。見た目は子供、頭脳は大人の少女探偵。難しい役どころだが、咲奈さんはスムーズに演じきってみせた。『お姉ちゃん』を搭載しているのは伊達じゃない。彼女のアダルト脳で、俺はどんな目に遭っているのか……想像するだけで湯冷めしてしまう。

 

天道家贔屓(びいき)のキャスティングに見えるが、これには理由がある。

犯人役が紅華さんになったのは、彼女がもっとも迫力の()()演技をしたからだ。

他の役者だと「はっ? わたしの旦那に手ぇ出そうとかナイ、アリエナイ、コロがしたろ」と役にのめり込み過ぎて、被害者役が役では済まなくなる。

 

事実、犯人役のオーディションは荒れたらしい。被害者を模したマネキンと演技をするのが課題で、気合と殺意の入った参加者たちはマネキンの四肢をもいだり、腹パン(貫通)したり、手刀で斬首したそうだ。

「こら、あきまへん。血糊(ちのり)を用意せんでもええんやで、な撮影になってまう!」という事で白羽の矢が立ったのが紅華さんだった。彼女はお(ちち)の少ない青二才には幾分理性的である。加えて、ドラマでの俺は温泉効果でいつも以上に瑞々しく、紅華さんの高めなストライクゾーンを通過せずに済む寸法だ。

撮影中、俺が何度も個室風呂に入ったのは、紅華さんのファザ(コン)を鎮めるためでもあった。

 

少女探偵役が咲奈さんになったのは、本作のウリである『少女』を演じきる子供が他に居なかったから。本能より理性が勝る『キセキの年代』の子供でも俺と一緒に居ると即『思春期』へ突入し、大人(メス)の顔になるためNGだったらしい。

そういう意味では俺と同居しながらも「拓馬お兄ちゃん」を続けられる咲奈さんは大したものだ。時折「拓馬お兄ちゃん(タッくん)」と言霊を飛ばしてくるが、それでも凄いんだなって。

 

 

 

不知火群島国に来て、そろそろ一年になるが、未だ新鮮な驚きを提供してくれる。

湯けむりミステリのクライマックスは、崖際での推理がお約束だ。

このドラマでも崖際で少女探偵サクナが犯人の悪事を暴いてエンディング――と思わせて断崖絶壁から海へ飛び込む犯人。それを追って、自らもダイブする少女探偵。命綱を用意しているわけでも崖下にマットが敷かれているわけでもない。

 

そのまま繰り広げられる犯人と少女探偵による海上戦は、手に冷汗を握るものとなった。

 

崖から落下してなんで無事なの? と野暮なツッコミはやめよう。

地球でも高飛び込みという競技があるし、場所がプールから高波と強風が荒れ狂う断崖に変わっただけだ。どちらも飛び降りるのに躊躇するけど、死なない高さだろ。そうだろ。

 

スタントを使わずに断崖ダイブする天道家の二人、それを止めないスタッフを見ながら俺は肉食世界から脱するのに強引な手は使えない、と改めて学ぶのであった。

 

 

 

「しっかし、こんな宿をよく用意出来たよね。北大路って男性用セキュリティがまだまだって聞くのに」

 

「うんうん、用意しゅーとーだね。さっすが拓馬お兄ちゃんのプロデューサーさん!」

 

「紅華も咲奈も口が上手くなったものね。おだてても出てくるのはデザートの北大路名物フルーツタルトだけですわ、お食べなさい!」

 

妹たちの活躍に隠れがちだが、今回のロケの功労賞は天道祈里さんだ。

俺がアイドル活動を開始した頃は「じ、持病のシャクが……っ!」と、共に居るだけでクォータータイムプロデューサーだった彼女。それが一時間弱も心身を律するようになったのは、あの出来事がキッカケだろう。

 

 

天道美里さんの帰省。

 

祈里さんの実母であり、紅華さんや咲奈さんの伯母にあたる先代の天道家長女。

突然、屋敷に帰ってきた彼女は啖呵を切った。

 

「祈里と結婚する気がないのなら出て行きなさい!」

 

「いいっ!? ま、待ってください。俺の話を聞いてください、お義母さん!」

 

「あなたに『お母さん』と呼ばれる筋合いしかないわ! ……はっ!? なんて高度な人心掌握術、やるわね。そうやって祈里たちも篭絡したわけ? 期待だけ持たせてあの子の婚期を浪費させ、次代の天道家誕生を阻む所業、娘たちが許してもあたくしが許さないわ!」

 

美里さんの言い分はもっともだった。

自分の小悪魔的行動を恥じ、俺は弱者生活安全協会(ジャイアン)が運営する施設へと居を変えようとしたのだが――

 

それを良しとしない祈里さんと紅華さんと咲奈さん連合の反発、芸能界を巻き込んで勃発した天道家同士の骨肉の争い、(俺は直接会ってないのだが)行方不明となっていた次女・歌流羅(かるら)さんの救援。

 

劇場化できそうな壮大なスぺクタルを経て、美里さんは俺の逗留を許可した。

雨降って地固まる、というヤツだろうか。

 

「あたくしを踏み越えるなんて……祈里も紅華も咲奈も逞しくなったわね」

 

天道家の絆は一層強まった気がする。

良かった良かった、めでたしめでたし――と、いかないのが天道家だ。

 

「ですが、拓馬さん! あなたはまだ認められないわ! さあ、ここが勝負所よ! あたしを踏み越えなさい! 入念に何回も踏むのよ!」

 

うつ伏せになって「踏みなさい!」と催促する美里さんを見て、俺は天道家が有する性癖の複雑怪奇さに目眩を覚えるのであった。

 

 

 

