底辺ウマ娘が異世界転移したら何気にチート臭かった件 作:うひひゃう!@
「「すんませんっしたあ〜っ」」
お互い向き合い座礼。ってか土下座。
「わざとじゃないんですッ! パーソナルスペースを侵されると、つい無意識にっ」
「いえ私の方こそ、思わぬ商機につい我を無くして。女房からも良く叱られるんですよ。あんたはもう少し落ち着きなさいって」
そうしてふたたびお互いに礼。
こうしてかれこれ三十分、互いに謝り合っている。流石に埒が開かないのは自覚してるが、異世界第一住民相手にいきなり暴行とか、事件発生はあまりにもヤバい。あ、門番は数に入らないからな。意思の疎通ができない相手はノーカンだ。
「何してるの? お父さん」
ふと見ると栗色の髪をおさげに結わえた可愛らしい幼女があたしとおっさんを胡乱な目で見つめていた。
「おお、リリッタ! 今、こちらのお嬢さんをキャラバンにご招待しようとな」
「それなのになんで地面に正座してるの? 顔も砂だらけだし?」
「「あ!」」
どうもお互い目的を見失っていたな。そもそもあたしも寒さと空腹、ついでに喉の渇きにまいっていたのに。
ふと見るとおっさんもバツが悪そうな顔で顔面の砂をはたき落としている。
「そうそう、ご紹介しましょう。うちの娘のリリッタです。リリッタ、こちらは、? ええと? 失礼、まだお名前伺うのを失念していましたね?」
「ああ、あたしの名はクイーンベレー。しがないウマ娘さ」
そう、自己紹介すると、二人はびっくりした様にまたしても正座して頭を地面にこすりつけた。
「じょ、女王様でいらっしゃいましたか!? 知らぬ事とはいえご無礼の段、平にご容赦を〜」
へへ〜、とへりくだる親子に、あたしの方がドびっくりである。
「違う、違う! 只の名前っ! 別にあたしは偉くなんてないし、そもそも一介の庶民だってば!」
そうして説明する事更に三十分。ようやく理解してくれたのはいいけど、結果として女王の名を冠するのはおうせいのこの国では罪になる悪い事だと叱られた。
幼女の方に。
おうせいって何だろう?
「ほんと、すいません。リリッタは母親に似てしっかり者なのですが、いかんせん頑固で融通が利かなくて」
こっそりとおっさんが謝っていたが、この国で穏便に過ごすなら、名前は、ベレーとだけ名乗った方がトラブルに会わないからとも忠告してくれた。
まぁ、郷に入っては郷に従えとも言うし、トラブル回避の為と言うならそれも分かる話なので忠告はきちんと覚えておこう。
しかし、真名なのに封印か。悲しぴ。
「改めてまして、私は商人のマビキと申します。こっちは娘のリリッタ」
「リリッタ、五歳です」
なるほど。
「あたしより二つも年上か。なるほど、しっかりしてる筈だ。よろしく、センパイ!」
あたしはしゃがみ込んでリリッタセンパイに挨拶をした。可愛らしい先輩の頭をかいぐりすると、嬉しそうに、くすぐったそうに、身悶えする。かわいい!
「は? リリッタより年下!? その身長で?」
「ああ、確かに三歳十一ヶ月だな」
「その美貌で!?」
「こしょばいがその通りだ」
「その乳で? その尻で? その太ももで!?」
「「おっさんしつこいっ!!」」
図らずもセンパイとハモった。ドリフかっ!?
あと、太ももの事は言うな! 太いのは自覚してるんだ!
「まったく、早く来ないからすっかり冷めちまったじゃないか。お客さんと従業員は先に食べさせたからねっ! 後は勝手に始末しておくれよっ!!」
あたしとおっさん、ついでにセンパイはまたしても土下座して奥さんに謝った。いい加減脱線が過ぎたとは自覚している。
ちなみに年齢の事は種族特性と言う事で納得してもらった。と、いうか暦が違うと認識されたらしい。ま、この件は深く掘り下げる気はないが。
「まあ、こうしていても埒が開かないです。まずは食事にしましょう」
そう言っておっさんとセンパイと共にようやく夕食のご相伴に預かる。文句言いつつもしっかりと温ため直された美味しいスープに奥さんの深い愛情を感じた。寮のメシも美味かったが、あれはどうしても身体を作る為の使命みたいな面があるからな。こんなほっこりする食事はいつ以来だろうか?
ばっちゃの手料理を思い出して、知らず涙を流しながら食べていたあたしの頭を撫でてくれた奥さんの手が暖かかった。
「さて、それでは先程の魔石の買い取りの話ですが」
奥さんとセンパイからの無言の非難にもめげず、空気を読まずにおっさんが商談に入ろうと食後に甘いお茶を用意して待ち構えていた。まぁ、約束してたしな。
「とはいえ、あたしは相場とか知らないしな」
ずずず、とお茶をいただくと、覚えの無い甘味成分に脳がとろける。何とか言うサボテンの汁らしく滋養にいいとか。
「ならわたしが旦那の魔手からあんたを守ってやるよ」
そう言って奥さんがあたしの味方に付いてくれた。いいのか?
そしてカンカンガクガクやり合う夫婦。あたし必要ないんじゃね?
