『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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そういうわけで土下座

「第三回、男性アイドル事業部ミーティング。今回のテーマはどないしたら『みんなのナッセー』で拓馬はんが活躍出来るかや」

 

ナッセープロダクションから南無瀬家に戻った俺たちは、身体を休ませるのもそこそこに会議を開いた。

 

場所は俺の部屋。

なぜかここは男性アイドル事業部の溜まり場になりやすい。

「匂いがいいんですよねぇ」と先日ポロッと音無さんがこぼしていたが、あまり気にしないようにしよう。

 

ミーティングの参加者は部屋主の俺と、音無さん、椿さん、そして真矢さんだ。

男性アイドル事業部責任者のおっさんは置いてきた、ハッキリいってこの話し合いにはついていけない……とは冗談で、風呂に入っているらしいので放っておく。

 

ナッセープロダクションから、タクマの扱いは南無瀬組に一任するとの言葉をもらった。

世界初の男性アイドルは良くも悪くも影響力が高すぎるため、番組側として責任を取りたくないのだろう。

よって、ここでの会議の方針がそのまま番組で反映される。

ちなみにこの会議では大雑把なことだけ決めて、現実的に大丈夫かどうかの精査や擦り合わせは黒服さんたちに丸投げである。黒服さんたちマジ優秀。

 

 

「問題になっているのは子どもたちの野獣化」

 

「うんうん、あの状態じゃあ三池さんがステージに立てないよね」

 

野獣化の実績豊富な先輩方が会議の口火を切る。

 

「子どもたちが男慣れしていないのが原因なんですよね。なら、リハーサル前に俺と触れ合いの時間を設ける、ってのはどうです?」

 

「触れ合いってどこまでオーケーですか?」

 

「えっ、オーケーって? そりゃあ手を繋いだり、軽く抱っこしたり」

 

欲望を満たしてやれば幼女共も暴走することはないだろう、と考えて出した俺のアイディアだったのだが……

 

はぁ~。

 

音無さん、椿さん、真矢さんが「こいつ何も分かってねぇな」と言わんばかりのため息を吐いた。

 

え、なに? そんなにダメだった? 

結構悪くない提案だと思うのだけど。

 

「アカンで、拓馬はん。ちょっとだけだよのサービス精神は『あ、この男性、わたしに惚れてんじゃね?』って勘違いに繋がる。子どもたちをさらに悶々とさせるだけや」

 

「触れ合うならガッツリ。ペロペロがあれば優判定」

 

「まっ、そんなことダンゴのあたしたちが許しませんけどね」

 

お兄さんと子どもたちの触れ合いって心がホッコリする場面なはずなのに、不知火群島国では別の所がホッコリして歯止めが外れるらしい。

この案は廃案だな。

 

「じゃ、じゃあこれはどうですか! リハーサル前にお兄さんとの過度なスキンシップを禁止する、って伝えるんですよ。子どもだけでなく、親御さんにも。もし破るようなら最悪収録に参加出来ないと罰則を付けたりして」

 

「難しいやろ。子どもが人の言うことを聞かんのは珍しくない。それが男性に関わることなら尚更や」

 

「禁止されるからこそ挑みたくなるのが人情」

 

「子どもを止めるより、逆にけしかける親が出てくるかもしれませんね。男性と接触するチャンスは二度とないかもしれないから、記念にやっちゃいなさいって」

 

おおう、もうどうすりゃいいんだよ。

頭を抱える俺に、真矢さんが違う考え方の案を勧めてきた。

 

「拓馬はん、うちとしては子どもと無理に踊る必要はないと思うねん」

 

「えっ、『みんなのナッセー』は子どもと歌ったり踊ったりする番組でしょ。なら、俺は何をすればいいんですか?」

 

「もち踊ってもらうわ。ただし別撮りでな」

 

別撮り? 真矢さんを除く面子がオウム返しで尋ねる。

 

「バラエティ番組とかであるやん。VTRが流れている間、スタジオの様子を斜め下か上の小さい枠で映すやり方が。あれをやったらどうや?」

 

つまり、俺だけ踊る映像をあらかじめ撮っておき、歌のお姉さんと子どもたちが踊るシーンの端っこで同時に流すというわけか……

 

陽気な歌で場を盛り上げるお姉さん。

ちょっと緊張しながらも楽しげな子どもたち。

そして、画面端で小さく踊る笑顔の俺。

 

悲しぃっ!

