『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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遅ればせながらあけましておめでとうございます。
本年も拓馬と地獄に付き合ってくだされば幸いです。


終末前夜

本日の『みんなのナッセー』の収録が終わった。

出演する女の子たちが次々と失踪(出禁)して、撮影現場は吹雪の山荘的な緊張感に包まれていたが終わり良ければ全てヨシ、である。

 

この後は南無瀬邸に戻って、日課のトレーニングや出演予定になっているドラマの台本を読む予定だったが。

 

人口維持組織『キューピッド』の心野(こころの)甲姫(こうひめ)さんから急遽依頼が入った。

 

「アポなしぃの接見をOKぇしてくれてホントにぃありがぁとございまぁす。時間は取らせないわぁん」

 

甲姫さんの見た目や声には怪しさがふんだんに込められているが、人は見かけに依らない。怪しい人が一番安全な人というのは、ミステリと肉食世界の定番である。逆に一番清楚だと思っていた人が超危険人物で…………おっと、セルフメンタルブレイクはよろしくない。余計な事は考えず、不都合なものには目を背け、自分に甘くいこう!

 

 

 

 

「こちらがぁ昨年からの婚姻数の推移グラフよぉんぅ」

 

もうダメだ、メンタルがぶっ壊れそうだ。

 

妹のオツ姫さんの手回しで用意された南無瀬テレビ局の一室。

壁際のスクリーンに映し出されたグラフを目の当たりにして、俺の内臓はまんべんなくキュッと締め付けられた。

 

不知火群島国の婚姻数を示す折れ線グラフ。当初はほぼ横ばいで推移していたが、ある時を境にえっぐい下降を辿っている。

鈍感だったら、その「ある時」に気付かず「ほへ~」とグラフを眺められたのだろうが、要所でしっかり働く自分の勘が嫌になる。

 

「芸術性すら感じる急降下。たった一年で婚姻数が半減とはいっそ清々しい」

 

「こんなに結婚する人が減っているんだね。うんうん、なんだか一独身者として勇気をもらっちゃう」

 

「ほう、凛子ちゃんは独身者の誇りを胸にこれからも生きる?」

 

「まさかぁ~そんなわけないよ。隙あらばタクマさんとゴールインして、静流ちゃんの居る独身グループと袂を分かつ気満々なんだから」

 

「そういう素直なところは心から尊敬。おかげで私がタクマ氏と結ばれた暁に、容赦なく切り捨てられる」

 

「あははは、今日もよく吠えるね、静流ちゃん」

 

「凛子ちゃんのキャンキャンぶりには負ける」

 

不知火群島国の(ことわざ)である『親しき仲にも出し抜きあり』は的を射ていたようで、ダンゴたちが部屋の隅で友好を冷やしている……が、そんなものに気を配っている場合じゃない。

 

「見ての通りぃ~、しらぬぅい群島国はピンチなのぉん。それも開国以来のだぁいピンチ。心苦しいけどぉ、キューピッドは婚姻数が減っちゃった理由にタクマくんが関与していると思ってるのぉ」

 

「……そ、そりゃあ俺がデビューした時期を境にグラフが急降下していますからね……もしかしたら俺が理由の一つかもしれませんね……ですが、他にも大きな要因があったりなかったりするのではないでしょうか」

 

認めたくない一心で、責任回避に全力を尽くそうとするも。

 

「もぉちろん根拠もなくタクマくんを追いつぅめたりはしないわん。次のグラフを映すわね」

 

仮にも国際機関のキューピッド、彼女らにとって俺の足掻きなんぞ想定内のようだ。

次にスクリーンを埋めたのは円グラフだった。内容は――

 

「タクマくんは東山院(とうざんいん)領の特徴をご存知ぃ~?」

 

「……若い男女がお見合いするための学校がある、でしょうか?」

 

以前、ミスターというナイスミドルに変装して東山院の少年少女の関係を、姦計(意味深)にならないよう取り持った事がある。

 

「さっすがぁ。タクマくんなら知っていると思ったわぁ」

 

甲姫さんの笑みが濃くなった。

 

