底辺ウマ娘が異世界転移したら何気にチート臭かった件   作:うひひゃう!@

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パソコンが死にましたたたたたたたたたた。


3R はじめてのスケキヨ!

「はぁっ!? 何で入っちゃいけねぇんだよ!」

 

 あたしは目の前に居る兵士らしき男に怒鳴りつけてやった。四角四面であっても、道理の通った話であればあたしも折れようという物であったが、目の前のこのヤローは余りにも酷過ぎた。

 

「だ~か~ら~っ、ヒック! あ~し~た~の、明けの鐘までみゃってろって、言ってんでひょ、ヒック!」

「ほうだ、ほうだ、きょ~はもう、店仕舞いだってんだ。ぎゃはははは!」

「むしろ、姉ちゃんも~こっち来て一緒に飲むかぁ? 一晩中かいぐりしてやるっぺ」

 

 ぷは~、と酒臭い息を吐きながら長い槍をもった担いだ二人の兵士が酒瓶片手に誰一人通る事まかりならぬと通せんぼする。固く閉ざされた門扉は他者の侵入をまかりならぬと拒んでいる。それほど厳重なハードに対して人の面がゆるい事この上ない。この国では酔っ払いに武器を持たせる程モラルが無いのだろうか?

 

 ひとしきりにらみ合いが続く。こうしてお互いが目と目を合わせて睨み合っていると

 

「やがて~それが愛に」

「変わらねーよ!」

 

 ノリだけは良いのがある意味美徳なのかも知れないが、あたしとしては、このくっそ寒い中、一晩町の外で過ごせと言われて正直余裕を無くしている。

 

 いや、むしろこの世界が異世界であるという事実が、ここに来て確定しちまった以上、せめて言葉が通じているという僥倖に安堵したのも事実であるが、だからといって最初に声をかけた相手との間にこれほど意思の疎通が出来ないとなると、果たして言葉が通じる事にどれだけ意味があるというのだろうか?

 

「くそ、こうなったら力ずくでも」

 

「そこのお嬢さん」

 

 最終手段を取ろうかと本気で考え始めたところ、思ってもみなかった所から声をかけられた。

 

「閉門に間に合わなかったようですね。宜しかったらうちのキャラバンのテントで今夜一晩お過ごしになりませんか?」

 

 思わず振り向いたあたしの後ろには人の良さそうな中年男性が立っていた。

 

「ナンパ?」

 

 思わず何かの下心を警戒したところ、

 

「やぁ、マビキひゃん。さっきの差し入れ、おいひく頂戴しておりまひゅよ。ひっく!」

 

 兵士たちとはどうやら旧知らしく、気さくに話しかけられた中年は鷹揚に兵士に答えていた。

 

「いえいえ、明日からまたバザールでお世話になる訳ですから、皆様に御挨拶するのは当然の事ですので。むしろ僅かばかりでお恥ずかしい」

 

 ……つまり、こいつらが既に出来上がってるのはこのおっさんの所為だと?

 

「まぁ、そういう訳でしてね。街門が早じまいしたのも実は私共の所為かと、で、こんな場所で野宿したら風邪をひいてしまいますから、お招きした次第で。あ、テントにはうちの女房や娘もおりますし、女従業員も居ますから、ご安心ください」

 

「……そういう事なら。でもいいのかい? どこのウマの骨とも知れないもんを連れていっても?」

 

 あたしが警戒していると判断したのか、おっさんは兵士に聞こえない様こっそりと真相を教えてくれた。

 

「実の所、明日からのバザールに出店する為、兵士の方々に賄賂を少々差し出しまして。ついでに売り物の酒を一本ずつ付けて差し上げた処、その場で宴会が始まってしまって、その後に到着した人達が門前で足止めされるハメになってしまったので、ご迷惑かけた皆さんには私共で一晩の宿をご提供しているという次第でして」

 

 ああ、何となく原因はわかったが、一つだけ分からない言葉があったな。あたしは中年の招待を取りあえず受けることにして、一旦門の傍を離れる事にした。ついでに分からない事を聞いておこうか?

 

「一つだけいいかい?」

「何なりと」

 

 ばっちゃも聞くは一時の恥だって常々言ってたからな。

 

「わいろって、何?」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「わいろって、何?」

 

 どうやら、随分とピュアなお嬢さんのようだ。

 

 今時、貴族の御令嬢だって役人からの優遇を受けるには普通にリベートを渡したりする位の知恵は使うと言うのに。或いはそういう風習が無い位の田舎の出なのかなとも思ったが、それにしては着ている服の縫製が丁寧だし何よりも垢ぬけている。王都に店を構える私ですら見た事の無いタイプの服装であり、何よりも色鮮やかなツートーンの染め物で見るからに暖かそうである。しかも、着ぶくれしている感じが全く無く、彼女の体型をスマートに見せている点が秀逸である。

 

 結論としてはそれなりに良い所のお嬢様? いや、それにしては供も連れず一人きりというのが解せぬ。

 

 一体どういった御人なのであろうか? 耳の形から獣人かとも思ったがどこの氏族かさっぱり分からないし、整った容姿を考えると噂に聞くエルフ? 