話が逸れたが、母親とのイザコザを突破したことで祈里さんは一回り成長した。

仕事の選定、ロケ地のスケジューリング、撮影中の警護、宿の手配。

番組スタッフやダンゴ組合と何度も打ち合わせして、暴女対策を何重にも張り巡らせプランを練ったに違いない。

こうやって撮影終了の満足感に浸れるのも祈里さんの献身あってこそ、有難いことである。

 

「あっあらぁ、拓馬さん。どうかなさいました? わ、私をそんなに見つめて」

 

「祈里さんへ感謝の気持ちを強くしていました。陰に日向にサポートくださってありがとうございます」

 

「お…お……おほほほぐほっ! 持ち上げないでください! 私はプロデューサーの職務を全うしただけですわ」

 

「職務だろうと何だろうと俺は有難く思ってい――」

 

「マジお止めになって!! し、心臓が……ひぃ……か、活動可能時間が短くなりますわ。後生ですから……」

 

「あぁ、すみません」

 

くの字になって胸を押さえる祈里さんに、俺は感謝を中断せざるを得なくなった。

 

 

「せっかくのアピールポイントを無駄にするなんて……およよ、主のヘタレっぷりに涙を禁じ得ません」

 

まったく悲しんでいない声で、メイドさんが入室した。

宿の部屋着姿の俺たちと違い、どこであっても鉄壁のメイド服姿。現天道家の世話の一切を取り仕切る仕事人らしく粛々とした様子……に見えて、口元が若干緩んでいるのは祈里さんから愉悦成分を吸収したためだろう。

 

「お飲み物のおかわりをお持ちしました」

 

紅華さんにノンアルコールビール(ただでさえ少ない理性を抹消しないよう、男性と食事する場合はアルコール禁止が常識)、咲奈さんにジュース、俺にはお茶が配られる。性格はともかくソツのない仕事ぶりに定評のあるメイドさんだ。

 

今夜の料理、素材は北大路産だが、調理はメイドさんが担当している。

理由は「三池様のお口に入るとなれば、一般の料理人は良からぬ行為に走る。そういうものでございます」という事だ。

良からぬ行為、について問う気は無い。せっかくの海の幸を前に、食欲を失いたくはない。

 

 

「祈里様、お茶でございます。ゆっくりとお飲みください」

 

「たす、かりますわ……ごくごく」

 

メイドさんから手渡されたお茶のグラスを、祈里さんが飲み出した――その時。

 

 

 

 

『明日『マサオ教降誕記念式典』が開催される、ここ守漢(しゅかん)寺は厳かな雰囲気に包まれております。本日は北大路の領主にしてマサオ教の現代表の北大路しずか様に、式典へ懸ける思いをお聴きします。しずか様、お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます』

 

ん、マサオ教?

部屋の隅に置かれたテレビからの音。その中の『マサオ教』というフレーズに引かれ、俺はテレビへ視線を向け――

 

 

「ぶぶヴぶヴぅぅぅぁっっ!?」

 

――ようとしたが、祈里さんが盛大にお茶を噴き出したので、それどころではなくなった。

 

「いいっ!?」

「きゃああぁっ!? お、お姉さま?」

「うわっ、どしたの、姉さん!?」

 

「ぐぼぉ、ほごほぉヴぉおおぃ!?」

 

両膝を突き前屈みになって、むせ返る祈里さん。

尋常ではない噴きっぷりと苦しみっぷりだ。単純にお茶が気管に入った、というわけではないのか。

 

『はい、過去をなぞる記念式典ではなく、マサオ教が新たな局面を迎える。明日は記念すべき日になります』

 

あれ?

祈里さんが(むせ)た位置の先にテレビがある。その画面にはマサオ教の現代表と紹介された女性が映っていた。

 

淡い紅色の着物姿で、髪は後ろへ流しお団子にした女将(おかみ)風の格好――にプラスして、なぜか『(えり)巻き』を付けている。マフラーのような長い布じゃない。

 

エリマキトカゲのような放射状に広がる形をしていて。

無理やり幾つかの生地を繋いだみたいで。

例えが悪いかもしれないけど、俺の穿()いている下着と同じ素材で作られている感じがして。

 

 

とても不安を覚える襟巻きだった。

 

 

 

 

「空気が美味しいですわ」

 

メイドさんの介護によって、祈里さんは一息つけるまで回復した。

 

良かった良かった、めでたしめでたし――と、いかないのが天道家だ。

 

 

「祈里様、何か隠し事をしていますね?」

 

メイドさんが口火を切った。

愉悦に走っている状況じゃない、メイドさんの目がシリアスに光る。

 

「……おほ、おほ、ほほほほほ! 公明正大がチャームポイントで慈悲のわだかまりと謳われる、この天道祈里に対して隠し事ぉ? ちゃんちゃら可笑しくてヘソがティータイムですわ!」

 

ダメだ、こりゃ相当(やく)いモンを隠しているぞ。

 

「ごめん、祈里姉さん。あたし、開けた事があるんだ……自分宛と勘違いして姉さん宛に送られてきた荷物を」

 

「ひうっ!?」 

紅華の言葉に、呼吸を止める祈里さん。

 

「ごめんなさい、祈里お姉さま。わたし見ちゃったんだ……居間に置きっぱなしにしていたお姉さまのノートパソコン。パスワードを掛けてなかったからウッカリ」

 

「きゅうっ!?」

咲奈さんの告白に、どこから出しているのか分からん悲鳴を上げる祈里さん。

 

 

 

 

果たして、公明正大がチャームポイントで慈悲のわだかまりと自称する天道祈里さんがゲロるのは時間の問題で――

 

天道家の命運が尽きるのも時間の問題だった。

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