『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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(だいたい)300回投稿記念 IFストーリー ~もし、転移した先が中御門だったら 第3シーズン③~

ホラー映画の怪物は走らない。そんなお約束を守るゆったりとした歩みで壇上を目指す巫女服チェンソーパンツウーマン。

狂属性てんこ盛りの彼女へ立ち向かう命知らずが居るはずも……

 

「その衣裳!? ま、まさか母上ェ? そんなはずはない。母上がこのような愚行を犯すはずがない」

 

いや、居た。マサオ教副代表のクルッポーさんだ。

巫女服チェンソーパンツウーマンの前に立ちはだかり、親の仇を見る目で親を見ている。

 

「キサマァァ、母上に何をした!? どうやって衣裳を奪い取ったぁぁ!?」

 

長めの警棒らしき武器を構え、おパンツ様の使徒へ挑むクルッポーさん。

相対するだけでも怖いだろうに、恐怖よりも親を心配する気持ちが勝ったのか、立派に親と闘おうとしている。

 

まさしく勇気ある者。偉大なる勇者がここに居た。

 

「答えろ! 不浄なパンツなんぞ被りおって、この変た……ぐぼぉ!?」

 

「オパンツサマヲ ワルクイウナ カチカン コワレロ」

 

偉大なる勇者がここに居た(過去形)。

 

決まり手はチェンソーキック。

チェンソーで注意を引き、その隙に相手の鳩尾(みぞおち)へ直線的で鋭利な前蹴りを放つ技だ。

すんごいパワーが込められていたらしくクルッポーさんは派手に吹き飛び、落下後も何度かバウンドして舞台下でようやく止まった。

 

「……………………」

 

勇者が微動だにしない、突っ伏し悶絶している。

 

 

実の娘になんて酷いことをするんだ! それでも母親か!

 

と、憤りはするものの抗議は無理です。メッチャ怖いです。天道家の邸宅に日夜突撃してダンゴ部隊に駆逐されるファンの方々の十倍怖いです。

一般襲撃女性なら歌やダンスで何とか対処できるけど、チェンソーウーマンに効く気がしない。この状況、打つ手はあるか……?

 

 

俺の答えは出ず、その間に――

 

 

 

 

「スーホースーホー」

 

問答無用を地で行くモンスターは舞台に上がった。

 

何をする気だ?

 

『バーサーカーの狙いはマサオ教の秘宝、それを破壊する気よ!』

 

紅華さんの言う『マサオ教の秘宝』が舞台にあるのか?

 

様子を見ていると、しずかさんは舞台後方に垂れ下がった緞帳(どんちょう)を片手で掴んだ。

 

「やはり、それが狙いですか」

 

隣のメイドさんが呟くと同時に。

 

「フン」

 

しずかさんが緞帳を引き千切った――――ひきちぎった? 引っ張ってワイヤーから外すのではなく?

……緞帳って千切れるものだっけ? しかも片手で。

よく分かんないけど、しずかさんヤベェってのはよく分かった。帰りたい。

 

 

 

ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……

 

チェンソーのエンジン音だけが支配していた会場が色めき立つ。しかも、かなり『色』が強い。

 

「ほぃゃはああぁぁ、噂通りのエロさよ!」

 

「生存本能が刺激される今、一層艶やかに感じるぅのぉぉ」

 

「チビった恨みを差し引いても、あのチェンソー女にオヒネリあげたい気分だわ」

 

会場の人々が興奮し出した。

う~ん、この慣れ親しんだ雰囲気。緊迫感が薄れてホッとする自分が嫌になる。

それはともかく、女性たちの視線を追うと、緞帳の裏にあった変な絵に注目していた。

 

何枚かの板壁材を渡って描かれた縦横2メートルの絵。ぼやけたデッサンでローブを纏った男とも女とも判別できない人(?)が描かれている絵。

あれがエロい? 艶やか? どうしたんだ、みんな? 恐怖のあまり獲物を品定めする審美眼が狂ったか?

