底辺ウマ娘が異世界転移したら何気にチート臭かった件   作:うひひゃう!@

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 長いです。どの位かというと障害オープンくらい?

 嘘です。結果的に中山大障害並に…… 


5R (自称)ライバルとのパーティー!?

「うっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ぱかっ!!

 

 哀れ、あたしの背後に立ったバカは物の見事に吹っ飛んだ。カランコロン、と音が鳴ったので、多分ドアを蹴破って外まで飛んでっただろう。だが、あたしにはアホな野郎の顛末を斟酌する程の余裕がない。

 

 バクバクバクバクバクバクバクバク

 

 心臓が早鐘の様に脈打つ。

 

「あ、あああああああたしの背後に立つなっ!!」

 

 ウマ娘の背後から無理矢理捕まえるのは駄目! 絶対!

 

「おおおおっ」ちぱちぱ

 

 センパイが可愛らしく手をたたいて

 

「はじめて見たのです。ぼるぼさいとうなのです!」

 

 ……そこはせめてゴルゴ13と、ってか何故その名を知ってる!?

 

「っ、てっめえ! このアマ! まだ何もしてねえ相手に何しやがる!?」

「アニキの仇! 死にさらせぇっ!」

 

 なんか、エキサイトした奴らがあたしに向かって来そうだ。人相手に闘うのはカンベンして欲しいんだけど。

 

「そこのセニョール達! アチシのシマで殺人事件でも侵そうってのかしら」

 

 ピタッ、あたしに向かっていた連中が止まった。

 

「あーっ! グレッコのお姉さん!」

 

 センパイは声の主を知ってるらしい。だが、お姉さん? 明らかにぶっといこの声はお兄

 

「セニョリータっ! アチシは身も心もお、と、めっ! 乙女っ! なのよっ!!」

「は、はひっ!!」

 

 何故分かったし? そして何故二回言ったし?

 

 振り返るとそこには深紅のコートを着たサイケな色合いの髪型な細マッチョが立っていた。

 

 ま、あたしはこの手のオネェな人に耐性あるし、むしろ嫌いじゃないんだよな。デビュー前、世話になったレガシーワールドセンパイのファンがこういう人ばっかでさ、トレーニングパートナーを努めてたあたしにも差し入れ分けてくれたりしたっけ。

 

「お言葉を返すようですが姉さん、俺たちはただこのクソアマに礼儀ってもんを教えてやろうとしただけで」

「そうだそうだ! 別に殺そうだなんてしてねぇっての!」

 

 男達が必死に弁解しようとするのを遮り

 

「バカね。殺されるのはアンタらの方よ! その娘とアンタらじゃステータスの格差が拭い切れない程あるのよ。それこそ、十人がかりでも覆す事ができないくらい、ね」

 

 それに、と続けてあたしに

ハグっとしてきたオカマの姉さん。なんか、いやらしいさを全く感じさせないその行動が、なんとなくマルゼンセンパイを思い出しちまった。本人にはとても言えないが。

 

「可哀想に、こんなに怯えて。あんたらのとこのモブ連1号がやった事はタブー中のタブーよ! 獣人の娘を後ろから押さえつけるのって痴漢行為より重い罪になるの。種族によっては死刑になるくらいのね。お解り? モブ連2号、3号!」

「誰がモブ連1号だっ!!」

 

 カランコロンと音がして、あたしが吹っ飛ばした男が戻って来た。筋骨隆々としたモヒカン男は鼻血を垂れつつもあたしを睨みつけると

 

「ソイツの登録するってなら、当然戦闘試験が必要だよなぁ! 俺様が直々に試験官やってやるよ。文句ねぇよな、グレッコ!!」

 

 げ! 流石にこんな失礼な野郎はノーサンキューだし、そもそもこんな与太者の言い分が通る訳ないだろうと思っていたが、何を思ったのか、オネェの人は

 

「OKよ。ただし、何があってもアチシは途中で止めさせられないから覚悟だけはしておきなさいね?」

「……それは俺様に言ったのか?」

「当たり前でしょう。中途半端な与太者風情が相手になるほど甘い娘じゃないわよ」

 

 いや、どこをどう見たらそういう結論になるんだ? 初対面どころかまだ禄に会話もしてない相手にする期待じゃねー!

