『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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落ちた怪人、堕ちる半魚人

南無瀬市民会館の舞台にて、サカリエッチィ散る。

 

あの事故から一時間が経った。

母子たちは家路につき、観客席は先ほどまでの熱量が嘘だったかのようにしんと静まり返っている。

舞台の片付けをするスタッフたちの顔に、公演をやり切った達成感はない。

みんな押し黙って動く、まさかこんな光景を拝むことになるとは……

 

 

『みんなのナッセー』の特別公演は首の皮一枚で成功した、と言える。

サカリエッチィの落下が公演の終盤だったのは、不幸中の幸いだった。

あのハプニングはあくまで台本通りである。そう装って、エンディングに突入し早々に舞台の幕を下ろした。

無論、幕引きの合間に手の空いたスタッフが舞台下で倒れているサカリエッチィに駆け寄り、意識の確認や怪我の有無を確かめていた。

結果、サカリエッチィさんは腰と足の痛みを訴え――

すぐさま救急車が呼ばれ、病院へと連れていかれた次第だ。

 

 

南無瀬組男性アイドル事業部の面々と共にサカリエッチィさんが落下した現場に立つ。

 

「なんで、サカリエッチィさんは落ちたんでしょう? 練習では何事もなかったのに」

 

わけが分からなかった。

本番で見せた大きなふらつき。サカリエッチィさんに何が起きていたというのだろう。

 

「今更気にしてもしゃーない。それより拓馬はん、今日は疲れたやろ、そろそろ南無瀬邸に戻ろか」

俺の戸惑いを受け流し、真矢さんが飄々と口を開いた。

 

ダメだぜ、真矢さん。

話題変換があからさま過ぎる。こんな態度を取ると言うことは、

「俺に原因があるんですか。もし、落下の理由を知っているなら聞かせてください。お願いします」

 

俺のまっすぐな視線にたじろいだ真矢さんは「はぁ、しもうたなぁ」とため息一つ、態度を改めた。

 

「……つい今し方、戦闘員はんたちに聞き取りしたんやけどな。サカリエッチィはん、かなり無理をしていたんや」

 

「無理?」

 

「コラボ劇のために興奮抑制剤を過剰に摂取していたり、他にもあえて身体に傷を作りそこに塩を塗って練習や本番に臨んでいたんやって。なんでそないな事をしたんか、説明が要る拓馬はんやないやろ」

 

っ!? 

そこまでの悲壮な決意で、あの人は舞台に立っていたのか。

 

椿さんが言う。

「男性を拘束し、くすぐりの限りを尽くす。三池氏を己の手で弄べるとなれば常人なら三秒で理性が溶ける。むしろ練習時はよく耐えたと賞賛するレベル」

 

「でも、そこまでの対策をして本番で前後不覚になったのは……」

 

「色々な三池さん要素を長時間受け続けた結果ですけど、特筆して語るとすればフェロモンですよ」三池さんマイスターの音無さんが真面目モードで解説する。

「本番の舞台は長時間スポットライトに当たりますので、練習以上に汗をかきます。それに、大勢の観客と対面することで緊張もします。これらが合わさって、いつも以上のフェロモンが三池さんからだだ漏れだったんです」

 

「ぎょたく君氏の衣装には芳香剤が仕込まれているとはいえ、本気になった三池氏のフェロモンを誤魔化すことは出来なかった」

 

「それが練習で崩壊寸前まで追い詰められていた理性にトドメをさしたんやな。けど、うちは尊敬するで。我を失ってもなお拓馬はんを襲わず、舞台に散ったサカリエッチィはんを」

 

「性欲をおして出演し、舞台に殉じるか……あたしには出来ないな」

 

怪我をおして出場し、グラウンドに殉じたスポーツ選手を弔うかのように、切なげに呟く音無さん。

冷静に考えるといろいろツッコミたくなるのだが、場の雰囲気を読んで俺は神妙な顔をするのであった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「タッくん……」

