底辺ウマ娘が異世界転移したら何気にチート臭かった件   作:うひひゃう!@

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6/24主人公の名前を修正。


1回 トットーリ開催
1R それでもどっこい生きてやる!


「何がよ~しだっ! ぶっ潰す!!」

「ええええ~っ!?」

 

 

 思えばあたしの人生、一番のピークがあの瞬間だったな。

 

 

 後のG1娘相手に僅差の二着。周囲があたしをもてはやし、褒め称える一方でトレーナーだけは冷静にあたしに現実を突きつけてきたっけ。せっかくベスト5に入る名門チーム「エストレージャ」に補欠とはいえ入れたというのに、あたしって奴はその機会を初出走で調子に乗り、挙句無駄にしてしまったんだ。

 

「クイーンベレー、お前にはデビュー戦の時に渾身の仕上げを施して送り出してやる。そこで勝てればお前の将来はある程度見込めるだろう。無論、自分でも分かっているとは思うがG1でどうこういうレベルにはなれる才能はない。だが勝てば準オープン位までは道が開けるだろうが、もし負けた時は、その後の見込みは正直全く無い。ぶっちゃけてしまえばこれは賭けだ。負ければそこでアウトだという事を肝に命じておけ。初戦で無理をしたお前に未勝利を勝ち上がる力さえ残らないだろう。その時は身の振り方を考えておくように」

 

 そう言って才能の無いあたしに親身になって送り出してくれたトレーナーの顔を潰した訳だからあたしが悪いのは自覚している。それに正直、才能が無い事なんてあたし自身が一番分かっていた。それでも、G1は無理でも準オープンまで上り詰めれば賞金だけで自立して食ってはいける。それだけじゃなく、田舎で待ってる年老いたばっちゃの分くらいはかつかつでも稼げる筈だったんだ。

 

 

 

 北海道の鵡川にある片田舎の小さな牧場であたしは生まれた。母親が育児放棄して田舎から出て行ってからあたしはばっちゃに育ててもらった。幸いばっちゃの家は多産で当時はまだばっちゃの子供もあたしと同じ位小さな子がいたから、もののついでとばかりにあたしを二つ返事で家族として受け入れてくれた。その事にはとても言い表せない程に感謝している。

 

 ばっちゃはあたしをトレセン学園に入れる為に朝から晩まで一生懸命に働いてくれた。直前には浦河にあるUTCという施設でトレーニングまでさせてくれたんだ。あそこは一日数百円でトレーニングさせてくれるけど、そこまでの送り迎えやなんかも合わせると一体いくら使ったのか見当もつかない。もっともUTCを保育園代わりにあたしやばっちゃの子供を預けてパートの仕事に出かけていたのだから、収支は黒字だよと言っていたっけ。

 

 

 

 いずれにしても、そんな思いであたしをトレセン学園に送り出してくれたばっちゃの期待を裏切る結果を出してしまった。それは戦績の事だけではなく、

 

「惜しかったね」「次は勝てるわよ」「期待の新人相手に二着なら上等だよ。次は勝てるっ!」

「残念だが次など無い」

 

 慰めてくれる仲間たちであったがトレーナーは冷たい視線であたし諸共彼女らを凍りつかせる台詞を放った。

 

「この馬鹿者が! 余計なダーティーファイトをしなければ僅差とはいえ勝てていたかも知れんのに。お前の敗因は相手を舐めてかかって自分のレースに集中しなかった事だ。汚い勝負を仕掛ける奴などうちには不要! どこへなりと出ていくがいい!」

 

 

 

 こうしてチームを追われたあたしは、その後空に浮いた自身の身柄のせいでレースに出る事すらできなくなってしまった。三か月の浪人生活の末、最終的にクラスメートに土下座までして頼み込んで、リーディングでも下から数えた方が早い底辺チームに移籍させてもらったのだが、そこで待っていた現実は想像を超える非情なものだった。

 

 半ばチームの雑用係。

 