 

「くっ! おいてめぇ! さっさと裏の修練場まで来い!!」

 

 いきり立つモヒカン男に仕方なく付いて行こうとすると、

 

「お待ちなさいな」

「なんだよ! まだ文句あるのか!?」

「登録書類の作成が先よ!」

 

 あ、そりゃそうだ。

 

「ルモッソ! 書類の準備は出来てるかしら?」

「オネェ様、既に準備万端でしてよ!」

 

 最初にセンパイが声をかけた受付のオネェが書類の準備をしてくれたので、早速書こうとして、書けない事に気が付いた。

 

「よ、読めんし、書けん!」

 

 当たり前だが日本語じゃなかった。

 

「じゃ、アタシが記入するから質問に答えてねん」

 

 無言で頷くと直ぐに受付のオネェが記入してくれたのは助かった。

 

「お名前は?」

「く、ベレーで」

「志望動機は?」

「えーと?」

「うちのしめいいらいをうけるためなのです」

 

 センパイが助け舟を出してくれた。

 

「じゃそれで」

 

「最後に、冒険者は何があっても自己責任よ。万が一死ぬ事があっても当局は一切責任を負わないと言う事に同意しますか?」

 

 ゴクリ、とツバを飲み込む。

 

「はい!」

 

 あたしはこうして冒険者に登録した。

 

「じゃあ、悪いけどこっちに来て。早速修練場で戦闘試験を行うわ。結果が全てじゃないけど、アチシが認めたら最低のFランクからじゃなく、飛び級も認めてあげるわ」

「おい! お前!」

 

 それまで黙って見ていたモヒカンが

 

「てめぇが負けたらネアルコ商会の指名依頼を断ってこの町から出ていけ! 元々この依頼は今回俺様達が受ける順番だったんだからな! あそこは金払いのいい上客だし、これまで何ヶ月も順番待ちだったんだ。折角順番が回って来たのにそれを横から掻っ攫われて黙ってられるかっ!!」

 

 ああ、それでいきり立ってたのか。

 

「ベレーさんはうちのだいじなお客様なのです。いっしょに王都にきてもらうひつようがあるからこそどうこうしてもらうようおねがいしたのですからこんかいごえいはそもそもいらないのですよ? じかいにチャレンジなのです!」

 

 センパイが無情にもモヒカンに最初から護衛の仕事を出すつもりが無い旨を告げる。

 

「だ、そうよ。完全にアンタの一人芝居だわね。やーだ! 恥ずかしい! もう、モブ連1号じゃなくてイサミ足1号に改名したら?」

 

 オネェの、ええとグレッコさんだっけ? がモヒカンを煽る。

 

「うっせえ! 俺様の名は『山嵐』のトンキッチンだっ!! 幼なじみのくせにワザと間違えるなっ!!」

「イヤだわ! アチシは永遠の17歳よ。アンタみたいな中年ヤンキーと一緒にしないで」

 

 おいおい!

 

 最早あたし関係ない娘じゃんか。勝手に恨まれて、勝手にダシに使われてって、なんかすっげー損した気分。

 

「それじゃ、外に出る前に壁に掛けてある木剣を選んでね。長さは、そうね、この位でどうかしら?」

 

 あたしは木の剣をオネェから受け取る。木剣の長さなんてあたしには分からないからなぁ。

 

 思ったよりは重い木剣に戦慄する。これ、当てたら洒落にならない大惨事じゃね?