 

「あれはマサオ教に伝わりし『謎のエロ絵』」

 

「知っているんですか、メイドさん!?」

 

「芸術家でもあるマサオ様の最高傑作にして、その危険性から門外不出、鑑賞不可とされる絵です。三池様には影響が無いようですが、あの絵には見る者の獣欲を掻き立てる効果があると言い伝えられておりました。どうやら真実のようです。マサオ教にとってはマサオ様の神秘性を保証する『秘宝』と言えるでしょう」

 

「あれが獣欲を……? 俄かには信じられません」

 

「低レベルのデッサンですのに……何と申しますか……その……下品なのですが……フフ……多湿……しますね……」

 

「あっ、そっすか」

 

どうぞ好き勝手悶えてください。あの絵をオカズにできる時間は残り少なそうですし。

 

なぜチェンソーが持ち出されたのか、やっと理由が判明した。

チェンソーウーマンが武器を大きく振りかぶった。

エンジンが唸る。巫女服を通して浮かび上がったチェンソーウーマンの広背筋も唸る。ついでに俺も「う~ん」と唸って、こう口にした。

 

「もう、ダメみたいですね」

 

チェンソーが振り下ろされ――

 

 

「「「「いいいいいやあああああああああああああぁぁぁぁ!!!!????」」」」

 

 

多数の悲鳴をBGMに、マサオ教の秘宝は回転刃に蹂躙されていった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「どいて!! 私がお姉ちゃんだよ!!」

 

「拓馬さんは無事!? 若さは枯れても命は……問題無いみたいだね。ふぅ、焦ったぁ」

 

「昨晩から重ね重ね申し訳ありません! 私の不手際で邪教徒を生んでしまい……」

 

天道家三姉妹がけたたましく会場入りした。

咲奈さんは俺に抱き着いて念入りにボディチェックを始め、紅華さんは俺の体調を顔色や肌年齢から慎重に観察してくる。

俺と一時接触できない祈里さんは、ソーシャルディスタンスを保ちながら平身低頭するばかりだ。

 

「大丈夫です。俺は被害を受けてませんから……俺は、ね」

 

顔を舞台に向ける。ちょうどチェンソーウーマンが武器を停止させるところだった。

もうチェンソーは必要ない、目的は果たされてしまったのだから。

 

 

「マサオキョウノ チカラノミナモト ハカイカンリョウ コレデ オパンツサマヲ ハバムモノナシ」

 

静かなる会場にチェンソーウーマンは勝利を宣言した。

 

彼女の周辺には10人以上の女性が倒れ伏している。秘宝を守ろうとチェンソーウーマンに跳びかかり、チェンソーの錆となった犠牲者たちだ――が、みんなピクピクと痙攣しており何とか生きている。

 

「ミネウチダ ワタシハヒトヲ コロサナイ ソノ シソウヲ コロス」

 

全てはチェンソーウーマンの意のままだった。会場にはマスコミのカメラが多数配備されている。これから彼女は全島放送でおパンツ様を布教するだろう。

 

「見るに堪えません。公衆の面前でおパンツ様を被るなんて時期尚早ですわ、私が責任をもって成敗します!」

 

「止めないと天道家がマズいしね。ってことで一番槍はあたしがもらう」

 

「じゃ二番手は私。タッくんを怖がらせた罪は重いんだから」

 

「紅華、咲奈……ありがとう。攪乱は任せます、最後はきっちり私が締めますわ!」

 

「祈里様、盛り上がっているところ失礼しますが、雲行きが愉しく……えっふえふ、怪しくなっているようです」

 

「へっ?」

 

姉妹愛に水を差すメイドさんの言葉通り、事態は明後日の方向へ爆走し出した。

 

 

 

「ナン ダト」

 

『謎の絵』が切り刻まれた影響で、舞台後方の壁がガラガラと崩壊し――その後ろから更なる謎のオブジェが出現した。

 

石の台座の上に何かが載っている。大きい、成人サイズだ。

何かには布が掛けられている。遠目でも分かる上等品で、むかし博物館で見た江戸時代の古代布に似ていた。

 

「信じられません。あの伝説が本当だったなんて……」

 

「知っているんですか、メイドさん!?」

 

「マサオ教の中でも一部の間でのみ語り継がれてきた、マサオ様の像です。マサオ様はご自身を模した創作物を一切残しませんでした。ただ一つ、マサオ様の像を除いては……てっきり眉唾だと思っていましたが」

 

なんで国教の秘密中の秘密を知ってんの? と訊こうと思ったが「うぷぷぷ」で、はぐらかされるのが関の山だ。

それよりマサオ様の像だと? 誰も見たことのないマサオ様があの布の中に……やばっ、歴史的発見に立ち合えてワクワクしてきたぞ。

 

「フザケルナ イマニナッテ アラワレルナ ワタシハ モウ オマエヲ ミカギッタンダ」

 

俺とは対照的にチェンソーウーマンはイライラしている。

彼女のバックボーンは知らないが、祈里さんに洗脳されるほど追い詰められていた事からしてマサオ様に複雑な感情を抱いていそうだ。

 

「ウオオオオオ イットウリョウダン」

 

再びチェンソーを稼働させ、マサオ様の像に突っ込むチェンソーウーマン……って像に回転刃は!?