天道咲奈が近づいてきた。

本当なら、明日に迫った『魔法少女トカレフ・みりは』の準備のため、彼女は早々に南無瀬市民会館を後にする予定である。それが、トラブルの影響でまだここに留まっていた。

自身が所属する劇団には事故について一報を入れたらしい。今頃、劇団の方では明日の本番に代役を立てるかどうするか大慌てになっていることだろう。

 

「サカリエッチィさん、大丈夫かな」

顔色が優れない、無理もないか。

 

魔法少女みりは役の天道咲奈、サカリエッチィ役のサカリエッチィさん。

二人はヒーローと悪役という密接な役柄で、不知火群島国の島々を渡り歩き公演を行ってきた。

おそらく二人の間には、年齢差を超えた強固な仲間意識や友情があったのではないか。友人の苦境と自身の劇団の苦境、その二つが幼い主役の肩に乗せられていると思うと、不憫という言葉一つで表してはいけない同情心を持ってしまう。

 

天道咲奈と深く関わるべきではない。

それは承知しているが、この状況で「へえ大変だね、でも俺には関係ね~し」と冷たい態度を取れるわけないだろ。良心の呵責で寝込んでしまうわ。

 

俺は真矢さんたちに目配せをして、席を外してもらうようお願いした。

ダンゴたちは少し不満そうだったが、今までになく弱気な天道咲奈の様子を見て、遠巻きに護衛するスタイルに切り替えてくれた。

 

天道咲奈と二人っきりになって……さあ、何と言おう。

「サカリエッチィさんは平気さ、大した怪我はないよ」と気軽に喋ることが出来たらどんなに良いか。

救急隊員に担架で運ばれる時のサカリエッチィさんの痛々しい姿が、根拠のない慰めを許してくれなかった。

 

舞台からの落下。

演劇を経験する者として、何度か耳にした話だ。

何事もなくすぐステージに復帰した人もいれば、両足を骨折して数ヶ月の入院を余儀なくされた人もいる。

サカリエッチィさんは後者の様態に近い気がした。

 

「サカリエッチィさんのことは……分からない」俺は正直に答える。

 

「そうだよね。ごめんね、お姉ちゃんったら変なこと訊いて。タッくんは気にしないで。サカリエッチィさんが明日出られなくても何とかなるから」

 

何とか、か。

サカリエッチィはゲテモノのマスクを被ったキャラクターだ。顔が隠れているので、別人が演じていても一見様では分からない。

また、原作アニメの声優さんが声を当てているため、台詞を覚える必要がない。

考えてみると、意外に代役を立てるのは難しくない。

代役候補を挙げるとすれば、戦闘員の中の人なんてどうだ?

サカリエッチィと同じ場面に登場しているから、動きを覚えているかもしれない。適役だな。

 

ふむふむ、明日の本番、イケそうじゃないか。

 

俺が楽観したところで、

「咲奈ちゃん、ちょっと」

戦闘員のスーツを着た女性が話しかけてきた。格好からして、『みんなのナッセー』のスタッフではなく、天道咲奈が属する劇団の関係者のようだ。

 

「サカリエッチィのマスクを見てないかしら?」

 

「えっ、マスク? ううん、見てないよ」

 

「そう……困ったわ。あれがないと、サカリエッチィ役を引き継げない」

 

「マスク、ないんですか?」俺が会話に割り込むと、戦闘員さんはギョッと顔を赤らめ半歩下がった。

 

「え、ええ。先ほどから探しているのですが、どこにも?」

 

「サカリエッチィさんと一緒に病院へ運ばれたってことは?」

 

「病院の方にも問い合わせましたが、ないそうです。救急車の中も見ていただいたのですが……」

 

ハリウッドでも使われそうなやたらとクオリティの高いクリーチャーマスク。落ちていたらすぐ目に付くと思うが、どこにもないとは不思議だ。

俺の記憶では、サカリエッチィさんは素顔で救急車に乗せられていった。舞台落下から運ばれる間に紛失したということか。

 

ミステリアスな事態に俺たちは頭を悩ませたが、答えはすぐに知らされた――凶報という形で。

 

 

 

「タクマさん、ここにいらしたのですね」

 

舞台に直接関わっていないはずのフグ野サザ子さんが、俺たちの下へやって来た。

あれ? ここは部外者立ち入り禁止のはず。

いくら協賛の代表者とはいえ、南無瀬組の警備班がよくサザ子さんを通したな。

もしや、通すだけの何かを持っているのか?