 

「遠慮しないで当てていいからね。責任はコイツが取るから」

 

 いや、そう言われても……

 

「あれ? ギルマス? その子新人?」

 

 修練場には既に人が居た。歳の頃は16〜7の三人組、一人が幼い顔の男、後が女二人、この暑さの中、大汗をかきながら実戦形式の訓練をしていたのか女子二人は地に這いつくばり疲弊しているのに、可愛らしい顔の男の子は平然とかなり大きな剣を自在に振り回している。

 

「あ〜ら、アスラきゅんったら、かわいい顔して絶倫なんだからっ♥ 悪いけどちょ〜っと場所貸してねん♥ 今からこの娘の戦闘試験するから♥」

 

 うわ! オカマがハート飛ばしてる!? いや、それよりも

 

「ギルマス!?」

「何か不穏な単語が聞こえた気がしたけど、言ってなかったかしら? そうよ、アチシこそがこの町のギルドマスターにして『聖女』のギフトを神様より賜った『美しき』グレッコ=エールよん♥」

 

 ちゅぱっ♥ と投げキッスをすると同時にモヒカンと無言で付いて来ていた子分共がオエッとえづいた。

 

「気味の悪いもの見せやがって! まあいい、さっさと始めるぞ!」

 

 モヒカンがいち早く修練場の真ん中に陣取ると、あたしに向かって手招きする。子分と、蹲っていた女の娘達はまだ気持ち悪いみたいだ。幼なじみだけに耐性があるのだろうか?

 

「構わないから思い切りイッちゃいなさい! それだけでアイツ黙ると思うから」

 

 オネ、ギルマスがあたしに向かってそう囁いた。一方、最初から居た男の子は何やらモヒカンに囁いて怒鳴りつけられている。

 

「それじゃ戦闘試験はっじま〜るわよ〜! 位置に付いてぇ、よ〜い、ドン!!」

 

 10メートル程離れていた間合いをあたしは一気に詰めて思い切り木剣を振り下ろす。

 

「くっ!!」

 

 全く反応出来てないせいで一歩も動けないモヒカンだったが、それでも何とか木剣を構えてガードする。良かった、これでなんとか殺さずに

 

 パーン!!

 

 乾いた破裂音と共にあたしの木剣とガードしたモヒカンの木剣が爆発したように粉々に粉砕された。

 

「は?」

「え?」

「「はあああああ!?」」

「「「ええええええっ!!」」」

 

 あたしもモヒカンも目が点である。脳みそは雲丹だろう。

 

 無論、周囲の人々も驚愕である。驚いてないのはウンウン頷くギルマスと、ドヤ顔フンスとイキってるリリッタセンパイ位である。

 

 いや、流石にこんな身体能力が未勝利ウマ娘のあたしにある訳が無い。何かの間違いか、あ、木剣が不良品だったとか?

 

「木剣はネアルコ商会から買付けた黒檀の一流の品よ。ゴブリン位は簡単に屠れるし、新人冒険者に与えたら下手すると一生買い換えないで現役引退する子が居るレベルのね♥」

 

 マジか!? 弁償必要か? やっべー!!

 

「すんませんっしたぁーっ!!」

 

 思わず足元を見るとモヒカンが土下座して涙と鼻水垂れ流してた。え? なにこれ??

 

「自分、調子に乗ってました! 世の中には自分みたいな凡夫が逆立ちしたって勝てないお人が居るって、グレッコの事で身に染みて分かってた筈なのに、初対面のアンタ様を見くびって、大変な失礼をっ! 自分はどうなっても構いませんから、どうか、どうか、子分達だけは、赦してつかぁーさいっ!!」

 

 え? 何この手のひらクルン感?

 

「イヤ、あたしは別に特に何も」

「すごい! すごいよ君! ねぇ、僕らと一緒に冒険しないっ!?」

 

 あたしの手を握りしめ、アスラとかいう男の子がちょー興奮した面持ちで顔を近づけてきた。

 

 あれ? 夕べのおっさんの時やモヒカンと違って忌避感が、ない? っ、でも顔があっつい!