 

ガギィィン

 

「ヌワアアア」

 

案の定、チェンソーの刃は弾かれ、チェンソーウーマンは大きく後退した。

像って言うからには銅像か石像だろう。それを切ろうなんて無茶な話だ……それにしても、刃が当たる瞬間、邪を(はら)うかのように古布の奥が光ったような……はは、んなファンタジーな。

 

「マケンゾ コナミジンニ シテヤル」

 

アイデンティティのチェンソーを放り投げ、しずかさんは激昂する。

パンツで表情を隠していても必死さが伝わって来た。愛しさ余って憎さが百倍。もうおパンツ様を布教する考えは、彼女の頭に無い。かつて敬愛した者への怒りだけが、その身を突き動かす。

 

だが、像に近付けば近づくほどしずかさんの足取りは重くなり。

 

「ググォォォォォぅぅ……ぅぅ」

 

声から覇気が抜けていく。

 

「浄化ですわ」

 

「じょうか?」

 

「北大路しずかさんはマサオ教の重力に縛られたまま、おパンツ様に傾倒していました。元彼(*)を忘れられなかった彼女にマサオ様の像は眩し過ぎて、後ろめたい邪な心が溶け出したのですわ」

(*不知火群島国には、付き合った過去がなくても突き合った妄想があれば自分の中では彼氏認定、という思想が幅を利かせています。そのため交際歴のない元彼がわんさか存在します)

 

「ん? うん? なるほど」

 

俺は分かった風な表情で会話を切り上げた。多種多様な世の中では決して分かり合えない人間も居るのだ、そういう人に会ったらそっと距離を取るのが一番である。

 

元祖パンツ女郎の考察はともかく、しずかさんはマサオ様の像に辿り着けず舞台床に倒れ伏した。

チェンソーを振り回していた時より彼女が身体が一回り小さく見える。邪気どころか生気まで浄化されたらしい。

 

 

この隙にマサオ教徒たちが北大路しずかさんを拘束した。

被っていたパンツが取り払われ、マサオ教現代表の顔が露わになる。その衝撃的な事実は会場を揺らした。

マスコミはこぞってカメラのフラッシュを()き、レポーターは唾が飛ぶような勢いで報道する。

 

最早(もはや)、口封じは叶いませんね」

 

語弊はあるが、メイドさんの言う通りだ

しずかさんが捕まった。これから警察の尋問が行われ、祈里さんに洗脳されていた事がバレてしまう。

万事休す、俺たちは肩を落とした――と。

 

「待って! お願いよ! 一目だけでいい、マサオ様の姿を見せて!」

 

信徒たちに連行されるのを拒み、しずかさんが懇願する。その声にはマサオ様への愛憎が込み入り過ぎて、常人に計り知れない深みがあった。

 

「タクマさん! あなたにお願いします! マサオ様を覆う布を取って!」

 

「いいっ!? 俺、ですか?」

 

いきなり話を振られてしまった。ちょ、しずかさん、キラーパスにもほどがある!

 

「女性では像に近付くだけで腰砕けになって撃沈します。男性であるタクマさんが適役なのです! そもそもマサオ様の布を自分以外の女性に引ん剝かれるなんて絶許ですし」

 

なるほど、確かに! しずかさんの言葉に会場中の人々が頷いた。

拒否できる空気じゃないな、これ……おうふ。

 

 

 

 

 

 

おうふ……と尻込みしたものの。

この三池拓馬、アイドルを目指すだけあって元来の目立ちたがり屋である。

 

全島放送される中、伝説のマサオ像の(ベール)を剥がす。

ナイスな展開じゃないか! 

これほど脚光を浴びるチャンスはないってことでウッキウキに舞台へ上がり、マサオ像へと一歩一歩進んでいく。

あとはキメ顔を作って、勢いよくマサオ様の像を隠す布を取り去る――

 

 

そのつもりだった。

100回機会があれば99回はそうしただろう。

 

だが、虫の知らせと言うべきか、別世界線から電波を受信したと言うべきか。

 

――本当にそれでいいのか?

 

一抹の不安が『布を盛大に取っ払うのは止めよう。布をちょっとだけ持ち上げ、像と布の隙間に顔を入れて、自分だけ先にマサオ様のご尊顔を拝もう』という100回機会があれば1回しかやらない行動をさせた。

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なぁにこれぇ?

 

 

果たして俺は1%の正解を引いたのである。

しかし、正解したからと言って褒美はない。やらかしまでの猶予が延びただけだ。

 

隙間に突っ込んでいた顔を戻し、俺は観客席を見た。

みんな、早くマサオ様の顔を晒してよ! と好奇心と期待に満ちた表情をなさっている。

 

「おうふ」

 

状況は最悪だった。

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