 

すっかりマブな間柄になってしまった嫌な予感さんを抑えつつ、俺は「どうかしました?」と不安混じりに尋ねる。

 

「皆さんにお伝えしなければいけないことがありまして。これを……」

 

サザ子さんが渡してきた物が何なのか、最初はよく分からなかった。

それもそのはず。

見た目は、計画性なく作ったお好み焼きのような物体。

引っ張られたり、切られたり、踏まれたりでボロボロになっており、原型を察知するには相当な想像力が必要としていた。

 

「ああっ!?」俺より先に天道咲奈が気付き、自分の口元を両手で覆う。

「まさか、そんなっ!」数秒遅れて戦闘員さんも同様のポーズを取る。

彼女たちの反応で、俺にもそれの正体を察することが出来た。

 

天道咲奈がブツを受け取り、悲しそうに抱きしめる。

「これ、サカリエッチィのマスク……こんなの酷いよぉ」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

サザ子さんの話を要約すると、こうなる。

 

特別公演が終わり、市民会館から出てきたサザ子さん。

そこで高校生くらいの少女たちが、会館の裏手に向かうのを目撃する。

後ろ姿に引っかかりを覚えたサザ子さんがこっそり付いていくと、少女たちは人気のない所で止まり、何やら物を取り出して攻撃を始めた。

その物こそがサカリエッチィのマスクであり、器物破損を行った少女たちこそ俺が危惧していた『特好(ぶっこのみ)のタク』であった。

 

『特好のタク』らは、観客席の前方に座っていた。

そして、サカリエッチィの落下時に混乱する現場に近づき、ドサクサに紛れてマスクを手に入れたらしい。

その後、舞台で俺とイチャイチャしていたサカリエッチィへ怒りが湧き、腹いせでマスクを破損させた、とのこと。

俺たちが必死で画策したサカリエッチィへのヘイト緩和対策を以てしても、過激ファン集団の凶行を止めることは出来なかったわけだ。無念である。

 

マスク入手の経緯に関して、元々マスク狙いでサカリエッチィの落下現場に接近したのか、最初は介抱しようと思っていたところ魔が差したのか、それは分からない。

 

「あの子たちは、ワタクシの方でメッと怒っておきました」

そういうわけで(メッ)された『特好のタク』らから詳しい事情を訊くのは後日になるだろう。

 

ウーウー。

おっと、遠くからサイレンが聞こえてきた。警察か救急車か、どちらにしても『特好のタク』はしばらくシャバに出られないな。

 

「うちの方でファンクラブ運営に連絡入れとくわ。アホやった輩は全員除名や」

 

横で真矢さんが憤慨しているおかげか、俺自身は怒りを覚えなかった。

それよりも、マスクを抱きかかえたまま、顔を伏せる天道咲奈が気になって仕方なかった。

 

 

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんは行くね。明日の舞台、何とかするから見に来てね」

天道咲奈が儚い笑みを残し去っていく。

 

「あ……」

「ん? なにタッくん」

「いや、その……舞台、応援しているから」

「えへへ、ありがと」

 

不安とプレッシャーで押し潰されそうな少女に俺は気の利いた励ましすら言えなかった。

 

天道咲奈ら劇団のメンバーがいなくなり、特別公演の片づけもあらかた終わり、周囲が閑散とする。

 

「三池さん! いろいろありましたけど、今日はパーッと打ち上げしましょうよ。ねっ! あたしがとっておきの宴会芸を披露しちゃいますぜっ」

 