「どうせ王都に戻ってからオークションに出す気だろ? 最低落札価格でも十万ディナールは下らない筈さね。こんな初心な娘出し抜いて儲けても商人としての格が下がるだけだよ!」
「無論、そんな事は考えてないとも。だが、ここから王都に戻るのにも経費がかかる。護衛だって行きよりも増やす必要があるし」
「それなら最適な人材が此処に居るじゃないか。なぁベレーちゃん」
すっかり傍観していたあたしだったが、いきなり話を振られて
「はひっ!?」
と間抜けな声が出てしまった。
「つまりだね、この際ベレーちゃんには冒険者登録してもらってわたし等の帰路の護衛を正式に受注してもらおうと言う寸法だよ」
「なるほど! ジャイアントスコーピオンをも倒す腕利きが護衛するなら道中の安全は保証されたも同然か。流石はパレッタ! 抜け目が無い!」
「え? え?」
狼狽えるあたしに奥さんのパレッタさんが噛み砕いて説明してくれたのは、寄る辺の無いあたしがとりあえず身元を保証する為の方法である。
「もっとも、アンタは今まで戦いとは無縁の暮らしだったんだろ? だったら登録だけして無理に仕事受けなければいいさね。ただ、わたし等に付いて王都に入るには一番手っ取り早い方法だしね。どの道、オークションに参加するなら王都に入る必要があるし、王都でも十万ディナールもあれば店構えるなり、家買うなり、好きにできるさ」
でも、悪い男にだけは捕まるんじゃないよ? とからから笑うパレッタさん。既に舟を漕いでいたセンパイを抱き寝室へと連れていった。
「まあ、女房が言った話が恐らくは一番手っ取り早く利益を最大にする方法ですな。後はベレーさん次第です。私共は明日から10日間の予定でバザールに出店しますからその間は必要なら私共のテントで泊まるといいですよ」
そして今夜は遅いからと、用意してもらった寝床で休ませてもらった。ちなみに、案内されたテントには先客が一人いた。地元民でこの町に家がある人らしい。
ふあ、流石に今日は疲れたし眠い。何気に濃い一日だった。
明けて翌朝。遅い朝食を御馳走になったあたしは、夕べの相談の通り、冒険者ギルドに登録して身分証明をもらうことにした。
既に同室の人は居なかった。早朝、門が開くと同時に町中に戻ったそうな。それに気づかず爆睡していたあたしって。
なお、おっさんとパレッタさんは朝からバザールの準備中だ。
「だからと言う訳じゃないけどうちの子が案内するよ。リリッタ、これは大切な手紙だからね、必ず直接受付のお姉さんに渡すんだよ」
「は〜い!」
そうして送り出されたあたしらは、遂に町中へと進出した。
「へぇ〜! 思ったよりは発展してるんだなぁ!」
町並みは黄色い砂の色だが、落ち着いた色合いの平屋建てが主流で、魔法で固めたコンクリートみたいな質感の建物が多く、驚いた事にガラス窓まであった。
「あそこが冒険者ギルドなのです!」
普段最年少なので、いつも上から目線で面倒を見られているリリッタセンパイだったが、今回はあたしという後輩に頼られ嬉しいらしい。ドヤ顔フンスと無い胸を張る姿が微笑ましい。
カランコロン!
ドアベルが鳴り扉を開けて中に入ると、ギョッ! とした顔の十名程の男たちがいたが、直ぐに嬉しそうにニヤけた顔でこちらを見やる。無視して中をカウンターまで進む。
「おはようございますっ!」
リリッタセンパイが元気に挨拶するとカウンター内で仕事をしていた何か見た目のまるっとした男が
「あら、いらっしゃいな。ネアルコ商会のリリッタちゃん。本日はお帰りの時の護衛依頼かしら?」
ざわっ!
うわ! 雰囲気が殺気立った。
「ん〜とね、このひとのぼうけんしゃとうろくと、それと、こっちのおてがみが、このひとへのしめいいらいのもうしこみなのです!」
何か今までのセンパイの喋りと違う。ビミョーに媚びているというか、幼女っぽいたどたどしい話し方である。
「此処はてきちなのでビジネストークなのです」
と、小声で教えてくれたセンパイ。どうやらそういう物らしい。いや、それよりも背後で膨れ上がる殺気の方が今は重要事項かと。
「おい! 姉ちゃんよ!!」
うひーっ!!
気持ち悪いマッシブなモヒカン男に後ろから声かけられて肩を掴まれたっ!?
三歳十一ヶ月: 彼女が放校処分になったのが十一月一日。スーパー未勝利戦終了と同時に纏めて退学となった。馬齢は誕生日に関わらず元日を起点にする為この様な計算になる。尚、ベレーは偶然だが一月産まれ。
ドリフかっ!?: 恐らく出処はマルゼンママだろうと思われる。
魔石: 通常流通に乗って取引される魔石はFからEが主流でDだと持ってるだけでステータスとなるレベル。曲がりなりにもCならば戦略的価値が出てくる為、各地の領主か騎士団が求めるレベル。B以上ともなれば国宝として献上されるのが普通。過去最大級のAAA級は、この世界最強レベルのネームドドラゴンを一万人規模のレイドで討伐した際に採取された破損の大きな魔石であったとか。
ディナール: この世界の共通通貨の単位。正確には「協同流通ディナール」勇者の主催した協同組合が発行する国際通貨。金一ポンド(地球のそれとは違い約47g)辺り一ディナールに換算する。金貨の枚数で数えるのが普通。尚、金貨以下の補助通貨については各国で独自に決められている。