『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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【元不良少女の生前の決意】

「掴んだ獲物が指の隙間からこぼれ落ちるような……夫に先立たれるような……幸福感と喪失感が混ざって、得も言われぬ感情に襲われちゃった」

 

委員長が静かに言う。窓の外の秋空を眺める横顔が、男を知ったように大人びている。

 

一昨日電話で、

 

『ほほわああああああ!? 来たよ来たよ! いよいよ明日がタクチン接種の日! 姉小路(あねこうじ)さんには悪いけど、お先に楽しんでくるからね! ごめんね!』

 

と狂喜乱舞していた委員長と同一人物には見えない。

 

「そんなに凄かったのか」

 

「CMのタクマさんは解像度をわざと下げられているみたい。本場の3Dタクマさんの臨場感は想像以上だよ。ドチャクソ逝っちゃった」

 

ああ……うん、やっぱり委員長は委員長だ。

今は淑女モードで理性的に見えるけど、少し喋れば本質(性欲)が顔を出す。

 

華奢(きゃしゃ)な身体に、人が良過ぎてちょっと頼り無さそうな雰囲気。あちきと一緒に『ダンゴ』を目指すものの、これまで平和主義で生きてきた分、まだまだ体力作りに四苦八苦している。未熟な委員長だけど(寝床の)自主トレで発揮される体力だけは常軌を逸している、あちきじゃ逆立ちしたって勝てやしない。 

 

そんな委員長の「ドチャクソ逝っちゃった」は回数にすれば10以上……な、なかなかの数じゃねぇか。

 

「姉小路さんは明日だっけ、タクチン接種?」

 

「まあな。午前10時からなんで明日は学校に来ねぇぜ」

 

「ちゃんと特別欠席届けは出してる?」

 

「抜かりなく。タクチン接種に集中したい、面倒な手続きは全部済ませたさ」

 

「さすがだね。コースはどっち?」

 

「委員長が『ダンゴコース』だったから、あちきは先に『プロデューサーコース』にしてみた。どのみち接種は2回出来るし、『ダンゴ』コースは後で楽しむ」

 

「気を遣ってくれたんだね、ありがとう。終わったら感想を言い合おうよ」

 

「お、おう……でよ、ゲーム開始までの流れを教えてくれないか。心の準備がしたいんだ」

 

「うん、任せて。ネタバレにならないよう説明するね」

 

秋の陽光が降り注ぐ朝のホームルーム前の教室。

今日が接種の奴や、接種の影響が長引く奴は欠席してポツポツ空席がある。

 

耳をすますと、教室中『タクマといっしょう』の話題で持ちきりだ。これまでには無いリリース方法は、ワクチン接種になぞらえて『タクチン接種』と呼ばれている。

ワクチンとタクチンでは、なぞらえ方が上手くないけど、タクマさんの後にチンが付くとドキドキするんで誰も文句を言わない。

 

委員長から接種までの説明を受けながら、あちきは一ヵ月前の衝撃的な発表を思い出した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

――『タクマといっしょう』発売媒体変更のお知らせ――

 

 

VRゲーム『タクマといっしょう』をお待ちのお客様には誠に申し訳ありませんが、この度『タクマといっしょう』の家庭用販売を中止し、アーケード版でリリースさせていただきます。

 

クオリティダウンに努めてきた本作ですが、弊社の技術過剰により致死性を完全に取り除けませんでした。そのため方針を『蘇生』に変更し、大規模なカムバック装置を隣接可能なアーケード版でのリリースに切り替えました。

 

お客様にとってご不満の措置と思いますが、人命と社会機構の安定のためとご理解いただければ幸いです。

何卒弊社への討ち入りはお控えくださり、別紙のアーケード版仕様をご一読くださいますよう切にお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

それは開発会社と政府の共同発表だった。

いつの間にか『タクマといっしょう』は国家プロジェクトってヤツになっていた。

 

そっからの目まぐるしい流れは、あちきの頭じゃ半分くらいしか理解できねぇ。

プレイ希望者は全国民と同数だ。とにかく数と回転りつ?が重要ってことでゲーセン以外にも公共施設とか、だだっ広い場所に『タクマといっしょう』のプレイ機が置かれる事ととなった。

 

同時期にタクマファンクラブが主導となってファン全員のプレイ順番がランダムで割り振られた。一人一人にタクチンを接種するかどうか訊いたりはしねぇ、拒否する異常者なんて居やしないからな。

 

プレイ会場は勝手に指定される。一応近所の会場が選ばれるらしいが、人数調整とかで遠くの会場を指定される奴もいるらしい。まっ、大した問題じゃねぇ。たとえ南無瀬から一番遠い北大路の会場へ行け、と指示されてもあちきなら迷わない。喜んで船か飛行機に飛び乗るさ。

海外のタクマファンへの差別だ、って一部抗議されているらしいがどうでもいい。

 