暗い雰囲気もなんのその、音無さんはどんな時も音無さんである。たまに煩わしい彼女の行動が、今は有り難く感じた。

このまま音無さんのテンションに乗っかり、何も気にせずドンチャン騒ぎしようか。

それはとても魅力的な選択だけども……

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

市民会館を出ると、すっかり夜になっていた。

晩秋の夜空は透き通っていて、星々が綺麗に輝いている。

一瞬「明日の天道咲奈の舞台が上手く行きますように」と星に願おうかと思ったが、自分の無力さを痛感するだけのような気がして止めた。

 

「タクマくぅん。良かった、まだいてくれたのねん」

『みんなのナッセー』フロアディレクターの心野乙姫さんが、帰り際の俺たちを呼び止めた。

会館から漏れる明りに照らされ、トレードマークの青髭がダークブルーに渋く見える。

 

「たった今、病院からサカリエッチィさんのことで連絡があったのん」

 

「えっ! だ、大丈夫なんですか?」

 

「それがねん、強く打った足や腰に骨折はないみたいよん」

 

ホッ、と張りつめていた空気が緩んだものの、次の報告でまた張り直された。

 

「だけどぉ、打撲箇所がいくつかあるみたいで身体を動かそうとすると激痛が走るそうよ。お医者様の話では、数日は絶対安静にするように、だってぇ」

 

数日の絶対安静。

その言葉は俺の中で重く受け止められた。

とてもじゃないが、明日の『魔法少女トカレフ・みりは』の舞台に参加出来ないってことか。

 

いや、もし参加出来たとしてもサカリエッチィのマスクがない。

あれはパーティーグッズショップで売っているマスクとは違い、特殊技巧を集めて作った特注品だ。

コラボ劇の時にみりはが、サカリエッチィの腹を執拗に殴っていたのも、顔のマスクを壊さないための配慮だった。

簡単に代えを用意は出来ない。

 

「咲奈さんの劇団はどうやって明日の舞台を行うんでしょう?」

 

誰に向けたものでもない俺の問いに、椿さんが答えた。

 

「公演中止はないとして、考えられるのは二つ。サカリエッチィに代わる悪役を出すか、クオリティの低いサカリエッチィのマスクを作るか」

 

「その二つのどちらかをやれば、ピンチを乗り切れるわけですか」

 

「難しい。『魔法少女トカレフ・みりは』の舞台ポスターには大きくサカリエッチィが載っている。観客の多くがサカリエッチィとみりはの対決を楽しみに観劇しに来る。代わりの悪役を出すのは論外、低クオリティのマスクでお茶を濁すのも悪手。そもそもあの舞台はすでに他の島で上演され、ネットには上々の評価と感想が溢れている。南無瀬領だけ不出来な舞台をした場合、叩かれるのは火を見るより明らか」

 

どう取り繕うとも非難は避けられそうにないか。

 

「あっ、それとねん。意識を取り戻したサカリエッチィさん、ずっと泣きながら謝っているそうよ。同じ劇団の人やタクマくぅんの名前を言いながら、ごめんなさい、ごめんなさいって」

「……そうですか」

 

サカリエッチィさんが落下した原因の一端は俺にあり、サカリエッチィのマスクが使い物にならなくなったのは俺のファンのせいだ。

責任を感じてしまう。

 

つい数時間前のこと。

 

「もうすぐ本番ですね。て、手荒なことをしてしまいますが、極力穏便になるよう用心しますので……よ、よろしくお願いします」

「こっちのことはあまり気にしないでください。悪役のサカリエッチィさんがビクビクした演技をしていたら、緊迫感のない舞台になっちゃいますよ」

「で、でも」

「タッくんがこう言っているんだし、思いっきりやっちゃっていいですよ。その方が助けに来たお姉ちゃんをタッくんは強く求めるし……ふふ。あ、でもタッくんを傷物にしたらわたし、怒っちゃいますからね」

