『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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【脳を整える】

「融和政策、ですか?」

 

「不知火群島国とブレイクチェリー女王国が国交正常化して半世紀。しかし、過去の因縁は未だ尾を引き、両国の関係は良好とは言えません。拙はこの憂いを取り除きたいのです」

 

「……具体的には?」

 

「まずは経済連携の強化です。食品、工業製品の関税の引き下げ、輸出入に関わる手続きの簡素化を行いたく存じます。細かい品目としましては――」

 

話を聞く限り、我が国にとって悪くない計画です……が、そのような事を言うためにわざわざいらっしゃったワケではございませんよね。

いい加減、拓馬様の元へ馳せ参じたいのです。一秒でも早く本音をお吐きくださいませ。

 

「魅力的なお話、ありがとうございます。是非とも適切な人員とデータを交えて詰めていきましょう。それでイルマ様、そろそろ本題をお聞かせいただけますか?」

 

「拙が最も推したい事項は――両国の安全保障体制の構築です」

 

……そう、きますか。

ブレイクチェリー女王国は世界でも有数の軍事大国。不知火群島国の軍事力を当てにせずとも確固たる安全基盤を持っています。大陸から離れ、どこの国とも距離のある群島国家とわざわざ安全保障を結ぶ旨味はありません、『拓馬様』という不確定致命要素を考慮しなければ。

 

「ブレイクチェリー女王国が我が国の盾になる、とおっしゃるのですか」

 

「ご明察の通り、この安全保障体制は不知火群島国を保護するためにあります。当然お気付きかと思いますが、現状における不知火群島国は非常に危うい立ち位置にあります。世界中の国々が虎視眈々と狙っているのです、不知火群島国を。もっと言えば、そこでご活躍中のタクマさんを」

 

拓馬様が狙われる……ワタクシが幼少の頃からお慕いしていた拓馬様を、ここ一年でお知りになったニワカの方々が恐れ多くも無遠慮な手で触れる……

ああ、走ります、虫唾が光の速度で疾走します。殺虫しなければなりません。しっかり罪を悔い改めていただき、人として生まれ変わっていただかなければ。

 

「節操の無い国はタクマさんを我が物にせんと誘拐を企てるやもしれません」

 

「それを阻止せんと入国審査の厳格化を進めております」

 

「完全なシャットアウトなど国際化社会ではナンセンスです。他国からの流入を防ごうとも穴は出来てしまいます。拙が身をもって示しましたように」

 

「実証されては言葉に詰まります。お止めした空港職員の目を掻い潜って、無理矢理入国する御方もいらっしゃる。今後はそのような傍若無人なケースも想定させていただきますね」

 

「タクマさんをお守りするには現状の方法では(ぬる)いのです。由良様、最悪なケースを考慮して対策を立てましょう」

 

最悪のケース、虚しい言葉です。

拓馬様の関わる事象はいつもワタクシの想定の斜め上をかっ飛んでいきます、対策なんぞ易々とお破壊なされるのです。心労でワタクシも何度壊されたことか…………あら、拓馬様に壊される…………改めて考えるとアリですね、ふふふ。

 

「ふぅ、最悪なケースのための安全保障体制ですか。たしかにブレイクチェリー女王国と安全保障体制を構築すれば、我が国を直接狙う輩は少なくなるでしょう。心強いです……けれど、ブレイクチェリー女王国は何を期待されているのですか? 身を挺していただくのです、対価は相当なものと考えますが」

 

「タクマさんは人類の宝です。損得勘定抜きで守りたいと思うのが人の(さが)ではありませんか」

 

「あらあら、今夜のイルマ様はお戯れが過ぎますね。お互い多忙の身、包み隠さず率直に意見を交わしませんか?」

 

ゴゴゴ――と軽くイルマ様の眼前を鳴らしてみます。普通の方なら悲鳴と共に尻もちをお付きになるのですが、イルマ様は動揺せず肩をすくめるだけでした。

 

「失礼しました。タクマさんへの保護欲はもちろんありますが、一番は利権です。我が国も不知火群島国と同様にタクマグッズを融通していただきたい、『タクマといっしょう』のような大規模なイベントも同様に開催していただきたい。タクマさんのホームである不知火群島国が、タクマ関連で優遇されるのはごく自然の事です。その一部を我が国にも享受させていただけないでしょうか」

 

グッズやイベントのために命を懸けて他国を守ると――なるほど、道理です。

 

「この場で即答は出来ませんが、一考の余地は十分にあります」

 

「ありがとうございます、是非によろしくお願い致します」

 

「しかし、ワタクシには分かりません。この提案のために当家にお越しになったのですか、わざわざ隠れるように入国してまで」

 

