『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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お見合いへの道

VIP用観覧ルームだけあって、その道すがらは警備が厳重であった。

ジェントルマン風に変装し身分を隠した俺が、簡単に通ることが出来たのかと言うと……

 

「やあ、お嬢さんたち。警備のお仕事ご苦労様(低音)」

 

「きゃあ! ナイスミドルきたこれ! 妙に若々しい匂いと声帯が気になるナイスミドルきたこれ!」

 

「ちょっと通してもらえるかな(重低音)?」

 

「いいとも~」

 

このように簡単に突破できた。

 

 

VIP用観覧ルーム。

壁一面が複数のモニターになっている室内へと足を踏み入れる。

まるで怪獣映画の作戦指令室のようだ。モニターにはこのお見合い会場(コロシアム)の各ポイントの映像が流れている。

 

「あの子たちは何をしているんですか?」

南無瀬組の他に人はいないのでダンディボイスを止め、俺は一つのモニターを指さした。

教室が映し出されており、筆記試験の真っ最中のようだ。数十人の少女が必死になって答案用紙を埋めている。

 

「ちょっと待つでござる」陽南子さんが観覧机に置いてあるファイルを手に取った。

「この時間で、あの教室で行われているのは……古代大陸史のテストでござるな」

はっ? テスト? それがお見合いとどんな関係があるんだ?

 

「どうやら歴史好きの殿方が結婚相手の条件として、歴史に詳しいことを要求したでござる」

 

「お見合い……なんですか、それ?」

 

「正確にはお見合いの前段階でござるな。殿方が求婚者全員とお見合いしていたら精神的圧迫で胃が終わるのは明白。しからば、前段階で求婚者をふるいに掛けるまで、そういうことでござるよ」

 

やだ、予想通りっちゃ予想通りだけど、俺の世界のお見合いより殺伐としてそう。

 

「ちなみにあの試験では、八十点以上が次に進めるでござるよ」

 

「ひぇぇ……じゃ、じゃあ、あれもお見合い選抜ですか?」

 

リングの上で少女二人が取っ組み合いをしている。激しくぶつかり合い、相手の懐に入り込もうと素早く身体を動かし続ける様子は、レスリングを彷彿させた。

鬼の形相をした女と女のガチな闘いだ。格好がレオタードなのにまったく興奮しない。

 

「結婚する相手に強さを求める殿方もいるでござる。どこの馬の骨とも知らぬダンゴより伴侶に護衛を頼むために」

 

「……っもう! そういう人がいるから、あたしたちダンゴはいつも就職難なんですよね」

「悲しい現実。私たちは真面目に護衛対象を守っているだけなのに」

 

確かに音無さんや椿さんを見ていると、ダンゴより信頼出来る奥さんに護衛してもらった方が良いような気がするな、うん。

 

「ちなみに参加者三十二名で、たった一日で全試合消化するワン・デイ・トーナメントの大会でござるよ。インターバルはなし。如何に体力を消費せずに勝ち上がるか、と作戦がものをいい、何よりタフネスが必須の過酷な闘いでござる」

 

想像以上にバキバキしたルールらしい。お見合い条件を決めた男子は、自分が夜のマットで組み伏せられるとは考えなかったのだろうか。

 

さらにモニターを観ていくと、楕円テーブルに付きカードゲームをする少女たちを発見した。張り詰めた空気がこちらまで伝わってきて、まったく遊んでいるようには思えないが。

 

「カードゲームでお見合い者選定?」

(しか)り」

 

陽南子さんが説明したゲームのルールは、絵札や役の種類が違うだけでポーカーとほぼ同じ内容だった。

 

「凄い! さっきからみんな、スリーカード以上の役を出してるよ」

「何たるハイレベル。全員が全員、カードに愛されているのか? いや、男子への性愛(あい)で無理やりカードを引き寄せているのか」

「なわけあるかい。多分、イカサマしとるで、そうでないと説明がつかへん」

 

うちのダンゴやマネージャーらギャラリーまでもが手に汗握るカードバトルだ。

目の錯覚だろうか……少女たちがオカルトなオーラを纏って、カードを場に出す際に指先から雷を放ったり、腕にトルネードを巻き付けたりしている。

こわっ、学校を卒業する前に人間を卒業するんじゃないよ、なんか瞳から炎が出ているし。

 

「頭脳も身体能力もいらないから、とにかく運が強い人と結婚したい……ってわけですか。あの選抜は?」

「いえ、あれは観察眼や直感の強い人を選ぶ試験でござるよ。最初の伴侶がその辺り優秀でござると、二人目以降の嫁選びが楽になる故」

「はぁ……男子も色々考えているんですね」

「タクマ殿が言う運の強い人を選抜する試験もあるでござる。クジ引きで一等を取った人とお見合いする、実に思い切った試験でござるよ」

その方法を考えた男子は、思い切ったのではなく、単に自棄(やけ)になったのではないだろうか?