 

「あ、あたしは、べっ、べつにアンタみたいなハーレム野郎となんてっ!」

「「「ハーレム違う!!」」」

 

 男の子だけでなく、背後でいつの間にか復活してた女子二人までハモって否定した。

 

「僕達はお互いを高め合い」

「自分の可能性を模索して」

「新しい自分を創造する為」

 

 ここであたしから手を離したアスラとかいう男が一歩下がって二人の女子と共に見栄を切る。と、トキメいてなんかいないんだからなっ!

 

「「「ここに集いしライバル達のスーパーチーム、その名は、VSインパクト!!」」」

 

 ちゅどーん! と爆発、を見たような気がした。

 

「僕らは君とならより良いライバル関係を築く事が出来る! 是非とも君に僕らのパーティーに参加して欲しい!」

 

 後ろで二人の女子もウンウン頷く。ああ、納得いった。この自分たちが主人公って感じ、つまりコイツらその手の連中なんだ。

 

 トレセン学園においてC組に該当するエリート達。指定産能ウマ娘として産まれた時から期待と共に将来の栄光を約束されたキラキラ光るスーパースター! 別に劣等感を持ってる訳じゃない。彼らの生き方だけが正しいと思ってる訳でもない。それでもあたしが欲しかった物を彼らと奪い合う人生。それは正直もうゴメンだった。

 

「……あぁ、あたしはそういうの、もういいんで……」

 

 彼らの輝きに目を焼かれながら、その一方で一気に冷めていく彼らへの憧憬。あたしは彼らの申し出をそう断るのが精一杯だった。

 

「そ、そんな! 君程の人が一体どうして?」

 

 疑問を投げかけてくるアスラ少年に対し、背を向けるしか抵抗の仕方を知らない。そんな自分自身、イヤな感じだと思う。

 

「アスラきゅんの志はアチシが良く知ってるわ♥ でも彼女の心も深く、深く傷付いているの。今はまだ彼女には時間が必要なのよ♥ 貴方の言い分も分かるけど、そこは彼女を尊重してあげて頂戴な♥」

 

 そう、語ってあたしをアスラから遠ざけるオネ、グレッコさん。今はこの心遣いがとてもありがたい。だが、状況がそれを赦してくれない。そんな現実も確かに存在する訳で。 

 

「緊急! 緊急!」

 

 受付に残っていたもう一人のまるっとしたオネェの人がグレッコさんの方に駆けて来た。

 

「どうしたって言うのかしらセニョリータ? 世の中にはそうそう慌てる必要がある事態なんて」

「これはその例外ですわオネェ様っ!! 今、街門の衛視から緊急応援の依頼がっ! ゴブリンキングを筆頭とするゴブリンの軍勢が町に迫って!」「な、なんですってぇぇぇぇっ!!」

 

 あれ? おっさん達、バザールやるからって門の外のオアシス前で店開いてたよな?

 

「これってマズいッスかね?」

「マズいなんてもんじゃ無いわよぉ! 敵は六千の大軍団! 二千人しか居ないこんな町イチコロよおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 やっべー!!

 

「ギルドより緊急依頼っ! 全冒険者は直ちに街門前に集合! 速やかに敵ゴブリンを撃退するわよ! アチシも行くわっ! それと」

 

 グレッコさんはあたしに向かって申し訳なさそうに

 

「悪いけどベレーちゃん、貴女も手続きが終わっちゃったから既に正式な冒険者なのよ。申し訳ないけどこのクエストには拒否権が無いの。後でいくら恨んでもいいから今はアチシらに力を貸して頂戴!」

 

 最早嫌も応も無い! あたしはコクリと頷くと、センパイを受付の人に預け、門の外へと向かおうとして一旦足を止める。

 

 あ、後一つ、

 

「誰か武器貸してっ!!」

 

 流石に丸腰では何も出来ずに終わってしまう。 

 