 チームの仲間とはいえ、本来なら引退してなきゃいけないような年齢でまだ学園にしがみ付いてる年増の先輩と、寄る辺の無い底辺の新入生。覆しようの無い格差のある先輩たちからあれこれと頼まれごとをされるからあたし自身はトレーニングする暇さえなく、レースも、他にチームの選手が出ない処で出走手当を狙うか、悪くすればチームメートが勝てる様におぜん立てする事を義務付けられて出走させられる始末。定年間際のトレーナーはマッサージと称してあたしの躰をいやらしい手つきで触りまくる。大事な人にしか許さないと誓った耳まで蹂躙され、モチベーションも下がる一方であたしは走る事が嫌いになっていた。

 

 真名であるクイーンベレーどころか完全に二等兵以下の扱いであった。命と言っていい眼帯(伊逹)もトレーナーに取り上げられ、あたしの躰に飽きたトレーナーから丸坊主を強いられる屈辱まで味わって、こんな精神状況で戦果を残せる筈もなく、移籍以後の成績は、

 

 四着、六着、十二着、八着、九着、これじゃいけないと一人奮起して三着、しかし努力も才能も無いあたしにはそこまでが限界だった。以後、十六着、タイムオーバー、タイムオーバー、タイムオーバー。

 

 結局、あたしが残した成績は11戦全敗。二着一回、三着一回。ウイニングライブに参加できたのはデビュー戦の一回きりだった。

 

 

 

「本日をもってあなた方は退学処分となります」

 

 僅かな猶予期間を経た後、他の未勝利の娘たちと一緒に秘書さんからそう宣告された時、周りの娘たちは泣いているのに、あたしは涙も出なかった。田舎を離れて以来あたしを守ってくれる人は居なかった。

 

 一緒に育った叔母、つまりはばっちゃの実子で母親の妹にあたる娘がこのトレセン学園に残っている。とはいえ同じ歳のウマ娘であるが、彼女を頼る事は出来なかった。田舎を出る時にそう約束したから。彼女は二勝を挙げクラシック戦線では苦戦しているみたいだが、そこそこの成績を残して頑張っているらしい。

 

 むしろばっちゃの負担を減らすという意味でなら、あたしが退学するというのも実は悪い選択ではないのだ。何しろトレセン学園は金喰い虫だ。一月当たり大凡60万程の費用がかかる。叔母の方はギリギリ賞金で自分の分は賄えているらしいが、あたしは最初の半年は何とかなったが最後の半年はばっちゃの仕送り頼りだった。どのみちこれ以上はばっちゃの負担になれない。

 

 荷物になるものは全部府中の町で処分してあたしは身一つで放校処分となった。

 

 

 

 さて、これからどうするか?

 

 最早地方でレースを続ける意欲も無くなってしまった。地方で連勝すればまたトレセン学園に戻ってレースが出来ると言う制度もあるらしいが、そこまでしてこの世界にしがみ付く程のモチベーションがもうあたしの中には無い。

 

 明日からは寮の飯も食えねぇんだな。美浦寮は納豆の出る比率が多い事以外は充実した食生活だった。思い出すなぁ、よだれ鳥の人参包み。それだけが心残りである。

 

 はぁ。

 

 新宿にでも出て円光でもすれば日銭位は稼げるとは思うが。ぶっちゃけ男共には人気の葦毛キャラである。顔にもスタイルにもそこそこ自信はあるし、幸いな事に丸刈りにした髪は半年程のタイムオーバー謹慎の間にライアン先輩位まで伸びたので需要が無い事まではなかろうというのが不幸中の幸いというか何と言うか……

 

 いかん。何とか前向きに行こうとしてもネガティブが襲ってくる。

 

 ばっちゃは田舎に帰って来いと言っていたが、正直いまさら会わせる顔が無いし、そもそもばっちゃもいつ倒れるか分からない程高齢だ。むしろこっちで頑張って、亡くなる前にいずれはばっちゃから仕送りしてもらった分を返したいとは思うが……

 

「当分はネカフェ暮らしだな~」

 

 決意表明としてはいささか深刻味に欠けるゆるい台詞だが、覚悟を完了する為にあえて言葉に出して、府中駅から京王線の改札を潜り抜けた。

 

 残金はICカードの中の3462円と最後に三着だった時の賞金の残りカス、約七万円だけ。入学の時にチャージしていたあたしGJ! 