くっ、やはりバレているか。

ミスターの正体は未だ謎になっているが、有識者の中では。

 

「コンテスト会場で歌ったり、全世界に向けて公開授業する男性が二人もいるわけないだろ!」

「ミスターとタクマさんの映像を見比べてみたまえ! 同じ(たかぶ)りを感じずにはいられない!」

「難しい考察は不要! 自分の性欲センサーだけを信じろ!」

 

との熱い意見を以って、

 

「『ミスター = タクマ』これは天地がひっくり返っても不動な必定!」との結論が出ていた。

 

無論、南無瀬組はミスターについて知らぬ存ぜぬの一点張りだが、「はいはい、オフィシャルの立場では認められないよね。必死で誤魔化してお可愛いこと」と周囲から温かく見られているのが現状だ。ぐぬぬぬぬ。

 

 

「東山院のお見合い学校なんだけどぉ、最近退学者が増えてぇるの……残念ねぇ。円グラフぅはそんな女の子たちにぃ退学理由を聞いてまとめたものよぉ」

 

退学理由か……金銭や学力の不足、お見合い相手を襲った事による逮捕などが書かれている。

しかし、それらは合わせても円グラフの一割を占める程度だ。

円グラフをほぼ一色に染める項目は、シンプルにこう書かれていた――『タクマさんとの結婚』と。

 

「俺との結婚……? はっ、どういう事ですか?」

 

「脳内夫や」

 

「のうないおっと?」

 

素晴らしく頭の悪い言葉を、真矢さんが大真面目に放った。

 

「退学した子らは拓馬はんと結ばれたんや、自分の頭ん中でな。おそらく自棄やない、本気でそう思ってん」

 

「ぐええぇ」

 

「マネージャーさんの言うとおぅりよん。どぉの女の子も真剣な目で『タクマさんと結婚したので卒業します』と言い切って学校を去っていったわぁ。あまりのガンギマリに教師も説得を諦めて、匙を投げちゃったわけぇ」

 

どうしてだ?

結婚してくれないのか、俺以外のヤツと……

 

「言うまでもなくぅお見合い学校の子はぁ、婚活戦線でたたかう最前線の兵士よん。婚活のストレスで弱った心が、タクマくぅんに救いを求めたのかしらねぇん……その子たちが退いた理由ってぇ、そのまま婚姻数が減っちゃった理由に当てはまると思うわぁ」

 

「いぃ……で、でもニュースでは聞いた事ありませんよ、婚姻数の話なんて」

 

俺も負けじと救いを求めて、フェイクニュースじゃないっすかコレ? とケチを付けてみる。

ほら、もしかしたらグラフはエイプリルフール的なモノで、実は全部ドッキリかもしれない。不知火群島国にエイプリルな風習があるかは知らんけど。

 

「聞いたことがないのも無理ないわん。緘口令が敷かれてぇるから」

 

「か、かんこうれい」

 

「由良様の指示やな。キューピッドを口止めできるのはあの御方くらいや」

 

「ごめいさつ。大々的に発表したら世の中に終末思想が蔓延しちゃう。未来がないと分かればヒャッハーするのが人間でしょぉ。治安が悪化するわぁ」

 

えっ!? ただでさえ最近の不知火群島国はヤバめなのに、もっと上を目指しちゃうんですか!?

 

「ま、待ってください! 終末思想は言い過ぎでは!? だって婚姻数が減ったと言っても、不知火群島国は人工授精がスタンダードですよね? 出生数が、子どもの生まれる数が健在なら大丈夫じゃ…………大丈夫…………だいじょうぶ?」

 

言ってて、ふと思う――俺の存在って出生数に影響を与えてないだろうか、と。

 

「……次のグラフを出すわねぇ」

 

甲姫さんの憐れみの声と共に、満を持して出生数の推移グラフが表示させた。

 

婚姻数のグラフと同じく、折れ線が引かれている。

違う点と言えば、線の下降タイミングが婚姻数より一年弱遅れていること。おそらく妊娠期間がある分、タクマの影響が出るのに時間が掛かったのだろう。

そして、大きく違うのは減少速度が凄まじいこと。

婚姻数は一年以上かけて半減したのに対し、出生数は数ヵ月で半減に届きかけている。それも減少は加速度的に勢いづいており、希望の欠片も無い終末を予感させた。

 