「とはいえ、黒檀の木剣を粉砕する力の持ち主に使える武器なんて、鉄はおろか、鋼だって役不足よね〜 そんなものこの田舎町に……」

「あるわ!」

 

 アスラのとこの女子の一人、ちっちゃなくせに巨大なトンカチ持った水色髪の娘が

 

「わたしが抽出したアダマンタイトの延べ棒があるわ。これなら魔法で圧をかけた鍛造品だから、折れない、曲がらない、砕けない。刃こそ無いけど打撃武器としては一級品だから殺傷能力はパない筈」

「サンキュー、恩にきる! アンタ名前は?」

「え、エリーゼ……」

 

 基本、無口なのだろうか? あたしと違って赤面してモジモジする姿が可愛らしい女の子だが、あたしに預ける棒の話の時はガンガン前に出ようとする圧が凄かった。

 

 あたしは全長1m直径10cm程の角材を受け取ると、真っ先に駆け出して街門の所まで先行した。残されたみんなが「すごっ!」と呆れている雰囲気は、まあ、見なかった事にして。

 

 

 

「おお、ベレーさん!」

「おっさん! パレッタさんも、無事で良かった」

「リリッタは?」

「ギルドに預けて安全な所に避難してる」

 

 門の中まで避難してたおっさん達、商会の人達は全員無事だった。それだけでも救われた気分だったが、キャンプ地はそのままらしく、商品なども置き去りらしい。

 

「まあ、命あっての物だねですからね。それにお預かりしてる魔石だけは持って来ました。最悪商品全部駄目になったとしても再起は可能ですから」

 

「まあ、なるだけ被害が無い様にはしてみるよ」

「おお、と、言う事は」

 

 あたしは角材を肩に背負い不敵に振り返った。

 

「ああ、あたしの冒険者初仕事はゴブリン退治だ!」

 

 

 

「ハァハァ、速いわよ! ベレーちゃんアンタとんでもない猪武者ね。一人だけ先行すると孤立して単独で立ち往生するわよ! アスラきゅん♥ 悪いけどこの子が一人で先に行かない様に手綱握ってて頂戴♥」

「分かりましたギルマス。ベレーさん、申し訳ないけど今だけは僕らとパーティー組んで貰いますよ。さもないと初陣の貴女が何も出来ずに死んでしまいます!」

 

 確かに後先考えず一人で先行するのはマズかったと思う。此処は言う事を聞いた方がいいだろう。少なくともセンパイ方の言う事を聞くメリットはある。

 

「はい、ごめんなさい。どうかあたしに戦いの仕方を教えてください」

 

 そう言って頭を下げる。アスラは驚いた顔で

 

「やっぱり僕らの仲間になりませんか? 貴女のような謙虚な人ならきっと上手くやって行けると思うのですが」

「済まないけどそれはカンベンして欲しい。あたしにも考えもあるし、何よりアンタらはあたしには眩し過ぎて荷が重いんだ」

 

 ただ、今だけは彼らから学んで戦い方を盗んでやろう。そう決意した。

 

「ゴブリン共が来た! 一時の方角、デザートゴブリン約二千! 上位種コマンダー、アドミラル、多数! キングは未だ確認出来ず!」

 

 門の見張り台から兵士の声が轟く。いよいよ本番らしい。あたしは気を引き締めてアスラの指示を待つ。

 

「僕らが先ずは魔法で先制します。奴らが浮足立ったらその後に僕と歩調を合わせて突入です」

 

 魔法! 散々テンションの下がる話をしてたのに魔法と聞いてアガるあたし、全く現金な話だと思う。

 

「シルビア、お願い!」

「おーけー! ファイヤーストーム!」

 

 エリーゼじゃない方の金髪女子が細い剣を天に掲げると剣先を中心に炎の竜巻が巻き起こる。

 

「ゴー!!」

 