 

 やがて千歳烏山の駅を過ぎた辺りから電車はノロノロ運転になってきた。おかげで緩い振動と暖かな昼間の陽気に誘われてうつらうつらと眠くなってきてしまった。

 

 今後、こんなに呑気に眠れる日が来るのは次、いつになるかわからない。

 

 寝て、いいよな。

 

 おやすみ~

 

 夢の中ではせめて相良宗助似のいい男に愛されたいな、Zzz……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんがらがっしゃぁぁぁぁぁぁぁん!!

 

 

 

 

 何事!?

 

 

 

 凄まじい音と衝撃にあたしはすっかり目が覚めて周りを見渡し、

 

 

 

 そして

 

 

 

 絶句した。

 

 

 

「ここは、一体どこだ?」

 

 青い、東京とは思えない程の青い空と、照りつける太陽。赤茶色い土、いや、砂、か?

 

 見渡す限りの広い空間が砂によって支配されていた。

 

 なに? これ? これじゃ、

 

「これじゃまるで砂漠じゃねぇかあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 熱っ!

 

 叫んだ瞬間に熱波が口の中に入りこんできた。

 

 体感で多分五十度以上あるんじゃないだろうか? この暑さはあたしらウマ娘には厳しすぎる。何しろ明治時代にあたしらの祖先がヨーロッパから移民した時に、夏の暑さを避けて北海道まで逃げ出したって話も伝わっている位だからな。

 

 ともかく、冬支度も間も無くという季節柄、防寒と季節先取りを考えて着こんでいたスカジャンとトレーナーを脱ぎキャミ一枚になる。なって直ぐに後悔して改めてトレーナーを着こむ。

 

 熱っちぃ――――っ!!

 

 一瞬で露出した肌が真っ赤に焼けた。あたしら葦毛は皮膚も白くて弱い。強い日差しは敵である。そういや、砂漠では肌を晒したら普通に命取りなんだっけ。

 

 脱いだスカジャンを頭の上に乗っけて影を作る。ようやく一息つけそうである。

 

 荷物、は、幸い直ぐ近くに落ちていた。バッグの中から売店で買っておいたウマ茶を出して口を付ける。一本だけとはいえ買っておいてよかった。

 

 冷静になり考えると疑問が湧いてくる。

 

 ここはどこだ?

 

 何故あたしはこんなところに一人でいる?

 

 あの凄まじい破壊音は何だったんだ?

 

 どうやったら帰れる?

 

「ふっ、帰る、か……」

 

 どこへ帰ると言うんだ、あたしは?

 

 未練たらしいな、我ながら。

 

「ウマ娘15年~♪ 化天の内を比ぶれば 夢幻の ごとくなり。一度生を受け 滅せぬ物のあるべきか~」

 

 あたしは座右の銘でもある敦盛の詩をいつの間にか諳んじていた。

 

「こうなったら、砂漠だろうが歌舞伎町だろうが関係ねぇ! 何が何でも生き抜いてやるっ!!」

 

 この期に及んでも死にたいと思う気持ちにならない自分自身をあたしは少しだけ見直した。

 




UTC:公益財団法人ウマ娘育成調教センター(Umamusume Training Center)は競走興行従事者の資質の向上を図り、安定的なトゥインクルシリーズの発展を通じ、育成調教技術者の養成及び育成調教技術の改善・普及を行うことにより、優秀なウマ娘資源をかん養し、もって競争ウマ娘生産の振興を図ることを目的として設立され、この日高育成総合施設ウマ娘育成調教場の運営・管理及び貸与を行っている公益法人です。

 施設の総面積は1500ha。イギリスのニューマーケット、フランスのシャンティなどに匹敵する広大な草原を利用したグラス馬場や本格的な追い切りが可能な直線1800mに及ぶ芝馬場を中心に、1600mと800mのトラック馬場及び1600mと1200mの直線砂馬場、屋内のコースとして1000mの直線ウッドチップ馬場・600mトラック砂馬場・1000m坂路馬場があり、世界に誇れる施設といえます。


タイムオーバー:一位入線のウマ娘から通常5秒以上遅れて入線した場合その者はタイムオーバーとして失格となります。未勝利の場合はこの規定は特に厳しく、一回目は以後一か月の出場停止。二回目は二か月間、三回目は三か月間の出場停止となり、その間にその年の未勝利戦が終わる為、ほぼ事実上の引退勧告となっています。


地方競バ:まっこと、高知はいい所ぜよ! byハルウララ。

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