「うわぁぁ」

「うむむむ」

 

減らず口が趣味のダンゴたちでさえ閉口するデータだ。

 

「噂には聞いとったけど、人工授精を放棄した人がこないに……拓馬はんのファン活動は血で血を洗うものやさかい身重(みおも)は不利やけど……せやかて減り過ぎやろ」

 

真矢さんが腕組みをしながらグラフを睨みつける。

 

 

俺はと言えば、目の前が真っ暗になってふらついてしまった。

 

「タクマさん!」

「タクマ氏」

 

音無さんと椿さんが両脇から支えてくれて何とか踏み留まれたが、足も視界も覚束ない。本格的にマズいぞ、これ。

 

「お、俺が世間に多大なご迷惑を掛けているのは、分かりました……それを承知で、教えてください。一つだけでも構いません。俺が世間に明るい影響を与えたデータはありませんか?」

 

一つでもいい、心の支えが欲しい。搾り出すように甲姫さんへお願いする。

 

「タクマくん……ええ、ええ! あるわよぉ! もちろんよぉ! タクマさんは世界の光ですものねぇ、ちゃんとデータがあるわぁ!」

 

俺のボロボロぶりに罪悪感を抱いていたのか、甲姫さんは力強く応えてくれた。

 

「いま映すわぁん。ほら見てぇ!」

 

「お、おお」

 

果たしてスクリーンに表れたのは、またしても推移グラフ。しかし、これまでと決定的に異なるのは、折れ線が上昇傾向にあることだ。

やった! 俺が居る事でプラスになる事もあったんだね!

 

嬉しさ一杯に尋ねる。

 

「甲姫さん! これは一体なんのグラフですか?」

 

「精子の提供件数よぉ。タクマくんがアイドル活動を始めてからぁ、男の人たちがすっぅごくハッスルして、規定された数をグンと超える精子を送ってくれるのおぉぉ」

 

「――――ぐふ」

 

完全に致命傷だ。俺は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

30分の休憩を挟んで、ようやく俺は喋られるくらいに回復した。

真矢さんやダンゴたちは接見を止めて、一刻も早く俺を南無瀬邸で休ませたいようだが、このまま話を中断したら心労が尾を引いてしまう。

 

不知火群島国のためにも、俺の健康のためにも、何とか解決策を講じないと。

 

「わざわざ俺の所へお越し下さったのは被害状況を伝えるためですか? キューピッドは妙案をお持ちだったりしませんか?」

 

甲姫さんは無理を押して、接触して来た。俺に頼みたい事があるのでは、と思い訊いてみたところ。

 

「あるにはあるわぁ。キューピッドの案と言うより、私たち急改革派の案だけど」

 

「急改革、なんですそれ?」

 

「キューピッドも一枚岩でないのぉ。スピード重視と、安全重視の集団に分かれて意見が対立しているのよぉん。私は前者ねん。タクマくんにイヤラしくない意味で一肌脱いでもらって、急いで事態を打開してほしいのぉ。もう一つの派閥はタクマくんが動くとぉ火にダイナマイトだから、別のやり方を考えようと言っているぅわ」

 

俺がダイナマイト? 酷い言われ様である。

しかし、否定の言葉を吐けば周囲から白い目で見られるのは確定的だ、グッと堪えよう。

 

「慎重派の意見も分かるけど、刻一刻と亡国に近付く今、悠長に構えていられないのよぉん」

 

「なるほど、状況は分かりました。それで甲姫さんの派閥は、俺に何をしてほしいんですか?」

 

「……それはぁ」

 

女性が俺に(みさお)を立て、男性が俺に竿(さお)を勃てる終末前夜。

未来を繋げるための策を甲姫さんは開示した。

 

「タクマくんってぇ、結婚する気はなぁい? 誰かとガツンってぇ結ばれてくれると助かるんだけどぉ? タクマくんが既婚になればぁ、脳内夫を持つ人たちも目が覚めるとぉ思うのぉ」

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