 命令を与えると炎の竜巻がゆっくりと動き出し先頭集団のゴブリンを巻き込み更に加速していく。直撃した奴らは黒焦げの消し炭になり、少しばかり離れた者も火ぶくれの大火傷を負い、逃げ出そうとした奴も肺に熱せられた空気を吸い込むや、のたうち回って転げ回りやがて活動を止める。結局ゴブリンの戦列の中をたっぷりと蹂躙して回った魔法のおかげで、小柄なゴブリンはその数を一気に減らしてしまった。

 

「ふにゃあ、流石に魔力がきっついわ〜 後はよろしく〜」

 

 何かキツかった目付きまで一気に緩んだ金髪女子、シルビアだっけ? なんと一人で一気に半数近くのゴブリンを退治してしまった。しかしその代償だろうか? 腰が抜けた様にぺたんと座り込んでしまった。

 

「シルビアちゃん、ありがと! じゃ、アチシも追い打ちかけるわよ〜 喰らいなさい! ホーリーブラスト!」

 

 オネ、グレッコさんが唱えると、全身が光輝き、グレッコさんの身長程のぶっといビームが一直線に迸る。右往左往しているゴブリン達が光に飲み込まれると、ビームの通った後には何も残るものは無く、地面すら半円形の逆カマボコ型に抉り取られていた。

 

「それじゃあ、冒険者の皆さぁ〜ん♥ 出番よーん♥ 一気に殲滅しちゃって頂戴な〜♥」

「行くぜ! オルテガ、マッシュ!!」

「「ハイな! アニキッ!!」」

 

 あ、さっきのモヒカン達、居たんだ? 奴らは一直線に並んで突入すると、意外にも巧みな連携で確実に一体一体ゴブリンを退治していく。奴らの他にも多数の冒険者と思わしき人達が思い思いの武器を持ってゴブリンを屠る様は圧巻である。

 

「なあ、あたしら出遅れてないか?」

 

 あたしはアスラにそう聞いたのだが、

 

「僕らの出番は最終局面、彼らの手に余る上位種が必ず出てくるから、ソイツらは多分僕らか君、後はギルマス位しか退治出来ないからね」

 

 Bwooooooooooooon!!

 

 そう言っていた側から聞いた事の無い程の雄叫びが轟いた。

 

「来たよ! ゴブリンキングだ! 従者は、ジェネラルがニ体か。行くよ! エリーゼ、ベレーさん!!」

 

 促されたあたしもまた、アスラとエリーゼを追って駆け出した。目的はただ一つ、あの咆哮の出処、ゴブリンキング!

 

「なあ、どうしてアイツを倒すのにアンタらかあたししか行かないのはどうしてだ?」

 

 大勢で取り囲んでボコった方が楽だと思うのですが?

 

 ? って雰囲気を露骨に出したアスラとエリーゼが、特にエリーゼが信じられない物を見るような目であたしを見るが、知らんもんは知らんからな。

 

「それは位階が違い過ぎるからですよ」

「いかい???」

「あなた、ホントに大丈夫?」

 

 エリーゼから胡乱な目で見られるが、やば! この世界では常識なのだろうか?

 

「あぁ、この町にくる前の記憶が曖昧で……」

「全然大丈夫じゃないじゃない!!」

 

 棒の話の時以上に圧の強いエリーゼの絶叫にあたしタジタジだが、助けを求める視線を察したのか、アスラが説明してくれたのは助かった。

 

「位階と言うのは言わば魂の格を数値化した物です。この数値が一つでも違えばどんなに頑張っても単独で勝つ事はほぼ不可能と言われています」

 

 それって、未勝利のウマ娘がG1ウマ娘に勝つ事は不可能って事だろうか?