「お恥ずかしい話、ブレイクチェリー女王国は一枚岩ではありません。未だに女尊男卑で男性を資産のように捉えるカビの生えた方も居るのです。そのような者へ妨害する隙を与えないよう、拙はフットワーク軽めに動いております」

 

フットワーク軽めにアポ無しで国を跨がれては、ワタクシ共も困るのですが……

 

「それにです、先に述べました通り拙は不知火群島国と融和したいと強く望んでいます。元は同じ地で暮らし、同じ水を飲んでいた者同士、きっと拙たちは真に()()となれるはずなのです! 一刻も早く両国の手を繋ぎ脳を整えたい、拙はそのために邁進したいのです!」

 

今夜は無風、外の草花はひっそりと佇んでいます(夜目確認)。それなのにガタガタと窓が揺れました、イルマ様から迸る気が周囲に漏れてしまったのでしょう。

ワタクシの心がざわつきます。イルマ様には凄みがある。ヤルと言ったらヤル、暴走した拓馬様に通じるモノがあるのです。

それにしても『脳を整える』とはブレイクチェリー女王国の慣用句でしょうか、寡聞にして存じ上げません。

 

「イルマ様の崇高な御心は尊敬に値します。なればこそ、事は慎重に運ぶべきでしょう。信頼できる者の意見に耳を傾け、軽挙は避けるべきかと」

 

「お心遣いありがとうございます。それで由良様、融和政策の一環として拙は他の四領にもご挨拶に伺いたいと考えております」

 

「えっ!?」

 

「不知火群島国は形式上由良様が国主の扱いとなっていますが、他の領主の方々も同列のはず。ご挨拶は絶対の礼儀です」

 

「そ、それでしたら領主一同が会する席を設けますので、そこにイルマ様もご出席するのは」

 

「御多忙な領主の方々にご足労いただくわけにはいきません。発案者の拙が足を運ぶべきでしょう。それに今後は経済連携を強化していくのです、各領の特色をこの目で見ておきたいと思います」

 

もっともらしい理由を次々と……イルマ様の意図が読めません。

拓馬様にお会いすべく南無瀬領訪問の口実を作りたいから――と邪推してしまうのはワタクシが頭拓馬様だからでしょうか。しかし、回りくどい。拓馬様を狙っているのなら、今夜のようにアポ無しで南無瀬邸を訪れれば良かったはず。でしたらイルマ様は純粋に不知火群島国との関係強化を願っている……? いいえ、イルマ様とて頭拓馬様のはず、邪な思いの十や百は抱えているはずです。ワタクシがそうなのですからイルマ様も例外ではありません……ってもしかして先日挙げた結婚式(仮)をモノホンとカウントして余裕ぶっていらっしゃいますか? 拓馬様とはすでにゴールインして強固な絆を作っているからガツガツいく必要はないとかお高くとまっていらっしゃる? あらあらぁぁぁ? ワタクシ困ってしまいます。とんだお勘違いをなさっているのでしたら矯正さしあげなくては――

 

「――ゆら……さ……ま、由良……さま……、由良様、大丈夫でしょうか?」

 

「っ!? 失礼しました。ワタクシったら自分の世界に入ってしまったようで」

 

「いいえ、こちらこそ申し訳ありません。お疲れのところ数々の施策を提案してしまい」

 

イルマ様が頭を下げてきますが、やはり分かりません。本当にすまないとお思いなのか、それともただのポーズなのか、彼女の根本を知らずして融和など不可能。

 

……………………致し方ありません。

グツグツと煮えくり返るものを感じながらワタクシは。

 

「そう言えばイルマ様。ワタクシ、これから拓馬様にお電話する予定なのですが、よろしければイルマ様も同席しますか?」

 

拓馬様と接触させて、イルマ様の根本(拓馬様へのスタンス)を探ることにしました。なお、直接接触させるのは拓馬様の安全とワタクシの脳がどうにかなりそうなので断固拒否です。

 

「大変有難いお話ですが……お電話? お会いしに行かないのですか? ここから徒歩数分の館からタクマさんの気配がしますが」

 

あらあら、イルマ様がいらっしゃらなかったら直接お会いしたのですよ、今頃拓馬様との時間をゆルりと過ごしていタのですよ、本当にこノ御方は困ったさんデスね。

 

「夜も更けてまいりました。これから殿方の元へ向かうのは礼を失するでしょう。ワタクシは拓馬様と頻繁にお会いしているので、たまのお電話も乙なものでございます(ギリッ」

 

「さすが由良様、拓馬様をお相手にしても淑女の振る舞い。拙も見習いたいと思います」

 

拓馬様と突然のコミュニケーションを前にしても、今のところ冷静そのものですか……やりますね。

その態度がどう豹変なさるか、じっくりと見定めさせていただきましょう。

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