 

「ああ、つまりですね、お役人様に対してこれからお世話になりますよ、という時に金品を僅かばかり差し上げますと、お役人様の覚えがめでたくなり、色々と優遇してくださるんですよ。逆にこれを怠れば要らぬ所で妨害を受ける事もありますから、それを防ぐという意味もありましてね。まぁ、生活の知恵というものですな」

 

 うっ!

 

 キラキラと澄んだ目で見つめられると非常に居たたまれない気持ちになりますな。

 割り切ってはいるものの、何とも私自身が汚れてる事を自覚せざるを得ず……

 

「それって、あたしも払った方がいいのかな? どうしよう? 金なんか持って無いし……」

 

 あれ?

 

 何か、齟齬があるような?

 

「ああ、そういうのは商売で来た人間が払えばいいのですよ? 普通の旅人はそんな心配しなくても大丈夫です。むしろ、そういう人の分まで商売人が支払っているのですよ。どのみち、商人と旅人では扱う金額だって桁が一つ二つ違うのですから、お役人様だって一々旅人から集金するよりは取れる処から取る方が効率が良いというものです」

 

 あからさまにほっとした表情になったお嬢さん。そうするとますます出自がわかりませんな。或いは他国から連れ去られて来た奴隷商の商品? いえ、奴隷に着せるようなお召し物でもないですか。

 

「失礼ですが、異国の方ですかな?」

 

 藪蛇かもしれませんが家族を危険に曝す訳にもいきません。

 

「あ? ああ。多分」

 

 多分?

 

「に、しては街道を来た時にはお会いしませんでしたよね? 徒歩の旅であったのであれば私達のキャラバンが途中で追い越している筈ですが?」

 

 何しろ、この町まで来るには王都からただ一本の街道を経由するしか道はない。それ以外は魔物のテリトリーであるトットーリの大砂漠である。まさかそんな所を通って無事に居られる御仁なんて、伝説に聞く勇者様でもあるまいし。

 

「ああ、ずっと砂漠を走ってきたからなぁ」

 

 ! なんですとぉ――――っ!!

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「な、なんですとぉ――――っ!!」

 

 おっさん、すんげーエキサイト。ヤバかったか?

 

「このトットーリ大砂漠は高レベルの魔物達が住まうテリトリーです。そんな所をあなたのような娘さんが旅して無事で済む訳がありません!!」

 

「ああ、魔物ねぇ。確かに一回だけかち合ったけど」

「いっ、一回だけぇ――――っ!?」

 

 仰け反ったおっさん。最早一人ジャーマンスープレックスしそうである。

 

「そんなバカな!? あなたの様な麗しいお嬢さんがあんなところを通れば魔物に十重二十重に囲まれて、はっ! もしや貴女様は神殿の聖女様で高レベルの結界魔法を駆使して砂漠を? いや、それでも一回は魔物に遭遇されたと、いえ、どうやって遭遇した魔物から逃げられたのですか?」

 

 なんか一人で色々と考えてるおっさんの姿にあたしの方がドン引きである。にしても寒い。早い所暖かい寝床にありつきたい所だ。出来ればメシも。

 

「いや、逃げてない」

「逃げてないっ!? ならばどうやって無事にここまで? まさか、幽霊?」

「力づくでぶっ潰した」

「!!!」

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

「そんなまさか? はっ! もしや貴女は大規模レイドの生き残り?」

「だから、最初から一人だってば」

「そ、そうです、遭遇した魔物とは、どんな奴でしたか?」

「でっかい蠍の化け物だ」

「ひっ! ジャイアントスコーピオン!? 一流の冒険者が十人がかりでも負ける相手ですよ? 見た処武器も持たない貴女が一体どうやって?」

「踵で装甲砕いて内臓毟り取った」

「どんな野蛮人ですかっ!?」

 

 あ、やっとツッコんでくれた。

 

「し、信じられません。一体どうやったらそんな芸当ができるというのですか? 盛るにしてもせめてもう少し信じられる話をですね」

 

 ハァハァ言いながらジト目で睨むおっさん。信じてねーな。

 

「あ、そうだ。そいつから出て来たこれ、商人なら買い取ってくれない?」

「!!!! こんな大きな魔石、うちでも年に一度商うかどうかという代物ですよっ!」

 

 またしても一人ジャーマンの態勢に入るおっさん。

 

「無理なら諦めるけど、そうすっと何か他に売れるものあったかな?」

「買いますっ!!!!!!なにがあっても買いますから、どうか引っ込めないで!!」

 

 うわ、おっさん必死! ってか顔、近い近いっ!!

 

「うぎゃぁ~っ!?」

 

 あ、思わず投げっぱなしてしまった。ぽーん、と飛んでったおっさんが頭から地面に突き刺さる。

 

 デジャヴ? どこで? あ!

 

「そういや、スピカの勧誘ポスターで見たな、こういうの」

 

 おっさんが八つ墓村になってしまった。

 

 

 




賄賂:実はクイーンベレー、というかトレセン学園に通うウマ娘は賄賂という言葉を知りません。その理由は、とある国際的な条約に準ずるもので、ある意味現代のウマ娘の存在価値を補完する為と言っても過言ではありません。
 この件についてはいずれ番外編で詳しくやる予定です。

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