 

 アスラの言葉を継いでエリーゼが実際を例に説明する。

 

「あそこでゴブリン相手に戦う冒険者の大半は第一位階、精々武器を持ってる程度のゴブリンなら相手に出来るけど、位階の違うホブゴブリンとなると五、六人でようやく一匹倒せる程度。それも、人的被害を前提にして。あの中では貴女が圧勝したトンキッチンだけが第二位階の称号持ち冒険者」

 

 マジすか!? あれで優秀な方の冒険者だったんだ!

 

「今から向かうゴブリンキングは位階で言えば恐らくは五。僕ら同位階の者しか対処できません。しかも従者として第四位階のジェネラルが二匹、彼らでは近づくだけで死の危険があります」

「無駄死にを避けるなら彼らはわたし達のいる戦場に近づくべきではない。本当は貴女も連れて行きたくは無かった」

 

 あたしも?

 

「ギルマスが貴女の実力を買っていたと言う事は貴女は多分第四位階。ジェネラルならともかく、キングとやり合うには格が足りない!」

 

「どうやら、お出ましのようだよ!」

 

 アスラが指差した方には今まで走りながら屠って来たゴブリンと全く大きさが違う、パースが狂いそうなサイズのゴブリンが三匹居た。

 

「先ずはジェネラルを殺る! 僕が一匹受け持つから二人はもう一匹のジェネラルを!」

 

「「了解!」」

 

 あたしは角材を、エリーゼがハンマーを構えてジェネラルに向かう。奴らからしたら背丈も小さな女の子二人。舐めてかかってお釣りが来ると思っているだろうが、どっこいそうはイカキンよ!

 

「イヤあぁぁぁぁ!!」

 

 エリーゼがハンマーを豪快に振り下ろす。肩口で受け止め余裕振りたかったのだろうジェネラルは、最初黄色かった顔色が赤くなったと思ったら、直ぐに真っ青になり、悶絶しながら手に持った巨大な剣を取り落とした。チャ〜ンス!

 

 あたしは角材を横一線に

 

「どっせぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 大きく振りかぶった。

 

 キン!!

 

 高校球児のホームラン宜しく軽快な金属音と共にジェネラルはぶっ飛びゴロゴロと転がり

 

「センター前ヒットって所か」

 

 あたしはガッカリと独り言ちると、落ちた先に居たエリーゼが

 

「……死になさい!」

 

 そうつぶやき無表情にハンマーを振り下ろした。

 

 

 

「流石に速いね! 圧勝だったじゃない」

 

 そう言うアスラはジェネラル相手に一刀両断、十秒もかからなかった。エリーゼが脳天潰したのと、アスラが真っ二つにしたニ頭のジェネラルが石灰化してぼろぼろと崩れる様をそれでもキングはニヤニヤしながら眺めるのみ。逆に不気味さが増した気がする。

 

「ゴ、ゴブリンダイバーだぁっ!!」

 

 

◆◇◆◇

 

 

 振り返ると、オアシスの水辺から這い出て来る遠目に貞子の群れの様なロン毛なゴブリン。キショい!

 

 流石に背後から襲いかかるゴブリンダイバーに冒険者達も総崩れだ。

 

「シルビアちゃん! アチシ達も応援に行くわよ!」

 

 ギルマスが私に下さったMPポーションのおかげで何とか持ち直したが、正直魔力がまだ足りない。それでもゴブリンならどうにでもなるけど、あれがダイバーだとしたら、第二位階のホブゴブリン並の強度です。負けるとも思いませんが勝ちきるには一般の冒険者達が足手まといとなりますね。

 

「それにしても、まさかゴブリンが、戦術を使うなんて……早く戻って来てください、アスラ!」

 

 

◆◇◆◇

 

 

「あっちは、おっさんのテントがある方角! ヤバイ! コイツさっさと片付けるぞ、アスラ!」

 

 焦っていたのだろう。アスラから戦う方法を学ぶという目的をあっさり忘れたあたしは、後ろが気になり仕方なかった。

 

「駄目だ、ベレーさん! 前を向いて!!」

 

 アスラの忠告に振り返るが遅かった。

 

 Gwwoooooow!!