とにかくあちきや委員長は地元の会場に割り振られ、運良く昼間のプレイ権を得た。プレイ会場は24時間動いていて、運が悪いと深夜に行く羽目になる。

実際、子どもやバアさんのプレイ時間がド深夜に割り振られてちょっとした問題となったが『個人の年齢や事情なんぞ考慮していたら、可及的速やかに全国民がプレイ可能な環境作りなんて出来るわけねぇだろ! 嫌ならプレイするな!』という意味の文章が公式発表されて、みんな口を噤んだ。運営側は相当忙しいらしく、あちきにも分かるほどキレ散らかした文章だった。

 

実際、タクマファンクラブ運営の一人である委員長のお姉さんは一ヵ月間自宅に帰っていないらしい。運営事務所に差し入れを持って行った委員長の話では「あそこを地獄と表現したら地獄のイメージダウンになっちゃう」との事だ、やべぇぜ。

 

 

 

何もかもが急な話で、何もかもが一方的(ガチギレ)に決まっていく。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

要望:海外出張中なのに勝手にプレイ日を決められた。困る、せめて別日に変えさせて。

回答:うるせぇ、帰国しろ。

 

 

要望:プレイ日が一年に一度の資格試験の日と被りました。就職を左右する大事な資格です。何卒プレイ日の変更をお願いします!

回答:一年を棒に振る価値はある。こっちに来い。

 

 

要望:うちの子はまだ五歳です。深夜2時からプレイさせるなんて酷い。子どもの健康を何だと思っているんですか!?

回答:プレイすれば子どもで居られなくなるからノーカン。

 

 

要望:男性用のプレイ会場はどうなるんですか? プレイ出来ない場合、夫がうつ病になるかもしれません。かと言って、危険な場所に連れ出せるわけもなく、運営の方々には男性ファンへの適切な対応をお願い致します。

回答:男性ファン向けのプレイ環境も準備中です。男性のいらっしゃるご家庭にはプレイ方法を別途ご連絡いたします。

 

 

要望:私の母は大病を患っており病院のベッドから動けません。病室でもプレイできるよう実機をレンタルさせていただけませんか?

回答:上記の要望を出した女性は逮捕されました。大病を患う母は存在せず、『タクマといっしょう』を私物化しようと偽りの要望を出したそうです。改めてご連絡しますが、如何なる事情であろうとレンタルは禁止されています。そもそも『タクマといっしょう』は死人もプレイしたくて走り出す逝品(いっぴん)です。大病で動けない? 見え透いた虚偽はやめろ。

 

 

質問:ワクチン接種は副反応で苦しむことがあります。最悪命に関わることも。タクチン接種は大丈夫でしょうか? ちゃんと命に関わってくれますか? クオリティを下げた安全性はクソ喰らえです。

回答:心配ない。安心して逝け。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『アーケード化に反対するのはご勝手に。ただし、ゲーム会社への襲撃や脅迫は即逮捕、プレイ権を剝奪しタクマファンクラブを除名とします。当然、今後のファンクラブ限定グッズの購入権を失いますのであしからず』

 

「国民の皆様にはご辛抱を強制する事、本当に申し訳ございません。ですが、皆様の幸せと生活を死守するべく国民一丸となって乗り越えていきましょう」

 

有無を言わせねぇ指示と、由良様の記者会見が過激なファンを借りてきた猫に変えた。

特に由良様はヤベェ。戦争でもおっ(ぱじ)める覚悟ガンギマリな眼をしていた。逆らったらアウトだ、つつがなく〇されちまう。記者会見を観た日、あちきはブルッて寝付けなかった。

 

 

 

 

 

「とうとう来たぜ」

 

『タクマといっしょう』のプレイ当日。

決戦の場所は南無瀬運動公園。

400メートルトラックの真ん中にデカいテントが立てられていた。一見、サーカスでも開かれていそうだけど。

 

 

「っっああああきゃはああ!?」

 

「ひっぐぅぅぅぅうう!?」

 

「はうぅ……あぐぇ…………」

 

テントの入口から喜んでいるのか悲しんでいるのか分らねぇ声が漏れてくる。いくらサーカスでもこんくらいイッちまった歓声は上がらないよな。

 

入口には看板が掲げられていた。

 

 

 

――こちらは『タクマといっしょう』のプレイ会場となります。ここより先は全て自己責任です。生命の保障は出来ませんのでご了承とご覚悟の上でお入りください――

 

 

 

へ、へへ……そんな警告であちきがビビると思ってんのか。

この日のためにチキンハートを鍛えに鍛えた。

タクマさんのブロマイドと(にら)めっこしても過呼吸で済むようになったし、タクマさんの音声ドラマを聴いても一分間は意識を保てるようになった、

 

あちきは成長したんだ!

タクマグッズの危険性試験で早々に脱落していた情けねぇ女はもういない、今のあちきを舐めんじゃねぇぞ!

 

絶対に止まらないよう力強い決意で胸を熱く動かし、あちきはタクチン接種会場へと踏み入った。

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