 

 

選抜会を見ながら無意識に後退する俺――に、陽南子さんはお見合いについて多くを説明してくれた。

 

不知火群島国のお見合いは就職試験のようなものだ。

男子たちが結婚相手の条件を提示し、お見合い指定校の女子たちは自分の能力を(かんが)み、嫁げそうな男子のお見合い試験に募集するのである。

 

例えば『えさお君』という男子がいたとしよう。

食べるのが大好きで、面食いのえさお君。

彼は『料理上手で容姿が整った女性』を結婚相手の条件にした。

その募集要項を見て、自分とマッチングすると思った女子がエントリーし、えさお君のお見合い相手選考が始まるのである。

 

東山院には仲人(なこうど)組織があり、彼女らがえさお君の意向を正確に取り込んだ選抜方法を作り上げ、運営する。

果たしてエントリーした女子たちは、料理バトルやモデルショーで争い、えさお君の待つ場所を目指すのだ。

 

勝ち上がる分には良いが、負ければ悲惨である。

えさお君の食べ物の趣味を調べ、その料理を練習した時間。

えさお君が何フェチかを把握し、その部分を強調したファッションを買い集めた費用。

それらが無駄になってしまう。

 

特に痛いのが時間である。お見合い指定校にいられるのは三年間。

えさお君の選抜のために数カ月を使って、結局無為に過ごしたも同然となれば大きな痛手となる。

複数の男子を同時に狙うダブルエントリーは禁止されているため、また一からお見合い活動を行わなければならない。

 

蚊帳の外にいる男の俺だが、落ちた女子たちの胸中を想うと居心地の悪さを感じてしまった。

 

 

お見合い会場(コロシアム)の至る所で行われている、男子一人一人に合わせた選抜試験――それを眺めて「おかしくないですか?」俺は声を出した。

「この国って男女比1:30なんですよね。で、お見合い指定校の女子たちって、国中から選ばれた優秀な人……合格率うん十倍をくぐり抜けて入学した人たちでしょ。なら、お見合い指定校と男子校の生徒数ってそんなに変わらないんじゃないんですか? 選抜を見ていたら少ない男子をたくさんの女子が奪い合っているように感じるんですけど」

 

真矢さんがため息混じりに答えた。

「この国の男子が全員男子校に入学するわけやない」

「えっ?」

「入学義務があるのは未婚(・・)の男子だけ。高校入学前に既婚(・・)となった男子は入学を免除されて悠々自宅学習や。考えてみ、女子たちが自分を巡って争うのを間近で見せられて、自分はその合否の判断をしなければならない。不合格になった子の絶望した顔なんて目撃した日には、男子でも鬱になってまうわ……でっかい負担や。そういうのが嫌で、男子校に入学する前に親の紹介か何かで手堅く結婚する男子は多いで。それでな……」

 

真矢さんが言うには、入学拒否する男子の割合は年々増えているらしい。

昔はお見合いの苦しみを考慮しても、同年代の同性と過ごしたい。と思う男子たちが入学していた――が、ネットワークが発達し、わざわざ男子校に入らなくても同年代のコミュニケーションが取れるようになった。それが男子校とお見合い指定校の人数差を広げ、女子たちを死に物狂いにさせているのだ。

 

東山院に来て早々、男子校とお見合い指定校の重い現状を見せつけられたような気がして目まいを覚えてしまう。

俺、この島でちゃんとやれるかな……

 

 

「おっ、タクマ殿。ちょうど最終選抜(お見合い)が行われるでござるよ。今、メインモニターに出すでござる」

 

陽南子さんが機器を操作すると、一番大きなモニターに畳の上で正座する男女の姿が映った。

お互いクリーニング直後のようにシワのない制服を着て、かしこまっている。実に(おごそ)かな雰囲気だ。

 

良かった、ようやく俺の知っているお見合いっぽいぞ。

 

モニターに注目していると、後ろのVIP観覧ルームの扉が開いた。

誰かが入って来る。ここは俺専用の部屋ではない、VIPなら誰でも入室出来る。

 

音無さんと椿さんが俺を守るように立った。

 

「あ……し、失礼します。まさか男性の方がいるなんて……」

南無瀬組のプレッシャーに当てられ、その人物は観覧ルームの端の方へ移動する。

 

……な、なにぃ……なんでここに?

俺はお見合いの映像を観るのも忘れて、入室者をガン見してしまった。

 

知っている、その赤毛のショートヘアーを俺は彼女を知っている。

会うのは初めてだが、彼女をいつもテレビで観察しているし、彼女の妹との電話でもたまに話題に上がっていた。

 

「……あの、何か?」

まずい、見つめ過ぎたか。

 

「い、いえ……うおっほん」俺がタクマだと知られれば面倒なことになる。このままナイスジェントルマンで通そう。「ごほん、もしや、あなたは……アイドルの?」

「はい! 男性の方があたしを覚えてくださっていて、その、嬉しいです」

 

たまに出るバラエティでは強気な発言が目立つ彼女だが、今は男性の前なのでかとても礼儀正しい。猫を被っているのか、それとも素なのか。

 

「申し遅れました。あたし、天道紅華です」

そう言って、俺が勝手にライバル視している天道紅華は丁寧なお辞儀をした。

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