 

「あ、あのもう少し何とかなりませんか。さすがに泣けてくるんですが」

 

「三池さんは世界初の黒一点アイドルなんですよ! 文字通りの脇役には出来ません。ここは、むしろ三池さんの別撮りを画面中央にして、他を枠サイズに収めるべきです!」

 

えーと、音無さんの提案が実現したとすると……

 

大画面で元気に踊る俺。

そして、端っこの小さい枠に押し込められた子どもたちとお姉さん。小サイズのため個人の判別など出来るはずがなく、なんかウジャウジャしている。

 

俺の印象わるぅ!

 

「あの、一応『みんなのナッセー』は子ども番組なわけですし、子どもを(ないがし)ろにするのは良くないと思うんですけど」

 

「でしたら、三池さんだけの新コーナーを作ってはどうですか? 三池さんオンリーでずっと映っているコーナー。うへへ、録画して日がな一日流しっぱなし決定ですね」

 

「凛子ちゃん、非常に魅力的な案だけど、それ難しい」

 

ツヴァキペディアがスッとテーブルに紙を置いた。

覗き込んで見ると、何かのスケジュールが書かれている。

 

「これは『みんなのナッセー』のタイムシフト。見ての通り秒刻みでコーナー編成されている。新コーナーを作るなら既存のコーナーを潰す必要あり」

 

『みんなのナッセー』は歌のお姉さんと子どもたちの踊りがメインになっているものの、他に紙芝居や人形劇など小コーナーがある。

視聴者が子どものため、飽きさせないよう次々とコーナーは切り替わり、番組時間をお腹いっぱいに堪能出来る作りになっているのだ。

 

「番組内の編成をイジるのは悪手。男性アイドルを起用するのは何かと面倒だ、と番組制作側に思われかねない。今後の活動に影響が出る」

 

「それに『みんなのナッセー』は打ち切りの最後通牒をくらってんねん。早急に番組を立て直さなアカン。せやから、今の編成を壊して新コーナーを作る、って言うのは時間的にも予算的にも難しいやろな」

 

「う~ん、そうですかぁ」

 

椿さんと真矢さんにダメ出しをくらい、音無さんが大人しさんになる。

 

 

主立った案が棄却されたところで、俺は今一度自分の意志を表明することにした。

 

「やっぱり、俺は子どもたちと同じステージに立ちたいです。そのためにきちんと子どもたちを抑えます」

 

「拓馬はんはそんなに子どもと一緒にいたいんか?」

 

「はいっ」

 

「三池氏は子ども好き、これは有力な情報」

 

「三池さん、スポーツチームをあたしと作りませんか? 何人でもバッチ来いですよ」

 

戯れ言をぬかすダンゴ共は無視する。

 

こういう子ども番組では『歌のお兄さん』がいて、子どもと仲良く歌って踊るもの……そんなイメージが俺にはある。なので、歌のお兄さんが子どもと一緒にいないと違和感を抱いてしまうのだ。

 

『歌』のお兄さん。

前回、リハーサルに参加した俺は歌うことをせず、ただ踊るだけだった。お兄さんは『歌』ってなんぼだというのに。だから――

 

「次のリハーサルで、俺、歌おうと思います」

 

「「「えっ!?」」」

 

三人が慌てる。今でさえ暴走状態の子どもに、俺の歌をぶつければどんな阿鼻叫喚になるか不安なのだろう。

 

「拓馬はん、そらいくらなんでも無謀やで」

 

「真矢氏に激しく同意」

 

「せめてあたしと二人の時にお願いします。周りに誰もいないとなお良し」

 

「まあ待ってください。俺なりにぽえみ事件のことを考えてみたんです。あいつが我を失ったのは、俺の歌声より歌詞にあったんじゃないかって。あの情熱的なラブソングが原因だったんですよ!」

 

「う、ま、まあ一理あるかもしれへんね」

真矢さんが思い出し笑いならぬ思い出し照れという珍しい現象を引き起こしている。それはともかく

 