 

 ドカッ!!

 

 あたしはキングに吹っ飛ばされ気を失ったらしい。

 

 

 

 そこは、トレセン学園の授業風景。所謂一般人に非公開の「秘匿」の授業中。

 

「つまり、ブルース=ロウ氏が変遷したファミリーナンバーに基づくと、貴女方全てのウマ娘に血統が悪いから競走成績が振るわない、という理屈は成りたたなくなります。クイーンベレーさん! 貴女のファミリーナンバーは?」

 

「ハイ! 1号族小系統sの1‐sになります」

 

「そうですね。この大系統1号族は別名『王者のファミリー』と呼ばれており、クラシックレースにおいて最も成績を残している系統でもあります」

 

 どよどよとざわめきが起こる。よもや、あたしの血統書の中にまさか王者と呼ばれる要素が存在しているとか、考えた事も無かったっけ。

 

「特に、小系統lに続くと言われる程に小系統sは多くのクラシックウイナーを排出しています。但し、ここからが重要です。小系統sの欠点が大きく二つ、第一に闘争心に溢れる事、これは決して諦めない勝負根性にも繋がりますが、一方闘争心を制御出来ずに勝負根性を無駄使いしてしまうリスクもあります。どうですクイーンベレーさん? 思い当たる事はありませんか?」

 

 うっ!

 

「はい、あります。あたしは他の娘みたいに『ムリー』って言った事は無いです。でも、それ以上にレースにおいて無駄に力を放出してる為に最後の最後まで闘争心が持たない事も自覚しています」 

 

「自覚している事は素晴らしいですね。そしてもう一つの欠点が、身体能力が非常に高い事と、それに付随して高い身体能力に体が耐えられず致命的負傷を負うリスクが常にある事です」

 

 それって、つまり?

 

「すなわち、クイーンベレーさん、貴女は他の方をねじ伏せる力を持つけども、心身共に十分なケアが出来なければその才能も単に宝の持ち腐れになる。むしろ大怪我の原因になる危険が常にあるのが貴女の系統です。夢ゆめ忘れる事の無い様に!」

 

「ハイ!」

 

 そうだ! あたしの中には王者の力がある。でも、今まで、今までずっとその力を無駄にして、体のケアなんて一度もした事無かったし、ちょっとした怪我なんか、大した事無いってそのままほっといて、知らん顔していた。

 

 元々答えはあたしの中にあったのに、あたしはバカだから自分の心に問いかける手間もかけなかった。ましてや駄目なセンパイ達の口車に乗って自分が勝てない事を他人や制度のせいにして……

 

 醜い! 醜い自分が許せない!

 

 嗚呼、きっとあたしはもう駄目なんだ。だから人生の最期にこんな後悔ばかりしてるんだ。

 

 悔しい!

 

 悔しいよぅ!

 

 もっと、もっと、生きたかったな……

 

 生きて、頑張れば良かったな……

 

 そうすれば、きっとママもあたしを捨てなかったかもしれないのに……

 

 嗚呼、光がみえる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目よ、ベレーちゃん!! 目を開けなさい!!」

 

 

 

 

 最期に聞いた福音が、よりによってオカマの声とか、それどんな罰ゲーム!?




ウマ娘の背後から〜 : 良い子のみんなも悪い子のみんなも絶対やらない様に。視角の外から掴まれるのは草食動物がマジギレする一番嫌がる行為。死にます!!

指定産能ウマ娘 : 彼女達が産まれる前から生産者によって次世代の良き手本として、または次世代の母として求められる事を前提に産まれ、育てられる極一握りのウマ娘。無論、競走成績としても一流のそれを義務付けられる為、中にはドロップアウトする者も居るが、一方でウンスカや覇王の様に後から指定される例外も事例としては多数あり。

オルテガ、マッシュ : そこはチンペイとカンタだろう! と総ツッコミ。

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