 

俺と天道咲奈とサカリエッチィさんは、直前に迫ったコラボ劇に対して互いを励ましたり脅したりと、微笑ましいやり取りをしていたのだ。

それが僅かの間に、一人は怪我をして周囲に迷惑をかけたと苦しみ、一人は暗雲たる未来の重圧に苦しむことになってしまった。

一回きりの舞台仲間とはいえ、彼女たちの苦境から目を背けるのか。他人事だと割り切り、コラボ劇お疲れさまと音無さんたちと打ち上げをするのか。

 

ふざけるなよ。

 

「椿さん、さっきの話ですけど。明日の舞台、観客の多くがサカリエッチィとみりはの対決を楽しみに観劇しに来る。代わりの悪役を出すのは論外って言いましたよね」

「肯定する」

「なら、観客が満足する悪役を代役に立てればどうですか?」

「ちょ! 拓馬はん!? なに言っとんのや!」

「コラボですよ」

「へっ?」

 

真矢さん、椿さん、音無さん、オツ姫さん、四人を見渡して俺は声を張った。

 

「『みんなのナッセー』の舞台に魔法少女みりはがコラボ出演したように、『魔法少女トカレフ・みりは』の舞台にぎょたく君がコラボ出演するんですよ」

 

唖然とする四人、真っ先に復帰した真矢さんが唾を飛ばす勢いで「ま、待ちぃ! ぎょたく君は南無瀬領で今もっとも愛されているキャラやで。それを悪役で使うんか!」

 

「はい、ぎょたく君には闇堕ちしてもらいます」

 

今日のコラボ劇でぎょたく君はヒロイン役だったが、俺としては悪役の方が似合うと思う。見た目、半魚人だし。

あれだ、戦隊もので言うなら主要登場人物の顔見せが終わった七話くらいに出てきて、キャラを深掘りする個別エピソードの片手間に倒される役割が丁度いい。

 

「三池さんが、悪役」

「男性が悪事を……なんというアブノーマル」

何を妄想したのかじゅるりと涎を垂らすダンゴ共。

 

「ぎょたく君のコラボに関しては反対はしないわよん。こちらとしても、『みんなのナッセー』の特別公演でサカリエッチィさんを怪我させちゃった負い目があるものん。でも、悪役というのは」

「どうにかします! 最終的には更生して真半魚人(まにんげん)になる、みたいにすれば良いですよ」

「ふぅん、まあそれならオーケーかしらぁ」

 

よし、『みんなのナッセー』のスタッフからGOサインはもらえそうだ。

 

「拓馬はん、こないな事は言いたくないんやけど……ええんか、あの子を助けて」

 

ここで天道咲奈に手を貸せば、天道家に気に入られる。俺を婿にしようとする動きが活発になってしまうかもしれない。

真矢さんが心配するのも当然のことだ。

 

「ご忠告ありがとうございます。でも、決めました。咲奈さんは天道家からの刺客ですけど俺の舞台仲間なんですよ、見捨てられません」

「お人よしやな。コラボが上手くいったとして、感激したあの子が迫ってきたらどうするんや?」

「セメント対応します、が、頑張って」

「頼りないなぁ、まっそん時はうちが横からチクチク小言を言って、拓馬はんを守るわ」

 

真矢さんが手のかかる子を見る目を向けてくる。「お手数かけます」俺は頭を掻いた。

 

話は決まった。

これから『魔法少女トカレフ・みりは』が上演される南無瀬芸術劇場に行き、天道咲奈の劇団にコラボを持ち掛ける。

もし、了承されれば突貫準備だ。本番は明日だから不眠不休になるだろう。

 

「打ち上げは延期ですね」

宴会芸を見せると張り切っていた音無さんが隣に立つ。残念な素振りはまったくなく、柔らかな笑みを浮かべている。

「ええ、その分、明日の舞台後は大いに盛り上がりましょう。みんなで」

俺は力強く返事をした。


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