「『みんなのナッセー』内の曲にラブソングはありません。そりゃそうです、だって出演者も視聴者もお子さまなのですから」

 

そのお子さまに情熱的なアプローチを叩きつけられたことを横に置いて、俺は熱弁する。

 

「番組で流れるのは、動物の歌や星や太陽といった自然の歌、他に童謡とかです。ほら、子どもたちが暴走するラブ要素なんてありませんよね。俺が楽しげに歌えば、子どもたちも歌や踊りに集中してくれるはずです!」

 

「う~ん、せやろか」

「すっごく不安です」

「凛子ちゃん。次の警護時、待機位置をもっとステージ側にするべき」

 

なぜだ、なぜみんな俺の話を疑うんだ?

ぐぬぬ。

 

「じゃあ見せてやりますよ! 次のリハーサルの時、俺の歌で子どもたちが楽しく踊って歌う様をね!」

 

懐疑的な視線を()ねのけるかのように、俺は力強く、高らかに宣言したのであった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

翌週のリハーサル。

 

結論から述べよう。

俺は全スタッフ、出演した子ども、その親御さんに土下座した。

 

 

……どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 

 

 

スポーティーな服装で臨んだ二回目のリハーサル。

事前に歌の件をオツ姫さんに伝え、さらに問題が無いことを証明するため目の前で歌ってみせた。

 

「はわわぁん、しゅごいわぁぁ。これがだんせぇいの歌なのねえん。うぅとおりぃ」

 

も、問題はないよね。別に襲われてはいないし……

 

 

前回と顔ぶれの違う子どもたち、しかし顔つきは前回同様俺を狙うハンターと化していた。

 

だが、思い通りにはさせない。

さあ! 俺の歌を聴いて、健全に歌って踊ろうじゃないか!

 

 

最初の歌は『トランポ・リン☆リン』という、曲名の通りトランポリンをするかのごとく飛び跳ねる振り付けのものだった。

 

これで三分の一の子どもが脱落した。

 

「ストップ! ストッープ! ダメよダメよぉ! みんなぁ! ジャングルの奥地に住む部族が火を囲みながら飛び跳ねるみたいになっているわぁ! もっと文明的なジャンプをしてえええぇん!!」

 

オツ姫さんが待ったをかけるのがもう少し遅かったら被害はさらに広がっていただろう。体力の限界を迎えた子どもたちは別室で休ませることになった。

 

 

ここで止めておけば良かったのだ。

しかし、効果はさておき男性の歌を聴くのはたまらなく心地よい。という意見がスタジオや見学ブースのあちこちから上がり、とりあえず二曲目いっとく? という流れが出来てしまった。

思えばこの時点でみんな、思考がおかしくなっていたのかもしれない。

 

 

続いての曲は『チューチュートレイル』という、ネズミの動きを取り入れた、少々アクティブな踊りがある曲。

 

これで三分の一の子どもが脱落した。

 

「スタッフゥゥゥ! 二足歩行から原点回帰とばかりに四足に戻って走り回る子どもたちを止めるのよぉ! ええい、すばしっこいわね、誰か網持ってきてぇ!」

 

オツ姫さんの指示で、スタジオのドアを施錠しなかったら、子どもたちは外まで出ていき混乱の収束は厳しいものになったであろう。

ネズミの動物霊が宿ったような子どもたちは別室で休ませることになった

 

 

もう止めて! 子どもの体力も、スタッフの疲労も、俺のメンタルも限界よ!

しかし、『毒を食らわば皿まで』という満場一致の狂気がスタジオを支配し、トドメの一撃が放たれることになった。

 

 

最後の曲は『夢を見よう』だった。

多くを説明する必要はないだろう。残った子どもたちは、全員夢の国へ引きずり込まれていった。

 

子どもたちだけではない。

 

「……」

オツ姫さんを始め、スタッフの中にも倒れる者が何人かいた。

散々な騒動で疲れた身体に俺の歌が染み込んでしまったのだ。

 

悪いことをした、そうとしか言えない。

ほんと、すみませんでした。

 

そういうわけで、土下座である。

 

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